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グローバルリーダーに問われる真価とは-イニエスタ選手が貫く「信じる心」は躍進するベンチャーの必須条件

2020年、先行きの見えない大きな不安に包まれた日本。そんな暗いムードを一変し、ベンチャー業界を盛り上げんとする“祭り”のようなプレミアムイベントが開催されました。

9月14日、アンドレス・イニエスタ選手と有名起業家が語る「勝ち続けるリーダーシップと経営者のプロフェッショナリズム」と題されたイベントが開催。世界中のサッカーファンを魅了し続けるアンドレス・イニエスタ選手と国内を代表するベンチャーのトップ層が語らうという、類を見ないビジネスオープンイベントです。

「ユニコーンのその先へ」が本イベントのテーマ。2019年から、国内でもユニコーン企業の存在が注目され始めました。成長産業領域のデータを網羅したプラットフォームSTARTUP DBを運営するフォースタートアップスは、「国内スタートアップ想定時価総額ランキング2020年9月最新版」を発表。2020年9月現在、国内のユニコーン企業は7社まで増加しました。

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しかし、日本のユニコーン企業は世界に比べその数も少なく規模も小さいのが現状です。日本で世界基準のユニコーンを目指す、そしてユニコーン企業のその先を目指すため、日本のスタートアップ・ベンチャーは何をすべきか、社会やステークホルダー、そして自分とどう向き合うべきか、熱いトークが交わされました。

ビジネス領域において、ときにはまったく異なる世界で活躍するグローバルリーダーからセルフマネジメントのヒントや常勝し続けるマインドを学ぶことが、経営における視点を変え、より高みにのぼる勢いをつけることにつながります。

一見関係のなさそうなイニエスタ選手と日本のスタートアップ・ベンチャーですが、実は成功を手にするマインドには”共通項”があったことが、このイベントを通し伝わったのではないでしょうか。

今回は、ビジネスの最前線で活躍する経営者にとって金言となるキーワードが次々と飛び交ったイベントの模様をお伝えします。

 -これからのベンチャー企業に必要なのはサッカー経営?

入山さん「世界屈指のプレイヤーであるイニエスタ選手と日本を代表する企業家のみなさまが議論するってすごく意義があること。司会させていただくことをありがたく思います」

モデレータは、早稲田大学ビジネススクール准教授の入山さん。今回のセミナーに参加した経緯、熱い想いを語ったのち、ゲストパネリストの方々を紹介しました。

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入山 章栄(モデレータ)
早稲田大学大学院 経営管理研究所(ビジネススクール)教授

慶応義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。2013年より早稲田大学大学院早稲田大学ビジネススクール准教授。2019年より現職。「Strategic Management Journal」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。著書に「世界標準の経営理論」(ダイヤモンド社)、ほか。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」のレギュラーコメンテーターを務めるなど、メディアでも活発な情報発信を行っている。

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小泉 文明(パネラー)
株式会社メルカリ 取締役 President(会長)

早稲田大学商学部卒業後、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPOを担当。2006年よりミクシィにジョインし、取締役執行役員CFOとしてコーポレート部門全体を統轄する。2012年に退職後にはいくつかのスタートアップを支援し、2013年12月株式会社メルカリに参画。2014年3月取締役就任、2017年4月取締役社長兼COO就任、2019年9月取締役President(会長)就任。2019年8月より株式会社鹿島アントラーズ・エフ・シー代表取締役社長兼任。

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鈴木 啓太(パネラー)
AuB株式会社 代表取締役

元プロサッカー選手。東海大翔洋高校卒業と同時に、Jリーグ浦和レッズに加入。レギュラーを勝ち取ると、2015シーズンで引退するまで浦和レッズにとって欠かせない選手として活躍。現在はサッカーの普及に関わるとともに、自身の経験から腸内細菌の可能性に着目し、AuB株式会社を設立。「すべての人をベストコンディションに。」を目標に掲げ、アスリートの腸内細菌の研究成果より、ヘルスケア、フードテック事業を行っている。19年12月には初のプロダクト「AuB BASE(オーブベース)」を発売。

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宮田 昇始(パネラー)
株式会社SmartHR 代表取締役CEO

2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に自身の闘病経験をもとにしたクラウド人事労務ソフト「SmartHR」を公開。登録企業数は公開後5年で30,000社を突破。2019年にはシリーズCラウンドで海外投資家などから62億円の資金調達。

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権田 和士(パネラー)
株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役

早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。トップコンサルタントとして実績を残し、執行役員として活躍したのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。2014年、リブ・コンサルティングに参画。現在は常務取締役COOとして、人事部門の統括およびベンチャーコンサルティング部門の統括を務める。

イニエスタ選手とのトークが待ちきれないといった表情のゲストパネラー4名は、それぞれの事業領域や本イベントへの意気込みを話されたのち、トークセッションへと入りました。

セッションは、「日本のベンチャーがグローバルカンパニーを目指すときに、どういった経営ポイントが重要だと考えているか」とまず入山さんがパネラーに投げかけ、サッカーとビジネスを紐づけた語り口でトークが進んでいきました。

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小泉さん「サッカーの監督ってビジネスの経営者に近いなと思います。今、グローバルを目指して突き進んでいるベンチャーはサッカーのようなスピード感があります。サッカーって戦略は決まっていても、ゲームの局面においてフレキシブルに動くことが求められるし、選手一人ひとりが最適な選択をして、チームで捉え、二手先、三手先を考えながらゴールに向かっていく。そういったスピーディーかつフレキシブルなチームプレーみたいなものが、ベンチャーが競い合っていくには必要なんじゃないかなと思います」

社員が現場のシーンごとに正しく意思決定ができる環境を整えるには、情報を社内に流通させることだ、と小泉さんは話しました。

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宮田さん「情報がすぐに手に入れられる状況って重要ですよね。そういう意味では、メルカリさんもほかの企業も自社のバリューを明確に打ち出し、社員に浸透させているんじゃないでしょうか。それが社員の行動規範になって、フレキシブルに対応できるポイントのような気がします」

小泉さん「それから、企業がどの道に向かっていくのか、目標を設定する能力って経営者にとって大事だと思います。クリアで見通しがあって、ギリギリ手が届くゴール。“ここを目指すんだ”って決めて示していくリーダーシップですかね」


話の流れで、元サッカー選手の鈴木さんは、自身が現役だった頃に経験した監督の指導を振り返りながら、小泉さんの言う「リアルな目標設定」について語りました。

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鈴木さん「記者に『今年の目標は?』って質問されると、だいたいの選手は『優勝です』って答えるんですよね。それに対して、レッズの監督に就任したばかりのオフト監督が怒るんですよ。自分たちが信じきれない、手の届かない目標を言っているんじゃないって。オフト監督は、『ベスト5が目標』って言ったとき、それなら届きそうだなって妙に納得しちゃって」

-成功に向かって突き進む自分を信じているか

東京のイベント会場にてトークセッションが進む中、リブ・コンサルティングCEO 関の待つ神戸会場にはイニエスタ選手が到着。さっそく、ゲストパネラーらへ挨拶されました。

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アンドレス・イニエスタ選手(スペシャルゲスト)
1984年生まれ、スペイン・フエンテアルビージャ出身。12歳でFCバルセロナの下部組織に加入以来、FCバルセロナで22年間を過ごし、2015年からはキャプテンに就任。リーガ・エスパニョーラ制覇9回。スペイン代表としては欧州選手権を2度制覇し、2010FIFAワールドカップ南アフリカ大会では決勝点を挙げ、スペインの初優勝に貢献。2018年よりJリーグ、ヴィッセル神戸に加入。

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関 厳
株式会社リブ・コンサルティング 代表取締役

東京大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。住宅・不動産、自動車、電機メーカー、卸売など幅広い業界にて、担当企業の増収増益を実現。同社にて、史上最年少で取締役、その後専務取締役に就任し、コンサルティング部門を統括したのち、2012年、「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に、リブ・コンサルティングを設立。

関からこのビジネスイベントに参加していただいた理由について質問があると、次のように話されました。

イニエスタ選手「スポーツといい経営といい、いろいろな交流をすることで素晴らしいものが生み出せると思っています。こういう出会いを通して、新たなやり方、違ったやり方が生まれ世界を変えていけるんじゃないかと。そういう意味でこのイベントに参加できて嬉しいですし、短い時間の中でさまざまなアイディアを交換できたらうれしいです」

昨年末の第99回天皇杯決勝において、イニエスタ選手が所属するヴィッセル神戸が鹿島アントラーズに勝利し、クラブ史上初のタイトルを獲得。関から、優勝しタイトルを獲得する上で大事だったこと、チームとして変わったことについて質問されました。

イニエスタ選手「大切なことはクリアなアイディアを組織の中で共有し、それに向かってどのようにステップを踏んで行くかを明確にすること。また、それをチーム全員が信じて進んでいくことです。スポーツにしろ、ビジネスにしろ、常に望んだ結果が出るわけではないですが、何があっても信じていくことが必要なんです」

関さん「イニエスタ選手といえば、サッカーの常識を変えてきた選手ですよね。新しい常識を作っていくっていうところがベンチャー企業と相通じるものがあると思います。自分らしさを貫くまで逆風やハードルもあったと思いますが、どうやって自分のスタイルを確立し、継続していったのか教えてください」

イニエスタ選手「自分が実際にやっているプレーが本当に成功に結びつくことを信じることがカギになってくると思います。サッカーの世界に関してもそうですが、決まったスタイルや道というものはなく、それぞれのチームがそれぞれのスタイルを貫いています。それを所属する選手やスタッフが本当に納得したうえで信じているか、できているかが重要です。

サッカーの場合は、監督の指示を選手が信じて成功に向かってプレーしていけるのかどうか。一人ひとり違う考え方を持っているのが組織だと思いますが、それに対していかにそれぞれの目標を信じられるかということが重要なポイントになると思います」

-誰に対してもフェアで誠実でいることがリーダーの条件

関さんの質問が終わり、次はゲストパネラーとの1on1のトークへと移ります。先手を切ったのは、サッカー選手つながりの鈴木さん。お互い世界のトップシーンでプレーしてきた者同士、ビジネスにおける“一流と超一流の違い”について話されました。

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鈴木さん「イニエスタ選手は世界中の超一流の選手を見てきたと思います。一流と超一流の違い、これは生まれ持った才能の違いなんでしょうか?」

イニエスタ選手「難しい質問ですね(笑)。私は一流になるため、 “常に学び続けるスタイルを持つこと”を貫いてきました。チームメイトや監督だけでなく、まわりにいるすべての人々から得られるものを吸収するという姿勢です。ヴィッセル神戸にいる今でも、常に学び続けよう、昨日よりも良くなろうというスタイルは変わりません。

私が一流か、超一流なのかを判断するのはまわりが決めることだと思います。しかし、一流を超えた存在になるため、学び続けるメンタリティをキープして取り組んでいます」

続いて質問されたのは宮田さん。300名が在籍する企業をまとめる経営者として、リーダーシップについての質問が印象的でした。

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宮田さん「一流の人たちは個性的な人が多いと思いますが、そういった個の強い人たちをまとめるのがうまい監督は、何が違うんでしょうか?」

イニエスタ選手「サッカークラブには、考え方の違いだけでなく人種が異なる選手もいます。監督は、文化や価値観がそれぞれ異なる選手全員の性格やプレースタイル、考え方を細かく知ることが求められます。

チームをとりまとめる監督として重要なのは、常に誰に対してもフェアであること、誠実で正直であることです。試合に出られる選手、出られない選手、どの選手にもそれぞれ役割があって大切だということを伝えていきます。サッカーで言えば選手、企業で言えば社員に誠実でいられるかどうかがリーダーの真価として問われるところだと考えます。

一人ひとり違う考えを持つ人たちをまとめるのは難しいことですが、それができるリーダーが求められていると思います。誰に対してもフェアで誠実あることが成功のカギになると思います」

小泉さんは、メルカリがアメリカ進出で事業を伸ばしていることを受け、日本のサッカークラブに所属しているイニエスタ選手に日本の企業組織の良し悪しについてアドバイスを求めました。

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小泉さん「イニエスタ選手から見て、日本の組織の良いところは何か。また、もっとこうすべきだということがあれば、アドバイスをお聞きしたいと思います」

イニエスタ選手「日本のチームに所属してきた中で感じたことは、規則がきちんと明確に立てられていたり、熱意を持ってプロジェクトの遂行に取り組んだりする意識の高さが素晴らしいと思いました。失敗やミスに対して修正するときの取り組み方や姿勢にも共感できます。私自身、大切だと思うポイントだったので、チームの一員として納得できるプレーが叶いました。

日本の組織の弱みとしては、少し神経質というか、考えすぎてしまうところなのではないでしょうか。私の出身地のスペインでは、何かミスがあってもそこまで深く考えずに淡々と処理します。そこが日本の文化と違うところだと思います」

-イニエスタ選手から学ぶ「信じる力」の重要性

イニエスタ選手へのトークセッションが終わり、記念撮影に。東京会場では、イベントの総括に入りました。イニエスタ選手の話を受けてゲストのみなさんはどんなところに共感されたのでしょうか。

鈴木さんは、「なぜイニエスタ選手がビジネスイベントに?」という疑問点が、彼のサッカーマインドを聞いて理解できたと話されました。

鈴木さん「イニエスタ選手ってリーダーシップの観点から見てグイグイ引っ張っていくタイプじゃないんですよね。だけど大事な場面でベストな状況判断をするとか、自分よりもまわりをどう活かすかを考えてポジショニングを取るとか。これってビジネスにとってもすごく重要かなと。だからこそ今回のイベントが成り立ったのかなと、自分は腑に落ちました」

権田さん「昨年弊社がイニエスタ選手を”CEO”としてブランディングを行った際に使用した<なぜイニエスタなのか>の答えがそこなんです。リブ・コンサルティングは、創業当時からベンチャーを対象にコンサルティングを行っていたんですが、僕らだけじゃなくベンチャー企業そのものも当時は逆風が吹いているときでして。どうやって新しい常識を作っていくか悩んでいました。

そんな中、分野はまったく違うけどそういうベンチャーマインドを心に持って市場を切り開いていったのがイニエスタ選手だと思うんですよね。なぜ結果を出せているかというと、彼は“信じる力”がめちゃくちゃ強いんですよ」

入山さん「僕もお話の中で一番印象に残っているのが、“信じる”って言葉が何度も出てきたことですね。自分を信じる、仲間を信じる、仲間に自分のことを信じさせるってこと」

ゲストパネラーの問いに対して、イニエスタ選手が幾度となく口にした「信じる」という言葉。これは一流のサッカー選手として、自身の可能性を信じるということはもちろん、チームメイト、監督、スタッフ、家族、サポーターなどすべての人に対して向けられた彼のプロフェッショナル魂なのではないでしょうか。

東京会場に参加された経営者のみなさんも、それぞれに課題・悩みをお持ちでした。企業規模やフェーズなど異なる状況にいますが、自社の事業が社会に貢献することを信じ、成長を目指しているのはみな同じ。ユニコーンのその先にある輝かしい未来へ向かって組織を成長させるには、シンプルに自分を信じて、企業の仲間を信じて、社会を信じていくことがカギになるでしょう。

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