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【事例まとめ】グロースに必要なバックキャスティングという考え方

こんにちは、CRO Hack編集長の松尾(@daisukemo)です。

近年、マーケティング業界で頻繁に耳にするようになった「グロースハック」という言葉。

プロダクトなどを成長させることを意味するグロースにハックという言葉を掛け合わせていることから、事業やプロダクトを急成長させること…ということは、なんとなく理解している人が多いかと思います。

今回のnoteでは、グロースハックをより具体的に理解するために、グロースハックの事例をまとめてご紹介します。事業をグロースさせるために必要な考え方やグロース戦略を知ることで、プロダクトを急成長させるグロースハッカーが一人でも多く増えることを願ってやみません。

-グロースハックの概要と定義について

事例の前にそもそもグロースハックとは何かとグロースハックの定義について、前提条件として簡単にまとめておきます。

■グロースハックとは
グロースハック(Growth Hacking/Growth Hack)とは、プロダクトの本質的な価値を理解し、その可能性を把握して、成長させていくための戦略策定・アクションの実行を繰り返すことで、実際に成長させていくことを指します。

プロダクトや商品が素晴らしいことはビジネスの大前提ですが、そこに例えばユーザーによってサービスが拡散(SNSでのシェアやレビュー、友人知人への紹介など)するような「仕組み」を取り入れることで、そのプロダクトはより急激に成長していきます。

■グロースハックの定義
グロースハック(グロースハッカー)を最初に提言したのは、Dropboxなどで伝説ともいわれるようなグロースハック事例をもつ、アメリカの起業家のショーン・エリス氏といわれており、以下の言葉を残しています。

A growth hacker is a person whose true north is growth. Everything they do is scrutinized by its potential impact on scalable growth.

つまりグロースハッカーとは、事業をスケールさせるためにあらゆることを行う人と言うことができます。そういう意味では、利益を伸ばすためにあらゆることを行うCROという役職の概念と近いとも言えますね。

-グロースハックとマーケティングとの違い

グロースハックと混同されがちなワードにマーケティングがあります。
マーケティングとは、顧客が本当に求めているサービスを作りあげ、そのサービスを顧客のもとまで届け、その価値をしっかりと顧客に理解してもらうことであり、企業活動の全てがマーケティングであるということもできます。

マーケティングにもグロースハックの視点はもちろん必要なのですが、マーケティングは開発・セールス等と並ぶ位置付けとして、売れる仕組みづくりの一面が強くあるのに対し、グロースハックは全てのファネルにおいて事業をスケールさせるための視点が必要とされる点に両者の違いがあります。

グロースハッカーには、特定領域のみの最適化やスケールアイデアではなく、プロダクトにおける全ての領域を成長させていくことが求められるのです。

-グロースハックの事例とそれぞれの施策について

前置きはここまでとして、以下では実際におこなわれてきたグロースハックの事例を見ていきます。今回の記事では、以下の4つのグロースハック事例をご紹介します。

・OYO LIFE
・DropBox
・Tiktok
・マネーフォワード

-OYO LIFE

2019年に日本でサービスを開始し、類を見ないスピード感で賃貸物件の新しい選択肢となったOYO LIFEのグロースハック事例です。

OYO LIFEは初期費用を最小限に抑えて家賃のみで賃貸物件に入居できるという革新的なサービスを提供しています。

OYO LIFEがとったのは、現在のポジションから実現可能な目標を設定する「フォアキャスティング」ではなく、あるべき姿・自分たちが望む未来の姿から戦略を立案する「バックキャスティング」です。

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現在のポジションから見える戦略だとどうしても認知拡大に時間がかかってしまうところを、バックキャスティングで戦略立案し、調達した多額の資金を投入してパイを獲得しました。

OYO LIFEのグロース戦略の一つのポイントとして挙げられるのは、とにかくその圧倒的なスピード感です。戦略転換も戦略の実行も組織変革も、スケーラビリティやプロフィットよりとにかくスピードを重視していました。

バックキャスティングであるべき姿を目標にすると、考えうる最適な施策「ベストショット」を狙わなければいけないと考えるのが一般的です。しかし、OYO LIFEが選んだのは、ベストショットではなく、トーナメント形式でABテストをおこない、最終的に残った施策を打つ「ベターショット」方式です。

スピード感を持って進めるには、ベストショットを狙わずベターショットで施策を打っていく方が合理的といえます。デイリー単位でトーナメントを回し続けたことが、OYO LIFEがグロースハックに成功した大きな要因と言えるでしょう。

OYO LIFEが日本でも圧倒的なスピードで急成長を遂げた理由については、以下の記事でも解説しています。

-DropBox

先ほども少し触れたショーン・エリス氏が携わって、グロースハックの代表事例として扱われているのがオンラインストレージサービスのDropBoxです。

物理サーバーを準備せずともファイルサーバーとして利用できるDropBoxは、創設からわずか8年で5億人を超えるユーザーに利用されるサービスとなり、現在では6億人ものユーザーを獲得しています。

DropBoxがとった戦略で特筆すべきポイントは、ユーザーによる紹介によって報酬を与えるインセンティブサービスです。ただし、報酬といってもアフィリエイトのように現金を与えるのではなく、オンラインストレージのサービスにとって重要な利用可能ストレージ(容量)を紹介者と被紹介者それぞれに付与する形でした。

通常のSaaSビジネスの場合、利用可能なストレージを増やすという部分にキャッシュポイント(有料会員化)を置くという選択を選びそうなものですが、あえて「無料会員でもストレージを増やせる」という選択肢をユーザーに与えました。

このインセンティブサービスによってDropBoxは一切の広告費を使うことなく、ユーザー登録を60%増やすという驚異的な成長を遂げました。

グロースにおける代表的なフレームワークとしては「AARRR」が語られることが多いですが、このモデルで勘違いされやすいのは、アクティベーション(ユーザー活性化)がうまくできる状態を作り上げる前にアクイジション(ユーザー獲得)をする必要があると思ってしまう点です。

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「使ってさえもらえればサービスの良さが伝わる」というプロダクトの優秀さが前提にあったにしても、アクティベーションとアクイジションを同時に図れるという意味でもこのインセンティブサービスは優れたグロース施策であったと呼べるのではないでしょうか。(本来、このモデルにおいてポイントになるのは、アクティベーションとリテンションです。)

資金力のないスタートアップの1つであったDropBoxは、このようにしてオンラインストレージサービスとしてのゆるぎない地位を確立しました。

-TikTok

スマホネイティブ世代と呼ばれる中高生や若い女性を中心に爆発的な人気を誇るスマホアプリのTikTok。

若年層の間ではYouTubeやインスタグラムに続く主要なSNSとして認知が広がっており、statista.comの調査によると2020年4月時点で全世界8億人を超えるユーザー数を誇ります。

Twitterやインスタグラムなど、「ソーシャルグラフ」と呼ばれる友人など親しい間柄でつながることを前提にしたSNSとは異なり、TikTokは投稿者との関係性は関係なくいいコンテンツにユーザーが集まる「コンテンツグラフ」と呼ばれるつながりを実現しています。

これには、機械学習のアルゴリズムが利用されており、視聴履歴からユーザーごとにどのようなコンテンツを求めているのかを理解しているため、ユーザーは時間を忘れてTikTokを視聴し続けるというわけです。

この機械学習は広告配信のアルゴリズムにも活用されており、高いエンゲージメントを得られるとして企業からも好評を得ている事例です。

また、TikTokはUIの部分に細かな戦略が設計されています。ユーザーは利用にあたり細かな情報登録をする必要もなく、アプリをダウンロードして起動し、興味がある内容を幾つか選ぶだけでオンボーディングが完了します。

クリエイターに対しては動画編集が簡単にできるような仕組みを用意し、Twitterなど他社プラットフォームでも投稿できるようにしています。さらに生成された動画にはウォーターマークが自動で付与されることで、利便性を高めつつTikTokの認知度も高めていくという工夫がされていました。

この手のソーシャルサービスのユーザーは、いわゆる閲覧だけのユーザーとクリエイターの2種類に大別されますが、前者のエンゲージメントばかりに注力してしまうとクリエイターが定着しにくくなり、逆に後者のエンゲージメントばかりに注力してしまうと、全体のユーザー数が伸び悩みやすくなるというジレンマがあります。

TikTokは、「どちらか」ではなく「どちらも」エンゲージメントを高めることでグロースができた事例と言えるでしょう。

-マネーフォワード

最後に、BtoBとBtoC両方の領域でグロースしたサービスの事例として「マネーフォワード」をご紹介します。

マネーフォワードは、toBではクラウド会計システムや給与管理システム、勤怠管理システムなどを提供、toCでは家計簿ツールや貯金アプリなどを提供しており、金融関係のサービスを提供している日本の会社です。

toBのグロース戦略に関しては、同社の事業推進本部の本部長である山本 華佳さんのnoteの内容に詳しく記載されており、中でも

次のお客様につなげるためには、まず目の前のお客様をファンにする。

という言葉が印象的でした。成長期のプロダクトは改良の余地が多く残されていることが多く、プロダクトのアップデートを繰り返しながら一回のPMF(プロダクトマーケットフィット)で終わらせないようにするという考え方は、正に以前に投稿した記事にも通じる内容です。

この「目の前のユーザーを大事にする」という姿勢はtoCの戦略にも反映されていると考えることができます。マネーフォワードでは、一般ユーザー向けに資産形成や不動産投資などのお金にまつわるオフライン(現在はオンライン)のセミナーやコミュニティイベントを積極的に企画しており、ユーザーとの交流を大事にしている姿勢が伺えます。

「お金」という人生に関わる大きなテーマを扱う事業だからこそ、日本のSaaSビジネスで少しずつ浸透してきている”カスタマーサクセス”という概念を取り入れることで、ユーザーのエンゲージメントを高めることに一役買っていると言えるでしょう。

-グロース戦略における2つの考え方

今回の内容のまとめとして、事業やプロダクトをグロースさせていくにあたって覚えておくべき2つの重要な考え方があります。

1つ目が、PMFは一度達成すれば終わりではないということです。プロダクトの改善を繰り返しながらPMFを複数回繰り返していくことによって、成長が止まることなく事業やプロダクトの成長が促進されていきます。

2つ目が、AARRRのフレームワークをそのまま当てはめた戦略を取るのではなく、ARRRAとして考える(新規ユーザーの獲得より先に既存ユーザーの活性化を考える)べきであるという点です。ARRRまでを整えられれば、あとは誤った方向にさえ進まなければグロースしていく仕組みが作れます。

この2つはそれぞれ以下の記事で解説していますので、是非あわせてご覧ください。

今回の内容が、「新規ユーザーを増やさないといけないのに、なかなか増えない。どうしたら良いのだろう…」とお悩みの方の課題解決に向けたヒントになれば幸いです。

最後におまけとして、記事内で取り上げてきたもの以外でグロースハッカーに読んでほしいおすすめの記事を幾つかまとめました。(一部記事ではないやつも混じっていますが…)

こちらもぜひ併せてご覧ください。

グロースハッカーにおすすめの記事

-まとめ

グロースハックとは、次のような流れで戦略の立案→戦略の実行→結果をプロダクトやサービスに反映するサイクルを繰り返しながら、一回のPMF(プロダクトマーケットフィット)で終わらせないようにすることが求められます。

①プロダクトにおける本質の理解
②あらゆる領域におけるグロースの戦略を立案
③実際に成長させる
④プロダクトのアップデート
※①~④を繰り返し行う

既存事業にメスを入れて事業スピードを加速させていくことは決して簡単なことではありませんが、この記事で紹介したような他社事例やフレームワークなども参考にしていただき、トライアンドエラーを繰り返しながら、ぜひ自社のプロダクトをグロースハックして行きましょう。