【アメリカ大統領選から学ぶ】9割の都内スタートアップが見落とす成長を鈍化させる”分断”とは
こんにちは、CROHackです。
2021年1月20日、第46代アメリカ合衆国大統領が誕生しました。
1月6日の議事堂襲撃事件など、同国の社会情勢はいまだ安定しているとは言い難い状況ですが、振り返れば、2020年、混迷極まるアメリカ大統領選に、私たちは大きな衝撃を受けたことを思い出します。
バイデン氏の辛勝は予想外で、ほとんどの世論調査では、同氏の勝利が濃厚と伝えていました。しかし、結果は接戦。投開票日後もしばらく勝利の行方は見えませんでした。
2020年、衝撃を受けた選挙と言えば、もうひとつ。
大阪都構想で、賛成可決が濃厚と思われていた当初から、日を追うごとに反対が増え、結果として否決。こちらも予想外の展開であったように思われます。
私たち(都内のサラリーマン)が普段接する情報や周りにいる人の意見だけを聞いていると、当然バイデン氏が勝つだろう、大阪都構想の実現は当然だろうと思っていた人も多いのではないでしょうか?
しかし、蓋をあけてみると両者ともに相当な接戦、都構想については否決されるという結果となりました。
この結果は、私たちに「分断」という事実を突きつけました。私たちは、この2つの選挙から、世の中は思っている以上に分断されているということを学ぶ必要があるのです。
なぜ、私たちがこの2つの選挙を取り上げ、「分断」を学ぶべきだと主張しているかというと、日本のスタートアップが成長していく上で、「分断」は必ず向き合うべきテーマであるからです。
弊社リブ・コンサルティングでは、これまで多くのスタートアップ企業のグロースのお手伝いをしてきました。そして様々な企業の経営課題から“分断”を考えることの重要性を感じるようになりました。
分断は、都内で力をつけたスタートアップが全国展開を目指し、地方進出する時、また大手企業を顧客につけてゆく時など、“自分たちの商習慣やスピード感とはまるで異なるロジックで回る社会”と出会う時に、はじめて気づきます。日本のスタートアップを成長させていくためには、この分断を早期に認識し、適切な対策を打ちながら、これらを乗り越えていくことが重要なのです。
-バイデン民主党の勝利から日本のスタートアップは何を学べるか?
以前、「G型・L型大学」論争がネットを中心に話題となりました。日本の大学をG(グローバル)型とL(ローカル)型に分けるという話でしたが、賛成・反対は別にして、ここで得られるヒントは、一歩引いて全体を俯瞰した時に、G型・L型というのが、あらゆる“分断”を捉える重要なキーワードになるということです。
そこで、2020年アメリカ大統領選においても、まさにG型・L型による“分断”が起こっていたことに気づかされます。もともと民主党の地盤とされる西部、東部はG型社会です。そこは都市部であり、シリコンバレーのテック系グローバル企業やウォールストリートの金融機関がG型社会を作っています。G型社会は、EV車を支持し、地球温暖化に高い問題意識を持ち、グローバル視点で物事を語ります。
一方、共和党の基盤である南部や中西部は、いわば地方でありL型社会です。農業従事者やラストベルトの労働者が、ローカルに根付いた生活を送っています。L型社会は、デトロイトの復活を願い、地球温暖化にはまるで実感がありません。失業率を抑える政策や、医療費の個人負担削減を支持しています。
(出所)NHK
私たち都内スタートアップ界隈の人間はG型の思想である人が多いこともあり、EV車支持や地球温暖化への貢献は当たり前と考えるため、逆にガソリン車の推進や、地球温暖化対策を無視するトランプ政権が、ここにきて善戦することに驚きを感じるのです。
さて、辛勝とは言うものの、バイデン民主党が政権をとった要因のひとつに、中西部での勝利があげられます。2016年のアメリカ大統領選、ヒラリー氏のG型社会を推し進めようとするグローバリズム一辺倒の公約とは裏腹に、バイデン氏は賃金引上げや雇用創出、さらには公的医療保険制度の新設など、L型社会に歩み寄る公約を全面的にかかげました。
トランプ共和党はというと、2016年に風呂敷を広げた雇用創出を実現できず、さらにはオバマケアの廃止要請、コロナ失策など、自ら支持層を裏切ることとなり、トランプ不信となったL型社会の一部の層は、バイデン氏に流れたと見てとれます。
G型社会を地盤とするバイデン民主党が、前回候補のヒラリー氏ではできなかった分断の向こう側(L型社会)、ひいては“全く異なるロジックで回る社会”に歩み寄り、勝利を収めたことは、大切な教訓を私たち日本のスタートアップにも示してくれます。
-日本のスタートアップが直面する“分断”の事実
日本のスタートアップ企業はほとんどが都内での創業です。以下のグラフの通り、2018年のスタートアップ資金調達額の割合を見ても、都内に所在地をおく企業が8割近くを占めます。
そのため多くのスタートアップが、まず都内から市場をつくっていくわけですが、首都圏で認知を集めた後、さらなる成長を遂げるためには、次の3つの手段のうち、いずれか1つ以上に踏み込み、市場を開拓していかなければなりません。すなわち、海外に進出するか、大企業を開拓するか、地方を開拓するかです。残念ながら、「海外進出」はもともと日本企業にとって難易度が高く、コロナ禍ではさらに困難と言えます。
「大企業」はどうでしょうか?
大企業とビジネスを進めていく上では、スピード感の違い、意思決定権者の多さ、横並び主義など、かなりの商習慣的な違いがあります。さらに、一般的なスタートアップでは、必ずと言っていいほどテクノロジーが絡みます。これにも大企業ではDXの組織的課題が横たわり、ことはそう簡単に運びません。
それでは「地方」はどうでしょうか?
都内で認知度を上げるスタートアップでも、地方での無名さに落胆することが多くあります。またDXリテラシーにも絶句するほどの格差があることに気づかされます。特に、地方進出の場合、都内に拠点を置くスタートアップの中では、都内と地方がまるで陸続きであるかのように考える企業が少なくありません。
都内の当たり前が地方でも通用するものだと思う経営陣が多く、違いがあったとしても、東京から離れれば離れるほど、L型的な常識が、せいぜいグラデーションのように緩やかに広がっている程度だと考えがちです。
しかし、現実は異なります。都内から一歩出れば、そこには全く違う価値観(L型社会)が存在し、スタートアップの常識を180度ひっくり返します。「DX」や「SaaS」など、都内で当たり前に飛び交う言葉も通じないことがほとんどですし、日本を代表するスタートアップよりも、地域密着型の中堅企業の方が、知名度も高く信頼される世界がそこにはあります。
これは紛れもない“分断”であり、その存在に気づかず、成長が鈍化するスタートアップがたくさんいるのが実情です。逆に言うと、この“分断”に早期に気づき、対策を打つことでスタートアップはさらなる飛躍的成長を遂げることができるのです。
-「スマート保育」ユニファ株式会社のローカル開拓戦略
弊社のクライアントで、ユニファ株式会社というスタートアップ企業の事例を紹介したいと思います。2019年、日本経済新聞社が実施した「NEXTユニコーン調査」の中から、社会課題の解決に商機を見出す12社に選ばれた気鋭のスタートアップです。同社では全国の保育園に向けて、IoTを活用した「スマート保育」を提案しており、現在では全国10,000件以上の導入実績を誇ります。華々しい実績をもつ同社ですが、地方攻略のための戦術はとても地道で、現場に即したドロ臭いものでした。
(出所)ユニファ株式会社
例えば、同社で当たり前のように使われる「スマート保育」という言葉ひとつをとっても、社員間や都内の投資家向けには使いますが、地方に出れば一切口にしません。地方の保育園からしてみれば、聞いたこともない東京の会社の怪しい営業マンが、いきなり「スマート保育」と言って、手際よく説明したところで、ますます怪しさが増すだけです。
であるならば、実際に保育園の現場に入り込み、保育園のスタッフが日々抱える課題を目の前でひとつずつ解決をしていく、結果として、その積み重ねで出来上がってきたものが、同社の言う「スマート保育」だったとするほうが理解を得られるのです。
そこで同社では、ローカル保育園の現場にアプローチするため、資本業務提携する凸版印刷のグループ会社で、児童書や遊具を全国の保育園に納入するフレーベル館とともに営業活動を進めていきました。両社の営業部門の連携を強化するため、ユニファ社員がフレーベル館へ出向し、ローカル特有のスピード感や慣習への理解を深める努力を続けてきたのです。
地方の保育園からすれば、顔なじみの業者が教えてくれることであれば受け入れやすくなります。
(出所)凸版印刷株式会社
しかし、営業戦術としてはそれだけではダメで、地域の数ある保育園の中で、アプローチをしていく順番も抜かりがあってはいけません。地方の保育園では、その地域で影響力をもつ保育園が必ずあります。「あそこの保育園が良いって言ったので…」とか「うちの保育園には挨拶にこなかった…」という地方特有の理屈が成り立っているため、営業の順序を考えていく必要がありました。
都内のスタートアップが当たり前とするスピード感やロジック、さらには普段、共通言語として使うテクノロジーに関する言葉やツールの名称など、一つひとつに至るまでが、地方では全くと言っていいほど当たり前ではないのです。“東京都スタートアップ村”から一歩出れば、そこは陸続きではなく、まさに米国のG型・L型ほどの分断が存在するのです。
いばらの道であるかのように見えるローカル攻略ですが、ポジティブに捉えれば、後発組にはチャンスとなり得ます。都内で成功を収める先行のスタートアップでさえ、地方の開拓では手をこまねく可能性があるからです。
「郷に入っては郷に従え」という伝承的なことわざがあります。テクノロジードリブンなビジネスであればあるほど、スタートアップ企業は、これを肝に銘じておくことが重要であると言えます。
-“分断”の存在に気づき、異なる社会への理解が勝因となる時代
最後にアメリカの話をもう少し。2020年と言えば、「Black Lives Matter」運動が広がり、アメリカの分断が際立った年でもありました。ここに、トランプ氏の失策続きも相まって、分断に拍車がかかったように思われます。
もちろん、現在のアメリカの状況から見ても、バイデン氏が同国民から絶賛され迎え入れられている状況ではありません。これ以上トランプの暴走はごめんだという絶望ムードが極まったタイミングで、比較的まともに見えるバイデン氏がするりと入り込んだような恰好だったとも言えるかもしれません。しかし、バイデン氏がうまかったのは、深まる分断の向こう側にある“異なるロジックで回る社会”を認識し、彼らの生活・背景・主張・使う言葉に注意深く耳を傾け、うまく歩み寄ったことでした。
(出所)NHK
アメリカ大統領選で当選確実が伝えられたバイデン氏は、その後11月7日の演説で次のように語っています。
「トランプ大統領に投票したみなさんの失望も理解しています。(中略)お互いを見つめ、お互いの話に耳を傾けましょう。」(引用)NHK
日本のスタートアップを取り巻く環境においても、分断はあらゆる形で出現してきます。スタートアップが成長する鍵は、それらの分断にいち早く気づき、分断の向こう側にある大企業や地方という“異なるロジックで回る社会”への理解を深め、的確な対策をとり続けていくことなのです。