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ベンチャーの中期経営計画を徹底分析 -長期戦略を描く視点のヒントを解説-

こんにちは!CROHackの坊です。

今回は、ベンチャー企業が中期経営計画を作っていく際の適切な粒度感について、お話したいと思います。

中期経営計画を描く際に、経営者/CxOを悩ませるのが、計画の粒度感はどれくらいがベストなのかということだと思います。

プランを細かく書きすぎても、その通りに進むかどうかは分かりません。しかし、あまりに大枠だけだと、曖昧すぎて、投資家から突っ込まれてしまいますよね。

実際に、私にもそのような相談を頂く機会が多く、今回はどれくらいの粒度で描いていくのが適切かお話しできればと思います。

なぜ中期経営計画が必要なのか?

中期経営計画が必要な理由は大きく3つあります。

①投資家への説明責任のため
②経営の選択と集中の指針とするため
③組織として進むべき方向性を示すため

1つめは、IPOを目指す、あるいはIPO後のベンチャー企業にとって、投資家の目は常にあり、経営陣は将来の見立てについて、説明責任を負っています。投資家の信頼を得るためにも、彼らに納得のいく説明をできる経営計画が必要だからです。

2つめの理由は、企業として、現在の活動意義と将来の見立てを定めることで、経営的な選択と集中を明らかにするためです。資金や人的リソースが限りある中で、ベンチャー企業は常に、どこに何を、どれくらい投下し、また何を切り捨てるか、決断に迫られます。中期経営計画はその判断の指針となるからです。

3つめの理由は、先述の選択と集中をもとに、社員の仕事を洗練させ、ムダ・ムリのない事業推進をするためです。さらに、社員に対して旗印を掲げることで、進むべき方向性や組織としての一体感を生むスタンスを作るためでもあります。

以上が、中期経営計画を描くべき理由ですが、ここまでは当然のことでしょう。

一方で、中期計画づくりには、なんとも煮え切らない疑問がたくさん出てきます。

どこまで細かく、あるいは大枠で書くべきなのだろう?何から手をつければ良いのだろう?エクイティストーリーやピッチ資料とはどう違うのだろう?
さらには、外部環境を正しくとらえきれていないのではないか?はたまた、投資家に計画は見せたものの、「で、どうするの?」と突っ込みが入った。などなど・・・

一抹の不安を抱えながら計画づくりをすれば、投資家どころか、経営者自身でさえも納得いく事業成長をイメージすることができません。

ましてや社員メンバーから見ても“どこを目指しているんだろうか”という不安を醸成させてしまいます。

計画が絵に描いた餅とならないために、どう書いていけばいいのでしょうか。次項では、中期経営計画の作り方の具体的手順について述べていきます。

中期経営計画の作成手順

中期経営計画の作成は、以下の図に示す5つのステップで進めていくことができます。

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とくに重要なステップは1と2です。いわゆる3C分析やSWOT分析をベースに、ステップ1と2を行っていきますが、経営計画のバックロジックをしっかり固めるために、もう一段深掘りした分析を行っていきます。

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外部環境分析

外部環境分析を綿密に行っていくには、5Force分析、PEST分析を活用していきます。多くの方がご存知かと思いますが、簡単に触れさせていたきます。

5Force分析は、外部環境分析のフレームワークの中でも、最も基本的なもののひとつです。自社を取り巻く外部環境を5つの視点(競争要因)から分析していきます。

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出所:https://www.sbbit.jp/article/cont1/29561

上の図にあるように、これら5つの競争要因から生まれる脅威が、どの程度あるかを分析していきます。

①業界への新規参入は起きやすいかどうか
②競争業者間での敵対関係は強いかどうか
③代替品となるものが業界の外にないか、あるいは今後出てくる可能性はど
 うか
④サプライヤーの交渉力が強まる要因はないか
⑤買い手市場となりうる傾向はないか

こういったことを検討していきます。

5Force分析が外部環境をミクロ視点で分析するのに対して、
PEST分析では、よりマクロな視点で外部環境を分析することができます。

事業を進めていくうえで、向かい風となる、あるいは追い風となる、「Politic(=政治的要因)」「Economy(=経済的要因)」「Society(=社会的要因)」「Technology(=技術的要因)」はないかといったことを分析していきます。

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出所:https://cyber-synapse.com/dictionary/en-all/pest-analysis.html

外部環境分析の際に大切なことは、過去・現在・未来の流れで、時系列を意識した分析をすることです。

自社や業界を取り巻く環境が、過去にどういう状況から、どういう流れで現在に至り、今後、どのように変遷していくのかをとらえることが重要です。

例えば、下記の図のような形です。

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内部環境分析

続いて、内部環境を分析していきます。
ここでも大切なことは、企業沿革や意思決定の歴史など、これまでの経緯を意識したうえで、自社の経営資源を洗い出していくことです。

例えば、過去に棄却した戦略は、なぜその時採用しなかったのかといったことや、現状の組織体に至った理由など、自社の過去と現在を分析し、今後の見立てを描いていかなければ、次の戦略を考えるときにピンを外してしまうかもしれません。

コア・コンピタンスの特定

外部環境、内部環境ともに分析ができれば、次はコア・コンピタンスを特定していきます。ここでは、そもそも「コア・コンピタンス」とは何なのかということが非常に重要になってきます。

“コア・コンピタンス”と“強み”は、明確に違います。
強みとは、いま同じ市場にいる競合プレイヤーと比べて優っている点を言います。コア・コンピタンスとは、業界を超えて活かせる自社の優位性です。

飲料メーカーを例にあげた場合、競合メーカーに比べて、激安で作れる製造ラインを持っていることや、顧客ニーズを捉えた商品開発を連発できるというのは、強みになります。
これに対して、独自の液体充填技術を応用して、離乳食や嚥下食分野へ参入できそうだとなれば、これはコア・コンピタンスと言えます。

つまり、いま見えている事業ドメインだけでなく、そこからドメインを広げたとしても活かせる強みがコア・コンピタンスです。
コア・コンピタンスを適切に特定し、フルに活かすことができれば、業界構造さえも変えてしまうほどの可能性が出てきます。

ただし、ここで注意すべきは、「コア・コンピタンスがない」というパターンもあり得るということです。

例えば、ある業界においては、競合にない特殊技術を“強み”に持つ企業であったとしても、その技術がニッチすぎて、他ではまったく活かせないとなると、コア・コンピタンスは存在しません。この場合、コア・コンピタンスがないということを自認しておくことがとても重要です。

なぜなら、コア・コンピタンスがあれば、たとえ業界が縮小する中でも、事業ドメインを変えて成長戦略を描くことができます。
一方、コア・コンピタンスがない場合は、基本的に今いるドメインでパイを広げる戦略or新たなドメインでまったくもって新規事業を立ち上げていくオポチュニティドリブンでの戦略を描かなければなりません。

もし、コア・コンピタンスがあるにも関わらず、それを活かせないドメインで戦いをするとなると、またゼロから会社を立ち上げるようなものです。
無用な労力を避けるためにも、コア・コンピタンスの特定はとても大切です。

基本戦略・成長戦略の策定

さて、ここまで来れば、自社のいる業界でのKSF(=重要成功要因:Key Success Factor)がわかってきます。

業界で勝っていくために何を押さえなければならないのかということが見えてきます。またSTP分析などにより、ポジショニングを固めていくこともできます。

事業開発面における基本戦略が立てられれば、これを起点に組織はどうあるべきかを示す組織戦略、財務はどうしていくべきかを示す財務戦略も出来上がってきます。

基本戦略ができれば、次は、事業としてどこまで目指すかを描く成長戦略です。

成長戦略の策定でやることは、重点KPIの設定です。
基本戦略がある中で、それをどのように実現し、成長させていくか、このやり方は経営者によってそれぞれです。

事業開発面で重点KPIを設定し、伸ばしていく考えもあれば、年度によっては、先を見据えた組織開発に重きをおく計画となる場合もあります。

大切なことは、いま自分たちがどこにいて、先々どこまで行きたくて、そのために直近はこれに専念するという根拠のある意思を示すことです。

中期経営計画の適切な粒度感とは?

さて、中期経営計画の策定手順は以上となりますが、では、具体的にどの程度の情報粒度で作っていけばいいのか。
これには、GOOD/MORE事例を見比べることで理解が進みます。

例としてチームスピリット社の決算資料を、昨年(2020年)と今年(2021年)で比較しながら説明していきたいと思います。
資料は以下のリンクからご覧いただけます。

<MORE事例>
2020年8月期 決算説明資料 (出所:株式会社チームスピリット IR資料)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4397/ir_material_for_fiscal_ym/87699/00.pdf
<GOOD事例>
2021年8月期 決算説明資料 (出所:株式会社チームスピリット IR資料)
https://ssl4.eir-parts.net/doc/4397/ir_material_for_fiscal_ym/107287/00.pdf

チームスピリット社では、勤怠管理・工数管理・経費精算などの機能を併せもつSaaSの開発・提供を行っています。はじめにMORE事例から見ていきましょう。

MORE事例(株式会社チームスピリット2020年8月期決算資料)

2020年の決算資料では、まず基本戦略がはっきりとは示されていません。外部環境分析、内部環境分析ともに、不十分だったことが推察されます。

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17~18頁では、大枠の市場背景が紹介され、同社のポジショニングが書かれています。しかしながら、どういう経緯でこのような市場背景が生まれ、これまで同社はどういうことをやってきて、いまどんな経営資源があるから、このポジショニングが有利であるという根拠が不足していることがMoreな点かと思います。

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また19頁でも成長戦略が書かれていますが、これは戦略ではなく、“やりたいこと”の提示に留まっています。「エンタープライズ市場とミッド市場でNo1.となる」 ために、どういう戦略で行くのかというHOWの部分が説明されていません。これも、外部・内部環境の分析が不十分だったことが起因して、言及しきれなかったのではないかと考えられます。

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20~21頁では、国内市場規模と同社の成長ポテンシャルについて、見立てが書かれていますが、ここでも同じように「で、どうやってくの?」という突っ込みが入りそうです。

GOOD事例(株式会社チームスピリット 2021年8月期決算資料)

2021年の決算資料では、まず14~21頁で、同社の基本戦略がまとめられています。

外部環境分析により、日本の労働市場におけるマクロ課題とミクロ課題を丁寧に抽出していることがわかります。これに対して、自分たちのコア・コンピタンスと照らし合わせ、「Employee Success」という独自のポジショニングを確立しています。

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24~33頁では成長戦略が書かれています。ARR成長イメージをどうやって達成していくか、短期、中期、長期の3フェーズで成長テーマを明確にし、これに対する具体的な施策(HOW)を示しています。ポイントは、同社のコア・コンピタンスを根拠に、成長のための具体策を、事業開発、組織開発、財務の3つの側面から網羅的に示していることです。

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いかがでしょうか?同じように成長したい方向感は描かれているものの、2021年のほうは成長を期待できるバックロジックが強いことが一目瞭然です。

中期経営計画の策定ポイントまとめ

さて、中期経営計画は、どこまで細かく書けばいいのかということで、本稿を進めてきましたが、策定手順をご理解いただき、先のGOOD/MORE事例をお読みいただいたところで、イメージがついたかと思います。

どこまで細かく書けばいいのかと悩むのではなく、成長イメージを根拠づける強いバックロジックがある計画を作ろうと考えることが重要です。

最後に、中期経営計画の策定ポイントをまとめて、終わりにしたいと思います。

<中期経営計画の策定ポイント>
✅ 基本構造としては、中期経営計画は、As-IsとTo-Beの差を埋めていくた
   めの重点方針が根拠立てて説明されていること
✅ 最低限、事業戦略を描くための3C分析、5Forces分析、PEST分析、SWOT
   分析を実施すること
✅ 自社のコア・コンピタンスを適切に特定する。
✅ 外部環境分析、内部環境分析、コア・コンピタンスをもとに、一貫性の
   ある基本戦略、成長戦略を描き、その実現性が示せる状態にまで突き詰
   める。

これらのうち、どれかひとつでも漏れ落ちがあれば、計画は口だけのIRとなってしまいます。下方修正を繰り返すこととなり、投資家には見放され、未達習慣がついた組織となってしまい締まりのない風土に安住してしまう、というようなことは誰もが望んでいないと思います。

もし、この記事が中期経営計画策定における参考観点・ヒントとして少しでも参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。