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”大手企業だけが持つアセットにスタートアップだけが持つ戦い方をする”オープンイノベーションの成功の秘訣とは?

はじめに

こんにちは、CROHackです!

今回は、「企業提携の成功法則」と題し、TOPPANホールディングス朝田氏とユニファ土岐氏が語る大手企業×ベンチャー・スタートアップ企業における共創のあり方(メリットや、乗り越えるべき壁)を解説します。

今回ご登壇頂いたお二人(左から)
TOPPANホールディングス株式会社 事業開発本部 ビジネスイノベーションセンター長 朝田 大
ユニファ株式会社代表取締役 CEO 土岐 泰之

共創背景にある「ミッシングピース」の合致

オープンイノベーションのモデルケースともいえる、関係資産を保有するTOPPANグループと、技術資産を保有するユニファの共創背景を紐解きます。

祖業の縮小による、次の成長エンジンの創出のためのCVC設立

2016年のCVC設立の背景には祖業の縮小や業界成熟などがあった

TOPPANホールディングス株式会社(以下略称TOPPANホールディングス)は、2023年10月に社名から”印刷”をとり、「凸版印刷」から「TOPPANホールディングス」と社名を変更し、世間を驚かせました。

社名変更にもあるように、祖業である印刷やペーパーメディア事業の縮小や、業界全体の成熟など、創業100年を超える企業も、次世代の成長エンジンを創り出す必要がありました。

そこで、TOPPANホールディングスは2016年からCVCという形で、スタートアップ投資及び投資先との協業を支援するための組織を立ち上げ、スタートアップとの共創をオープンイノベーション活動の1つとして開始し、現在では約60社の企業へ投資を実施しています。

TOPPANグループのミッシングピース「技術」を持つユニファとの連携

TOPPANホールディングスの投資目的は大きく分けて①ミッシングピース ②ムーンショットと2つあり、おおよそ7:3の割合で投資活動を実施

①ミッシングピース
自社事業と補完関係はあるが、ケイパビリティの欠けているプロダクトやサービス、技術に投資

②ムーンショット
明らかに自社では補完のできない市場や技術にバックキャストで投資(非連続の挑戦)

TOPPANグループには「フレーベル館」という子会社があり、幼稚園・保育園に対して絵本などを販売していくネットワークを保有していました。しかしそのネットワークを活用し、より最適なソリューションをどのように提供していけばよいかがTOPPANグループ側の課題として顕在化していたものの、そもそも「保育」という分野に挑戦はしたいけど、具体的なアイデアがないという状態にありました。

ユニファが目指すパーパス実現のために必要な共創という選択

ユニファは「家族の幸せを生み出すあたらしい社会インフラを世界中で創り出す」をパーパスとしている。”社会インフラ”がキーワードであり、今回の業務提携の目的もこのパーパス実現のため

ユニファは特に保育園、幼稚園、こども園などのChildcare Tech領域で、保育業界の課題をテクノロジーで解決することを目指すスタートアップです。

例えば、この約10年で、日本における女性の就業率が向上したことで施設数や、利用率も増加しています。しかしその裏側では、現役で従事する保育者の不足が課題になっています。

そこでユニファは、園内での(登降園チェックや連絡帳、シフト作成など…)手書きを主とするアナログ業務をDXすることによって保育関連業務の負担を減らす「スマート保育園・幼稚園・こども園構想」を掲げ、ヘルスケア事業、フォト事業、ICT事業を展開しています。

そのサービスの立ち上げの成功要因にTOPPANグループとの共創があります。

ベンチャー・スタートアップにない「関係力・資金力」の活用

まず1つ目の成功要因として、業界初のサービスを広めていくにあたり、TOPPANホールディングスの子会社であるフレーベル館が持つ既存のネットワークを活用しました。

保育業界は多忙かつ、閉鎖的な側面もあり、「学納業者」と呼ばれるような、すでに業界に入り込んでいる企業以外の関係性づくりが難しいのが現実です。そこで園に向けて絵本などの販売実績のあるフレーベル館のネットワークを活用することで、急激に市場を作りだすことができました。

また、DXの基盤となるICT事業はサービス買収という選択をするためにTOPPANホールディングスが追加出資をし、すでに形のあるサービスをユニファが保有することができ、事業化のスピードの担保が可能となりました。

結果として、サービス利用数は1.5万件を超えた他、導入前後で業務時間が65%減(労働時間にすると約100時間/月)を実現した園もあるなど、高い成果が出ています。

イノベーションを最大にする共創先の見つけ方

①提携を持ちかける前に自社の強み・弱みを把握する

目指す「共創」のかたちが、自社の強みを伸ばすためなのか、弱みを補うためなのかを整理するステップを踏むことも重要

共創をする/しないに限らず、事業創出の際には、自社サービスの機能価値や強み・弱みを整理するステップが必要です。

例えば、今回のTOPPANグループの場合、ヘルスケア業界への進出を目標にしています。市場規模が大きく、既存事業との接続が少なく、新規性が高い業界へのチャレンジとなります。

TOPPANグループの強みは、圧倒的な既存ネットワークと印刷テクノロジーという一方で、弱みは受け身型組織であることだとTOPPANホールディングス朝田さんは言う。「顧客の依頼を確実に納品する能力はありますが、受け身体質で、自身での意思決定のスピードが遅いとなるとなかなか新しい市場や新たなチャレンジが難しいと思っています」

今回のユニファとの共創は、ヘルスケア業界への進出を考えたとき、自社だけでは解決ができないスピード感を持った新市場開拓、事業開発(弱み)のミッシングピースの補完を目的としています。

弱みの補完のみならず、既存ネットワーク(強み)も最大限提供しながらベンチャー・スタートアップの事業をどう支えていけるかのコミットも重視をしています。

②自社創出と共創の棲み分けを考える

自社の強み・弱みを把握し、新事業のスコープが定まったのちに、自社内での事業創出をするのか、外部との共創をするのか?を考えるタイミングが来ます。

大手企業が事業開発を行う最大のメリットは、リソース(資金や人員)が多いことです。したがってその潤沢なリソースを使い、自社内での事業創出事例も多くあります。

自社創出と社外との共創はどのように棲み分けをするべきか?――そのポイントは、新市場へのアクセスの速度と確実性です。

●速度=ベンチャー・スタートアップのケイパビリティを使った方が早い
確実性=事業成功や、協創意欲を高く持って臨めるのかの意思の高さ

③自社に合う共創先の見つけ方は”想いへの共感”

今回のTOPPANグループ×ユニファのような、ベストな共創先の見つけ方や見極めの最も重要なポイントは、業界や事業に対する熱意や想いといった”経営者のメンタリティ”です。そのベースがあり初めて、経営者の想いを支える経営・組織体制や、技術・業界理解があるのです。

今回の共創を振り返り、朝田さんは「特に土岐さんの場合は、保育者の業務プロセスに対する深い理解をお持ちだった」と語ります。

「TOPPANホールディングスは、100%子会社のフレーベル館という会社を持ち、幼保園に対するネットワークを持っているが、なかなか本当の意味での保育の現場における課題感は、我々の中だけでは理解はできてなかった。
土岐社長に、”ここにこういったペインがあり、解決していかないと、保育におけるDXは繋がらない、本当の意味での保育者、施設園のための市場形成にならない”と逐一教えてもらいました。土岐さんのこの保育に対する熱い想いがベースにあり、それに対する深い造詣があったと、これに尽きるかなと思っています」

真逆だからこそ価値の高い共創メリット

ベンチャー・スタートアップ側から見る共創メリットは「関係の幅の広さ」

TOPPANグループとユニファの連携の始まりは前述のとおり「販売代理店契約」です。こういった単発の契約やプロジェクトは”スピード感をもった販路開拓”を目的とし、共創とは、規模・種類も違う連携の仕方です。

共創は”保育の現場を変える”ことを目標に動き始めています。買収や投資、事業開発という次のステップのために、社内ではTOPPANホールディングスの代表や、社外であれば省庁(こども家庭庁)、自治体の子育て支援担当課などへの紹介のみならず、他サービスとの接続なども検討しています。

社外もTOPPANグループがハブとなり、様々な結節点をこれまで、そしてこれからも、ともに創り出していきます。連携は、広がっていくだけでなく、「その関係や経験が蓄積していくことも、今後への期待が高まる1つの理由である」と土岐さんはお話しました。

②大手企業目線のメリットは「どっぷり浸かって掘り下げるスキル」を得られること

大手企業から見たメリットは「ベンチャー・スタートアップが持つ業界を深く掘り下げる能力」を共創によって取得できることです。
大手企業の場合、その多くのネットワークからホリゾンタル的に事業や業界を知ることはできるものの、バーティカルに深掘りして、集中的にリソースを割いて事業を創ることは苦手です。

そこは、ベンチャー・スタートアップの力を借りながら、広くアカウントを持ってるところに対して、深掘りしていく、ここをうまく嵌め、メリットを大きくしていきます。

共創の際に大手企業が乗り越える壁

大手企業とベンチャー・スタートアップ。違う生き物だからこそ、強み・弱みをマッチさせて共創した際の相乗効果が大きくなるとお伝えしました。
しかし、違う生き物のカルチャーの違いが時には大きな溝となってしまうこともあります。

①既存事業に意義の説明が難しい事業シナジーの幻想

売上高数兆数千億規模になると、共創した結果の売上が数百万、数千万のレベルだと、経営陣から「成果」として認められないということがあります。

共創事業の責任者は、自社の経営陣へのコミュニケーションや、説明が難しい部分であり、重要な役割となります。

②大手がついていけない意思決定スピードの違い

ベンチャー・スタートアップは、経営者の事業へのコミットが高い、あるいは、ある程度権限委譲ができており、意思決定のスピードが早い。比較すると、大手企業の場合、組織が細分化されており、担当者がそれぞれの責任者への説明や関係部門とのコミュニケーション、決裁というプロセスが存在するため、どうしても意思決定のスピード感が遅くなってしまいます。

一方、ベンチャー・スタートアップ側は、これまでと桁の違う事業成長を目指すことを目標とし、大手企業側の大きな事業部門を巻き込むことの必要性(=時間がかかること)の理解、関係部門への説明が必要です。

その中でも、大手企業の中でのスピード解決には2点あり、まずは、各部門責任者への説明・決裁の権限の委譲を行う、会議体の仕組みの工夫などで解決をすることが必要です。

もう1点は、「現場」です。経営陣は、今後の自社の未来を見据えたうえでの共創の必要性など、高いレイヤーでの理解をしてもらっていても、事業部門の現場メンバーの理解が進まないというケースも実際にあります。

日常業務で動いている事業部門の現場メンバーからすると、メール一本で協業検討依頼などがあると、そこに情報格差や、熱感といったギャップが生まれスピードが鈍化することもあります。そこに対して、接するようなベンチャー・スタートアップ側の経営陣や現場のフラストレーションが溜まっていくというのは容易に想定できます。

③アメーバVSパズル 組織文化の違い

大手企業はパズル型のチームプレー。課題に対して、細分化・定型化し、「自分のタスクに落とし確実に遂行」することで一定の成果を出すことが得意です。
一方でベンチャー・スタートアップの場合、「課題を解決する」を第一目標において、時には役割をアメーバのようにベストな形に変えていきます。
エネルギーのかけ方が違うと考えています。

④ベンチャー・スタートアップはリスク?与信ルールの壁

共創先も決まると、大手企業が真っ先にぶつかる壁がこの与信ルールです。
大企業においては、帝国データバンクで資本金がどれくらい…と調査をして社内の与信ルールに従って取引先を決めます。

TOPPANグループの中でもベンチャー・スタートアップとの共創で「何を目指すべきか」考えていく中で、どうしても自社部門の損得を優先した判断が行われ、取引契約ですら締結に事案を要するケースが多々あります。
おそらく日本企業の中でも段階的に見直していくべき大きな課題だと思います。

大手とスタートアップの共創成功のポイントは2つの「分断をなくす」こと

①両者の情報の「分断」

一言で言うと「信頼関係」とも言い換えられます。
例えば、大手企業と比較するとベンチャー・スタートアップの事業は、いい時も悪い時もある。しかし、その悪いときの課題も共有をし、一緒に危機意識を持ちながら乗り越えることで信頼関係を作ることが重要です。

今回のケースでも「土岐さん以外の経営層のメンバーからも、”TOPPANグループさんのこういうケイパビリティ使えませんか?”とか、”こういうとこでちょっと困ってるんですよ”という、日々の相談のようなコミュニケーションができている。ここに尽きるのかなと思ってます」と朝田さんは回顧する。

②大手企業が社内の分断を起こさない(起きていない)こと

大手企業のような、既存ネットワーク基盤という強い武器を持つ企業との共創の場合、縦軸の事業のバラエティな部分と、横軸で組織の階層の面積が大きいほうがベンチャー・スタートアップから見るとメリットは大きくなります。

しかし、階層や領域で分断が発生している企業も少なくはないので、大きな企業の誰かが熱感を持ってもそれが波及しない、ということもあります。

今回はそういった分断がなく、TOPPANグループの中に、ユニファというベンチャー・スタートアップが入りこめたポイントはTOPPANグループの総合力の高さだけではなく、そこにも仕組みが存在していました。

分断を起こさないために「出向」という仕組みを活用する

①両者の情報の分断を防ぐ/②既存ネットワーク基盤を有効に活用するために社内分断を防ぐための有効な手段として、「出向」という仕組みがあります。

共創先に出向という形を取り、ベンチャー・スタートアップの熱感やスピード感といった雰囲気をリアルに感じ取り、情報をスピーディーに獲得することで当事者意識が上がるといったメリットがあります。

社内の場合は、事業部を横断した人材交換や出向という形で部門・階層間の理解を深めることも可能となります。

まとめ

本記事でTOPPANグループとユニファの事例を通して、大手企業とベンチャー・スタートアップが違う生き物だからこその大きなオープンイノベーションのメリットがあることが理解できたと思います。

まさに、大手企業だけが持つ既存ネットワーク基盤というアセットに対し、ベンチャー・スタートアップだけが持つ熱感やスピード感といった戦い方をするのです。

ポイントをまとめると、

1.自社の強み・弱みを把握し、事業開発及び共創の目的が、ミッシングピース補完/ムーンショットへの挑戦かを定める

2.大手企業×ベンチャー・スタートアップのような、ネットワーク基盤資
産と高い技術資産の相乗効果を生み出す共創の際には、”想いに共感・共鳴をできる”ことを優先する

3.組織や環境の違いは必ず発生するものとして認め、信頼関係を築く、仕組みでの解決策を模索する(「出向」など)

今回の2社の共創は7年の年月をかけて、様々な試行錯誤を繰り返した歴史からの学びを共有いただきました。

ユニファの土岐様が共創のメリットとしてお話されたように、オープンイノベーションは一時的なものではなく、長い期間をかけ、信頼関係を築くことのコミットを双方でしていくというところがとても重要だということでした。

様々な大手企業×ベンチャー・スタートアップの共創がこれからどんどん活況になってくると思います。まだ事例や要点といった情報は少ないと思いますが、共創を目指す方に、ぜひ本記事がご参考になれば嬉しいです。

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