DX転換のポイントは「ニーズ」を探索しないこと?【CRORadio#2-04】
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松尾
こんにちは、CRORadioの松尾です。第2シリーズ「新規事業×DX」も最終回、#04に入りました。引き続き黒澤さんと深堀りしましょう。
前回の振り返り
松尾
このシリーズでは、事業開発×DXというトレンドワードを追ってきましたね。#01からほとんどDXを考える話はせずに、一度忘れてきました。
黒澤
こんにちは、モデレータの黒澤です。これまででバリュー自体が見えて、いよいよ前回、捉えるべき機能価値の探し方も学べましたね。
最終回の#04では、それをどのようにDXという手法と繋げるのか解説できればと思っています。やっっっとデジタル登場ということで。期待です。
DXアイデアに変換する方法
①まだデジタルに飛びつかないように注意する
松尾
ただ、デジタルも今回登場するんですが、残念ながら、ここでまた突然デジタルに飛びつくのはやめましょう。
黒澤
え~~~~~~!笑
松尾
前回バリューチェーンから機能価値を抽出して、やっと既存のどの部分を強化していくのか、あるいはビジネスモデルを変えるのか、目指す幅を判断できる段階になったという話をしてましたよね?
せっかくそのような議論をしたのに、(前回から引き続き音楽業界を例とします)音楽業界で「メタバースを作ろう!」と手法の話になった瞬間に、おいおい、今までの話はどこいった?となってしまうんです。
黒澤
なるほど。
②視点は、デジタルで「何をするか」ではなく「なんの価値を生み出すのか」
松尾
いきなり決め打ちで「メタバース」でトライしてみようと決めてしまうのがダメなんです。あくまでも機能価値をDX化する。これまで自社で提供してきた価値などを、デジタルを用いて新しくすることでどういう価値になるのか先に考える必要があります。
黒澤
前回機能価値の分類、いわば単位を決めるようなことを行ったと思うんですけど、それがどう新しい価値に代わるのか?転換するんですね。
松尾
そうですね。DX化するので、これまでの価値のままではないはず。
音楽業界の「届ける」という部分だったら、これまでは、欲しいと思ったCDがお店に行ったら買える/新しい自分の好きなアーティストの楽曲情報が自分に届く、こんなことが価値だったと思います。
この価値を、デジタルマーケットに転換するとどんな価値に代わるか?を考える。これがデジタル事業開発のアイデアの作り方です。
黒澤
とりあえず現段階で、外から持ってきたアイデアを比較したり考えるワケじゃないっていうのは押さえておくところではありますね。
松尾
では、実際どうやって既存の機能価値から新しい機能価値に転換しましょうか?黒澤さんだったらどういうアドバイスされますか?
黒澤
既存価値と顧客が求めている価値、市場のトレンド、バランスをとりながら、仮説を出すなどでしょうか?
③自社の強みを出すなら「顧客ニーズ」ではなく、「顧客ペイン」からブリッジさせる
松尾
そうですね…ここでの問題は、この時代、情報があふれているので、トレンドや顧客ニーズまでも、いくらでも探せちゃうことにあります。
ネットなど顕在化されてる情報を見にいくと、大体その後のアイデアが似通うんです。なので、現れてないものを探すスキルを身に着けてほしいです。
潜在ニーズ=時に「インサイト」と言われるものですね。ただ、わたしの感覚では潜在ニーズはないんですよ。
黒澤
うん…うん??
松尾
例えば、社会課題、SDGsまで顕在化してるし、ほぼすべてのニーズは顕在化してるといえるんですよね。もしくは誰かが発信しちゃってる。
なので、情報過多の世の中において、実は出てない情報は「課題」のほうなんですよ。課題=痛み、これから「ペイン」と呼びますね。「ニーズ」ではなく「ペイン」を見つけることがすごく大事です。
ペインは、マジョリティなりにくいので、言葉が眠ってたりとか、気づかないところにあります。声高に叫ばれてるニーズではなくて、例えば前述の「届ける」って機能価値において、既存価値が新しいデジタル市場となったときどんなペインがあるんだ?を探し出すことが大事です。
黒澤
前回と同じくインタビューなどであぶり出していくんでしょうか?
松尾
そうですね。ニーズ探索調査ってよくやるじゃないですか?ではなく、何でいま困っているのか、課題なのか?――ペイン探索調査を実施しましょう。
でも「困ってますか?」と聞いて「困ってます!」って返ってくることはないです。なので、これまで整理して見えてきた「届ける」という機能価値はぶらさずに、何が今起こっているのかなどをインタビューをしてください。
例えば「届ける」という観点で見たとき。
ストリーミング上でしか楽曲提供してない=コンテンツとして存在しないアーティストも多くいる中で、意外と「手元にあることが大切」コレクションが好きって思う人もいるじゃないですか?
また、SNSが活発になって炎上も人気が出るのもたった1本の動画がキッカケだったり、運任せっぽい一面もある。以前のような完全に情報管理されているタレントも少なくなってきてライブ配信したりしてますよね?
ライトな届け方になっている一方で、ファンからすると「守るべきところは、運営に守ってほしい」という声があったり。
「届ける」機能価値ひとつを取っても、これまでが悪い/新しい手法がいいというわけではなく、実は過去できていたことが新しい環境ではできなくなっているものがあるかもしれないですよね?
もしかしたら意外と嫌だなって思ってる人がいるのかもしれない。そういう悩みや声が、ないがしろにされていたり、当たり前として扱われている。個人の小さい悩みとして背景に隠れてしまっているんですよね。
そういったペインを見つけていくのが探索調査上すごく大切なんです。
黒澤
確かに、単純に「CDからデジタル配信に転換して困ってますか?」と言われても、「いや、すごく便利です」って答えが返ってきますよね。
それまでのことをベースに話を聞いていくと、意外と「この過去の機能はあったら便利でしたね」とか「それもう、諦めてます」って言葉が返ってきたりしますよね。
だから、ここでは小さなペインでも拾って、そこからどういう価値認識がありえるのかを考えていき、既存の価値を少しだけズラす、と。その際に顧客の課題、ペインと紐づけながら、ズラすってことをできると、事業アイデアが作りやすいですね。
松尾
そうですね、業界バリューチェーンから、自社アセットを、そして機能価値を洗い出せて、何をDX化するのか目標ができた、そこに対してペインを見つけて、今までのこの機能価値だったらこうなるんじゃないか?と変換をする。
ここまでいったらあとはもう思う存分デジタルです!
④ここの段階で初めてデジタル手法の探索を開始する
松尾
解決するテクノロジーはどんなものがあるか?どういう企業と組めば、実現できるのか…デジタルを手段として探してください。他社のスタディをたくさんして、方法論をどんどん考えていってほしいですね。
黒澤
なるほど!この後にやっと競合調査、トレンド調査みたいなところをしていくんですね。この作業でよりアクセルを踏みやすくなる。
ほんと順番を間違えないというところが一番大事ですよね。
機能価値の言語化・転換にしっかり時間を割くことでその後のスピードも変わってくる
松尾
先ほども伝えたとおり、ここまでの作業も簡単じゃないんですよ。もちろん時間もかかります。前回#03でもお話ししましたが、私たちコンサルタントでも、最初のアセットを見極めて、機能価値を抽出するだけでも、3か月程度時間をかけます。そこから、価値を転換するのも2か月程度かけたりします。計5か月です。
しかし、言い換えれば、最短5か月でデジタル市場においてどんな提供価値を出すのかが、定義できているということです。
ここからやっとデジタル手法を決めていく。もし今後迷ってもここまで戻ればいいんですよ、この5か月目まで。
これスタートまで戻ることはないです、絶対に。
これがいいポイントで、「あれ?これちょっと違うかな戻ろうかな…」となった時に、今まで「見つける」という機能価値にフォーカスしていたけど、「作る」にしてみようという風に変えていけばいいんです。実はこの作業より手前に戻らなくていいっていうのも、すごく大事なことなんです。
黒澤
なるほど。それが確かに部分的なDXを進めて、「あれ違ったなあ?」ってなったらゼロからスタートですもんね。もう一回他のトレンドを探すか…って。また最初から同じ作業を繰り返すので、余計時間がかかりますね。
松尾
そうです。でもこの5か月までの段階までくれば、もうどんな価値を変換するのか、方向が決まってるので、手段を探すだけです。
一番当初は、手法もやりやすいものを探していくことがおススメです。そうするとやっぱり結果検証や事業化のスピードが早くなるんです。
なので、デジタル事業開発考える方は、まず一回、足元からスタートしてほしいなと思いますね。
黒澤
本当にこれをプロジェクトに組み込むことで機会損失があったとしても最小限で済みますね。
既存事業の機能価値から、DX事業への機能価値を転換する方法まとめ
黒澤
では、これまでのお話をまとめると…
機能価値を言語化したのちにDXアイデアに転換するためのポイントは2つ
松尾
弊社では、こういった事業開発コンサルティングをいろんな形でやってますが、どんなプロジェクトもこの入り方をしてるんです。
黒澤
これはもう型なんですね?
松尾
そうですね、われわれリブ・コンサルティングも今まで色々なプロジェクトで、色々なアプローチで実施してきました。お恥ずかしい話、自分たちも初期の頃は、どうしてもスピード感を追求するために、アイデアから出していくケースも経験してるんです。でも正直うまくいかなかった。
やっぱりこの型ですね。この始め方が、DX事業開発において基本であり、これ以外の解は今のところないなと思っています。
黒澤
なるほど。じゃあぜひ新規事業でDX推進をされる方は、CROHackで学んでいただいて…自分たちだけじゃ、難しそうだな、時間もかかるなって思ったら、リブ・コンサルティングに相談ですね。笑
松尾
そうですね!ぜひお気軽に相談ください。
全4回で「事業開発×DXシリーズ」お話してきましたが、DXの取り組みに課題を感じている方は多いので、今後も取り上げたいとも考えてます。
今回は全体像でお話をしましたが、データ利活用ビジネスだったら、プラットフォーム事業はどうなるのかとか…テーマごとにいろいろな切り方ができるなと思っています。
黒澤
デジタル事業が多いので、急成長スタートアップってなぜ急成長できるのか?というテーマも面白そうですね。
松尾
引き続き、テーマ深堀りなどしていきながら、CROHackの読者の皆さんが成功に近づくように、失敗の罠を回避し、成功の道筋をつかんでいけたらなと思っています。
「新規事業×DX」シリーズお読みいただき、ありがとうございました。
編集後記
「事業開発×DX」をテーマに、実際にリブ・コンサルティングがどのように事業開発を行っているかというフレームを用いて説明をしてきたシリーズです。
全体を通じて、これはやってる、そんなことはわかってる、という話もきっと多かっただろうと思います。ただ、それでも実際の成果には大きな差が出てくるのが私が多くの企業と向き合ってきた結論です。
それはどこにあるかというと、質と量です。
同じ取組みでも3ヶ月で1回転しているのと1年間でようやく一つ議論が進んでいるのでは、その企業が取り組めるチャンスの数に明らかな差が出ます。今回紹介した取組みを、しっかりとやりきる質と、スピードをあげることで得られる量、これができている企業はちゃんと新たな事業の初期成果を生み出せています。
そのうえで、その産まれた事業がグロースするか、という点はまた違った論点があり、これについてもどこかでお話できる機会をつくりたいですね。
次のシリーズでは、もう一度事業開発の基本に立ち返って、アイディエーションの方法論にいきたいと思います。お楽しみに!
CRORadioとは?
最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事がみなさんのイノベーションの一助となりましたら幸いです!