新規事業のアイデアが、狙い通りに決裁者に伝わる”3つのステップ”
こんにちは、CRO Hack編集長の松尾(@daisukemo)です。
CRO Hackではこれまで多くの新規事業開発に関する記事をとりあげてきました。新規事業創出メソッド「バリューカプセル」に関するnoteは多くの方々から反響もあり嬉しかったです。
今回は、これまでとは少し見方を変えて、事業アイデアを立案する側の立場から見たときによくある課題や声にスポットをあててみたいと思います。
日本経済は多くの業界が成熟期や衰退期と呼ばれ、様々な企業が社内外でビジネスアイデアコンテストなどを活用して事業アイデアを集めています。そこからのアイデアを必ず実現しなくても、そういった事業視点で考えられる社員を増やしたいといった人財育成の目的も含まれるでしょう。
ただ、実際に集まったアイデアは玉石混交。誤解を恐れずに言えば、経営陣がピンとくるようなアイデアはほぼ皆無というのが実態です。これは何故か。
私自身、現在複数社で事業開発のアイデア作りから事業化に向けた伴走をしていますが、決して現場にアイデアが「無い」わけではなく、むしろ、せっかく良い視点を持っているのに「伝え方が稚拙なために分かりにくい」「自分にしかわからない情報や感覚で訴えてきている」アイデアが多いことに気づかされます。
まだ世の中に無い(少なくとも社内には存在しない)新しいビジネスのアイデアを、他者に分かりやすく、納得感のある形で伝えることは本当に難しいことです。
そこでこの記事では、いざビジネスアイデアを立案して、会社の経営陣や上司に提案していくときに、どういうストーリーの構成、内容で伝えればいいか。その一つのアプローチ方法を共有していければと思います。
実際に我々も活用している考え方であり、たった3つのステップを踏むだけであなたのアイデアは俄然伝わりやすくなります。もちろん、伝わったうえで、現実には中身も魅力的なアイデアであることは求められますが、自分の考えがしっかり伝わることで得られるフィードバックも濃くなるのです。
ぜひ、そういう機会を得ている方、自分の考えがなかなか理解されなくて苦しんでいる方には最後までお付き合いいただければ幸いです。
-新規事業を考える、そのスタートラインを変える
最初に、伝えるための方法論の前に大切な視点を一つ取り上げておきます。
それは、新規事業のアイデアを考える際に重要なのは「誰にも思いつかなかったアイデアを発想すること」ではなく、「まだ解決されていない事業機会を発見すること」だという点です。
ここを間違えている人が圧倒的に多く、自分が考えたアイデア勝負!で社内コンテストに出してしまうケースです。なぜ、それではダメなのか。自分がアイデアの提案を受ける側だった場合を想像すればイメージしやすいと思います。
いきなり目の前に新しいアイデアが提示されて「これが良いかどうか判断してください」と言われた状態です。
この時、何をもって判断するか。大抵は「過去の自分の成功体験や失敗体験をもとに評価する」ようにしますよね。つまり、受け手の見えている範囲で判断をするようになる。
たまたま「これはいいね!」と合致すればラッキーですが、多くの場合は「この視点が抜けている」「これは前に似たようなことを考えてダメだった」といった所謂ダメ出しが多くなるのはそのせいです。
そして、フィードバックを受けた提案者側も「相手の理屈で否定された」「言いたいことが伝わらなかった」という感情を持ってしまいます。
だからこそ、新規事業のアイデアをまず「取り組んでみよう」「検討してみよう」という気にさせるためには、アイデアの良し悪しを判断させるのではなく、当社が新規事業として取り組む価値がある事業機会かどうかを判断させる提案を行うことが大事なのです。
-新規事業を立案し、伝えるための3ステップ
「まだ解決されていない事業機会を発見すること」と言われても、どうそれを考えればいいのかで悩みますよね。実は、その考えるステップと、伝えるステップは同じです。
次の3つのステップでアイデアを考え、それをそのステップに沿って説明するだけです。よく結論ありきでと言われますが、他人が考えた全く新しいアイデアを結論=アイデアから伝えられて分かる人なんてほとんどいません。大抵が「ハテナ?」です。
新規事業の提案という特殊なケースにおいて、大事なのは相手が自分の思考プロセスを理解し、同じように考えてもらうことで納得感を高めていくアプローチです。
図1)新規事業を立案する3つのステップ
※体系化して伝えられるよう、各ステップにおいて私達が使っているスライドの雛を付けています。良かったらお使い下さい!
ステップ1:当社が解決すべき課題は何か?
新規事業とは、そもそも何のために行う事業なのでしょうか。
この答えに一つの正解はありません。目的としては、新たな事業の柱をつくるとか、事業を拡大するためとか様々です。
ただ、アイデアを起案する人間が陥りやすいワナが「こういうことをやってみたい」という自分がやってみたいことをいつの間にか目的にしてしまっているケース。相手から見たら「それはあなたの思い付きにすぎないですよね」と見えてしまうタイプです。
なぜそうなるかは簡単で、「自分もしくは自社ができることから発想している」からです。
だからこそ、ステップ1では考える視点を変えます。私はこれをやりたいです。ではなくて、我々はこういうイシューを解決すべきです。にします。
相手に対しても「一緒にこれを解決すべき課題として捉えましょう」という入り方になることで、「なるほど、こういう課題は確かにあるな」だったり、「なぜこの課題を取り上げたんだろう」と考えるきっかけが生まれます。
そして、企業活動が持続的かつ非連続に成長していくためには、何かしらの社会課題や顧客課題を解決することが一番の近道です。それが、当社の既存事業では達成できないからこそ、新規事業で解決する手段を考える。これが、私にとっての「新規事業を行う理由」です。
図2)ビジネスアイデアの提案書1スライド目(空パック)
ステップ2:機会が事業化されていない理由は何故か?
当社が取り組むべき社会課題や顧客課題、これは実際に働く現場からの経験であったり、デスクトップリサーチでデータを探すなどで自分なりに導くことができました。「おぉ、ここに新しいニーズを見つけた!」と一喜一憂してはいけません。社会にはまだまだ多くの課題が残されており、また日々生み出されています。
あなたが見つけたイシューも、きっとどこかの誰かは同じように見つけている可能性が高い。でも、それがまだ「課題のママになっている」理由はなぜか。それが事業機会だとすれば、なぜまだ誰も事業として取り組んでいない、もしくは成功させていないのか。この理由を徹底的に考えるのがステップ2です。
裏を返せば、ここさえ解決すれば事業化が可能になる、そのセンターピンを見つけることこそが、新規事業のアイデア検討においてもっとも重要なポイントになります。
この理由を見つけるためには、ぜひネットリサーチに頼るのではなくて、実際に自分でその現場に足を運び、自分の目で確認するようにしてください。百聞は一見に如かず、です。
図3)ビジネスアイデアの提案書2スライド目(空パック)
ステップ3:機会実現のための仮説と成立要件は何か?
最後のステップは、提案時には2枚のスライドに分けて説明するとより伝わりやすくなります。事業機会が解決されていない理由が明確になってきたら、その中でも一番の課題は何かを特定します。ここはあなたの仮説ベースで構いません。おそらくここなんじゃないか、という意見です。
そして、その解決のポイントを「アイデアとして」提示します。そう、この課題解決のポイントこそが新規事業のアイデアになります。
課題解決のポイントには、当社のこういった経営資源を用いると課題解決ができそうだといった内部視点や、新たなパートナーと連携するとこういった取り組みができて課題解決ができるといった外部視点でも幅広く考えていきましょう。
そして、ここまで思考プロセスを同じくして聞いてきた提案の受け手からしても、この解決策自体はまだ認められなくても、そこまでの取り組むべき課題が同意できれば少なくともあなたの考えてきた事業機会を即否定はしないはずです。
なぜなら、その機会に取組むことで全社にとって利することがあると判断できれば、解決策自体は今後新規事業PJを社内で立ち上げるなどしていくらでも検討していけばいいからです。
そして提案のまとめとして、最後にこの解決策のアプローチで事業化を行うとしたら、どのような成立要件が必要になるかを箇条書きで3つ程度あげます。アイデアを実現するために、何を検証しなければいけないのか、ネクストアクションに繋がる論点の整理です。
提案を受けている側としたら、相手が何を考えているかもよりイメージができ、またフィードバックも「事業化の検証をするうえでこういう点を見るべきじゃないか」といったよりポジティブなやりとりが生まれやすくなる効果もあります。
図4)ビジネスアイデアの提案書3スライド目(空パック)
図5)ビジネスアイデアの提案書最終スライド(空パック)
-新規事業のアイデア提案のゴールは「新規事業の検証を進める合意が得られた状態」
新規事業を「まだ解決されていない事業機会を発見すること」というスタートから、どのような思考ステップで提案していけばいいかをまとめてきました。
新規事業を立案する3つのステップ【まとめ】
1.当社が解決すべき課題は何か?(新たな事業機会)
2.機会が事業化されてない理由は何故か?
3.機会実現のための仮設と成立要件は何か?
スライドとしては4ページ分あれば十分です。テキストでの提案だとしても、各ページタイトルを見出しにして4部構成で説明すればとてもわかりやすい起案書になります。
最後に、新規事業を提案する人が忘れてはならない視点をお伝えします。それは、新規事業のアイデア提案におけるゴールは「新規事業の検証を進める合意が得られた状態」であるということ。自分の考えたアイデアをそのまま採用してもらうことではありません。
アイデア自体は、より時間をかけ、社内外の仲間とプロジェクトなどを通じて連携すればもっといいものが生まれる可能性もあります。今のアイデアに固執するのは間違いです。
大事なのは、スタートラインに立つこと、自分に新たな事業開発を行うチャンスを任せてもらうことです。だからこそ、見つけた事業機会に対して、新たな事業開発を検討することへの合意をとることを目指してください。アイデアはそのイメージを伝えるための方向性の一つに過ぎないのですから。