すべてのベンチャーCROが知っておくべき中途採用に頼らない人財育成戦略とは?
こんにちは。CROHackの坊です。
シリーズ後半から上場目前の段階で、多くのベンチャーで課題となるのが人財育成です。
具体的には、中途採用を続けてきたため、
①人財育成のノウハウが社内に蓄積されていないこと
②既存社員の内部昇格者が少ないこと
③高い離職率で組織が安定しないこと
④新卒採用は考えるものの、育て方が分からないこと
など、こういった人財育成に関する課題が一気に表面化してきます。
本稿では、ベンチャーCROが事業成長を目指す上で必要な「人財育成の考え方」について、述べていきます。また、どのような人財が必要なのかという点にも絡んでくるので、リソースアロケーションを見据えていく中においても、人財育成について考えることは、とても重要です。目の前の事業成長をさせなければならないので、後回しになりがちですが、先送りにすればするほど、課題は根深くなってしまいます。
序論では、なぜ人財育成が重要なのかを述べたあとに、典型的な失敗例をあげながら、「人財育成のあるべき姿」を書いていこうと思います。本論では、序論で述べた「人財育成のあるべき姿」をどのように実現していくか、弊社の事例も用いながら紹介していければと思います。
― 序論 ―
なぜ人財育成を考えるべきなのか?
レイター期のベンチャー企業では、しばしば組織面で問題が起こります。
創業期からこの時期までは、どうしても事業開発に意識が集中しがちです。すると、採用はスキルセット重視となり、その都度、即戦力となる中途社員ばかりを採用することが多くなると思います。その結果として、社内の至るところで仕事が属人化してしまい、組織としての再現性や退職なども発生してきますので、その都度穴を埋める採用をしないといけず、事業体としては不安定な状態になってしまうと思います。
また、このような中途社員が大半の組織では、色んな考え方の人が集まることで、創業当初に立てた理念といまの組織にギャップを感じるようにもなります。これだと思っていた自分たちの組織風土は、いつの間にか薄まり、気が付けば、反発因子や我が道を行く社員が増え、全社的な一体感がなくなってきます。
このような状況に陥らないためにも、早い段階から将来の組織開発を見据え、人財育成を考えていくべきと言えます。
これだけはやってはいけない!失敗する人財育成
これまでやってきた、組織に足りない能力を都度中途採用で補うやり方は、“点で対応する採用”と言えるでしょう。その採用スタイル全部が良くないというよりも、“点で対応する採用”だけで人財を満たすことにリスクがあるという考え方の方が適切かと思います。これが、シリーズ後半以降、事業をスケールさせていく段階でも続いてしまえば、組織に“ほころび”が出てきます。具体例をあげたいと思います。
例えば、営業部門を拡大させるため、営業メンバーの採用を急ピッチで進めます。すると、管理職が不足し、管理職の育成が急遽スタートします。しかし、こういった場当たり的な育成には、教育に一貫性がありません。育った管理職は、マネジメントの意思決定基準がそれぞれバラバラになってしまいます。営業戦略の意図や会社理念は末端にまで浸透して行かず、結果として、組織崩壊の危機にさらされます。
こういった失敗は、管理職に限ったことではありません。新入社員から次世代幹部候補へと育っていく人財には、どのタイミングで、どのような情報をインストールすべきかが、とても重要になってきます。これは、いわば「人財育成のグランドデザイン」です。そして、このグランドデザインを、組織が拡大する前の早い段階からイメージし、準備ができれば、強靭でサステナブルな組織を作ることができます。
では、「人財育成のグランドデザイン」は、どのように作っていけばいいのでしょうか?それは、会社として、どのような事業成長をしたいかということがベースになります。
― 本論 ―
人財育成のあるべき姿とは?
人財育成の目的は、いい組織を作り、事業を伸ばすためです。つまり組織開発ですね。だから、人財育成のグランドデザインは、事業開発の方針と一致させる必要があります。そもそも事業として目指すKGIやKPIがベースとなり、そこから逆算して組織体をイメージしていくことになります。決して「この社員の直近課題はこれだから、このスキルを伸ばす研修をしよう!」と言ったような“点で対応する短絡的な育成”はNGです。これでは最終的に組織の一体感を支える企業文化や風土が育たないからです。求める事業成長では、一体どういうポジションがあり、それに対してどういう人財が必要で、スキル面だけでなく、マインドやスタンス面を含めて、どう育成すべきなのかを考えるべきなのです。
ポジションや人財要件が決まれば、実際に育成していくことになりますが、ここで大切なことは評価制度、等級制度との連動です。社員が育成され、成長することで、どう評価が変わるのか、どう等級が変わっていくのかといったステップアップ像が曖昧では、研修プログラムや昇格試験が形骸化してしまいます。「なぜこの研修を受けるのか?」「何のために今これをインストールすべきなのか」ということを、社員が腹落ちできるように、育成プログラムと評価制度、等級制度を密接に連動させる必要があります。
具体的にどのように連動させる方法があるか、弊社リブ・コンサルティングの例を、以下の図を踏まえ、紹介したいと思います。
横軸には等級が書かれています。縦軸には各等級でクリアしていなければならない研修プログラムが書かれています。
研修プログラムには3種類あります。必須の研修プログラムでは、全社員がベースとして持っておかなければならない能力が求められます。
選択制の研修プログラムは、希望者が自由に受けられます。選抜制の研修プログラムは、そもそも受講メンバーとして選ばれ、その中で勝ち抜かなければとステップアップできない登竜門のような存在です。
例えば、「LiB University」の場合、プロジェクトリーダーおよびプロフィットマネージャークラスにいる社員は、エントリーシートを出します。面接と社内のコンサルタントグレードにより、合否が出され、合格者だけが、「LiB University」の講座を受けられる仕組みになっています。
さらに、「LiB University」は二泊三日の宿泊研修が三度、4~5か月の間に行われます。受講生には、研修中のパフォーマンスやテスト結果により順位づけがされ、成績が悪い受講生は途中で脱落していきます。つまり、ただ受講資格をもらって受講すればOKというわけではなく、その中で勝ち抜いていかなければなりません。毎回、脱落者は出ますが、この厳格さで行うからこそ、研修プログラム自体が社内ブランディングされ、形骸化してしまうことはありません。
人財育成の検討手順とは?
さて、人財育成の検討を進めるにあたり、まずやるべきは、各等級の人財要件を定めることです。人財要件を定める上で、「ロバート・カッツモデル」を基本に考えていくと、スムーズに進めることができます。
一般的に、経営幹部層に求められるスキルは、概念化能力と対人能力です。これに対して、一般社員層は、業務遂行能力が多く求められます。それぞれ求められる能力や知識が細かく項目化されています。もちろん、これは会社によって異なってきます。このモデルを自社に当てはめた時に、一体どんな能力や知識が必要になるか検討していくと、考えやすいかと思います。
人財要件が決まれば、育成の方法を考えます。例として、再度育成プログラムの例をあげましょう。以下が、プログラムの全体像を示しています。
育成プログラムを具体的に作っていく上で、もっとも重要なことは、各研修の内容がステップアップした先の研修にブリッジしていることです。
つまり、「失敗する人財育成」の項でも述べた通り、まずグランドデザインがあって、それから各等級をステップアップしていく中で、何をどうインストールしていくか、その順序が最適化されていることが肝心です。そうすることで、等級ごとに求められる要件と現状のギャップが明確になり、次の研修や育成プログラムで補完していくという継続性を持たせることができます。
なお、人財育成のプログラムを作っていく時は、スキル面とマインド面の2つに分類します。スキル面のプログラムに関しては、あるべき姿は一律に決まりやすいため、集合型で行うことが多いです。一方、マインド面に関しては、個人の成長課題にフォーカスすることが多いため、メンター制度やトレーナー制度が効果的です。特に経営幹部層やそれに次ぐ事業責任者層へのステップアップでつまづきやすいのはマインド面です。なので、管理職や課長クラスまではスキル面を中心に育成し、それ以降、徐々にマインド面のインストールを行っていくという順序がセオリーとなります。
(※マインド面:Beingの観点でリーダーとしての“あり方”を意味しています)
スキル面とマインド面の育成は、場面も違えば、関わる人も変えていかなければなりません。社内の育成制度やサポート体制と連動しながら、会社をあげて、あらゆる側面から人財育成に取り組むというのが、人財育成の勝ちパターンなのです。
役職別の人材育成事例
ここでは、次世代幹部育成と次期管理職育成に関してイメージとポイントを簡単に触れられればと思います。
《次世代幹部育成》
次世代幹部育成におけるポイント
✅ 次世代幹部への登竜門の位置づけとして、浸透させるためにも全社なイベントとしてクローズアップすること
✅ 次世代幹部に関してはBeing要素が最も重要であり、会社を導いていくことになるリーダーとして“どうあるのか”をベースとして育成を行うこと
✅ 選抜制×生き残り制にて、参加者の意欲を引き立てるとともに、厳しさのある公正なプログラムとしていくこと
《次期管理職育成》
次期管理職育成のポイント
✅ 公平性を重視した育成プログラムとして、機会を平等に持てるようにすること
✅ 学習習慣と学習体力を養うプログラムとしていくこと
➡ 読書のInputをベースとして、当該内容と紐づいたコンテンツを設ける
こと
✅ 具体と抽象を行き来することでコンセプチュアルスキルを養うとともに、自分なりの意見を言える状態とすること
― 結び ―
さて、本稿ではベンチャーCROがサステナブルな事業成長を目指す上で必要な「人財育成の考え方」について、述べてきました。最後に、これまでお伝えしてきた内容をまとめて終わりにしたいと思います。
ベンチャー人財育成5つのポイント
1. あるべき姿の明確化・定義を怠らない
経営陣が目指す事業成長に必要なポストやポジションをまず明らかにする。これに対して求める人物像を明確にし、各役職、階層別に人財要件の定義を行う。人財育成のグランドデザインを先に設計し、社員が歩めるキャリアステップも明確にする。
2. 役職・階層別に優先的な教育要素を抽出する
役職や階層により、マストスキルや知っておくべき知識は異なるため、優先的に教育すべき内容を洗い出す。一般的に上位階層に行くほど、概念化能力、対人交渉能力が求められ、下位層では現場での業務遂行能力が求められる。
3. 教育アプローチの最適化
2で抽出した教育を行う際は、集合研修型に限らず、トレーナー制、メンター制など、習得させる内容に最適な教育アプローチを用いる。
4. 研修プログラムの全社一大イベント化
人財育成は全社マターで取り組む組織開発であり、プログラム毎の意義付けが重要。社内広報を積極的に行い、等級制度や人事考課との連動をはっきりと示す。社内の一大イベントとして、プログラムの社内ブランディングを徹底的に行う。
5. 必要な関与者を正しく巻き込む
研修プログラムの社内ブランディングには関与者の協力が不可欠。役員のオブザーブや事業責任者クラスのメンターによるレビュー制度など、関与者には何をどう協力してもらうかをはっきり示し、正しく役割を担ってもらう。
以上が、ベンチャー人財育成5つのポイントまとめでした。
本稿で紹介した人財育成のポイントを通して、皆さんの組織そして事業が、今後も素晴らしい成果を上げられることを心より願っております。最後までお読みいただき、ありがとうございました!