DX事業成功の第一歩「機能価値の言語化」とは?【CRORadio#2-02】
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松尾
こんにちは、CRORadioの松尾です。
本シリーズでは、新規事業×DXという非常にホットなテーマについて、今回のnoteでは前回の続きのお話をしていきます。
黒澤
こんにちは、モデレーターの黒澤です。
前回めちゃくちゃ気になるワードが出てきていましたよね。DXを進めるのに「デジタルを一回忘れなさい」という。
これはどういう意図なのか?何をどう考えていくのか?というのが今回のお話ですね。
前回のおさらい
デジタルという手法や目先の成長領域に飛びつくのではなく目指す事業の「幅」から考えていく
松尾
前回は、自分たちの事業をしっかり棚卸ししてから、新規事業のDX領域でどこを目指すのか①既存事業強化②新事業開発どちらなのかというところ、その「幅」を考えることが第一歩となる、というお話をしました。
DX関連テーマで事業アイデアを検討するとき「DX事業やるなら、まず新しい・流行ってるデジタル技術を調査しよう」など、デジタル・テックという手法ありきで考えると、自分たちの独自性や強みをうまく掛け算できずにどこかで見たことのあるアイデアに終始してしまうという事態に陥ります。
自分達がなぜこの事業アイデアを進めているのか?という説明がつかなくなってしまうことで、半年経たずに一回止まってしまうこともありがちです。
黒澤
他でやっている事業(ニーズがありそうなもの)をそのまま取り入れようという発想になってしまうということですか?
松尾
そうですね。飛びつきやすいものは成長領域なので、当初はすごく可能性があるように見えますが、だんだん可能性が低いということ(自社とのアンマッチや優位性が見出せないなど)がわかってくる。検討すればするほど。
黒澤
デジタルから入ってはいけないという理由はここにあるんですね。では、自分たちの事業の棚卸はどこから取り掛かればいいでしょうか?
事業の棚卸はバリューチェーンを整理し「機能価値」の言語化からはじめよ
松尾
自社のバリューチェーンから考えていくべきです。図解を用いて解説します。最近は実際ご相談のあった音楽業界を事例に出しますね。
音楽業界は、今まさにDX化=様々なコンテンツ(楽曲配信サービスなど)が進んでいる一方で、いまだに「レコード業界」と呼ばれ、アナログ文化がある業界です。
みなさんは今、当たり前のようにSpotifyやYoutubeなどをはじめとした配信や視聴サービスで音楽を聴いているかと思います。しかし、音楽業界には「フィジカル」という言葉があり、CDやDVDとかライブなどがバリューチェーンの中に入っています。
これをいきなり「デジタル化だ!」といっても成功は難しく、いきなりNetflixにはなれず…まずは音楽業界のバリューチェーンはどういうものか?を整理していくことがスタートラインです。
黒澤
まず、既存のバリューチェーンを整理するんですね。
松尾
例えば音楽業界だと、
もっと細かく見れますが、大きくは、人材を見つけて→企画して→宣伝して→物流して→売って→顧客の育成をする――そんな形にバリューチェーンがあります。
ただ、この中で自分たちがどのような機能的価値を持っているかまでを可視化することがすごく重要で、これがファーストステップになります。
「機能的価値」の言語化は顧客視点で考える
黒澤
バリューチェーンをまず整理するじゃないですか、その中で顧客価値に繋がっているものを抽出するって意味ですか?
松尾
そうですね。まさに機能価値は顧客側の視点で考えるのがいいですね。
例えば、音楽業界の例をもう少し噛み砕くと、人材の発掘は、新しい人材を見つけるっていう、「見つける機能」を持っているということです。
企画や制作は言葉のままですが、「生み出す・作る機能」を持っていることになります。
では、宣伝・流通・販売の機能価値は?――これは作ったコンテンツを「届ける」という機能価値を持っていて、そしてファンクラブやライブっていうのはアーティストと世の中(顧客)とを「繋げる機能」があると。
単純にCDや音楽を販売している、ライブをやってる、とか、収益を作ってるではなく「届けている」ってこと、ファンクラブは「繋げている役割だ」というように、まさに顧客にとっての価値・役割は何か?を洗い出すことにポイントがあります。
まずは、業界のバリューチェーン→それから自社のバリューチェーンで考える
黒澤
ちなみに「機能価値」は、以下の2つあるのかと思います。どう捉えたらいいでしょうか?
松尾
まず業界→それから自社を見るというのがわれわれの考え方です。
自社視点の場合は、バリューチェーン抽出が、自社がやっていることだけになるなど、無意識に主観になりやすいです。なのでまずは業界のバリューチェーンを考え、業界が本来持つ機能的価値はどこなのかを考えましょう。
業界を見て、そのあとに自社視点で見ると、どこが強み/弱みなのかもわかってきます。
事業目標の想定とのズレはバリューチェーンの整理で見えてくる
新しいデジタル事業領域の構築を目指しているつもりだったが、実は既存事業のDX化を目指していたパターン
松尾
整理をしてみると、第1回目でお話をした事業の目指すDXの幅が「あれ?当初想定していたものと違うぞ…?」ということが起こり得ます。
その理由としては、新しいデジタル事業領域の構築を目指しているつもりだったが、整理してみると、既存事業のDX化=バリューチェーンの個別機能のに特化してDX化を目指していたというパターンが多いためです。
松尾
わかりやすくいえば、CDやDVDをデータ化して、オンラインで提供するというオンラインストリーム配信、これもDX化です。
または、マーケティング(プロモーション)においても、これまでは店頭などで置いてたPOPなどを、SNSなどを活用してWebに変えるのもDXです。
一見するとこれまでと違う顧客層(新マーケット)を獲得するという点で、新しいデジタル事業との創出と思われるでしょう。
しかしバリューチェーンで考えると、顧客に「届ける・接点を繋ぐ」という機能の話なので、実は新マーケットではなく、既存事業モデルの高度化だったんだ、と理解できるんです。
黒澤
ここは罠にはまりやすいかもしれないですね。自社の強み・弱みや改善すべき点だからDXを進めよう…というような。自社視点で考えてしまうのはやりがちですけど。
新しいデジタル事業領域はバリューチェーン全体を整理して全体を転換させる
松尾
バリューチェーン全体を見てどの領域を?というのを考える――これが新しいビジネスモデルへの転換になるパターンです。
バリューチェーン全体をDXと連動して変えるのがビジネスモデル転換です。これまでのどこかの部分ではなくて全部やり直す。だからレコード会社がNetflixになるとしたらバリューチェーンを全部を変えないといけないんです。
黒澤
そういうことですね。「ビジネスモデルの視点」を持つという。
松尾
既存事業が大きい会社が新たな事業を第2の柱とするときは、個別バリューチェーンのどこを特化するのか=ほとんどが既存事業の高度化になります。
当然ながら事業開発には「新しいマーケットを獲得する」と目的がありますが、バリューチェーン全体を変える、それくらいのことが「ビジネスモデルの転換」です。その中で、自分たちの価値はどこにあるのかを見ていきましょう。
デジタルありきの前に既存事業のバリューチェーンを整理するポイントまとめ
松尾
以上が、デジタルをまず忘れてバリューチェーンを整理し、そのバリューチェーンの何の機能価値を変えるのか?を抑えた上で、初めてデジタルの方に話を戻していく…というステップになるというお話でした。
黒澤
1回も具体的なデジタル手法の検討の議論は入っていないんですもんね。
今回のお話をまとめると、目指す事業の「幅」を考えるために
ここまでやることはわかりました…と。それを踏まえて新事業創出を目指すとなった際に、バリューチェーン全体を変えてビジネスモデルを作るって結構大変ですよね?
全ビジネスモデルを棚卸しして、さらに価値を定義する――重要性はわかりましたが、どういう風に進めればいいでしょうか?
松尾
はい。そこがまさに次回さらに深堀していくテーマですね。
次回も音楽業界を例にして、どう自社の機能価値を抽出するのか?具体的な手法を第3回で話していきましょう。
今回のシリーズのテーマである「DX事業開発においてまずデジタルは忘れないさい」の1番大事なメッセージを伝える部分がこの第2回だったと思います。
黒澤
具体的な方法論が理解できたので実践でも応用しやすいですね。
松尾
次回はどう最初にバリューチェーンを作っていくのか?といった部分をさらに具体的に話していければと思いますので、引き続きご期待ください!
編集後記
業界のバリューチェーンを構造的に整理し、その機能価値を特定したうえで自社のアセットが持つところ、持たないところを判断するというのは言葉で書くほど簡単ではありません。
特に、バリューチェーンはサプライチェーンとは異なるので、どのような価値が提供されているのかの定義はその後のビジネスアイデアの質にも直結するものです。
ぜひ、自分たちの業界だからわかっているよ、と簡単に済ませてしまうのではなく、現状維持バイアスを外した視点でバリューチェーン構築に臨んでいきましょう。
CRORadioとは?
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