スタートアップがハードシングスを乗り越えるための新・組織論【資料DLあり】
こんにちは、CROHackです。
コロナにより、リモートワークへの対応、マネジメントの在り方の見直しを迫られた企業も多いと思います。大きく環境が変化している中で、組織論はアップデートする必要に迫られています。
特にスタートアップベンチャーに求められる"組織論"は、積極的なアンバランスの受容と、それらをマネジメントする発想・スタンスが起点となります。
その最適解の探求として、異なる組織モデルで急成長している株式会社ユーザベース稲垣氏、株式会社リンクアンドモチベーション田中氏をお招きし、2020年7月にセミナーを開催しました。
先進的な取り組みを進め、成果を上げている両社の事例から、自社の組織をアップデートする際の参考にしていただければ幸いです。
▼登壇者プロフィール
稲垣 裕介
株式会社ユーザベース 代表取締役COO
大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社に入社。プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案、金融機関の大規模データベースの設計、構築等に従事。
2008年に新野良介、梅田優祐とともにユーザベースを創業。
2020年から現職。
田中 允樹
株式会社リンクアンドモチベーション MCVカンパニー カンパニー長
慶應義塾大学卒業後、株式会社リンクアンドモチベーションに新卒で入社。 大手企業向け組織人事コンサルティングを経て、2012年より中堅中小ベンチャー企業向け組織人事コンサルティング事業の成長拡大に注力。インキュベーション事業(投資事業)においてもアドバイザーとして複数企業を担当。 2016年、新規事業として国内初の組織開発クラウド「モチベーションクラウド」の立上げメンバーとして参画。
2019年1月よりモチベーションクラウドの事業責任者に就任。
権田 和士
株式会社リブ・コンサルティング 常務取締役COO
早稲田大学卒業後、大手経営コンサルティング会社に入社。トップコンサルタントとして実績を残し、執行役員として活躍したのち、米国ミシガン大学に留学し経営学修士(MBA)取得。2014年、リブ・コンサルティングに参画。
現在は常務取締役COOとして、人事部門の統括およびベンチャーコンサルティング部門の統括を務める。
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1. はじめに
権田和士氏(以下、敬称略) 冒頭に組織論をアップデートしていくために、問題意識を摺り合わせしたいと思います。今回、コロナ禍で組織について語られることが増えましたが、これは潜在化していた組織課題がコロナ禍を契機に急速に露呈というのが実情だと思います。
そこで、日本の旧来型組織における課題としては、大きく下記の5つがあったと考えています。
1. 日本型雇用の「3種の神器」(終身雇用・年功序列・企業内労働組合)の機能不全
2. 従業員エンゲージメントの低下
- 「熱意ある社員」の割合 6%、世界139国中132位
3. 労働生産性の低下
- 「就業1時間当たり付加価値」は、主要先進国7ヵ国中最下位
4. メンバーシップ型からジョブ型への移行
5. ピラミッド型からフラット型へ…“軽いモデル”への移行
(Gallup“State of the Global Workplace”)
権田 では、どのように組織をアップデートしていくべきなのか。本セミナーでは株式会社ユーザベース(以下、ユーザベース)、株式会社リンクアンドモチベーション(以下、リンクアンドモチベーション)の事例を踏まえて議論していきたいと思います。
まず初めに両者の特徴について整理します。どちらもミッションドリブンな組織ですが、ユーザベースは求心力を保持しながら遠心力も働かせており、事業領域が広いためキャリア採用重視でフラット型の組織モデルです。
一方でリンクアンドモチベーションはモチベーションという軸をベースに求心力をはたらかせ、新卒採用を中心としたピラミッド型の組織モデルとなっています。当然ながら事業領域も異なり、コントラストを付けている部分はありますが、コンセプトによって組織モデルは大きく異なります。
(リブ・コンサルティング“投影資料”)※登壇時
2. ユーザベースの組織論「求心力と遠心力の最適化」
稲垣裕介氏(以下、敬称略) ユーザベースでは「経済情報で、世界を変える」というミッションを掲げています。事業領域が拡大する中でも“やらないこと”を決めており、それが会社のアイデンティティになっています。ミッションで言うと、経済情報以外はやらないということです。
ただ経済情報としてグローバルというは必須なので、世界に展開できるプロダクトを開発しています。加えてエンジニア出身の経営者ということもあり、コンテンツやテクノロジーの力を強みにしています。逆を言えば、自分達が弱い部分はやらないと決めています。
最後にそれらを組み合わせて、プラットフォーム型のビジネスを提供することを軸として、事業領域を定義しています。
(ユーザベース“提供資料”)
稲垣 また、ミッションと同等にバリューを大事にしています。素晴らしいサービスには、コンテンツやビジネス、テクノロジーなどを高度に融合させることが求められます。そうすると複数の職種で協同することになり、必要なバリューを考えていきました。分かりやすい例が「異能は才能」というバリューで、エンジニアや営業では価値観が異なるが、お互いにリスペクトし合うことを大事にしています。
(ユーザベース“提供資料”)
稲垣 現在は創業12年目で国内事業も拡大し、2013年のSPEEDA事業のアジア展開をはじめ、これまで積極的に海外展開を推進してきています。また、Quartz Media, Inc.の買収によって一気に海外展開が進みました。そこで大事にしているのが「求心力」と「遠心力」というキーワード。従業員数が少ない時期は「求心力」が強くはたらきますが、それだけでは人材が育たないということになります。
そのため創業メンバーだけではなく、健全なガバナンスとオポチュニティがある環境を意識して「チーム経営」してきました。そこで経営者を育成するために重要なことは、意思決定をする機会を与えることで「自走できる組織」を目指しています。そうした「遠心力」は意識しながらも、タウンホールミーティング(THM)を海外メンバーも含む全グループのメンバーを集め、月2回実施しており、「求心力」をバランスさせています。
(ユーザベース“提供資料”)※登壇時
稲垣 創業期の約束として、フラットな関係性を重視するからこそ、健全なガバナンスを持つことにしました。そのために社外取締役がホールディングスの経営陣、ホールディングスの経営陣が子会社の経営陣をガバナンスする体制をつくっている。この自由と責任のバランスがあるからこそ、意思決定を任せることができています。
(ユーザベース“提供資料”)※登壇時
稲垣 やはり立ち返るのは、ミッションとバリューであり、裏を返せば細かいルールはつくらないということです。特にバリューは解釈の余地が大きいが、それこそが強さでもあるので大事にしています。そのため、意思決定スピードが早く、事業のスケールがメリットとしてあります。逆にデメリットは明確で、コミュニケーションコストがかかるという一点に尽きます。特に中途社員は、適用するのに最低3か月は必要となります。
3. リンクアンドモチベーションの組織論「分化と統合の振り子作用」
田中允樹氏(以下、敬称略) 弊社は創業から企業変革コンサルティングを実施してきましたが、「モチベーションエンジニアリング」という技術によって求心力を高めています。
現在、この技術をベースにBtoBからBtoCまで、大きく3つの事業を展開しています。M&Aもしているのですが「モチベーションエンジニアリング」という軸はブラさずに、事業展開することを意識しています。
(リンクアンドモチベーション “提供資料”)
田中 過去の出来事を振り返ると、創業翌年の2001年から新卒採用を始めています。2002年に初めて新卒で入社をしたメンバーのうち1名が、今ではグループ会社の代表を務めています。また、リーマンショック後に多角化を図り、2010年からはBtoC事業へ進出しました。
何の軸も決めず、ただ複数事業を抱えると分散する懸念がありますが、“分化”と“統合”のバランスを意識してきました。生物学において、“分化”と“統合”が繰り返されて生命が成長してきたのと同じですね。
(リンクアンドモチベーション “提供資料”)
田中 例えば、従業員数が10名から50名に増えた時には、必ず縦(階層)か横(機能)の“分化”が進みます。ただ“分化”をし過ぎてしまうと、大事なものが損なわれてしまうので、“統合”することが重要です。
弊社も基本は“統合”を大事にしているのですが“分化”が進んだタイミングこそ、グッと統合させます。これは振り子のようなイメージで、一方に大きく振れれば、逆に同じくらい振るというのを繰り返しています。
権田 “分化”している時の方が収益性は低く、“統合”している時の方が収益性は高いのですか?
田中 それは、状況によります。モチベーションクラウドは“分化”の方向ですが、急成長をしました。逆に「モチベーションエンジニアリング」から離れて“分化”し過ぎてしまった時は収益性が低かったです。
権田 なるほど。「モチベーションエンジニアリング」という技術を軸にして“分化”するべきだった、というのが学びだったということですね。
田中 ですので、ユーザベースさんのやらないことを決めるというのは共感する部分があり、技術や思想に合わないものはやらないということが大事です。
(リンクアンドモチベーション “提供資料”)
田中 “分化”と“統合”をする基準は、「思想・型・形」ということが言われます。弊社はグループ化していく中で、思想(=理念・価値観)だけは“統合”してきました。M&Aをした時には、当時300名の組織に500名がジョインしましたが、とにかく思想はブラさないことを徹底してきました。
(リンクアンドモチベーション “提供資料”)
田中 具体的には、「エントリー」「チューニング」「アセスメント」というステップで求心力を高めてきました。「エントリー」では、選考でミッション・バリューとの合致度を見極め、入社後には“DNA BOOK”“History BOOK”で思想の理解を深めていきます。
次に「チューニング」では、インプットだけではなくアウトプットの場を設けたり、ミッション、バリューを体現している社員をエバンジェリスト(伝道師)として発表するなどしています。
そして「アセスメント」で定量的に定着度合いを測って、このサイクルをずっと回してきました。
権田 チーフ・エバンジェリストのような人材はいるのですか?
田中 全社で任命するのではなく、マネージャー層が部門ごとにメッセージを発信しており、チューニングをしています。
(リンクアンドモチベーション “提供資料”)
4. スタートアップにおける組織論をアップデートせよ
権田 ここからはリブ・コンサルティングの考えも共有しながら、議論を進めていきたいと思います。旧来型の組織は「堅実組織」を目指すことが多く、離職率は低く、安定していることが良いという考えでした。しかし、スタートアップにおいては、狙って細胞分裂できる「変革組織」であることが重要です。
ユーザベースはミッションドリブンなので前向きなカオスを受け入れていますが、ルールドリブンだと反発が起こるので注意が必要です。
田中 リンクアンドモチベーションでも言っていることは、環境に合わせてどちらにも対応できる「運動神経」を良くすることが重要だと思います。テニスで言うと右にも左にも反応できる、少し踵を上げたパワーポジションのイメージです。
権田 コロナによってメンバーシップ型からジョブ型への移行という議論がありましたが、中央集権型から分散型への移行が本質です。横軸は副業解禁という話題もありましたが、契約形態などHowの話です。重要なことは今回話してきた、ミッション・バリューなど「求心力」は持ちながらも、事業は「遠心力」をはたらかせる、縦軸です。
(リブ・コンサルティング“投影資料”)
権田 そこで重要になることは、戦略と事業・組織の縦と、事業と組織の横に一貫性を担保することです。近年、事業と組織のどちらも理解している経営層が増えてきたように思います。そういった意味だとCHROのRはRevenueでも良いかもしれないですね。
稲垣 ユーザベースでも意識していることは、組織施策は正解がないので、組織施策でも結果を出すことが重要だと考えています。さらに規模が大きくなるにつれてCHROの必要性は感じていますが、組織課題を解決するためには、事業にも介入することも求められるので、そのような人材を育成するために思考錯誤しています。
権田 リブ・コンサルティングも含めて、本日の議論を踏まえてアップデートをしていきますので、今後のセミナーや事業活動で注目いただければと思います。最後に求心力と遠心力の行きつく先はコングロマリット・ディスカウントがあり、事業ではなく組織として捉えるとイノベーションを起こすための余白なので、このテーマについても別の機会で議論したいと思っています。
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CROHackでは、組織論のアップデートに必要なポイントについてより理解が深まるように資料にまとめました。組織の強化していく為に重要なポイントが図解されておりますので、是非ご参考にしてみて下さい。
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