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スタートアップの成長戦略として、M&Aは有効なのか?-夢見る 重見社長に本音を聞いてみた

こんにちは、CROHackです。
2020年12月、SalesforceのSlack買収が話題になりました。

世界的なCRM大手でありながら、B向けソーシャルプラットフォーム分野では遅れをとるSalesforceと、スタートアップとしてビジネスチャットツール領域でめざましい成果を上げるSlack。

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引用:Slack.com

今回のM&Aにより、両社は互いの強み、弱みを補い合うポジティブな関係で、ともに歩みはじめることとなったわけですが、M&Aというと、日本ではどうしても「身売り」「事業をあきらめた」「売り抜けた」というネガティブな印象があります。そういったネガティブな印象からか「IPO以外にエグジット戦略はない」という風潮が、日本のスタートアップ業界には色濃くあります。日本と世界では、M&Aに対する捉え方はまったく違うようです。

今回は、「スタートアップ経営者のお悩み塾」と題して、ひとつの“成長戦略”として、非常にポジティブな関係でM&Aに成功された夢見る株式会社の重見さんにインタビューをしました。

重見さんの体験談をよりリアルに伺えるインタビューにすべく、インタビュアーには現在、実際にM&Aも視野に入れたエグジット戦略を模索中のtoBハード系プロダクトを開発するスタートアップ経営者の藤井さん(仮名)にお願いしました。藤井さんのエグジット戦略のお悩みに、重見さんがご自身の経験をもとにお答えします。

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引用:夢見る株式会社

重見彰則
夢見る株式会社代表取締役。株式会社エディオン教育事業統括部長。
2014年、ロボットプログラミング教室事業「ロボ団」を開始。わずか5年9か月で教室数はFC含め国内外100拠点を超え、生徒数3000名以上にまで拡大。その後、株式会社エディオンへ全株式譲渡し完全子会社となる。
現在は、エディオン傘下にて引き続き「ロボ団」の事業成長に邁進中。

-IPOか?M&Aか?それ以外の方法は?スタートアップ経営者、藤井さんの悩み

藤井:うちの経営の概況ですが、まず私の事業に対する強い想いはあるものの、IPOを目指せるかは正直わからない状況です。

1年半ほど前にVCが入ったのですが、最近はVCのエグジット戦略も含めて、この先、どんな資本戦略を描くべきかを考え始めています。

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それで、選択肢のひとつに、M&Aを考えてもいいんじゃないかということになったのですが、これまでは何となくIPOと考えていた程度で、当然IPOもM&Aも経験がなく、全くイメージがわきません。

M&Aを考えると、巷では「どこかの大企業の“部品”になった」みたいなあまり良いイメージがありません。そんな中で、重見さんのことを知りました。重見さんの事例を聞くと、そういったネガティブな印象はまったく受けず、ロボ団の事業がもっと伸びるために、あえて大企業傘下に入り、一緒に成長していくというとてもポジティブな印象を受けました。

私たちの事業の特性上、拡大していくには、一般的なSaaS系スタートアップに比べて、多額の資金調達が必須です。それに、マーケットの成長スピードが想定以上に遅く、このままIPOを目指したとしても、株式の希薄化が進んでしまいます。このあたりは、重見さんの当時の状況とも似ているのではないかと思っています。

M&Aを決意された背景、メリット・デメリット、M&A以外の手段も模索されていたのかなど、お話を伺えればと思います。

-夢見る株式会社のエグジットがIPOではなくM&Aとなった背景とは?

重見:なるほど。うちは2019年12月にエディオン傘下に入りましたが、ここに至るまで、いろいろな可能性を検討してきました。

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引用:ロボ団

まず、M&Aに限らず、資金調達を模索していたという背景があります。ロボ団を開始した当初は、FC店舗展開を進めていたのですが、フランチャイジーとのスピード感の違いに気づき、直営出店に切り替えていきました。

そうすると、事業拡大には多くの資金が必要になります。はじめは私が100%株主としてやっていたのですが、2017年の秋に初めて資金調達をし、9%ほどリリースします。そして、2018年11月に二度目のファイナンスをしたのですが、この時で2億円くらいです。思い切った調達で、私の持ち株比率が77%くらいにまでなりました。

当時の市場状況としては、プログラミング教育が2020年から必修化することが決まり、大企業が怒涛の勢いで参入してきたタイミングでした。マーケットの背景には、少子化があることは変わりません。学習塾も含めて、小学校の高学年から塾に通い出す子どもたちを奪い合うような状況で、低学年時から集客していかないと塾に来てくれない、いわゆる“青田買い”の形です。

流行りだから、大手学習塾もプログラミングコースを小学校低学年向けに設け、そこで入った子どもたちを塾に送客するという仕組みをとっていました。プログラミングスクールを集客装置として作っているようなイメージですね。

これはいくらお金があっても勝てないな」と感じたのは、ちょうどその頃ですね。VCにはIPOと伝えていましたが、このまま今の状況を続けたとして、いったい何%リリースしないといけないのか?そもそもIPOしたところで、自分にほぼ経営権が残らない形では、サステナブルじゃなくなるということが見えていました。(VCにはなかなかその不安を打ち明けられなかったですが)

二度目のファイナンスが終わった後は、すでに大企業との連携強化は課題にあがっていて、ブランド力、資金面が圧倒的に足りませんでした。一方で顧客である親御さんは教育をブランドで選ぶところがあります。特にプログラミングという新しい分野では、親の安心こそがポイントになります。

いくつかの大きな団体さんとも一緒にコンテンツを作って、集客には成功していましたが、さらに発展させて行かなければなりませんし、ただ先々のエグジットも考えておかないといけない。大企業連携とエグジットの両方を意識し始めたのが、2019年初めくらいでした。

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IPOが厳しいと思った理由は2つあります。1つはマーケットが思ったほど大きくならなかったことです。

プログラミング教育市場は、まだまだこれからの業界です。確かにGIGAスクール構想はありますが、私立と公立の格差は依然として開いています。2020年をプログラミング教育元年とした場合、いま何が起こっているかというと、まだ子どもたちへの教育はほぼ進んでいません。
現在は、その前段階でインフラ整備をしているところなんです。インフラが整えば、次は先生たちがそのインフラ利用に慣れる段階に移ります。そして、それが終わってようやく子どもたちに教える段階が来ます。実際にプログラミング教育が本格化するのはまだまだ先の状況だと言うことです。

2つめは、もともとうちはビジョナリーなメンバーが多く、株主のために数字を追いかけるというよりは、「子どもたちのために!」という想いでやっている会社だということです。そんな会社がIPOして、私が今度は「株主に配当をださないといけないから頑張ってくれ」と言ったところで、うまくやっていけるイメージはありません。笑

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そんな中で、エディオン社との出会いがあり、自社の成長スピードを担保したまま、大企業のリソースも充分に活用できる状況が得られると思い、M&Aを実行に移しました。

-IPOからM&Aに舵を切る時、組織の崩壊を防いだものとは?

藤井:IPOを目指す中で、M&Aという選択は組織的に問題ありませんでしたか?

重見:そうですね。これは教育業界の特徴かもしれませんが、先ほども言ったとおり、そもそも株主を見てIPO一直線に仕事をするという風土はなかったんですね。それよりも、顧客である子どもたちや親御さんを見て、そこにコミットするメンバーばかりでしたので、そういった環境が続けられるのであれば問題ない、そこに社長がコミットし続けてくれるならと反対はありませんでした。当時、役員やスタッフからは「重見さんが辞めるんだったら私も辞めます」と言われるような雰囲気になっていました。

-スタートアップのM&A失敗を防ぐ4つのポイント

藤井:M&Aは失敗の話をよく聞きますが、重見さんがうまくできているポイントはどこにあるのですか?

重見:確かにM&Aは再現性高く成功させることは難しいと思いますが、少なくとも失敗は防げると思っています。

失敗を防ぐポイントとして、私が言えることは、まず1つめに、M&Aが初めての会社は相手として選ばないほうがいいということです。

初めての会社だと、先方の担当者も過剰な責任感を持ちます。どうしても束縛しがちになり、マネジメントに敏感になってしまいます。創業者はだいたい縛られたくないタイプの人が多いので、そこで息苦しくなってくると思うんです。エディオン社の場合は、プログラミング教育の会社とのM&Aは初めてでしたが、以前に同業種の家電量販チェーンや物流企業など、何度もM&Aを繰り返してきた、いわばM&Aの玄人で非常に慣れていました。

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それから2つめとしては、ベンチャーのスピードを維持したまま、大企業の潤沢なリソースを活用できる相手であるかという点です。

これに関しては、私たちの場合、まず意思決定のスピードを速めるために、エディオン社の久保社長を社外取締役に迎えました。毎月の取締役会に参加いただいています。逆に、エディオン社から弊社への人材の送り込みはなく、従来のスピードを保てています。

そして、3つめとして、私がエディオン社の役職をもらいました。実は、これが一番強く要望したことだったんです。

エディオン社は7600億円くらいの会社で、これだけ大きい企業のいち子会社となると、私自身の影響力がなくなります。それではエディオン社のリソースを充分に活用できないだろうと考え、教育事業部の統括部長の役職を頂きました。

あと4つめに、エディオン社が教育事業に関しては、経験が浅かったということも良かったと思います。経験が浅いからこそ、大企業にもかかわらず、われわれの事業経験に対する敬意があり、互いに事業推進するパートナーシップを作りやすかったというメリットがありました。

大企業のリソースを成長のために活かすと考えた時に、意思決定スピードが速い体勢、つまりベンチャーのままでいられる状態をしっかりと維持できるようにしつつ、リソースをちゃんと活用できる盤石な関係性を築いておいたことが良かったなと思っています。

-思わぬ形で事業を飛躍させるシナジーが生まれる

藤井:実際にM&Aしたあと、良いシナジーはありましたか?

重見:そうですね。まず事業に対する理解がとてもあるので、大きく投資いただけています。M&A以前に、エディオン社でも既にプログラミング教育事業が立ち上がっていたことが、理解を得やすい土壌を作っていたのだと思います。

それから、出店時のコスト負担はエディオン社がその多くを持つことになっていますので、初期投資が一気に減りました。集客の面でも、エディオンのチラシにロボ団を掲載してもらったり、顧客向けのアプリには会員数が約200万人いますので、そちらにDM配信することも可能です。

これまでプログラミング教室というのは、紙のチラシでもWEBチラシでも、プログラミングに興味のある顕在層しか来ませんでしたしかし、エディオンの顧客は、何か家電やおもちゃを買いに来る人たちで、そういった人たちが良い潜在層になっているんです。

エディオンの店舗でプログラミング体験コーナーを設けると、子どもたちはそこで初めてプログラミングと出会います。そして、本格的な体験会を通じて、新規申込へと繋がっているんです。

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引用:ロボ団

一見すると、シナジーがなさそうに見える相手でも、本当に自分たちに足りないものが何なのかを明確にできていれば、そこにうまく合致する形での協業で、事業を飛躍的に伸ばしていくことができるんだなと強く確信しています。

藤井:今まで、M&Aの話を聞くとネガティブなイメージを受けることが多かったですが、すごくポジティブに捉えることができました。

“どこかの会社の部品”にならず、あくまで互いに足りない部分を補完し合える、事業に意志のある成長戦略としてのM&Aだからこそ、有効なのだなと感じました。マーケットや競合の動向、自社の状況など、タイミングは確かにあると思いますが、今後、エグジット戦略のひとつとして選択肢に入れたいと思います。

-M&Aはポジティブな成長戦略として捉え直すことができる

さて、インタビューはいかがでしたでしょうか?夢見る株式会社の重見さんが、エグジット戦略としてM&Aをいかにポジティブに捉え、活用し、さらなる高みを目指して事業を推し進められているかが、お分かりいただけたかと思います。

夢見る株式会社がM&Aに舵を切った要因をまとめると、以下の2つになると思います。

① 市場の成長スピードが遅いわりに、大企業の参入が目立ち、業態的に資本力勝負となることが見え始めていた。これに伴い、株式の希薄化も予想された。
② 仮にIPOした場合、ビジョナリーな組織風土と株主への配慮を両立させることが困難になると予想した。

同社の事業ドメインである子供向けプログラミング市場以外にも、上記と同様の状況に置かれている市場はあります。そんな状況下にあると感じる経営陣の皆さんは、M&Aという選択肢を“成長戦略” として、そしてより大きな価値を届けるために、検討されてもいいのではないでしょうか。

また、重見さんのお話ではM&Aが成功した要因についても語られました。

(1) M&A相手先が、M&Aに関する経験値が豊富で、かつ自社事業へのリスペクトがある(エディオン社は同領域で事業展開をして苦しんでいた)企業であった。
(2) M&A相手先が、ベンチャーに対して理解があることで、これまでのスピード感を維持したまま、潤沢な大企業リソースを今後の事業成長に活用できる企業であった。

手塩にかけてきた事業がエグジットのタイミングで失敗することがないよう、M&Aを検討される際は、これら2点も参考にされることをお勧めします。

冒頭でも書いたとおり、日本のスタートアップには、エグジットの選択肢が少なすぎるのが現状です。エクイティで調達しながら、事業拡大してIPOを目指したほうがいいビジネスもあれば、ハード系やオフラインなど、多額の資金がかかるものであれば、大企業のリソースをうまく活用し、事業を成長させていくほうがいい場合もあります。

M&Aは決してネガティブなゴールではなく、事業成長という目的を達成するためのポジティブな手段としてとらえることができるのです。

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