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【次世代ビジネスの最前線】メタバース×事業開発篇 #事業開発SUMMIT2023

こんにちは、CROHackです!

今回は、2023年8月に開催された「事業開発SUMMIT2023」のセッション「次世代ビジネスの最前線  メタバース×事業開発篇」のレポートをお届けします!

2022年頃を境に、メタバースの活用が生活のさまざまな場面で増えてきました。それに伴い、メタバースを介して新たなビジネスを生み出す環境もまた、変化を続けています。一方で、メタバースがビジネスでどのように活用されているのか、不透明な部分も多いです。

このセッションでは、メタバースのビジネス活用についてお話しいただきました。このセッションを通じて、メタバースを用いた事業開発のヒントを手に入れてくださればと思います。

ご登壇を頂いた方

加藤 欽一氏
ソフトバンク株式会社 サービス企画本部 メタバース・NFT部 部長

ソフトバンク株式会社サービス企画本部所属。XR・メタバース・NFT部門の責任者。携帯電話のサービスエリア対策に従事した後、2016年にVR事業部門を立ち上げ、2019年同社同社初のVRサービス開始、2020年には5Gサービス「5G LAB」のVR SQUAREを開始、サービス責任者を務める。2022年にメタバース・NFT部門を新設し、2023年よりAR・VR部門と統合し現職。
地下鉄エリア化にてモバイルPJアワード受賞。ソフトバンクアカデミア1期生、2015年度首席。プレゼン、新規事業創出など社内講師を10年以上務める。

加藤 直人氏
クラスター株式会社 代表取締役 CEO
京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年にVR技術を駆使したスタートアップ「クラスター」を起業。2017年、大規模バーチャルイベントを開催することのできるVRプラットフォーム「cluster」を公開。現在はイベントだけでなく、好きなアバターで友達と集まったりオンラインゲームを投稿して遊ぶことのできるメタバースプラットフォームへと進化している。
2018年経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出。2022年、2023年と「日本の起業家ランキング」のTOP20に2年連続で選出。著書に『メタバース さよならアトムの時代』(集英社/2022年)

zen氏
株式会社ポリゴンテーラー・コンサルティング CCO(Chief Creative Officer)
フリーランスとしてもVTuber等の3Dモデル制作を請け負い、VR技術と3Dモデリングの楽しさを広めるべく講座動画を継続的に公開。VRやモデリング関連の各種イベント、セミナーに登壇し、広くVR技術と3Dモデリングの普及に努める。代表作は「ワニでもできる!モデリング」シリーズ。

ソフトバンクのメタバース活用例

メタバースは現在、どのようにビジネスで活用されているのでしょうか?加藤欽一氏に、ソフトバンクの取り組みを紹介していただきました。

タバースと一口に言っても、その用途やユーザーはさまざまです。ソフトバンクはユーザーニーズに合わせて最適なプラットフォームを選択していますが、その中でも特に紹介したいのが以下の3つとしています。

● ZEP:2Dベースのメタバースで、活用ハードルが非常に低いことが特徴
ZEPETO:3Dアバターによるコミュニケーションを主体としたメタバース。グローバルで4億ユーザーが利用
NFT LAB:LINE Blockchainを基盤としたソフトバンクのNFTマーケット。3Dメタバースとも連携可能

現在利用できるメタバースの特徴として、加藤欽一氏は専用デバイスは要らず、スマホやパソコンから簡単にアクセスできるという点にあるとします。

例えばZEPは、従来のレトロゲームのようなUIのため、サービスを利用するうえで長時間のチュートリアルを経験する必要はありません。データ通信量も少ないため、数万アクセスが集中するような多人数イベントであっても、メタバース空間を快適に楽しめます。

メタバースのビジネス活用において、加藤欽一氏はメタバースがあれば何でも解決できるという考え方は危険だと話します。そうではなく、自社のアセットをいかに活用できるかが重要だと話します

実際に同社のZEPにおける取り組みでは、限定コンテンツの配信や、ソフトバンクショップのバーチャル接客の提供など、メタバース内での企画を通じて実際にビジネスを展開しています。

デジタルの空間だからこそ味わえる価値を追求する

これまでに、多くの企業のメタバース活用を支援してきた加藤直人氏は、「物理空間をドライブするためだけにメタバースを活用するのはおすすめしない」と説明します。

例えば、メタバース内に特定の博物館を作成して、来館できない人々が展示作品を鑑賞できるようにするという方法です。

このように、メタバース空間の体験を通じてリアルのイベントへ行きたいと思ってもらう活用法は、決して珍しくありません。しかし加藤直人氏は、メタバースの世界の面白さはデジタル空間の中にカルチャーが生まれることにあると言います

そして、デジタル空間の中で生まれた価値を、そのまま売買につなげることがメタバース活用の醍醐味だというのです。

例えば、近鉄不動産株式会社と手掛けた「バーチャルあべのハルカス」では、クリエイター同士が集い自由に交流できるエリアを用意したり、さまざまなイベントを開催したりしました。バーチャル空間内ではキャラクターが自由に生活し、ファンによるコミュニティが形成されることもあれば、デジタル上で商品が販売されたりしました。

また株式会社テレビ朝日と手がけた「メタバース六本木」では、バーチャル上にさまざまな人気作品のキャラクターが登場します。TVの公開収録のように、その様子を楽しめるのです。

こうした事例を見ると、リアルとバーチャルとで体験できる価値には違いがあるということを、ビジネスでは考慮する必要があるでしょう。zen氏は両者の違いを、モビリティでの体験を例に説明してくださいました。

モビリティイベントではよく、自動車の試乗コーナーが設けられています。当然のことながら、実際に乗車する場合とVRの場合では、得られる体験はまったく異なります。もしも自動車のプロモーションをしたいとき、VRで試乗体験ができるというサービスを提供しても、乗車感の魅力を100%伝えるのは難しいでしょう。

そうなると、VRで本来与えるべき体験は何かを考えなければなりません。自動車を購入するというアクションを経験するにあたり、何が本物への興味・関心のフックになるかを考えるべきだと、zen氏は言います。

加藤 直人氏は、バーチャルの世界が人々の心を惹きつける要因の一つに、「自分で作れるところ」を挙げます。試乗体験に置き換えるのであれば、自分で自動車をカスタマイズでき、それに乗車できるというイベントなどが考えられます。バーチャルであれば、自分の考えた自動車を作り出すという、車好きにとってのプリミティブな憧れに応えられるのです。

能動的な経験は、記憶にも鮮明に残ります。デジタルだからこそ提供できる、ものを作るという体験が、ビジネスに大きな影響を与えるのかも知れません。

10年後20年後、間違いなく訪れる未来に備える

とはいえ、事業会社はリアルの空間でビジネスを展開しています。バーチャル空間でゼロから価値を生み出そうと考えた場合、コストとリターンの観点からなかなか決裁を得られないこともあるでしょう。そんなとき、どうやって経営陣を説得すればいいのでしょうか?

加藤欽一氏は、toC向けのサービスであれば楽しんでくださるユーザーが増えるほど、顧客基盤が広がりビジネスチャンスも拡大すると話します。ユーザーの母数がある程度増えれば、さまざまなビジネスに展開できるという点にフォーカスして、メタバース活用を設計することが可能です。

また、いきなり利益という名の果実を得ようとするのではなく、メタバース事業を小さくスタートさせて、仮説を証明・検証するフェーズを挟むことも重要だと話します。

加藤 直人氏は、事業会社はこれから訪れるであろう、リアルとバーチャルの主従関係の逆転を考慮して動かなければならないと示唆しました。現在、リアルに紐づいたインターネットビジネスの売り上げは、全世界で約500兆円あるとされています。一方、バーチャルだけの世界におけるビジネスの売り上げは、50兆円以下です。現在はリアルの1/10以下にとどまるバーチャル市場ですが、この数字は確実に拡大していくと加藤直人氏は断言します。

また、クラスターに問い合わせる企業の多くは、サステナビリティへの配慮からメタバース活用を検討しているといいます。従来の大量生産・大量消費の社会を変えなければいけないとして、デジタルに注力するという意思決定を下しているのです。

さらに、加藤 直人氏は10年20年の時間で考えて、バーチャルへの投資を決断すべきだと話します。10年後の未来を想像することは困難ですが、一つ確かなことがあります。それは、今デジタルネイティブである10代20代が、10年後には経済を担う存在になるということです

友人とボイスチャットを介しておしゃべりやゲームを楽しみ、誕生日にはお互いにデジタルギフトカードを贈り合う。こうした習慣が当たり前の世代が年齢を重ねた未来では、デジタルでモノを買う、体験を買うという流れは不可避だといえます。こうした説得材料を武器に、ぜひ自社のメタバース事業の道を切り開いてください。

メタバースの普及を左右する業界・企業・技術は?

今後、メタバースが業界に浸透する上でどの業界や企業、あるいは技術に注目すべきなのでしょうか?

zen氏はその問いに対して、Appleの動向に注目していると応えました。メタバースを語る上で、どうしても「VRかVRでないか」という大きな境界線が存在します。かつてiPhoneを発表して、人々のデジタルインフラを構築したときのように、AppleがVRゴーグルを広く展開していくことで、VRが市民権を得ていくかもしれない。その日が来るのが待ち遠しいと、zen氏は話します。

加藤 直人氏は、二つの要因について注目しています。一つ目はAIの進化です。3DCGの作成コストは、依然として多くの企業に重くのしかかっています。生成AIの進化に伴い、誰もが3DCGを作れる世界が実現できるかもしれないと、加藤 直人氏は大いに期待しています。

二つ目はゲーム業界の動向です。というのも、メタバースに使用されている技術は、ゲームによって当たり前に提供されている技術だからです。今後、メタバース業界にゲーム業界の人々が参入すれば、日本における業界の盛り上がりは一気に高まるといいます。

普及期のチャレンジが未来を左右する

最後に、メタバース領域での事業開発の意義や、メタバースの可能性についてゲストからメッセージをいただきました。

加藤 直人氏は、2022年に始まったメタバースブームは、2023年に一度幻滅期を迎えると予測していました。しかし今後、メタバースは確実に普及期を迎えます。このサイクルにおいて、メタバースを存分に堪能しているのは「暇な人」なのだと、加藤 直人氏は断言します。ユーザーたちは目的なく、メタバースで自分たちなりの生活を送っています。その何気ない生活のなかで、メタバースの楽しみ方を次々と発見しているのです。

現在、メタバースに集まる人々は、全世界で数億人程度に過ぎません。SNSやYouTubeのプラットフォームと比べれば、まだまだ少ないでしょう。しかし10年後、メタバース空間の人口は既存のSNSに肉薄するレベルまで増加すると、加藤 直人氏は考えています。この流れに乗るため、普及期の間にさまざまな仕込みを済ませられるかが、企業にとって非常に重要なのです

現在のフェーズで重要なのは「さまざまな失敗を経験すること」です。まずはゲームを遊ぶ感覚で、メタバースを体験してみてほしいと加藤 直人氏は話しました。

zen氏もメタバースに進出するにあたり、メタバースやメタバースの空間を楽しんでいる「暇な人」に触れてみることが大事だと強調します。メタバースというカルチャーを楽しんでいる人の価値観を汲み取らないと、そこで何をしようとしても失敗してしまいます。それでも見えない部分があれば、自身や加藤 直人氏のような専門家に相談してほしいと、視聴者に伝えました。

加藤 欽一氏には、NFT領域にも参入しているという立場からメッセージをいただきました。NFTも現在、幻滅期を迎え「NFTはそもそも必要なのか」という議論が各所で交わされています。ソフトバンクは中長期的な視点で、同事業に取り組んでいますが、同時に他社とも協力して同領域にチャレンジしていきたいと考えています

1社だけではなかなかリスクを取れないという環境であっても、ソフトバンクとなら中長期目線で事業開発できるかもしれない。そう考える企業様と、ぜひ一緒に試行錯誤を重ねて事業を大きくしていきたいと、加藤 欽一氏は話しました。

まとめ

セミナーのポイントをまとめました。

● リアルビジネスの代替ではなく、デジタルならではの価値をユーザーに提供しよう
● サステナビリティ意識10年後20年後に訪れる「デジタル主体」の時代に向けて
● 普及期の今だからこそ、試行錯誤を重ねてメタバース領域に関わっていこう

メタバース領域をビジネスに活用する上で重要なのは、メタバースでどのような体験価値が生まれているのかを、自身で体験することだとゲストは話します。

まずはゲーム感覚で、メタバースの世界に一歩踏み込んでみてください。その先の事業化で困った点があれば、今回ご登壇いただいた専門家の皆様に相談してみてください。

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