『機能価値の言語化』で違いを出すバリューチェーン分析3つのステップ【CRORadio#2-03】
YouTubeまたはSpotifyで、ポッドキャストを聞きながらお楽しみください。
松尾
こんにちは、CRORadioの松尾です。第2シリーズ「新規事業×DX」も#03に入りました。
前回までのおさらい
松尾
このシリーズ「DXを活用した事業開発」と、非常に大きなテーマですが、事業開発において何が大事なのか?どう考えればいいのか?を過去2回でお話してきました。
黒澤
こんにちは、黒澤です。
#01で、「DX事業においてデジタルを1回忘れる」というお話を。初期段階でデジタルという手法ありきで考えるのではなく、目指す目標や幅を考えましょう、ということ。
#02では、具体的な進行ステップの解説をしましたね。何をするのかを先に考えるのではなく、バリューチェーンを整理することが初めの一歩。業界のバリューチェーンを整理して「機能価値」をまずは洗い出し、言語化することが大切だとお伝えさせてもらいました。
松尾
今回は#02で黒澤さんから質問いただいた「機能価値をどう整理するの?」というところを解説します。
機能価値の整理・言語化が完成した図を先に出しておきます。サムネイルにもなっていますが、この図を完成させるように取り組んでいきましょう。
バリューチェーンから機能価値を整理する方法
①業界のバリューチェーンを整理する
松尾
まぁ、業界のバリューチェーンは検索したら出てきますけどね。
例えば、現在取り上げている音楽業界。「音楽業界 バリューチェーン」で検索をかけると以下がヒットします。
黒澤
そうですね。同じようにほかにも多くの業界出てきますよね。笑
ただ、ネットを用いた調査は一般的にやってる人も多いですよね?バリューチェーンとデジタルやDXとの繋げ方をもっと掘り下げてお聞きしたいです。
松尾
そうですね!まず業界のバリューチェーンを見るというのは前回伝えた通りです。業界を見るのは、自社も含めた全体像がわかるためですね。
実際はもっと詳細な図になると思いますが、ここまでの作業で完成した図はこちらです。
②自社アセットの棚卸
松尾
そこからいきなり「機能価値」には転換できない、難しいので…次にやるべきは「自社のアセット」――自社が何を持っているのかを棚卸しましょう。
実は、当たり前の作業です。事業開発において「内部環境」「外部環境」という言葉を聞くと思います。それとほとんど同義です。バリューチェーン(外部環境)に対して、自分たちの持つアセット=資産(内部環境)を棚卸するということなので。
そしてこの作業で完成した図がこちら。バリューチェーンの中で、自社がどのようなアセット(資産)を持っているのか図に追加できました。
松尾
では、黒澤さん、これを棚卸する作業を「内部環境分析」と言い換えられますが、どんなアプローチが適切でしょうか?
黒澤
あぁ…とりあえず強みを洗い出して、強みをどう尖らせるか、弱みをどう改善するかというような視点のアプローチが教科書通りですかね?
松尾
なるほど。決してそのアプローチが間違っているとは言いたくないんですけど、それではまだ全然ダメなんです。
保有アセットや棚卸した部分的な機能に対して「強み・弱み」を見てますよね?プロダクトが強い、弱いとか。それは全然ダメなんです。
③自社アセットが持つ共通部分から「機能価値」を整理する
松尾
前述している通り、音楽業界では、人材の発掘、企画、宣伝、流通、販売、そしてファンクラブ、ライブといったバリューチェーンがあります。
例えば、A社という、所属アーティストが在籍し、事務所機能を持ち、楽曲も作るレコード会社があるとします。その際、アーティストのマネジメント、版権の管理などが人材発掘、企画、宣伝の業務です。
CDやDVDやグッズは制作は自社で行い、販売機能は持っておらず、流通に流して販売する。ライブ活動やファンクラブは自社で運営しているという会社だと仮定します。
このA社の強み弱みは何でしょう?という問いに対して「アーティストが強い(=人気の高いアーティストが多い)」という回答。これよくあり得る勘違いなんです。
上記の視点でアセットを見て、アーティストパワーや、その他もCDやDVD制作機能を強化しようと考えると…音楽業界なので、ライブ配信やストリーミング配信になります。すでに参入企業が多く、今更感を感じませんか?
黒澤
一部分のパーツのDX化を考えても、すでに絶対誰かが取り組んでいることが多いですね。
松尾
一部分からDX化するのは取り組みやすいのは事実です。だからこそすでに多くの企業が取り組んでいる部分をDX化したとき、自社の強みになるのか?――ならないんですよね。
このような事態に陥る原因はバリューチェーンの整理が「アセットを棚卸して終わり」になっているためです。
この流れで進む内部環境分析は、ほぼ意味ないです。
黒澤
でも、これで終わってるケース多いですよね。大体このパターンになりがちだなっていう…だからインパクトの少ない部分的なDXに繋がりやすいんですね。
★ポイント1:部分的なDXにしないための「各アセットの共通点の洗い出し」
松尾
おっしゃるとおり。ここで失敗と成功を分ける大事なポイントがあります。前回からお話ししている「機能価値」の言語化です。
機能価値というのは、それぞれ持ってるアセットがお客さんにとってどんな意味があるのか、貢献しているのか、役に立っているのか、ということです。
持っている各アセットの共通点を探すとわかりやすいかもしれません。
例えばアーティストやタレント、キャラクターは顧客にとって何か?楽曲や企画、マネジメント力は?これらを「お客さんにとって共通して何を提供しているのだろう?」と置き換えることが大事です。
となると、前述で、アーティストが強い(人気のあるアーティストが多い)と言ったA社の本当の機能価値=顧客にとって魅力的なコンテンツを見つける能力が高い、ということになるんです。
ここまできてやっと、冒頭に出した図を完成させることが出来ました。
黒澤
なるほど!事実を抽象化してまとめるような感じですね。抽象化するのはセンスが問われますし、価値の定義は非常に重要なところですね。
松尾
はい、まさにこれが「デジタルを一度忘れてください」と言ったポイントです。デジタルどうこうの前に、絶対に疎かにしてはいけない部分なので。
★ポイント2:自分たちだけで考え抜けないときは「顧客の声を聞く」
黒澤
なるほど。ここの作業、難易度が高いので「自分たちで考えられない…」となることも多いと思うんです。そういった場合はどうすれば?
松尾
ぜひこの時点で顧客の声を聞いてください。顧客の声ってすごく大事です。
ただ、ユーザーインタビューの際、新しいアイデアを聞きにいくことが多いんです。
しかし、この時点のインタビューでは現状のアセットに対して顧客が何を考えているのか深掘りをすることが大事なポイントですね。
黒澤
既存の企業のサービスの何に価値を感じてもらえているかをインタービューで掘り下げることが最も重要なんですね。
松尾
自分たちだけで考えにくいときは、たいてい現状維持バイアスや、既存事業の成功要因などによって思考が凝り固まっているんです。
なのでバイアスがかかっていないユーザー側に聞くことで新しい発見があるんです。
ここでも、まだデジタルは考えない。「これがDX化されたらどうですか?」ではなくて「今のこの価値はどう見えているんですか?」と聞きましょう。
黒澤
ここでのインタービューにおいて、誰に/どういった調査をするといいんでしょうか?
松尾
そうですね、まず自分たちの顧客も大事です。が、もう1つ見たほうがいいのは「競合他社」です。
今まで例に挙げてきたレコード会社A社の場合は、B社のユーザーはA社が持っている価値をどう見ているんだろう?と。もしくは、ちょっと目線を変えてNetflixなど、全然違うサービスを使っているユーザーもアリです。
どんどん客観的に、現状自社で持っているアセットの評価をしてください。何が残る価値なのかを尖らせていくと、精度の高いバリューチェーンが出来上がると思います。
黒澤
業界バリューチェーンを洗い出していく中で、自社業界に対して顧客がどんな価値を感じているか、遠い競合を含めて検証するということですね。
ここにはどのぐらいの時間をかけるんですか?
松尾
例えば、われわれのようなコンサルティング会社に依頼して機能価値の言語化を一緒に行う場合でも3ヶ月程度はかかります。
自社のみで取り組むとして…以前記事に出した2年のタイムリミットがあるので、半年程度しっかり機能価値を見極めて、足元決めてください。
そこから初めて、目指すDXの幅――既存事業の高度化なのか、ビジネルモデルの転換なのか意思決定ができます。
黒澤
なるほど。出てきましたねDXが。やっとここからデジタルという手法の視点を入れて価値と結びつけてくわけですね。
松尾
そうですそうです。機能価値を洗い出せた→自社のどの領域をDX化するのかある程度仮説ができた、その時にどうデジタル媒体に変えるのか?最後のポイントは最終回#04でお話したいと思います。
「機能価値」を整理・言語化する方法まとめ
黒澤
では#03の今回をまとめると、
次回最終回、いよいよDX事業が生まれる瞬間が訪れます。楽しみですね。笑
編集後記
「自社の強みと弱みを決めつけて分析しない」
口で言うのは簡単ですが、これがなかなか難しいです。
このラジオ企画でも最初からあげているとおり、現状維持バイアスというのが無意識でも必ずあり、アセットを棚卸している段階から強み/弱みといった評価をどうしてもしてしまうためです。
では、少しでもバイアスに影響されないようにするためにどうするか。
ぜひ、自社や自業界のバリューチェーンを作成する前に、他業界のバリューチェーンを一度フォーマットに従って作成してみてください。
そうやって、バイアスがない業界でスタディをしておくことで、自社に向き合った時も客観的な視点を持てることが多くなります。
CRORadioとは?
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事がみなさんのイノベーションの一助となりましたら幸いです!