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逆風下でもリード5倍増を実現するウェビナーと既存資産の活用とは?

創業以来急成長を続け、スタートアップ界隈でこれまで存在感を示してきたウィルゲートとユーザベース。両社の事業拡大を支えてきたイベント・セミナーを活用した新規顧客獲得手法は、新型コロナウイルスによって行く手を阻まれるように見えます。

しかし、逆風下において、新たな取り組みを次々と試行し、リード数も5倍以上に増やしているという。早速、その新たな成功パターンについて、リブ・コンサルティングCOOの権田が迫りました。

本記事は2020年5月21日のVenture Café Tokyoのイベントレポートとなります。イベントで投影した資料も挟んでおりますので、併せてご覧ください。

また、イベント当日にご紹介した弊社のNEW NORMAL PLAY BOOKもこちらからダウンロード頂けます。

-登壇者紹介

権田 本日のゲストをご紹介します。一人目は、株式会社ユーザベースSPEEDA事業のCOO、山中祐輝さんです。山中さんは、マーケティング・セールス・CSのすべてを統括していらっしゃっていて、一言で表すならばSaaS事業のプロフェッショナルです。COOとしてSaaSビジネスを知り尽くしています。

山中さん (2)

山中祐輝
2010年3月に東京大学経済学部を卒業後、新卒で三菱商事に入社。エネルギー事業グループ管理部にてファイナンス・税務等の計数関連業務に従事。2014年7月にSPEEDA国内セールス担当としてユーザベースにジョインし、責任者としてセールスチームを牽引。2018年1月、SPEEDA事業における執行役員COOに就任。

二人目は、株式会社ウィルゲートのCOO、吉岡諒さんです。吉岡さんは、「歩くSNS」という言葉がぴったりです。Facebookは友達8,000人、M&Aの売り手と買い手をFacebookを活用してマッチングしたり、毎年年賀状を送るだけで1.5億の売上を叩き出してしまう、驚異的な影響力を持っています。

吉岡さん

吉岡諒
1986年岡山生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。代表取締役小島と共に2006年に株式会社ウィルゲートを設立。個人として累計で2,000社のWebマーケティングの課題解決提案を実施。2012年に記事作成「サグーワークス」、2014年にメディア「暮らしニスタ」、2018年にはSEOのAIツール「TACT SEO」、2019年にはオンラインで編集チームが作れる「エディトル」、2020年にはM&A仲介支援サービス「Willgate M&A」をリリース。COOとして全サービスの管掌役員を務める。

山中さん、吉岡さん、そして私の3人の共通点として、COOでありながらCROであるということ。つまり売上・収益を生み出す事業活動における最終責任者の立場です。

実際にコロナ禍でどのように変革を遂げられたのか、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスの3つの観点から、さっそくお話を伺っていきたいと思います。

-マーケティングのオンライン化により、より多くのリードを獲得

権田 ユーザベースさんは、かなりオンラインでセミナーをやっているという印象を受けています。もともとはオフラインでやっていた会社さんだと思うんですけれど、マーケティング面ではどういった形でオンラインにシフトしていきましたか?

山中 そうですね。まず、われわれの事業モデルから説明すると、マーケティングからインサイドセールスにつなぎ、インサイドセールスが商談を獲得してセールスにつなぎ、セールスが成約したお客様をCSがLTVを高めていくという、「THE MODEL」を体現しています。

その中で、マーケティングはオンラインでベースを作りつつも、オフラインの展示会やセミナーを活用して、リードを増やしていました。例えば、昨年であれば毎月100~200人規模のイベントを自社イベントスペースで行い、半期に一度くらいは1,000人規模の大型イベントを実施するというペースです。

今年の計画でも、オフラインから多くのリードを見込んでいたんですが、新型コロナウイルスの影響を踏まえて、弊社は2月中旬からオフラインイベントも完全に中止する方針を決めました。

ここからオンラインイベントへのシフトが始まります。実は、オフラインイベント中止を決めた1週間後に、500名程度を集客したイベントを予定していました。

そのため、自社イベントスペースをスタジオ化し、自前で機材を用意し、マーケティング・ブランディングチームがたった1週間でノウハウをインプットして、オンラインイベントに切り替えたんです。これが、思いの外うまくいったんですよ。その後、オンラインセミナーを毎週のように開催していきました。

オフラインイベントでは、会場のキャパシティも含めて、毎回100~200人の参加者だったところ、オンラインでは毎回1,000人を超える参加者に集まってもらえるようになったんです。これは嬉しかったですね。

権田 それは凄いですね!そこからは週2くらいのペースでスタジオで収録を続けていったんですか?

山中 3月は自社スタジオでの収録を続け、ノウハウもかなり溜まってきていました。しかし、日々変わるコロナ禍の状況を踏まえ、少人数とはいえ、ひとつの場所に集まるリスクを避けるため、緊急事態宣言の発令前に、完全リモートでの配信スタイル「H2H(Home to Home)」に切り替える方針を決定しました。企画から仕込みから登壇者の登壇まで、すべてを家でやるような形ですね。

権田 急速な転換にもかかわらず、マーケティングはかなりうまくいきましたね!成功の秘訣があったら教えていただけますか?

山中 重要なのは、オンラインはオフラインと全然違うということです。
話をする側は、オフラインと同じ感覚でやってしまいがちなんですけれども、聞いている側の意識が全然違います。

メッセージを本当に研ぎ澄ませて、プレゼン時間も短くしてインタラクティブにしていかないと、集客してもすぐに離脱してしまうんですよ。細かなコンテンツのクオリティがカギを握ると思っています。

権田 ウィルゲートさんもかなり積極的に動いていらっしゃるようですね。どういった取り組みをされていますか?

吉岡 リード獲得について、もともとウィルゲートではオフラインでのセミナーをやっていて、月5~6回のセミナーをやって合計150~200人くらい集めていました。

オンライン化の動きはSPEEDAさんよりも遅くて、4月に入ってから切り替えました。手探りの状態で4月に7~8回ウェビナーをやったのですが、4月は900人くらい、そして5月に入ってからは2,000人くらいの集客に成功しています。

単純な集客数としては増えたのですが、一方でオンライン特有の問題も浮上してきました。
これまで100%だったアンケート回収率がオンラインでは50%程度、商談希望率も50%から10%程度へと大きく下がっているのが現状です。

ただし、母数が圧倒的に多いので、新規面談の希望数も月に200件くらいにまで増えています。

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(表:セミナー形式ごとのリード獲得 株式会社ウィルゲート様ご提供)

面談数が増える中でインサイドセールスの人数は一定なので、稼働率はかなり高くなっています。

集客方法は、これまで20,000枚くらいの名刺リードからメールを送ったり、私のTwitterの15,000人のフォロワーから1投稿で250人名のセミナー参加者を集めたりと、これまで積み上げてきたものを活用しています。

-リードの質を確保しつつ、アロケーションによりインサイドセールス体制を維持

権田 両社ともリード獲得についてはうまくいっているようですけれど、社員は増えていないと思うので、インサイドセールスの部分が逼迫しているのではないかと思います。

インサイドセールスは、どのような変化対応をしていますか?

山中 SPEEDAはインサイドセールスが7名いますが、うち2人は保育園の休園で稼働できなくなってしまったんですね。増やすどころか減ってしまいました。
この状況で唯一の答えはないので、一つひとつできることを積み上げていくしかないんですね。

例えば申込みフォームを変えて、多少リード数が減ったとしても、リモートワーク環境下でも連絡が取れる携帯電話番号を書いてもらって通電率を上げるとか、イベント直後の忙しくなるタイミングには営業メンバーもインサイドセールスに加わりISキャパシティを増やすとか、細かいチューニングを行っています。

これでもまだまだ対応しきれていない中で、マーケティング・インサイドセールス・セールスチームで連携しながらリソースアロケーションを調整しています。

権田 吉岡さんはいかがですか?

吉岡 ウィルゲートでも、月15商談だったのが200商談になるというレベルでした。
いったん、リアルセミナーとオンラインセミナーのリードの質の違いを確認してみようということで、今までと全く同じ態勢でインサイドセールスを気合いで回してみたんですよ。「がんばるぞーっ」とか言って(笑)

いままではヒアリングアポからクロージングアポへの転換率50%くらいだったのが、10%くらいに落ちてしまったので、これはマズいと思って、アンケートを変えました。

これまでは、「ウィルゲートと相談するといいことがありますよ」というように、アンケート回答に特典という形でインセンティブを設定していました。

ですが、先日の権田さんとの面談にヒントをいただいて、いまは恐縮ながら、「ウィルゲートに対してお金を払ってまでも検討する意思があるか」とハードルを上げるようにしたんですよね。

そうしたら、例えば100人規模のウェビナーであれば、十数人の商談希望者があったところを、3~4人の絶対連絡すべき熱い商談希望者だけにぐっと絞り込めるようになったんですね。

これまではインサイドセールスで温度感を測っていたんですけれども、代わりにアンケートで温度感を測ることができて、ようやくウェビナーの体制が整ったなというところまできました。

権田 先日、マーケティングで有名な神田昌典さんと、ウェビナーのKPIについてお話ししたんですよ。

そこで出た重要な指標が以下の3つです。

①カメラアクティブ率
②チャットアクティブ度
③クロージングトークでの離脱率

3つ目は、まさに吉岡さんがやられていることですね。というのも、いまはウェビナーの参加者数自体は集めやすいですから、むしろ参加者のコミットメントをどう上げていくのかという部分に重要性がシフトしていますよね。

-信頼構築の壁を乗り越えるポイントは、既存資産の活用

権田 インサイドセールスからフィールドセールスのところ、オンラインにおける商談上の工夫について、今までとの違いは何かありますか?

山中 実際のところ、成約率が極端に落ちていることはないです。一方で、個人的な興味からご連絡いただくお客様が増え、意思決定者との距離が遠くなっているという意味では、リードタイムは長くなっています。

この状況だからこそ、どこのどんなお客様に弊社の製品が必要なのか、それを改めて考え、優先順位をつけることで、成約率を上げられるようトライしています。

吉岡 やはりコンサルティングの場合、リモートでの初対面から「ウィルゲートを信じて発注します」というのは難しいなと感じています。

直近ですと、改めてこれまで関係性のある企業さんのリストを見直して、新型コロナウイルスの流行のタイミングで本当にお役に立てそうな相手に連絡しています。

それ以外でも営業顧問からの紹介であれば、初対面がオンラインでもスムーズに話が進みます。総じて、過去の信頼や他者の信頼を活かして営業活動をする感じですね。

-カスタマーサクセスのために、必要なものを必要とされているところへ提供

権田 カスタマーサクセスは、この環境下でどのような方針で活動されていますか?

山中 まず、弊社はリーマンショックの最中に創業しているので、創業時から事業環境が厳しかったんです。不況時には本当に必要なものしか買ってもらえないという原体験が、会社のDNAとしてしみついています。

なので、「ユーザーにとってMUST HAVEであること」を、常に突き詰めています。

その前提で、2つのことに取り組んでいます。
①とにかくプロダクトを改善してお客様の期待に応える
たとえばここ最近ではウィズコロナ、アフターコロナの情勢に関する問い合わせが急増しています。それに対してFAQの形で対応したり、自社アナリスト作成特集のレポートを提供したりして、お客様が今、本当に必要としているものを届けています。

既存顧客向けのオンラインレクチャーや勉強会も週1~2回くらいのペースで開催し、数百人規模のユーザーコミュニティも立ち上がりました。

②1 to 1の関係性の見直し
1社1社との関係性の再構築、その中ですべてのお客様に均等にCSを提供するのは難しいですから、本当に役に立つことができるお客様像を定めています。

その顧客像については、マーケティングやセールスのチームにもフィードバックを行い、本当にお役に立てるお客様をターゲットにしていくためのPDCAを回していこうと思っています。

吉岡 ウィルゲートのカスタマーサクセスでは、「営業進捗」「お客様の成果」「コンサルタントの稼働状況」の3つをダッシュボード化しています。

特に、われわれのビジネスでもっともコストが大きいのは人件費、コンサルタントの稼働時間をどのようにアロケーションするのかについては、成果に直結する部分ですので注力しています。

このダッシュボードに基づいて、成果が出ていないお客様に対してコンサルタントの時間配分を変更するなどの改善を加えています。

ウィルゲートさん投影画像

(表:セミナー形式ごとのリード獲得 株式会社ウィルゲート様ご提供)

働く側にとっても、リモート環境下での時間配分は大きな課題になりますので、どれだけ可視化できるかがカギを握ると思っています。

ただ、毎日の稼働状況を正確に把握するのはとても難しいです。

手間にならないように、スプレッドシートを使って毎日15分くらいで終わるようにしています。「入れてね」と言い続けたり、評価制度に反映させたりと、いろいろやりましたけれども、完全に定着するには3ヵ月から半年くらいかかりましたね。

-自社の本源的な価値の再考とMove fastで、危機を機会に

権田 最後に、「ウィズコロナ時代における成果創出のポイント」についてメッセージをお願いします。

山中 SaaSは、お客様に満足してもらわないと買い続けてもらえない、嘘のないビジネスモデルです。不況下では、本当に必要なものしか買ってもらうことができません。

まさに、真価が問われる局面となっています。小手先にとらわれるのではなく、どんなお客様にどんな価値を届けているのかという、ビジネスの本質的な部分を考え抜く必要があるでしょう。

吉岡 これは、タイムマシンがあったら起業当時の自分に送りたい言葉なんですけれども、「自社の得意セグメント/苦手セグメントの顧客像を考えろ」ということです。

顧客像がパッと答えられない経営者は意外と多いのですが、それは明らかにまずいと思います。

そして、ウィズコロナ時代ということで、「自社の得意/苦手セグメント × コロナ環境で伸びる/沈む」という2軸を意識しながら、誰にこそ価値を届けるべきなのかを考えていく必要があると考えています。

権田 ありがとうございます。お二人の話に共通するのは、「誰に」「何を」届けるのかというビジネスの本源的な価値についてあらためて考えてみるということでした。

さらに付け加えるのならば、2社に共通するのはそこで立ち止まるのではなく、「どのように」という点において、Move Fastでいち早く対応した会社であるということも大きいと思います。

「誰に」「何を」という本源的な価値への立ち返りと、「どのように」を高速回転でアジャストしていくというのは、どのような環境下においても普遍的に重要なことではないでしょうか。

本来、危機は、Dangerの「危」とOpportunityの「機」でできています。
危機的状況というのは、まさにこのDangerとOpportunityが同時にあるような状況です。

危うき状況下の中にある機会を見つけて、ぜひ事業を推進していただければと思います。社内の推進に不安や方法がわからなくなってしまった場合は、PLAYBOOKを参考にしてみてください。

→ダウンロードはこちら

-まとめ

【ウィズコロナ時代におけるマーケティング&セールスの「新・成功法則」】
・定期的なウェビナー開催で、リード獲得を増加
・ウェビナーでは、参加者数ではなく参加者のコミットメントをKPIに設定
・増加するリードの質を担保しつつ、配置最適化によりインサイドセールス体制を維持
・オンラインで成約に至るために、これまで積み上げた信頼資産を活用
・「誰に」「何を」という本源的価値への回帰
・Move fastで、価値提供方法の変化にいち早く対応