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コロナ禍の今、どう事業戦略を描くべきか -CROに求められる役割とは-

新型コロナウィルスが猛威を振るい、日本政府による緊急事態宣言が発令されてから1ヶ月が経過しました。新型コロナは既に世界経済に大きな影響を及ぼしており、各社、事業戦略の見直しを図らざるを得ない状況になっていると思います。

以前の記事で「コロナ禍で顕在化する組織課題」「コロナ禍における営業戦略」についてご紹介しましたが、先行きが不透明なこの時期にCROはどんな視点で事業全体を見て、事業戦略を描いていくべきなのでしょうか。

経営陣やCROが、今考えるべき事業戦略について、さまざまな業界において経営コンサルティングを行う傍ら、自社のCROの役割も担っているリブ・コンサルティング常務取締役の権田に、CROHack編集長松尾が取材を行いました。

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▼プロフィール
権田 和士 リブ・コンサルティング 常務取締役
早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。2008年より4年間、住宅不動産コンサルティング部門の本部長を務めたのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。2014年、リブ・コンサルティングに参画。現在、常務取締役として海外事業および新規事業を統括している。CROHack「CROとは?日本イチ詳しく解説します」の筆者。

コロナによりさまざまなところで歪みが発生している

権田さん本日はよろしくお願いいたします。
今、コロナによって大きく世の中に変化が起きていると思います。
権田さんはこの世の中の変化の中で、各企業はどのような対応を取るべきだとお考えですか?

権田 コロナショックは未曾有の景気低迷をもたらしており、「このままでは経済が止まってしまう」といったニュースが日夜流れています。そういうマクロな予測はとても重要ですが、CROがやらなければならないことは、全体的な風向きや風の速度を測るよりむしろ、風の歪みを的確に捉えることだと思います。

歪みが発生しているということは、コロナによって伸びている業界と沈んでいる業界が同時に存在しているということです。当然ながら、自社がどちらの業界にいるのかによって打つべき対策は大きく変わってきます。

まず、自社がコロナによって伸びている業界に属している場合を考えていきましょう。自社がコロナの追い風を受けて伸びていることは、良いことだと思われるかもしれませんが、これは必ずしもそうとばかりは言えません。

今、コロナによって業界が伸びているということは、コロナによって駆け込み需要が発生し、市場の面取り合戦、つまりシェアの奪い合いが想定より早く始まったことを意味します。

例えば、オンライン会議ツールの市場やフードデリバリーの市場では今、一気に市場シェアの奪い合いが始まっています。当初はあと半年後くらいから、2年ほどかけて徐々に市場シェアの奪い合いが行われる予定だったのですが、コロナにより3ヵ月くらいの短期間で今すぐ強制的に、市場シェアの奪い合いを行わなければならなくなりました。

業界が追い風であれば、自社は確かに売上を伸ばしている可能性が高いです。が、どの会社も伸びているので、相対的に見るとシェアは下がっているかもしれません。

往々にして業界のTOPグループは、市場シェア拡大に向けた準備を2番手や3番手グループよりも先んじて行っていることが多いです。例えば、ZOOMやUber Eatsなどはすでに市場シェアを一気に獲得しに行く準備をしていたので、突風が一気に背中を押すような今回の局面にもすぐに対応して、一気にシェアを拡大できています。

ZOOMはセキュリティ対応で少し苦心しているものの、直近4ヵ月間で参加者が1000万人から3億人超まで急増している中で対応しています。しかし、業界2番手グループでシェア獲得競争の準備ができていた企業は多くありません。

その結果、風が吹いている間に、市場シェアの差がどんどん開いていくという自体が発生しているのです。そして、気がついたときにはすでにTOPグループにより市場は開拓され、勝負が決してしまっていたということになりかねません。

ですので、この伸びている業界に属している企業は、早急に市場シェアの獲得に向けて手を打たなければなりません。この勝負に負けたら企業としても負けるという意識を持ち、早急に市場シェアの獲得競争に挑むことが求められています。

コロナを追い風に変える事業戦略を立てることが最も重要

ありがとうございます、市場が伸びているからといっても全く気を緩めることはできず、むしろ市場の勝敗を決める戦いが始まっているということなのですね。
ただ一方で、多くの企業はコロナにより業績が低迷していると思います。そういった企業はどのような取り組みをしていけば良いでしょうか?

権田 はい、やはり全体で見ると、業績が落ちている企業がほとんどだと思います。このような企業はまず業績の落ち幅を広げないように対策を講じることが求められます。

最も一般的なのがオフラインで構築していた営業戦略を、オンライン完結でできるように組み替えることですね。ウェビナーの開催やオンライン商談にすぐに対応していくとともに、それらの質を磨いていくことで、今までとできるだけ近い状態を作るようにすることが重要となってきます。

ただ、この辺りはもう多くの方が述べておられる部分なので、本日は割愛させて頂きます。うちの若手メンバーの友野(@lib_tomono)が過去にウィズコロナ時代の営業戦略について記事を書いていたので、そちらをご確認いただければと思います。

業績の落ち幅を広げないように対策を取ることがまず重要なことは間違いないのですが、実はCROや経営陣が考えるべき最も重要なことは、今受けている向かい風に耐え忍ぶだけではなく、帆の向きを変えて、追い風に変える舵取りを取ることです。

実際に、優秀な企業はこれらにもうすでに取り組んでおられます。例えば、フードトラック・プラットフォームを運営する「Mellow」が挙げられます。

Mellowは元々オフィス近くの空きスペースにフードトラックを設置して、そこに飲食店を誘致するビジネスを行っていました。

しかし、皆さんご存じのようにリモートワークが推奨される中で、オフィスに行く人が激減することになり、フードトラックで食べ物を購入する人自体も激減しました。つまり、コロナによって猛烈な向かい風を受けることになったわけです。

ただ、Mellowはここで発想を転換しました。

「オフィスに人はいなくなったわけだけど、その人たちは消えたわけではなく場所を移動しただけ。だとすれば、人が移動した先にフードトラックを届けることが価値になるのではないか」

と考えた結果、マンションにフードトラックを設置するという戦略を取ることとなり、4月8日には「おうちでTLUNCH」というサービスのPRを出しています。

フードデリバリーを見ても、中食市場は急速な伸びを記録しているわけですから、少し帆の向きを変えれば、逆境を好機に変えられるわけです。

もう一つ、向かい風を追い風に変えるために動いている事例を紹介しましょう。それは、「akippa」です。

akippaは、使用されていない駐車場などの空きスペースと短時間から駐車をしたい人をつなぐ、駐車場シェアサービスを展開している企業です。

しかし、こちらもコロナの影響で人々の移動が減少し、駐車場需要の大きい大規模イベントが開催されない中で、駐車場の利用ニ ーズは少なからず減少することとなりました。コロナによって向かい風を受けられてい る状況です。

ただ、akippaさんも空いている駐車場をどうにか利活用することができないかと考え、農園・直売所の検索サービスを手掛けるYACYBERさんと提携し、駐車場での無人野菜直売サービスを始めました。

WBSやニュースαでも取り上げられていたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。

スーパーマーケットなどの混雑する場所に行くことなく新鮮な野菜を購入できることは、利用者にとっても非常に価値が大きく、また、駐車場のオーナーさんにとっても新たな収益源を確保できるサービスであり、人気を博しているようです。

こちらもコロナを追い風に変えるように取り組まれている良い事例と言えます。

ミッション実現の為のオプションを事前にどれだけ用意できていたかが勝敗を分けた

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なるほど、業績の落ち幅を防ぐことには早急に対応する一方で、CROとしてはそれだけでなく、コロナの向かい風を追い風にするよう考えることが求められるわけですね。
では、こういったアイデアを出して前に進めている企業とそうでない企業にはどのような差があるのでしょうか?

権田 はい、それは事前に用意をしていたグロースプランのオプションの数ということに尽きると思います。

Mellowもakippaも今回のアイデアをたまたま思いつかれたわけではなく、元から考えていたと伺っています。環境変化に合わせて柔軟に対応できるように、さまざまなオプションを用意しているから、このスピード感で対応できるのです。

これはコロナに限った話ではありません。今回はコロナによって全世界のほぼすべての業界が影響を受けることになったため、大きく騒がれています。

が、一部の業界だけが影響を受ける急激な環境変化は常にどこかで起きており、VUCAになってから、その変化は加速していっています。

例えばGAFA参入によって大きな影響を受けている業界はどれくらいあるでしょうか。自社の事業が外的要因によって大きな影響を受けることは、どんな企業であっても想定しておかないといけないものです。

CROは今、「アフターコロナの始まり方」について考えないといけない。

事前にさまざまなリスクを鑑みて、オプションを用意していた企業がうまく立ち回ることができているのですね。では、これからはどんな変化に向けてオプションを用意しておく必要があると考えられますか?

権田 今、優秀なCROや経営者が考えていることは、「アフターコロナの始まり方」についてです。世間では、いつコロナが収束するのかという話題で持ちきりですが、コロナがいつ終わるかは、正直分かりません。

そのため、コロナの収束時期については考えられるパターンを3パターンほど用意するという対策をしておけば良いと思います。

ただ、コロナが終わる時期よりも重要なことが、「アフターコロナがどう始まるか」です。

コロナはある時期を境に同時に収束すると考えている人もいるかもしれませんが、その可能性はまず考えにくいと思います。どこかから順番にコロナは収束していくことになると考えることが普通でしょう。

私は専門家ではありませんが、一般的には地方からコロナは収束していくことになり、東京は最後まで影響を受け続けることになると考えられています。

もし、東京が最後まで影響を受けて、地方が早々に経済が回復すると仮定すると、CROや経営者はそこに対して対策を打っていかないといけません。

例えば、本社のリソースを地方に割くようにすること、本社を地方に移すことも必要になるかもしれません。あるいは、地方の営業活動を強化するために、地域販社や地方代理店との提携の交渉を今から始めておくことが必要となるかもしれません。

これらのように、自社の業界はどのようにコロナが収束していくのかということを長い時間軸で考えて、対策のオプションを考えていくことが重要です。

ありがとうございます。かなり濃密なお話を伺うことができました。
最後にCROの方に向けてメッセージなどございましたら、お願いいたします。

権田 今、多くのCROの役職にある方々は現状の売上を下げないことに取り組んでいると思います。私自身もそうですが、それは切実なイシューであり何とか乗り越えなくてはなりません。

同時に、「自社の事業がコロナを追い風に変えるには、帆の向きをどのように合わせればよいか」にも目を向けていく必要があります。

なぜなら、CROはゲームメーカーであり、チェンジ・エージェントだからです。シュートを決めるだけでなく、全体を俯瞰して、事業や売上の構造そのものを変えるキラーパスを出せるのが優秀なCROです。

そしてこのようなピンチのときこそ、優秀なCROの存在が会社の命運を左右します。

最後になりますが、日本経済を成り立たせるためにも、「コロナ禍においていかに事業をグロースさせるか」というのは個社単位でなく、全体で知恵を出し合って解決するような大きな課題です。

もし、帆の向きを変えるような事業アイデアをディスカッションしてみたいとのことであれば、その壁打ち相手になれると思うので、お気軽にご相談ください。

本日は最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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