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業界最注目ベンチャー企業らが語るEV・GX領域の事業開発のポイントとは何か?

はじめに

こんにちは、CROHackです!
多くの企業において、異なる領域で新しいビジネスの種を見つけ、育てる”新規事業開発”が求められるなかで、リブ・コンサルティングでは「事業開発SUMMIT2023」を開催しました。

今回は、「次世代ビジネスの最前線(GX×事業開発編)」と題し、大阪大学大学院の西村氏とパワーエックス木下氏が語るGX/EV領域における事業開発のポイントや、大手企業とベンチャー企業におけるオープンイノベーションのあり方を解説します。


今回ご登壇頂いたお二人

大阪大学大学院工学研究科 ビジネスエンジニアリング専攻招聘教授 西村 陽氏(左)
株式会社パワーエックス 経営企画部部長 木下 伸氏(右)

EVビジネスの最先端とは

まずはじめに、EVやGX領域の最先端で活躍をされているお二方それぞれの取組について紐解きます。

蓄電池を中心とした垂直統合ビジネス

株式会社パワーエックスは「自然エネルギーの爆発的普及を実現する」という2030年ミッションを掲げ、伊藤正裕氏によって2021年3月創立した業界最注目ベンチャー企業です。

大型蓄電池「Mega Power (メガパワー)」の販売、蓄電池式超急速EV充電器
「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」の販売を事業内容としています。
また、本充電器を用いたチャージングステーション事業を今夏より開始。
世界初の電気運搬船事業も計画しており、2026年から国内外での実証開始を予定しています。

今回ご登壇いただいた木下氏は、日産自動車からキャリアをスタート。リーフのバッテリーを作る事業からバッテリービジネスに携わり、エンビジョンAESCジャパンの経営企画部を経て2021年12年から現職に従事。 

エネルギーとモビリティ融合検討の最前線「EVグリッドワーキング」

西村氏は関西電力で戦略、電力市場改革を歴任し、ビジネスイノベーション、電力市場、環境経済学を専門としています。

公益事業学会理事・政策研究会幹事、国際公共経済学会理事、2013年資源エネルギー庁ネガワットWG委員、2016年ERAB検討会委員等様々な役割を担い、エネルギー業界に関する専門家として活躍。

2023年5月からは、経済産業省が行う「次世代の分散型電力システムに関する検討会」において立ち上げが決定したEVグリッドワーキンググループに参画。

本ワーキンググループへの参加事業者は自動車・電力・エネルギーなど、業界の垣根を越えたメンバーが参加しており自動車メーカー4社、充電器メーカー5社を含め、26社の事業者および有識者が集い、将来的なEV活用について議論を実施。

EVと電力システムの統合をテーマにEVをさまざまな観点から捉え、社会における全体最適を実現するため、産業政策・エネルギー政策の両面から検討中。

「その中でも商用モビリティのEV転換は、EVビジネスの中でも最も進んでいる領域であり、各商用EVを使用する事業者は目的地充電を実施している。」と西村氏。

EVは、従来のガソリン車両と異なり、「電力」を必要とします。
どのように充電を最適化すべきか・グリッドへの影響をどう考慮するのか等、今後「モビリティ業界」「エネルギー業界」という2大産業の事業領域がますます重なる起点となるのがEV化による業界構造の変化です。

EV領域における事業開発のポイントとは

今後ますますのEV普及が予測される中、本領域に関する事業開発を推進するうえでのポイントを深堀してまいります。

パワーエックスが「EV利用者の顧客体験をアップデート」を重視する理由

木下氏によれば、パワーエックスが現状の充電領域の事業開発において最も重要視している点は「EVユーザーの顧客体験をアップデートすること」だと言います。

パワーエックスは、蓄電池プロダクトのデザイン・開発・製造・販売~電力販売までを一気通貫で実施をしています。

欧州や中国を中心にEV化が加速している今、それを利用するユーザーからは「短時間で充電をしたい」という要望が強く顕れます。ただし急速充電を多く広めてしまうと、日本の電力系統への影響が大きくなるという懸念もあります。

そういった背景からパワーエックスでは、蓄電池に「低圧」で電力を貯めて、その蓄電池から「高圧」でEV充電するというHyperchargerという製品を開発しました。

ユーザーの顧客体験を重視して設計されたパワーエックス社の「Hypercharger」

しかし、ただプロダクトやソフトウェアを開発すればいいというものではなく、「自分がEVユーザーの場合、どのような形でEV充電を体験すれば受け入れられるのだろう」という利用者側を想定した上で開発を進めてきたといいます。

今後のEVが日本へ進出あるいは普及していく際、どのような順序で入ってくるのか、その利用者はどのようなペルソナか、ということを見定め、周囲の人の意見を聞きながら、インターフェイスや充電時間等の設定をしていくことが重要と木下氏は言います。

現状ではEVユーザーはアーリーアダプター層の方々の利用が多いですが、ユーザーの充電体験を豊かなものにする商品・サービス開発をすることで、その後も一般的に受け入れられるものになっていくでしょう。

再生可能エネルギー活用の方向性

今後は再生可能エネルギーの活用を見据えての事業推進をしていくと木下氏は話します。

電力系統の安定という課題はもちろんありますが、排気ガスを出さないEVのエネルギー元がCO2を排出しているままでは自然エネルギーの爆発的普及にはつながりません。弊社は再エネ活用の要望にも応えていく方向性です。

具体的には、太陽光発電でつくった昼間のエネルギーを蓄電池に貯め、夜間に使用する。あるいは、本EV充電ビジネスは余剰分の再生エネルギーの活用も十分できるソリューションであると考えています。

大企業とベンチャー企業の新規事業開発の違いとは

EV・GX領域において、大企業が事業開発するケース、ベンチャー・スタートアップ企業が事業開発するケース、それぞれ存在しますが、一体何が差異なのでしょうか?

その現状をそれぞれの立場から考察を深めてまいります。

ベンチャー企業だからこそできる新規事業思考とは

ベンチャー企業の特徴は「成功体験や資産を持っていない」ことにあると木下氏は言います。

今までの経験・ヒト・モノ・カネ等を持ち合わせていないからこそ、そこに縛られることなく事業開発を推進できます。過去の成功体験に囚われない分、

● 今新しく起こっている事象
● それを踏まえた今後の世の中の動きやニーズ

に目を向けてビジネスを推進していくことができることが一番の強みです。

大企業だと現状のお客様に満足していただくサービスや製品を考えるのかもしれませんが、ベンチャー企業はまだ、お客様もいないため、アーリーアダプター・インフルエンサーというユーザーに利用ペルソナを見定めてビジネスができるということが大きいでしょう。

大企業が苦戦する既存分野と新規事業の両立

大企業はベンチャー企業とは裏腹に「持っているものが多い」からこその難しさがあると西村氏は言います。

アメリカではブロックバスターという企業(TSUTAYAよりも大きな規模の企業)がレンタルビデオを生業としていたが、実店舗として3000店舗というアセットを持っていたがために、動画配信の事業に参入する判断ができず、事業内容を変化させることができませんでした。

やはり、大企業は過去の成功体験やそこから生まれた産物を「持っている」ために、新たなことを始めようとすると既存領域と必ず重なってしまう領域が存在します。

今後大企業に求められるのは、本業とぶつかることをできるかどうかにかかっています。

クリステンセンは、成功している企業が「イノベーションのジレンマ」として陥る失敗の理由について下記3点を述べています。

 まず第1に、破壊的な技術は、製品の性能を低下させる。そのため、既存技術で成功している大手企業の多くは破壊的な技術に関心が低いという点である。例えば、デジタルカメラが登場した当初は、画質などで銀塩写真に比べて画像の質は低く、フィルムカメラのメーカーは、この技術に関心も注意も払わなかった。しかし現在では、フィルムカメラはデジタルカメラに主役の座を追われている。

 第2に、技術の進歩のペースは、市場の需要を上回ることがあるという点である。技術が市場の需要を上回っているにもかかわらず、トップ企業はハイエンドの技術をさらに持続的に向上することを止められない。
そのため、新たに開発した技術に、市場は関心やプレミアムを得ることができない。さらに、比較的に性能が低くても顧客の需要を満たす、新たな技術をもった新規企業に市場を奪われる隙を作ってしまう。

 第3に、成功している企業の顧客構造と財務構造は、新規参入企業と比較して、その企業がどの様な投資を魅力的と考えるかに重大な影響を与える。
破壊的技術が低価格で利益率が低い、あるいは市場規模が小さいなど、既存の技術で成功している企業にとっては魅力を感じず、参入のタイミングを見逃してしまうという点である。

オープンイノベーションを起こすための「大企業×ベンチャー企業」の協業のポイントとは

それぞれの立場からの得意不得意領域や、違いが見えてきました。今後、大企業×ベンチャー企業がオープンイノベーションを起こしていくための協業のポイントにはどんなものがあるのでしょうか?

ベンチャー企業は大企業が負えない事業リスクを背負う

パワーエックスは多くの出資の協力を受け、大企業が負えない事業リスクを負っています。

大企業の皆様では「できない」と思う領域でも、「可能性がある、一緒に仕事はしたい」と賛同していただく企業様に「出資」や「パートナーシップ」という形で協力をいただいております。

大企業は今まで蓄積してきた保有技術・ノウハウを社外へ提供していく

ただし、大企業はベンチャー企業と違い、事業ノウハウや人財を沢山保有しているため、お互いの不足を補完し強固な事業を推進できるきっかけにもなりえると西村氏はいいます。

たとえばエネルギー業界でいう「電力市場制度」等の理解は、業界外の人が完全に理解し学ぶことは非常に難易度が高い領域。

今までの保有技術やナレッジを持った専門人財等を積極的に社外のベンチャー企業に提供してタッグを組んでいくことがオープンイノベーションを加速させるきっかけになるでしょう。

GX領域における今後のトレンドとして押さえておくべきトピックス

再生エネルギー活用を考える上で、蓄電池デバイスや急速充電のデバイスをビジネス上押さえていく際、今後のトレンドはどうみていくべきでしょうか?

どんなバリューチェーンの広がりが考えられるのか、事業機会についてもお伺いしました。

①モビリティ×エネルギー事業の海外ビジネス事例の最先端

欧州の充電アプリベンチャーである、オクトパス・ジェドリックス・ムービー・NLEXモーターワークス等は、充電の最適化アプリを開発しています。
再生可能エネルギーは日中太陽光発電したエネルギーを蓄電し、夜間に使用するというのは、日本の家庭用の車両が昼間止まっているからこそできるだけです。

しかし、先述した企業らは、再生可能エネルギーの調達価格が低い時間をお知らせし充電するように促す等の最適化を促進しています。

そのようなアプリベンチャーはそれを生業としながら、チャージャーの販売あるいはサービスを提供しています。

②再生エネルギー・需給調整・データ活用

ヨーロッパの場合は、充電チャージャー企業・電力グリッドを担う企業・エネルギー小売企業をはじめとして、電力ネットワークを接続するトレーディングシステムがあるため、5種類くらいの事業者がアライアンスを組んで、1社としてのエコシステムを構築しています。

日本に置き換えた際、ヨーロッパと同様ではないにしても、チームを組んで実施すべきだと西村氏は言います。

通信規格・新たなメニュー構築・トラッキングの方法等、全ての需給調整やデータ管理を考えた際、1社単独実施は難しいでしょう。

パワーエックスでは、充電事業だけではなく、再エネ普及を促進していくために、電力小売りライセンスも取得。

本事業は、昼間の太陽光や風力、国内バイオマスなどのベース電源に加えて、日中に太陽光によって発電された電力を蓄電池に貯め、電力需要の高まる夕方以降の時間帯に「夜間太陽光」として、オフィスビルや商業施設などに供給する、新たな法人向け電力販売契約(PPA)です。
需給調整を考える際、パワーエックス社は蓄電池という「箱」をたくさん保有しているが、今後は蓄電池製品・大型の定置型蓄電池・EV超急速充電器等すべての製品をネットワークで接続し、クラウドにおける情報管理をしていく構想をもっているという。
どの蓄電池がどのような活用をされているのか等の情報を取得し、その電力に対してどのようなピークカット・シフトを実施していくのかということを統計的に処理しながら使用推進をしていきたいと考えています。
電力の安定化にも、再エネ普及においても、今後お客様の体験向上はもとより、日本全体の電力安定化にとってもデータ蓄積・活用は必須といえそうです。

X-PPAリリース|(2023年11月)https://www.youtube.com/watch?v=Q3Zki2rAPlY

③人材育成の難しさ

本領域の事業開発において、人材育成あるいはリスキリングも押さえておくべきポイントです。EV化加速によってますますモビリティ領域とエネルギー領域は相互乗り入れが発生しますが、「モビリティには詳しいが、エネルギーのことは分からない」あるいはその逆も発生しています。

お互いに共通言語や基礎知識を持ったうえでないと議論が推進できないという自体に陥ります。そのため、お互いにリスキリングの機会をしっかり持っていくということも本領域の事業開発には必要な事項でしょう。

まとめ

事業開発SUMMIT2023 投影資料より

今後も様々な業界からのGX・EV領域への相互乗り入れが発生し、企業規模を問わず共創しオープンイノベーションが生まれていくことが予測されています。

今回の西村氏・木下氏にお話いただいた事業開発のポイントや、オープンイノベーションを生み出す内容の要諦が、少しでもご参考になれば幸いです。

今後もCROHackは皆様と共により良い未来・事業を創り上げるための情報発信をいたします。
ここまでお目通しいただきありがとうございました。


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