売り切り型からの事業転換の挑戦 -SaaSビジネスの立ち上げ
はじめまして、CROHackメンバーの大﨑(@RyosukeOsaki)です。
SaaSビジネス、いわゆるサブスク型のサービスは、日常生活の周りでも仕事周りのサービスでも、もはや当たり前になりつつある昨今ですが、みなさんの事業にSaaS型のものはありますか?
SaaSビジネスはお客様と長く関係を続けるLTVを重視したストック型のビジネスモデルのため、市場がシュリンクする日本では未だに多くの企業が新たな成長を目指して挑戦していることを肌で感じます。
ただ、同時に多くの企業が参入してみたものの、想定しているようなスケールを達成できていないのもまた事実。
そこでこの記事では、私が実際にSaaSビジネスへの事業転換に挑戦されるクライアントを手伝う中で発生した様々な問題をご紹介しながら、SaaSビジネスを立ち上げるうえで乗り越えるべき壁を詳しくお伝えしたいと思います。
-withコロナでも強いSaaSビジネス
LTVを重視する考えは、皮肉にもこのコロナ禍によって更に重要度が増してきています。
新たな顧客を物理的にも広げられない中で、既存顧客とより深く、より長く繋がれるSaaS企業は昨今の状況下でも収益を落とさず、株価も堅調に推移しています。
そして、もう1点、SaaSが強い理由は「顧客と直接繋がれる事」。小売りや卸を経由する事で、市場調査でしか顧客の動向を把握出来なかったのが、直接繋がれる事によってサービスの改善ポイントが手に取るように解ってきました。
大企業が調査会社を活用してユーザーを集め、サービスの使い勝手をインタビュールームのガラス越しに確認している間に、SaaS企業はこの瞬間もサービスを利用する全てのユーザーの動向をウォッチし、プロダクトそのものへのフィードバックを絶えず繰り返しているのです。
ちなみに、余談ですがGmailは昔“ベータ”の表記をあえて入れ続けていたのですが、これはサービスそのものを常に改善し、より良くし続けようという意思の表れでした。
このようにSaaSにすることで製品開発の思想がそもそも変わってくる点は注意したいですが、それはもう少し軌道に乗ってからの話になるので、まずは立ち上げまでにフォーカスします。
■SaaSビジネスのメリット
・ストック型の安定収益を得られる事
・顧客と直接繋がり、プロダクトフィードバックループを回せる事
ただし、上記メリットにもそれぞれ裏には大きな罠が潜んでいます。ここからは、SaaSビジネスを立上げてから成功させるまでのポイントを詳しく説明します。
-迫りくる「Jカーブ」の魔の手~財務危機~
SaaSビジネスは一見、毎月定額が入ってチャリンチャリンと非常に儲かるモデルのように感じられる方が多いと思います。実際、事業が軌道に乗ると中長期で売上も見通せ、収支面では安定するし大きく儲かっている会社も無数に存在しています。
しかし、実は軌道に乗るまでは売れば売るほど大赤字という状態になるのです。(下図左側の「スタートアップ型」)
アメリカでは収益化までに7年もかかると言われており、そのため、投資家や株主など各ステークホルダーを説得し、事業開発のGOサインを出せるかに最初の山場が到来します。
実際、私がコンサルティング支援をした企業でも、売切り型と同様の製販計画を立てた瞬間にとんでもない赤字額を抱えてしまい、販売計画と資金調達のタイミングから見直しを行った例もあります。
ちなみに、最近赤字なのに上場する企業が存在するのはココがポイント。
顧客の初期獲得コストによってこの瞬間は大幅な赤字でも、使い続けてくれることが見通せていれば、早期に黒字化の見込みが立つのです。
実は会計の考え方も、モノの売り買いに適したPL/BSでは今この瞬間の現在価値しか評価できないため、LTVやCAC(顧客獲得コスト)、MRRといったSaaS独自の経営指標を用いながら将来価値を正しく判断する事も必要となってきます。
-「顧客と直接繋がれる事」に隠された罠
次に「顧客と直接繋がれる事」を紐解いていきたいと思います。
冒頭紹介したSaaSのメリットである「顧客と直接繋がれる事」は、つまり「顧客に直接売らなければならない事」であり、「顧客に直接フォローをしなければならない事」でもあります。
特に店舗販売しているメーカー系の方には注意して頂きたいポイントで、流通や小売りを挟まない分、利益率が高くなる一方、小売りが肩代わりしてくれていた「エンドへのセールス」も行わなければなりません。
当然、今まで通り商品/サービスの認知や理解を得るためのマーケティングは行いつつ、そこから更に自分達でセールスも行い、契約獲得まで持って行かなければならないので、マーケティングは広告代理店、セールスは小売りにお願いして自分達は製品開発だけ、では立ち行かないのです。
そこでポイントとなるのは下記の2つです。
① マーケとセールスの連携
② 顧客管理の仕組み化
フロー型ビジネスでは、商品認知率やブランディングを目的に宣伝広告するマーケ部と、着実に流通を抑えて面を広げる営業部では、どこか相容れない部分があったと私自身も前職経験から感じています。
これは互いの部署が全く異なるKPIを持っているから当然起きることですが、SaaSビジネスでは皆が一人のユーザーと相対するため、必然的にマーケとセールスのKPIが連動し、互いに連携する必要性が増してきます。(KPIの詳しい置き方は福田康隆さんの書籍『THE MODEL』に非常に詳しく書かれているのでご参考にぜひ!)
ただし、だからと言ってマーケとセールスがタッグを組んで「One Team」になれるのか?というと難しい場面に私は何度も直面してきました。
互いの責任をなすりつける泥仕合が始まる前に重要なのが「自分達が何のためにそのサービスを売っているのか?」という、より本質的な部分で共通のベクトルを持つことです。単に儲かりそうだから、などでは必ずぶつかります。
そして、どんなにKPIで管理しようとも、その“質”に言及しはじめたり、皆が目下のKPIしか見なくなったりします。マーケとセールスを統括する事業責任者(CRO)はぜひ、KPIの数字遊びに走り過ぎず、魂の籠ったその想いを皆さんにぶつけてOne Teamで推進して頂く事を切に願っております。
2つ目の「顧客管理の仕組み化」に関しては先に話したようにSaaSを始めることでエンド自身を相手にしなければならないため、今までとは比べものにならないほど顧客数が増加し、その管理が一苦労となります。
昨今のセールスフォースやマルケトと言った営業支援システム(SFA)が人気なのもこれが一因で、これらのツール導入を検討する企業も増えていると思います。
ただし、いきなりの導入はコスト的にも難しいと思いますし、要件定義もままならないので、先ず私がお薦めしたいのはGoogleスプレッドシートとGoogleフォームを活用した簡易的な顧客DBを作成する事です。
実際、私もコンサルティング支援の中で多分に利用しており、リリース直後の初期段階においては十分に活用できるのでぜひ皆さんも試してみてください。※詳細は下記に記事になっているのでぜひ一読を!
-カスタマーサポートからカスタマーサクセスへ向けて
さて、今までは契約を勝ち取るまでのお話、そしてここからは契約後の話をさせて下さい。
事業計画を見直し、マーケとセールスをOne Teamで動かし、ようやく1点決めた、と思って気を抜くと手痛い想いが待っているので、もうひと踏ん張り必要です。
実はSaaSビジネスにおいては、サービスをご契約頂いてからが本番です。
例えばネットフリックスのように、初月だけ加入して、見たいコンテンツを全て見切って退会されたら、ユーザーを獲得するコスト分はもちろん、コンテンツ制作費も回収できずに大赤字。SaaSの強みである「継続的な安定収益」を確保するには、いかにして毎月使い続けて頂くかが当然重要です。
SaaSビジネスは見方を変えれば毎月ユーザーから契約継続の有無を判断され、そして毎月ユーザーの満足度を越え続けなければならないのです。
そこで重要になってくるのが「カスタマーサクセス」という概念ですが、ここで注意が必要です。
この話を聞いて「うちだって立派なカスタマーサポートがあるぞ」と思われる方もいらっしゃると思いますが、実はカスタマーサポートとカスタマーサクセスは全く違います。
皆さんの生活を思い出してほしいのですが、月額制のサービスを退会する前に、カスタマーサポートに電話したことがありますでしょうか?
するとしたら解約の電話。企業側が知らないうちにユーザーの満足度が下がり、電話が来たと思ったら退会を告げられフォローも出来ぬままというのがオチかと思います。
例えばユーザーのサービス利用頻度が落ちてきたら、こちらから能動的にユーザーへコンタクトを行う。サービスをより使いこなして満足して頂くように先回りしてユーザーの成功(カスタマーサクセス)を支援し、解約(チャーン)を防ぐのです。
また、更にはサービスのアップセルやクロスセルと言った“攻め”の姿勢でディフェンスに留まらず、まさに縁の下の力持ちとしてサービス全体の底上げを行うのがカスタマーサクセスであり、決してコストセンターとして捉えずに、むしろプロフィットセンターとして運用するくらいの意思が必要になってくると私は考えています。
-夢の“T2D3”へ向けて
さて、ここまでSaaSビジネスがぶつかる壁を散々紹介したことで、「SaaSやっぱやめだ」と水を差してしまったかもしれず恐縮です。
ただ、忘れないで頂きたいのが、市場自体が縮小する日本においてはもはやSaaSでないと生き残る事さえ困難だということです。初期の困難を乗り越えてこそ、成功への道筋が開けます。
ここで「T2D3」という言葉を紹介させて下さい。これはセールスフォースやマルケトなどのSaaS企業がTriple、Triple、Double、Double、Doubleで売上を毎年伸ばして$100M(100億円)を達成した事から導かれた言葉で、5年で約100倍成長も全く夢ではありません。
引用:https://techcrunch.com/2015/02/01/the-saas-travel-adventure/
この記事を読まれた皆さまもぜひ、SaaSモデルへの事業転換に挑戦し、5年で100倍成長を達成して、どんな環境下でも負けない新たな事業の柱を創り出してください。
また、みなさん自身が、マーケティング・セールス・カスタマーサクセスのそれぞれを密に連携させて、事業全体を盛り上げる統括責任者(CRO)として活躍する事を、まずは第一目標にして頂ければと思っています。かくいう私も実はCROを目指しています。
引き続き「CRO Hack」ではCROを目指すために必要な知識をどんどん発信していきますので、ぜひ一緒にCROを目指す同志としてこれからもよろしくお願いします。
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■この記事を書いたひと
大﨑涼介(おおさきりょうすけ)
32歳にして2児のパパ。得意領域は前職の博報堂で培ったマーケティング。
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