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ソーシャルベンチャーが切り開く日本の新たな未来 #事業開発SUMMIT2023

こんにちは、CROHackです!

今回は、2023年8月に開催された「事業開発SUMMIT2023」のセッション「ソーシャルベンチャーが切り開く日本の新たな未来」のレポートをお届けします!

どのような領域で事業開発をする場合においても、「社会課題解決」というテーマを無視することはできません。一方で、社会課題の解決が持続可能なビジネスとして成立しているケースは、非常に少ないのが現状だと思います。事業開発✕社会課題というテーマにおいて、ビジネスを成功させるトリガーはどこにあるのでしょうか?

ソーシャルビジネスの最前線を走る3名の登壇者に、社会課題解決とマネタイズの両立という、非常に高いハードルをどのように乗り越えればいいのかを伺いました。

登壇頂いた方

山崎 大祐氏
株式会社マザーハウス 代表取締役副社長
1980年、東京生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、ゴールドマンサックス証券にエコノミストとして入社。2006年に「途上国から世界に通用するブランドをつくる」を理念とする株式会社マザーハウスを共同創業し、07年より参画、取締役副社長に。株式会社マザーハウスは23年6月現在、アジア6カ国でバッグ、ジュエリー、アパレル、チョコレート等の工場・工房を運営、日本、台湾、シンガポールで約50店舗の店舗を展開している。加えて、2018年より「思いをカタチにする経営ゼミ」を主宰し、経営者・起業家を中心に250人以上の卒業生を輩出している。そのほかにも、株式会社Queや株式会社坂ノ途中の社外取締役、日本ブランドサッカー協会理事、10社以上の株主も務める。TBS朝の情報番組グッとラック!のレギュラーコメンテーターなどメディア出演も多数。

松田 文登氏
株式会社ヘラルボニー 代表取締役Co-CEO
ゼネコン会社で被災地の再建に従事、その後、双子の松田崇弥と共にヘラルボニーを設立。4歳上の兄・翔太が小学校時代に記していた謎の言葉「ヘラルボニー」を社名に、福祉領域のアップデートに挑む。ヘラルボニーの営業を統括。岩手在住。双子の兄。世界を変える30歳未満の30人「Forbes 30 UNDER 30  JAPAN」受賞。『異彩を、放て。「ヘラルボニー」が福祉 ✕ アートで世界を変える』。

大畑 慎治氏
Makaira Art&Design|MAD 代表 ソーシャルグッドプロデューサー
ソーシャルグッドの社会実装プロデューサー。大手企業で新規事業、新商品、新規研究を立上げ後、ブランドコンサル、ビジネスコンサル、ソーシャルクリエイティブグループの執行役員にて、様々な業界大手企業の事業開発とブランディングに従事。現在は「事業開発 ✕ ブランディング ✕ パブリックアフェアーズ」を武器に、大手・ベンチャー・起業家・業界団体・NGO等のソーシャルグッドな事業と市場と産業の構築を手がける。その他、 O ltd. CEO、早稲田大学MBAソーシャルイノベーション講師、IDEAS FOR GOOD外部顧問、dg takano 戦略顧問、感覚過敏研究所 外部顧問、おてつたび ゆる顧問、ここちくんプロデューサーなど務める。

事業の成長を感じたブレイクスルーのポイント

即席麺や洗濯機の開発により、多くの人々の生活の課題が解決されてきました。しかし、経済合理性が高い課題は、いずれ誰かがビジネスを立ち上げて解決してくれます。

そうではなく、一見すると利益につながりにくそうな課題や、市場がとても小さなビジネスなど、時代が進んでも取り残されている課題が数多く存在するのです。大畑氏は、こうした今の時代に残されてしまった課題を解決していくビジネスこそが、「社会課題解決型ビジネス」だと言います

途上国から世界に通用するブランドをつくり、自社店舗や百貨店などで販売しているマザーハウス。福祉施設に在籍する知的障害のある作家とライセンス契約を結び、ライセンス事業やリテール事業、アート事業などを展開するヘラルボニー。

この2社は、まさに大畑氏が提唱する社会課題解決型ビジネスを展開し、着実にその業績を伸ばしています。両社はどのように、ビジネスで利益が生まれるまでに成長できたのでしょうか?松田氏と山崎氏に、各事業のブレイクスルーのポイントを聞きました。

ヘラルボニーの場合、事業をスタートさせた最初の2年間はうまくいかず、多くの苦労を重ねたと松田氏は言います。それでも、「この事業は誰の味方なのか」という“火種”を大切に活動を続け、現在の形まで成長させることができたそうです

ヘラルボニーの“火種”となったのは、福祉施設の関係者の皆さんでした。

「ヘラルボニーのような事業を生んでくれてありがとうございます」
「本当に期待しています」

社会課題解決型ビジネスにおいて、初期の段階で「自分たちの仲間は誰なのか」を明確に意識できることこそが、事業をスケールするための核になると松田氏は説明します。コアのファンが顕在化している状態で、2年間もの積み重ねを行ったことが、ヘラルボニーの成長につながったのです

一方、マザーハウスのブレイクスルーのポイントは2015年の売上10億を達成したときでした。2011年頃のマザーハウスは売上規模が2億円ほどで、この時期には退職者が多かったそうです。この現状を、山崎氏は「社会企業搾取」だと感じました。社会課題解決という高いモチベーションはあるものの、収入が上がらない。従業員が抱いていた現状への不満や将来への不安が、拭いきれなかったのだと山崎氏は当時を振り返ります。

従業員に安定した収入を保証することも、事業のサステナビリティにつながる。そう考えた山崎氏は、一週間かけてファイナンスモデルを組みました。その結果、マザーハウスの事業がサステナブルに機能するためには、売上10億が必要だという結論に至ったのです。

この内容を発表したとき、従業員から猛反発にあいました。現状でも多忙を極めているのに、どうやって10億の売上を確保するのかと。多くの否定的な意見に対して、山崎氏は絶対的な自信を持って従業員を説得しました。「責任者が事業や目指すべきゴールに自信を持つ」ということも、社会課題解決型ビジネスでは必要だと山崎氏は語ります

売上10億という数字を目指す過程で、ある象徴的な出来事がありました。小田急百貨店新宿店本館に店舗を出店したのです(本館閉館後、2022年10月に「マザーハウス小田急新宿メンズ店」をオープン)。

新宿の一等地に店舗を構えるというのは、マザーハウスにとって大きな成果でした。しかし、フタを開けてみると売上は伸びませんでした。当初は同じフロアに出店する15ブランドのうち、下から2番目という厳しい成果だったそうです。

他のブランドと同じ条件・立地で店舗を出したことで、「商品をもっとブラッシュアップさせなければ」と同社は考えました。そこから数年をかけて、最終的に15ブランド中2位の売上にまで成長しました。企業が抱える理念やテーマだけでなく、商品力でも勝てることを証明したのです。その結果、売上10億という大きな目標を達成しました。

成功しているソーシャルビジネスの共通点

大畑氏は、本セッションに合わせて山崎氏・松田氏の話に対して「ソーシャルビジネス仮説」を投げかけます。そのうちの一つが、「ソーシャルビジネスは分類すると勝ち筋が見えてくる説」です

この「分類」に基づいてマザーハウス、ヘラルボニーを比較すると、両社はまったく異なる事業領域で活動してますが、いくつか共通点があります。例えば、以下の2点です。

● toC向けのプロダクトを提供している点
● 課題解決をする先とお金を払う先が異なる点

つまり、商品を作るところで障害のある人や途上国課題を解決し、収益は商品を受け取る一般消費者や企業から得るというビジネスの構造にも共通点があります。こうした共通点について、両者が思うことを伺いました。

山崎氏は、マザーハウスとヘラルボニーの共通点は「社会価値を一般価値に変換できていること」だと言います。両社が市場に投入する商品は、社会課題解決に基づいて生み出されていますが、提供されているものはアパレルやアートです。こうした社会価値→一般価値の変換を行わないと、事業の拡大は難しいだろうと山崎氏は指摘します。

松田氏はこの点に同意しつつ、プロダクトを磨き続ける視点がソーシャルビジネスでは忘れられがちだと言います。資本主義の市場で戦う以上、顧客に届ける商品・サービスの質の追求こそが、ソーシャルインパクトにつながっていくのです。

「現場の声」にもっと耳を傾けてほしい

大畑氏は、「ソーシャルはビジネスを意識する前の行動が鍵になってる説」というもう一つの仮説についても二人に投げかけました。多くのマーケターは、事業開発の構想を練るとき念入りにビジネスモデルを設計して、どのように資金調達をするのかを考えます。

しかし、大畑氏の周りを見渡すと、そのパターンに該当しない社会起業家が多く存在します。解決すべき課題が目の前にあり、そこからファンや応援者を獲得しつつ、事業を拡大させているのです。

こういった社会起業家の動きに、山崎氏も松田氏も強く共感すると言います。実際に両者は、ビジネスにおいてマーケティングリサーチをやったことがほとんどないそうです。

山崎氏の場合、行動の原動力となっているのは「現場の声」だといいます。マザーハウスを創業してからの17年間、山崎氏は世界中を回りました。途上国の人々と接するたびに、世界に山積している問題に直面し、怒りが収まることはありませんでした。そうした怒りから、「この課題をどうにか解決したい」という想いが醸成された段階でHowを考えていくのです。

山崎氏はセッションの視聴者に、「まずはその業界や特定の地域に行き、困っている人の声を聞いてほしい」と訴えます。困っている人の話を聞くことで、人々の苦労に共感でき「このままではいけない」と行動に移せるからです。

松田氏も、山崎氏の意見に賛同します。ソーシャルビジネスでは、最初の一歩目を踏み出した人が事業を牽引することで、成功へとつながります。デスクトップサーチのように、ネット上で調べただけの知識では、社会課題解決の熱意は高まりにくく、最初の一歩にもつながりません。

高い熱量で最初の一歩目を踏み出し、プロダクトをどのように作るのかを考える過程で、伴走してくれる仲間たちを見つけていく。この流れこそ、ソーシャルビジネスには必要だと松田氏は語ります。

ソーシャルビジネスに取り組むすべての人々に贈る言葉

最後に、各社が取り組む事業の今後の展望や、ソーシャルビジネスに挑戦しようという人々へのメッセージを伺いました。

大畑氏は、自分がソーシャルグッドの領域にチャレンジしようと思ったのは、自分が死ぬ瞬間に、世の中の役に立つことができたと思いたいからだと言います。同時に、今の時代に残されてしまった社会課題を解決するのは、たまたま今の時代に生まれたビジネスパーソンの使命でもあると考えているそうです。

自分の子どもや孫に、自分の仕事を笑顔で語れるような仕事をしたい。そうした想いを持って、ソーシャルビジネス領域にチャレンジしてほしいと締めくくりました

松田氏は、これからソーシャルビジネスに挑戦する人は、逆張り的な時流に逆らう発想を大切にしてほしいと語ります。社会課題を解決しようという時、自分の経験範囲を超えた領域に挑戦し、そこにある問題に熱意を注いで火をつけていかなくてはならないからです。

ヘラルボニーは今後、「アート」や「障害福祉」の価値観を変える存在の第1想起を獲得したいという想いがあります。今後も新たな事業を続々と開発していく予定なので、ぜひ注目していてほしいと言葉を結びました。

山崎氏はまとめとして、ご自身が大事にしている「大きな物語と小さな物語」という考え方を紹介しました。SDGsや企業のミッション・ビジョン・バリューなど、ビジネスではよく「大きな物語」について語られます。

山崎氏が大切にしているのは、工場・工房で働く人々の人生が変わった、お客様が幸せな気分になったという、大きな物語の裏側にある「小さな物語」です。山崎氏の事業開発は、すべて誰かの「〇〇に困っている」という、小さな物語がモチベーションとなっています。

海外に目を向けずとも、「課題先進国」と言われる日本では多くの人々が何かに困っています。これからソーシャルビジネスに取り組む人々は、こうした小さな物語を大切にしてほしい。そして、マザーハウスも事業規模がどれだけ大きくなろうとも、小さな物語を解決できる会社でありたいと話しました。

まとめ

セミナーのポイントをまとめました。

● 社会課題解決型ビジネスは「今の時代に残されてしまった課題を解決するビジネス」
● ソーシャルビジネスであってもプロダクトを洗練させる姿勢がとても大切
● ビジネスモデルを考える前に、まずは現地の人々の声を聞こう

ソーシャルビジネスにおける事業開発ということで、普段のビジネスとは大きく異なる視点からの話も多かったのではないでしょうか。

これからソーシャルビジネスに挑戦したい方は、まず「現場に行く」を合言葉に、今を生きる人々が何に困っているのかを探究してみてください。