爆速成長スタートアップのグロースの軌跡 UPSIDER編
こんにちは!CROHack編集長の大島です。
先日掲載した「爆速成長スタートアップのグロースの軌跡 RevComm編」にて、多くのご好評をいただきありがとうございました。
まだチェックされていない方はそちらもご一読いただけますと幸いです。
さて今回は急成長スタートアップ企業の経営者様をゲストに迎え、グロース(Go to Market)の軌跡について伺う「グロースの軌跡」セミナーの第2回としてUPSIDERの宮城様をお招きしお話しいただきました。今回はその内容をまとめましたので楽しんでいただければと思います。
事業リリースから爆速で成長を遂げたUPSIDERさんのグロース戦略を初期、中期、後期とセグメント分けし伺いましたので事業開発・グロースに関わられる方は必見です!
大島
それでは本日も弊社COO、本企画のグロース解説員の権田とともに宮城社長のお話を聞いていければと思います。
権田
前回にぎやかしくらいのつもりで参加して、少し話し過ぎてしまったなと思っているのですが今回も聞きたいことが山ほどあるといった中で、にぎやかしすぎちゃうかもしれませんが楽しく進めていければと思いますのでよろしくお願いします。
「あえて逆を行く」顧客ターゲットの選定とマーケティング戦略
大島
初めに事前のお話でお伺いしたGTM初期のキーポイントとなった顧客の絞り込みという部分において、どういう形でターゲットを選定されていったかや自社のプロダクトの売り出し方についてどのようにきめていったかについてお話しいただければと思います。
宮城様
初期対応においては世の中のニーズはたくさんあった中であえて狭く深く入ろうと思い、「上場を目指す会社」に顧客ターゲットを絞りました。
当時のマーケットはいまよりも狭く魅力的なサイズとは言えなかったのですが、1社ずつのペインが深いなと感じました。
またGTM初期はアーリー、ミドル層に対して営業していくほうが効率は良いことはわかっていながらも、後々事業を浸透させていくにおいて上から下に下ろしていくべきであると考え、ミドルやレイター期の企業をターゲットにしていました。
権田
具体的にはどういったペインに着目していったのですか?
宮城様
ミドルやレイター層の「与信枠が足りない」というペインに応えに行きました。
なので最初は与信枠の出るプラスチックのカード1枚を売っていた感じです。
お客様には大変喜ばれましたが「なんで創業期のおまえらが自分より大きな会社に与信保証してるんだ」などいろんな意見を頂戴しておりました(笑)。
権田
すごいですね。
顧客のペインが明確にみえていた中で選ばれる自信があり、その後少しずつターゲットと提供価値を広げていったという形ですね。
大島
ターゲットをかなり絞って進めていく中でその先の展望についてはみえていたのでしょうか?
宮城様
見えている部分と見えていない部分がありました。
見えている部分としてはあらゆるスタートアップが対象になりうることと、与信枠以外の業務的な課題がたくさんあることです。
逆にそれ以外の具体的なセグメントにいつ展開していくかについてはまったく見えずに始めていました。
大島
実際絞り込みをしていくことの大切さはGTM初期によくいわれるところですがそこは最初から判断できていたのでしょうか?
宮城様
弊社の場合は共同代表の水野がNewsPicks立ち上げの際に狭いセグメントから攻めるマーケティング方法を経験しており、その経験を活かして10月のオープン時にはすでに絞り込みができていました。
リスクをとっても覚悟でふむアクセル全開の初期戦略
権田
なるほどですね
UPSIDERさんは国内においてはファーストムーバーだったかなと思うのですが、市場規模などに対してどのくらい行けるなと思い進めていたのか、またセカンドムーバーたちの足音が聞こえる中でどう進めていったのか教えていただきたいです。
宮城様
実は自分たちはファーストムーバーではないんですよね。
自分たちより前に法人カードを展開している会社は2,3社ありましたがそこにはマーケットがないといわれておりまして、どの会社もアーリーステージの業務課題から入りプリペイド型で事業を進めていました。
それを僕たちはあえて真逆のスタンスとして上場を目前とした会社を対象にし、領域もソフトウェアではなく与信課題を攻めに行きました。
これに関しては合理性ではなく覚悟ですね。法人化のタイミングからリスクをとってでもセカンドムーバーを引き離しに行こうとしました。
セカンドムーバーに関していえば正直当時は買収の話などもあって、それを断るということは競合していくということも覚悟としてありましたし、より大きな会社の参入があれば負けてしまうと思っていたので、資金調達も行い面を取りに行く動きをしていました。
常に進んでいくカーブの先には大手資本への恐怖もあり、べた踏みでやらないとだめだよねという意識でやってましたね。
権田
リスクの取り方がおかしいですよね(笑)。
覚悟がないと作れないプロダクトだなと思ってましたが、初期からスタンスを決めていたのですね。
大島
ちなみにターゲットを絞ってアプローチしていく中で初期の顧客はどのように獲得していたのですか?
宮城様
やはりリファラルですね。
怖いビジネスなので知らないお客様に提供できないという悩みがありました。
権田
やはりそうですよね
ちなみに当時のKPI指標などはどのように立てられていたのですか?
宮城様
先行指標や個人の結果指標などはつくらずひたすらにGMVだけを追っていました。
当時はマーケもしてないしメンバーも10名程度だったのもあってGMVだけを追いかけてましたね。
権田
いいですね。アクセル全開で踏んでますね(笑)
ちなみに少しずつGTM中期のお話に入っていければと思うのですが、どれくらいまできたときに成長の鈍化や足場拡大をしていかないといけないなと感じたのですか?
宮城様
競争環境における変化に対する危機感は1年目から感じていました。
そのため早めに大きな資金調達を行い、タクシー広告やスポンサー活動などあらゆるマーケティング戦略を始めました。
権田
ちょうど2022年はスタートアップのマーケティング全体が下火だったのでUPSIDERさんががんがん踏んでるのがなおさら目立ってましたね。
1の矢だけでは終わらない2の矢、3の矢を仕込んだ地上戦と空中戦
権田
資金調達も行い仮説はたっていない中でも施策をたくさん進めていく方向性に切り替えていったわけですが、当時はどのようなことを考えていたのですか?
宮城様
それまではなにも施策をやっていなくて検証結果がなかったのですが、資金調達もあり多少の無駄はあっても一気に試していくというスタンスを持っていました。
その中でも単価が高くてペインが深いところを探していき、クライアントのために広告宣伝費を使う会社に着目し、広告代理店マーケットと定義して与信を出していく方向で2ndマーケットを見つけました。
権田
おもしろいですね!!
狭く深く掘ったら徐々に横に広げていくのが定石の中で、調達を一気に進めて方向転換し押し進めていく方針をとったんですね。
ちなみにいろんな施策をとっていく中でどのタイミングで絞って進めていく判断をするのかは決めていたのですか?
宮城様
一気に押し進めていたのであちこちに無駄はあったと思いますが、それをやることでどこにどれだけニーズがあるかやどのくらいの単価感なのかがわかってきたと思います。
絞って進めていく判断をするタイミングは決めておらず、全部走りながら決めていってましたね。
権田
いわゆるブリッツスケーリングですよね。
開拓のチャネルをいったんフルオープンでやりながらだんだんと閉じていった形ですよね。
宮城様
そこは課題の一つでもあったのですが、当時はサービスの特徴としてもポイント還元も高く、マーケティングも打っていたので直接の流入も多くなっており、オペレーションで手一杯になり新しいチャネルを開拓できなくなっていましたね。
そのため流されるがまま進めていた時期もありましたが、広告代理店マーケットだけはチャネルとして拡大していこうという方針だけは定めていきました。
大島
広告代理店にマーケットを選択されて進めていたかと思いますが、どうやって網羅的にやっていたものから具体的に絞り込んでいったのかをお伺いしたいです。
宮城様
意識していたのは常に地上戦をすることで、とにかく広告代理店の人と飲みに行ってました。自分自身でしっかり一次情報を取りに行き、施策とアカウントを作っていきました。
片方で空中戦をしながら片方で地上戦を行い具体的に落とし込んでいきましたね。
権田
それだけのスピードで法人ビジネスをやっていきながらどのタイミングで次の展開を意識していましたか?
宮城様
2の矢に関してはかなり初期から走らせていて、競合への恐怖からアクセルを踏み出したくらいのころにはすでに動いてました。
ここにニーズがあるなと気づくたびに次の準備を進めていた感じです。
権田
なるほど。
法人カードを始めた段階で、金融ビジネス経済圏をつくっていくということに対して、どれくらいの粒度を持っていたのかお伺いしたくて、未来を見据えたロードマップや計画はあったのですか?
宮城様
やりたいことはやりたいというスタンスをとっているのですが、基本は適切なパートナーと出会う機会をつかむことが大切なのかなと思います。
これに関しては戦略的にタイミングを考えているのではなく、常にトライアンドエラーを繰り返してどこかのタイミングで良いパートナーを見つけてチャンスをつかむということの繰り返しなのかなと思います。
権田
新規事業もブリッジスケーリングでやっていきながら機会を待っていたのですね。
競争環境における危機意識がある一方で、金融市場活性化のために自分たちの力だけではいけないという思いもあったかと思います。エコシステムを作り上げていく中で競争と協業のバランスをどう見極めているのでしょうか。
宮城様
お客様に選んでいただける事業を進めていくと競合が出てくることはあたりまえですし、そこは仕方がないのかなとも思います。ただ会社としてはみんなと協業しようと考えているので断られない限りはやりたいというスタンスです。
というのもまだまだ1社でとれている市場サイズが小さいので1社でできることにとどまらず数社で連携していきながら市場を作っていきたいという思いがありますね。
ここがUPSIDERのしくじり先生 組織作りのむずかしさ
大島
事業戦略についてはいろいろとお話しいただいたかなと思いますが、体制面のところもお伺いさせてください。急成長していく中で組織的な変化もあったかと思いますが、グロースを実現した裏側の組織作りはどうしていたのでしょうか?
宮城様
もともとはセグメントごとにチームがわかれておらず、発想としては営業という人間はプライドを持って顧客の最初から最後まで責任を持つべきであると考えていました。
結果的には既存顧客に対する対応に追われ、新規に対するアプローチができず、新しいニーズを引き出せないことによってまったく進化がなくなってしまいましたんですよね。
役割分担が進まないがゆえにデータに基づいた判断や顧客課題のPDCAを回す暇もないなど、とにかく既存顧客の対応に追われてしまいました。
業務を分けることで限定的な能力しかないビジネスマンを育てても、新規事業を社内で生み出す環境にならないのかなとも考えていました。
権田
あらゆる意思決定において難しい選択をしながら初期は過ごしていたんですね。
特に初期はオペレーションに苦しんだかと思うのですが、振り返ってみていかがですか?
宮城様
そこでいうともっと早く変えるべきでしたね(笑)
当時の状況でいえば広告代理店で新規から既存まで全部対応していましたみたいな人をペルソナに顧客へのオーナーシップを重視した採用をしていれば、もっとうまく機能してたのかなと思いますね。
人材としての採用方針は変わっていませんが、会社としては分業して責任を分担したほうが効率的なので、そこをごっちゃにしないようには中期から意識していますね。
権田
ここまでのお話で事業も売り方も会社のやり方もひたすらに戦場を広げてきて、かなりわちゃわちゃとしていたのかなと思いまして、自分もどんな感じだったのかを体験したかったなと思いました。
宮城様
おっしゃる通りでかなりわちゃわちゃしていて、常に増やす方向にしか向いていなくていろんな課題を放置し、まったく整理されていなかったですね。
なので一回体制変更や事業内容の変化をつけて、お金の使い方も絞り黒字化するための大工事を行いました。
ただ工事に着手したことは良かったものの、体制を変更したからと言ってすぐに変わるわけではないですし、ここ1年はその工事をずっとやってきてた感じです。
この1年でビジネスサイドの整備や変化を促進しておりますが、やはりあのときやっておけばよかったという負債がたまっている状況ですね。
権田
実際これだけ調達していて覚悟を決めて進めてきたと思うのですが、リスクが大きくなると自分でオペレーションを握りたい経営者も多いのかなと思いまして、その中で権限移譲が多いところもUPSIDERさんのすごいところだなと思うのですが、裁量権を与える理由や思惑はどこにあるのでしょうか。
宮城様
最終的にオペレーティブにすることは必要不可欠だとは思います。
ただ会社としてまだまだやりたいことがたくさんある中で経営ベースでコミットしてくれる人が必要だとも思っていますね。
なので権限移譲が目的ではなく、知らなくても勉強しながら試行錯誤できる人を作りたいなとの思いがあり、そのためには外から入ってきた人ではなくカオスな期間にいかに一次情報に触れていたかが重要で、今はその育成に投資をすることが重要なのかなと思います。
オぺレーションを何回も経験した方からすれば不思議に思うかもしれませんが、あえて今はカオスを選んでいます。
権田
GTM初期から後期までお話しいただきましたが、振り返ってみて宮城さんの中で特にあの時知っていればと思うことはありますか?
宮城様
そうですね。
一番の反省は競争環境がまだ悪化していなかった2022年にグロースにむけて一辺倒になっており、仕組化を進めていなかったことですかね。
当時は数字を持てる人や実行ができる人が尊いものだと思っていて、いかに売上を作れる人を採用するかというカルチャーでした。
その結果、中長期的なオペレーションを作る人を1人も採用しなかったんですよ。
あのとき5人でも組織を作る人を採用していればとだいぶ2023年で見えてる景色が違ったのかなと今では思います。
これがUPSIDERスタイル
大島
なるほど。ありがとうございます。
最後にいくつか参加者からのご質問に答えていただければと思うのですが、与信のリスクが大きい中でそのリターンが見込めると思った理由等はありますでしょうか。
宮城様
リターンが見込めるかを意識する会社でもなくて、直近の事業も自分たちの体験からくる怒りから出来上がってますね。(笑)
お客様のニーズに合わせてしっかりやればうまくいくというのが弊社のスタンスなのかなと思います。
権田
リスクやリターンという尺度での計算をいい意味で働かせずに、あとで計算するスタイルなのですね。
大島
権限移譲を積極的に行っているとのことでしたが、その中でも共同代表のお2人が権限移譲していないオペレーションはありますでしょうか?
宮城様
たくさんありますね。
流動的に役割を変えてきてますがファイナンス、リーガル、与信管理、セキュリティなどのコーポレート機能はアクセルにもなりうるので自分たちがやってます。
また経営陣レベルの採用にも特に時間をかけてます。
権限移譲に関しては教科書的な説明はできなくて、結局人依存かなと思いますね。
権田
お話伺って思ったこととしては宮城さんも水野さんもUPSIDERの1キャストの状況で存在していて、最適な環境に合わせていろんなキャストをやりますよという前提で動かれているなと感じました。
宮城様
そういう感じですね。
大島
そろそろお時間となりまして締めに入らさせていただければと思いまして、最後にまとめとして宮城様から一言いただければと思います。
宮城様
そうですね。一言とのことですと「ぜひUPSIDERをご利用ください」とのことで(笑)
権田
そうですね。ぜひご利用くださいとのことで(笑)
宮城様本日はありがとうございました。
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いかがでしたでしょうか。
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「CO₂排出量見える化サービス」導入社数国内No.1
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Go to Marketまっただ中の企業さま、これからGo to Marketフェーズに入る企業さまにとって、
とても貴重かつ、とても学びのある内容になっております。
ぜひ、多くの皆様のご参加をお待ちしております。