「コロナ禍」で顕在化する組織・企業課題に必要なCROの視点
新型コロナウイルスが日本でも猛威を振るい、緊急事態宣言の発令により各企業が真剣にリモートワークに取り組み始めています。
当初は短期間を想定して応急処置的にリモートワークを始めた企業も多かったかと思いますが、コロナの長期化に伴い、このリモートワークも長期戦になる可能性が高くなってきました。
リモートワークが長期化すると、マネジメントが効きにくくなり、各企業の中で見えていなかった課題や問題点が一気に顕在化することが予想されます。
この危機的状況において、リブ・コンサルティング取締役兼組織開発責任者の加藤より、コロナ禍において顕在化した組織課題・企業課題と、その解決に必要な視点についてお伝えいたします。
▼プロフィール
加藤 有 リブ・コンサルティング 取締役
早稲田大学政治経済学部卒、大手コンサルティングファーム勤務の後、2013年に創業当初のリブ・コンサルティングに参画。取締役の傍ら、企業統合に伴うグループ戦略策定&PMIサポート、中堅中小企業の成長戦略策定等のプロジェクトを数多く務める。最大収益部門の統括、また人財育成・制度改定など働きがい創出を支える。詳細はこちら。
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コロナにより社員の業務や心理状態がブラックボックス化している
加藤さんは、コロナ禍において、クライアントからどんな組織の課題をお聞きになられていますか?
加藤 やはりリモートワークを各企業が取り入れるようになり、日頃のコミュニケーション密度がが低下して、各個人が何をやっているのか、どんな気持ちで働いているのかの把握が難しくなったという声をよく聞きます。
今まではベンチャー経営者なら、会社に行けば皆の雰囲気は分かったし、皆に対してメッセージを発信したいときはすぐにその場で発信することができた。しかし今はそれもできなくなっています。
これが中堅・大企業になってくると、経営者ではなく中間管理職の人たちが自分のチームメンバーが何をしているか分からない状態になります。
これにより「業務のマネジメントが効かず生産性が落ちる」や、「各個人の感情を把握できないため、社員のエンゲージメントが下がる」などの問題点が発生します。
これはまだ顕在化していない企業もあるかもしれませんが、リモートワークから1ヵ月を超えるとさらに課題として顕在化してくるでしょう。
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ゴール思考を持って仕事を出来るかが重要
では、この問題に経営者や管理職の方々は、どういった対応を取っていけばよいでしょうか?
加藤 毎朝、1日のゴール確認の実施や週間単位でのチームMtgの実施により、まずは各個人の働きを把握できるようにすることだと思います。
その1日のゴールがズレていたり、毎日同じようなゴールが設定がされていたりしたら、上長から指摘をすることもできますし、各々がそのゴール設定の振り返りを日々の日報などで行えば、個人としてのリフレクションもできるようになります。
弊社では、リモートワークが始まる前から毎朝の朝礼でゴールを確認していたので、リモート後もスムーズに取り入れることができました。
ただ、これには習慣化が必要で、今までゴールを描いて仕事をしていなかった人や、成果を追わず働く時間に対してお金をもらっていた人たちはなかなか実践が難しいというのが実情です。
これを機にゴール思考を持って仕事をするように変わっていけばよいのですが、なかなかすぐにはうまくいかないでしょう。
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デジタル朝礼などを実施し、各メンバーとのコミュニケーションを絶やさない
では、ゴール思考が習慣化していないような企業でも他に何か取り組めることはありますでしょうか?
加藤 例えば、デジタル朝礼や月1回のタウンホールMtgを実施するなどは良いかと思います。
デジタル朝礼では、毎朝Zoomをつないで最近の良かったことや新しい発見などを共有します。その内容自体には特に意味はないのですが、顔を合わせることで各メンバーの心情などを一定把握することができますし、社員個人としても帰属意識が生まれるといった効果が期待できます。
タウンホールMtgでは月に1回、特にアジェンダなく皆でコミュニケーションをする時間を用意します。ベンチャー企業であれば経営者、中堅大手企業であれば事業部長などと直接コミュニケーションを取れるようにして、フラットに質問ができる場を用意するとなお良いでしょう。
各社員もいつ収束するか分からないコロナの中でさまざまな不安を抱えています。その不安を解消してあげるための良い機会になるでしょう。
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SNSの普及により有事の際の経営陣の対応は比較されるようになる
ありがとうございます。今は、すでに顕在化している課題と解決策について伺いましたが、このコロナが長引いた場合、今後どんな課題が各企業で出てくると思われますか?
加藤 各社員が会社に求めるものの期待値と現状にギャップが生まれてくることで、社員のエンゲージメントが下がり、生産性が下がったり離職率が上がったりするなどの課題が生じてくるでしょう。
こういった有事の際は、いつも以上に社員は「会社が安心できる環境か」「経営者は信頼できるような説明責任を果たしているか」などを気にするようになります。
この対応がきちんとできている企業とできていない企業では大きな差があります。今は、SNSが普及しており、横のつながりが強くなったことで他社の良かった対応などがすぐに耳に入るようになっています。
そのため、ここで対策に失敗すると自社へのエンゲージメントが一気に下ることとなるのです。場合によっては、リファラルで対策が成功しているような企業に転職する人たちも出てくるでしょう。
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自社の経営状態をオープンにすることが重要
なるほど、確かに今の時代各企業の良い取り組みも悪い取り組みも一気に拡散されるため、勝ち組企業と負け組企業がより顕著に分かれそうですね。では勝ち組になるために各企業が取るべき対策はどのようなものがあるでしょうか?
加藤 はい、まずは自社の社員が会社に求めているものに対して、先に対策を講じることが重要です。
組織サーベイなどの結果をもとに自社社員が会社に何を求めているか把握をしている企業が多いと思います。その期待値の高い項目に対して先に手を打つことが重要です。
例えば、「適切なフィードバックを受けて成長を実感できる」という項目を重視している人が多いのであれば、リモートになっても変わらず上長と部下の定期フィードバックをオンライン上で実施するなどができると思います。
さらに、コロナ禍において自社やチームが取るべき対策について皆に考えてもらい、上長がフィードバックをするなどの手も良いかもしれません。
次に、重要なのが現状把握です。有事の際ですから、社員が会社に求める項目も変化します。通常は3ヵ月ごとに行っているサーベイを、より短いスパンで項目を絞って実施し、社内の期待値と実績にギャップがある、つまり社内の不満要素を見つけるようにするとよいでしょう。
その項目について対策を打つことを愚直に行うのが、組織課題の発生を防ぐ方法となります。
特にコロナ禍においては先ほども申した通り、「会社が安心できる環境かどうか」「経営陣が信頼できるかどうか」などは期待値が高まる項目です。この場合、経営陣が自社の経営状態を社員にオープンにすることが出来るかどうかが非常に重要となってきます。
弊社では、コロナが広がり始めたタイミングですぐに代表の関から自社の財務状況や自社が今後取る対応について全社員に共有されました。また、非常事態宣言が出て、よりコロナの影響が大きくなることが予想された際にも、改めて全社の財務状態や資本政策についての共有が行われています。
ここの対応が遅れると、一気に社員からの自社や経営陣への不安が高まっていき、エンゲージメントが下がることになるでしょう。
まさに、経営陣の手腕が問われるタイミングだと思います。
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コロナを変革の機会と捉えられる企業が勝つ
なるほど、ありがとうございます。最後に、CRO(Chief Revenue Officer)や経営陣の方々に向けて何かメッセージがあればお願いいたします。
加藤 このコロナを各企業は変革の機会と捉えるべきだと思っています。各企業が今まで認識していたけれど、見て見ぬふりをしていた組織課題があると思います。それがこのコロナを機に嫌でも向き合わないといけなくなりました。
特に大企業だと何となく会社に来て、何となく仕事をしていた人たちがリモートワークによって浮き彫りになったと思います。
今までも「今が最適な人員配置ではない」と気づいてはいたものの、向き合えていなかった課題が、重要度だけでなく緊急度も高いものになりました。
ここで一気に人員の整備を進めていき、変革ができるかどうかが勝負となります。一気に変革を進められた企業こそがアフターコロナの時代にも生き残る企業となるでしょう。
また、ベンチャー企業などは採用観点で成長を加速させる機会だと捉えることができると思います。先ほどお話した通り、今後、社内エンゲージメントの維持に失敗する会社が続出すると、各企業からエンゲージメントの低くなった、今までは市場に出てこなかった優秀な社員が求職市場に出てくるようになります。
このタイミングで自社のエンゲージメントを維持し続けることができると相対的に求職者からの評価が上がり、そういった優秀な社員を獲得することができるのです。
ここで優秀な人たちを採用していくことができた企業がアフターコロナの時代に勝ち残る企業となるでしょう。
大企業もベンチャー企業も自社の組織課題と向き合い、早め早めの対策を講じることで早く攻めに講じることができるように体制を整えていくことが重要だと思います。