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安易なインサイドセールスの導入前に考えたい-今再考する「THE MODEL」の本質

-「THE MODEL」を再考する意義

こんにちは。CRO Hack編集メンバーの松本(@ryota_fs200)です。普段は、ベンチャー企業向けに事業検証やグロースに関するコンサルティングに携わっています。

また、前職では、主にBtoB SaaSの事業者様を対象にインサイドセールスの代行からコンサルティングまでを一気通貫で支援する仕事を長らくしておりました。

さて、ここ数ヶ月間、インサイドセールス組織の立ち上げや「THE MODEL型」の組織への移行に関する相談が増えてきております。

その背景としては、国内における新型コロナウイルスが流行する中、期せずして、リモートワークに注目が集まった事と無関係ではないでしょう。リモートワーク下においては、必然的に、これまで「対面」で行ってきたコミュニケーションの「非対面」への移行を余儀なくされるケースも増えてきています。

その結果、メールや電話等の非対面で営業活動を行う「インサイドセールス」はかつてない程注目を集めています。

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なお、緊急事態宣言は段階的に緩和され、新型コロナウィルスの影響は緩やかに収束に向かっていると考えられている一方で、第二波・第三波の可能性も指摘されております。引き続き、非対面の営業活動の強化が、経営課題の1つとして位置づけられる事は間違いないのではないでしょうか。

しかし、分業型の営業組織への移行やインサイドセールスの立ち上げの際には、事前に設計すべきポイントがあります。無計画な組織・体制の変更は現場のいたずらな混乱を招くばかりでなく、結果として生産性を下げてしまう可能性もあるのです。

本稿では、改めてTHE MODELーマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセスを参考に、分業型営業組織に注目が集まった背景と組織設計のポイントについて解説いたします。

なお、前述の通り、本稿は「組織設計」にフォーカスして解説をするため、「インサイドセールス」について詳しく知りたい方は、以下の「インサイドセールスの盲点-成約数が伸びないたった1つの理由-」をご覧下さい。

-THE MODELの定義と分業組織のメリット

狭義の「THE MODEL」とは、

①見込み顧客の獲得を目指す「マーケティング」
②案件(もしくは商談)の獲得を目指す「インサイドセールス」
③「受注」の獲得を目指す「フィールドセールス」
④既存顧客の契約継続や単価UPを目指す「カスタマーサクセス」

の分業体制による営業組織です。

従来型の営業活動は、見込み顧客の開拓~見込み度の見極め~提案書の作成~交渉までの一連の購買プロセスを1人の営業で完結していました。

一方で、分業型の営業組織は、このプロセスを細分化し、プロセス毎に異なる役割を与える組織設計となっています。

この様な分業型モデルを採用する事によって得られるメリットとはどのようなものでしょうか。

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a. 効率化と専門性の深化
分業化によって、各人は自身に割り振られた役割とタスクに集中できるようになり、一気通貫型の営業組織と比較してオペレーションが効率化されます。

特に、従来型の営業をマルチタスクからの開放するという側面が強調されるケースが多くなっています。

訪問の合間を縫ってテレアポや進行中の案件フォローを行い、帰社後に提案書や見積書の作成に取り掛かる…というのが、従来型の営業のイメージではないでしょうか。

この「マルチタスク型」の営業手法には、メリットももちろんありますが、

①既存顧客へのフォローが手薄になり、解約やクレームのリスクが高まる
②見込み顧客のカバー率が低下し、受注機会の損失リスクが高まる
③工数が分散し、提案活動へ集中できず、受注率が上がらない

という負の側面があります。

分業組織においては、これらの負を解決する事が可能です。営業=フィールドセールスは、顧客との商談や交渉といった「受注」に結びつく活動に集中できるようになり、結果的に受注率が高まると考えられています。

また、長期的な視点に立てば、分業化により、各人は専門性を高める事が可能となります。

その利点を活用し、セールスフォース・ドットコムに代表される多くのSaaS企業においては、インサイドセールスを人材育成組織として位置付け、将来的にマーケティングやフィールドセールスへのキャリアパスを設計している事例も見られます。

分業組織は、オペレーション面だけでなく、社員の育成面からも非常に効率的な組織形態とも言えるでしょう。

b. KPIの分解によるボトルネックの特定
「THE MODEL」の特徴の1つとして、マーケティングやインサイドセールス等の部門ごとのKPI設定が挙げられます。

すなわち、これまで「受注数」や「アポ数」といった、言葉を選ばずに言えば「大雑把な」管理から、営業プロセスを明確に定義し、プロセス別の数値を徹底的に「可視化」する運用への変更を意味します。

この「可視化」によって、契約数の増減の要因の特定が容易に確認できるようになります。例えば、月間の成約数が30%減少した場合、

・見込み顧客が減ったのか?
・案件数が減ったのか?
・商談数が減ったのか?

といった要因について、仮説構築と精度の高い改善施策を早急に検討可能になるのです。

c. カバー範囲の絞り込みによる中長期客の案件化
一気通貫型の営業スタイルを経験した事のある方であれば、誰しも「中長期客の取りこぼし」経験があるのではないでしょうか。

例えば、半年前に、予算編成時期の問題で失注になった見込み顧客のケースを想像してみましょう。その見込み顧客において突発的な事業方針の転換があり、急な予算組みを実施。偶然、商談機会を得た競合他社と契約を締結。

上記は極端な例にせよ、繁忙期が続き、中長期顧期へのフォローが手薄になり、機会損失を被ったという例は枚挙に暇がありません。

この様な事態に陥る背景としては、従来の営業職に求められる業務が極めて広範であり、機会損失を生みやすい構造になっていたとも考えられます。

分業型組織においては、中長期客へのアプローチは主にインサイドセールスが担当します。商談による長時間の拘束や移動時間によるロスの多いフィールドセールスと比較して、

・1日あたりのアプローチ量が10倍近く確保出来できる
・常に顧客管理システム上の情報を確認するため、アプローチの優先順位づけが容易

というインサイドセールスの特徴によって、中長期客の機会損失の防止が可能となります。

-THE MODELが注目される2つの背景

前章では、THE MODELの定義と分業組織のメリットについて解説しましたが、そもそもなぜ分業組織が注目されるようになったのでしょうか。本章では、分業組織が注目される背景について解説します。

a. 新規リードの頭打ち
BtoBの検討型・高額商材では、リード獲得段階で具体的に導入を検討している見込み顧客の割合は10%程度と割合としては非常に少ない傾向にあると言われています。

一方で、全体の25%は中長期的にも見込みのない層であり、残りの65%が中長期的に顧客となりうる層となります。

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ここでのポイントは下記3つの点に集約されます。

・マーケティング活動に注力をすればするほど、以前に接触をした見込み顧客からの流入割合が増える(純粋な新規リードが減少する)
・65%の中長期見込み顧客は丁寧にフォローをしていく事で一定数が受注に繋がる
・既に獲得している見込み顧客には追加のマーケティングコストが少なく済む

しかし、これまでの一気通貫型の営業組織においては、中長期の見込み顧客は営業から優先順位を下げられがちでした。

特に、見込み顧客の管理を属人的な営業の管理に任せている様な場合には、俗に言う「塩漬け(=ほぼ未接触)」に近いケースもあったでしょう。これは、会社全体にとって大きな機会損失であるという他ありません。

一方で、単月の売上を常に追い続ける営業にとって、こうした「足の長い」見込み顧客の優先順位が下がってしまうのは、ある種当然であり、個人の問題ではなく、構造上の問題として対処する必要があります。

こうした文脈の中で、中長期の見込み顧客に対して、量的にも質的にも適切なコミュニケーションが取れる分業型の営業組織に注目が集まっていると考えられるでしょう。

b. 顧客の購買検討プロセスの変化
今ではよく知られているBtoBにおける購買意思決定に関する調査データがあります。それは、2012年にシリウス・ディシジョンズが発表した「一連の購買プロセスにおいて、前半の67%は営業担当者が接触する前に終わっている」という事実です。

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その背景には、デジタルマーケティングによる普及がある事は間違いありません。

Web上でサービス資料や導入事例、デモ体験までできるようになり、検討に必要な一定量の情報は、営業担当に接触せずとも獲得できるようになっています。

マーケティングやインサイドセールスは主にこの「営業非接触段階」において、見込み顧客との関係性を築く役割が求められているとも言えるでしょう。

先程、分業型組織における各職種の専門性の深化について言及しましたが、逆の側面から見れば、プロセス毎に高度な専門性が求められるようになっており、一気通貫型はステップ毎に見込み顧客が求める水準のコミュニケーションを取る事ができなくなっているとも言えるのではないでしょうか。

この様な環境下において、古典的な営業アプローチを繰り返すだけでは、検討の土台にも乗れないというケースも出てくる可能性が高いと考えられます。

なお、この非接触領域における見込み顧客とのコミュニケーションにおいては、マーケティングオートメーションの活用やそれと組み合わせたインサイドセールスの活動等がポイントとなります。

ですが、このテーマだけで複数の記事が書けるくらいの内容になりますので、本稿では詳細な言及は避けたいと思います。

-分業モデルの全体設計における3つのポイント

a. 顧客ステージと移行判定基準の設計
顧客ステージ設計は、一般的に

認知の獲得

見込み顧客の獲得

見込み顧客の評価

見込み顧客の育成

商談の実施

交渉の実施

契約の締結(受注)

というのが教科書的な設計になります。

一方で、留意すべきこととして、商材単価の高低や販売先の意思決定プロセスに合わせたカスタマイズが必要となる点が挙げられます。上記を参考にした上で、実態に即した顧客ステージ設計と定量的な可視化を行いましょう。

また、顧客ステージ設計「だけ」で済ませた状態でTHE MODELの運用を行うのは極めて危険です。

なぜなら、ステージ毎の移行基準・定義が属人化してしまうと、ステージ毎に滞留するリードの質がバラバラになってしまうからです。これでは、わざわざ時間をかけてステージ設計を行った意味がありません。

移行基準は、

・誰が(Who)
・どの様な状態になったら(What if)
・何をすればよいのか(What)

を具体的に記述する事で、個人・チーム間で共通の認識を持てる状態にする事が重要となります。

b. 各役割の担当範囲の整理
顧客ステージと移行判定基準を決めたら、次は各チームの担当範囲を明確化する必要があります。

まず、前提として、実際のTHE MODELの運用パターンとしては下記の類型がある事を留意してください。

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一般的には、①の正統派インサイドセールス型がTHE MODELの運用形態として想起されますが、実際は一部の役割が重複したり、②③のようにインサイドセールスの役割が広がるケースがあります。

どの組織形態を選ぶかについて絶対解はありませんが、上記にそれぞれのメリット・デメリットをまとめていますので、組織設計の参考にしてみて下さい。

c. KPIとモニタリング指標の設定
THE MODELにおいては、チーム毎に、KGIに紐づく、KPIが設定される一方で、現在の営業プロセスを多面的に評価するためにモニタリング指標を設ける事があります。

KPIは通常、

・マーケティング:リードの創出数(もしくはMQLの創出数)
・インサイドセールス:商談の創出数(もしくはSQLの創出数)
・フィールドセールス:受注の創出数(もしくは受注総額=単価×件数)
・カスタマーサクセス:Cutomer Churn RateもしくはRevenue Churn Rate

と設定するのが一般的ですが、これらの指標だけでは、現状の課題や改善点を見つける上では不十分です。したがって、部門毎の「健全性」を測るために、%KPI(例:MQL転換率、SQL転換率、受注率等)というモニタリング指標を同時に見る必要があります。

注意点は、「追うべき指標」と「見るべき」指標を分けて考える必要があるという事です。%KPIは、あくまでボトルネックを特定するための指標であり、追うべき数字は各KPIである事をマネジメント上は意識する必要があるのです。

-注意すべき「分業の副作用」

a. 分業化による極度の「個別最適」
2章で解説した通り、分業化には多くのメリットがある一方で、「分業の副作用」とも言える症状が発生するリスクが常につきまといます。

特に、部門毎のKPI設定はコミットメントラインを明確化する上では非常に有効ですが、各チームのメンバーが「受注」やその先にある「顧客の成功」ではなく、部門KPIの達成「だけ」に注力するようになると、分業組織は負のループに陥ります。

❝インサイドセールスからの商談供給が減ってくると、営業はまだ「柔らかい状態でもいいからパスしてくれ」と言い始める。きっかけさえあれば、次に繋げられると思うからだ。その結果、見込みの薄い顧客への訪問が多くなると、本来集中しなければならない顧客へのフォローや提案の質が低下し、営業の生産性は下がる。そのような状況を見かねたマネージャーは、マーケティング部門に「リードが足りない」とプレッシャーをかける。そうなると最初に逆戻り。延々と負のループが続くことになる。❞

(『THE MODELーマーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』,P62-63より抜粋)

また、数字の悪化はチーム間の連携にも影響を及ぼします。フィールドセールスは「商談の質」を、インサイドセールスは「リードの質」を指摘するようになり、部門間が他責的になることでり、本来THE MODELに必要なチーム間の連携が失われてしまうのです。

b. 「分業の副作用」の処方箋
この「分業の副作用」と言うべき負のループから抜け出すための処方箋について『THE MODELー-マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス』では、以下3つの方針を挙げています。

・売上等の共通目標を全組織に浸透させる事
・顧客起点で各組織の施策や活動を見直す事
・CRO(最高収益責任者)を置く事

一方で、上記3つの方針は、あくまでガイドライン的な位置付けであり、「分業の副作用」が各組織において発症する際の「個別性」については言及していません。

月並ですが、正確な現状分析による原因の把握と適切な対策の検討という問題解決の基本的なプロセスを踏む事が、分業組織の健全な運営に繋がるのではないでしょうか。

■まとめ

いかがでしたでしょうか。あらゆる理論やモデルに共通する事ですが、その裏側にある前提条件や導入のメリット・デメリットについて把握した上で意思決定をする事が重要です。

チェックリスト
☑ 顧客ステージは、顧客の購買プロセスに合わせた設計になっているか?
☑ 顧客ステージ毎の滞留数は可視化する事ができているか?
☑ ステージ毎の「以降判定基準」は明確になっているか?チーム・個人間で共通認識を持てているか?
☑ KPIとモニタリング指標を定義し、それぞれ目的に沿った運用・改善活動が行えているか?
☑ 「個別最適」に陥らないよう、最終的なゴールが「KGI」や「顧客の成功」といった本質的な指標である事について共通の理解が持てているか?
☑ 「分業の副作用」に陥った場合、誰が調整役となるかは明確になっているか?

今回の記事を参考に、改めて、「THE MODEL」や分業制を導入するかどうかについて検討してみて頂ければ幸いです。

次回記事では、実例として、分業型組織の副作用に直面し、解決に至った具体的な事例について解説します。今まさに分業制へ移行しつつある、もしくは、これから本格的な移行を検討している方にとっては、特に参考にして頂ける内容となっています。ぜひご覧下さい。


■この記事を書いたひと
松本良太(まつもとりょうた)

実務経験をもとにしたセールス領域&カスタマーサクセスが強み。

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