急成長SaaS -拡大する国内市場規模とモノづくり神話からの脱却【無料DL】
みなさんの会社では、どのようなツールを活用しているでしょうか?テレワークで活用が進むZoomなどのビデオ会議ツールやSlackなどのメッセージツール、そしてMarketoなどのMAツール…などなど。いま、全世界でSaaS(サース)市場が熱いということを、皆さんも肌で感じているのではないでしょうか?
世界に400 社以上存在するユニコーン企業(企業価値1,000 億円以上の未上場企業)のうち、50社以上がSaaSを手掛けていると言われています。
日本でも近年急速に熱を帯びており、市場規模も年々拡大するなか、2018年のSaaSの資金調達額は総額550億円を突破。5年前の5倍以上の規模です。
↑日本のSaaS市場の変遷と予測
SaaSというだけでValuation(企業価値)が上がりやすいとも言われ、すでに国内市場にも多数のSaaSのスタートアップが生まれています。そのため、既にどの領域においても競争環境が激化しています。
そのような状況下で、SaaSスタートアップが頭一つ出るには、「法人営業」への大幅な舵切りが求められます。今回は、SaaS市場を改めて振り返りつつ、どのようにこの市場を攻略していくかをご説明していきます。
SaaSとは、Software as a Service の略で、ソフトウェアを利用者の必要に応じてインターネットを介して提供するサービスというのが文字通りの解釈になります。
ただし、定義の曖昧さがあるため、一般的には、ビジネス向け(BtoB)に、インターネットを介して、定額課金する(サブスクリプション)モデルを指すことが多いことから、本稿でもそのように定義します。
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世界中で盛り上がるSaaS市場
世界最初のSaaSは、営業支援ソフトウェアのSalesforceと言われています。
2000年頃までBtoBのソフトウェアといえば、ITベンダーに設計段階からゼロベースで企業用にフルカスタマイズ前提で発注するか、または、MicrosoftのOfficeシリーズ(Excelなど)のように固定金額で買い取ってインストールするしかありませんでした。
そこに、米国のSalesforceが営業支援用のソフトウェアをクラウドベースかつ定額課金制で提供するビジネスモデルを始めたことから今日に至ります。
SaaSというビジネスモデルが世に出てから早20年が経過しますが、世界規模でこれほどSaaS市場が活況になったことは過去ありません。
SaaSスタートアップへの投資で有名な米国のBessemerVenturePartnersは、10年前にはSaaSのユニコーン企業は皆無だったにもかかわらず、現在では50社を超えていると発表しています。
SaaS企業は、より大きく・強く・速く成長しており、その結果、2020年のグローバルのSaaS市場は10兆円弱程度、日本は5,500億円規模になる見込みです。
今、世界規模でSaaSモデルが急速に浸透拡大していますが、その勢いをつけているのはスタートアップに他なりません。
↑SaaS企業の株価の成長率推移
日本でも、2018年には150社以上のSaaSスタートアップが合わせて550億円規模の資金調達を実現しています。
大型調達も目立ち、2019年6月にはアプリ開発プラットフォームを開発するヤプリ社が30億円、7月には労務支援ツールを開発するSmartHR社が61.5億円、8月にはマーケティング支援ツールの「b→dash」を開発するフロムスクラッチ社が100億円の調達を発表しました。
調達した数十億円規模の資金は、認知を得るためにタクシーや電車内の動画広告に投じられているようです。
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国内のSaaS市場規模の増大に伴う過剰競争
国内でSaaS資金調達が活況ということは参入企業にとって追い風ではありますが、参入社数が多くなり競争が激化しているのも事実です。さまざまな領域のSaaSに対して多数の参入企業が存在し、完全にレッドオーシャンと呼べる市場でしょう。
法人向けSaaSの比較・検索サービスであるボクシルSaaSを見ると、日本で展開されているSaaSはすでに3,000近く挙げられます。
中でも特に数が多いのは、人事分野。次いで、マーケティングやITインフラ(サーバー管理、セキュリティなど)です。
人事系の中でも勤怠管理、研修などに細分化されており、細分化されたカテゴリーレベルでも数十サービスがひしめき合っていることも少なくありません。
このように参入企業が増加しカテゴリが細かく分類されると、これからリリースするサービスとしては、既存サービスとの差別化を図るために低料金化やカスタマーサポートの充実を余儀なくされたり、リードタイムの長期化が起きてしまうため、企業としては苦戦を強いられるケースが増えてきます。
SaaSの特徴として黒字化までに一定の期間を要するので、リードタイムの長期化や低料金化はそのまま、キャッシュに負の影響を及ぼす恐れがあります。
SaaS市場参入における意外な落とし穴とは
このように多数の企業が参入する背景には、SaaSを開発すること自体は技術的にそれほど難しくはなく、変動費率が低いことが挙げられます。
一度プロダクトを開発すれば、一部機能を無料で使わせるフリーミアムモデルをフックに自然に有料会員を増やすことができ、売上が次第に増えていくようにも思えます。つまり、かける労力のわりにリターンが大きそうだと認識されがちなのです。
しかし、ここに大きな落とし穴があります。
SaaSを導入しようと最初に考える企業は、スタートアップが中心になります。スタートアップ企業は全般的にITリテラシーが高い人財が多いため、初期コストが低く・即時導入ができ・社内コストも低いというSaaSの特徴がニーズに合致しやすく、導入は理にかなっていると言えるでしょう。
実際、多くのSaaS企業の実績を見ると、多数の有名無名スタートアップ企業のロゴを見られると思います。
しかし、各社の規模も市場における社数も限られているため、早晩、売上成長が頭打ちになってしまうことは想像に難くありません。
一番手に参入した企業がスタートアップ中心の営業で事業が立ち上がりかけた途端、市場全体の需要が十分に顕在化していないにもかかわらず、一気に後発企業が参入してしまう―――結果的に、限定的な市場を数十社で奪い合うという消耗戦的な構図を繰り広げがちです。
その上、その消耗戦も、都心の一部の企業群の中で繰り広げられているにすぎず、顧客獲得・維持コストに対するリターンが見合わないことも少なくありません。
加えて、市場規模が増大することにより、SaaSにおける主な集客チャネルであるコンテンツマーケティングの難易度も跳ね上がります。コンテンツマーケティングは競合となるサイトの数がそのまま難易度と直結しており、また、強いドメインを持った企業が参入してくるとさらにその難易度は高くなって行きます。
このように狙い目とされているSaaSではありますが、市場規模の増大によるレッドオーシャン化や顧客が限定的という背景だけをみると、既存の類似サービスを開発して空いている顧客に売りに行くというような戦略はもはや難しいといえます。
ただ、十分に差別化が図られていないSaaSの場合、スイッチングコストは低くなる傾向にあるため、シェア奪取の可能性も一定数存在します。
ベンチャーキャピタルが算出した企業価値に見合う収益を上げるには、大海に漕ぎ出す必要があります。そう、より市場規模が大きい都心部の大企業や、地方の中小企業というマーケットです。
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SaaS営業に強い人材を強化しモノづくり神話から脱却
とはいえ、今のレッドオーシャンの中で、SaaSスタートアップが大海に漕ぎ出し成功することは簡単ではありません。
大海に漕ぎ出し成功するためには地道な営業活動が必要になりますが、失われた30年を経てもなお、営業を軽んじたり疎んじたりするマインドが日本人に強いのではないでしょうか。
これまで幾度となく日本の製造業が経験した通り、「良いものを作れば自然に売れる」というのは幻想でしかありません。
とはいえ、「今後の成長には営業が肝になる」とわかっていても、法人営業に全力でアクセルを踏めるスタートアップは少数に限られています。このことからも、リアルでもインターネットでも、日本人はモノづくりを始めたら、とことん突き詰めようとしてしまう傾向が見られるでしょう。
マス向けBtoCならGoogleのように1ピクセルにこだわる必要もあろうかと思いますが、BtoBは違います。
特に海外を見ると、BtoBはある程度のプロダクト品質まで到達した時点で、営業強化に大きく舵を切ります。SalesforceもSAPもDellも、営業に注力して大きく成長しました。
BtoBは意思決定者が多く、意思決定プロセスも個社ごとに異なるため、放っておいても自然に売れることは決してありません。そこには、泥臭い顧客開拓を通じてプロダクトを現場に届ける営業担当が存在します。
そのため、プロダクトは6~7割仕上がったら、現場に届ける方を優先するべきです。プロダクトの質をいくら高めても、エンドユーザーだけが意思決定者でないならば、質以外の要素が導入時に重要な要素になることが大半だからです。
また、スタートアップと大企業や地方企業に横たわる溝が大きいことも、当初想定されるよりもSaaSが浸透しない理由と言えるでしょう。
SaaSを開発するような企業はエンジニアが多く、非エンジニアも世の中的に平均以上のITリテラシーを持つことが多いです。一方、日本の小規模事業者は最近でも「(IT機器やサービスを)導入できる人材がいない」「導入効果がわからない」といった悩みを抱えています。
ゆえに、SaaSを世に発表しただけでは、スタートアップ界隈のごく小さなシェアにとどまってしまうのです。
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過剰競争からSaaSスタートアップが勝ち抜けるには
実は一番手企業にとっても後発企業にとっても、最大の脅威は大企業です。
技術的な参入障壁が低く、コモディティ化しやすいため、ある程度普及し始めたら、GAFAMのような大手企業が規模にモノを言わせて参入し、既存サービスを短期間で一気に陳腐化させてしまうことがあります。
これはSaaSに限らず、インターネット業界で何度も繰り返されてきました。
そのため、スタートアップとして一番手で参入した企業は、大企業にとって参入障壁になるほど一気に規模拡大して、SaaS市場においてデファクトスタンダード化する必要があります。
■SaaSスタートアップが勝ち抜けるには?
では、SaaSスタートアップ企業が、スタートアップ界隈の限られた市場での競争から抜け、大企業や地方中小企業の顧客を獲得するにはどうすれば良いのでしょうか?
これには魔法の杖はなく、地道な営業活動こそが突破口になります。
日本企業は、過去数十年において横並び意識が強く、どのような商品やサービスでも、業界内で一定規模のプレゼンスを獲得すると一気に営業がしやすくなる傾向があります。そのため、この性質をうまく活かした営業展開をしていくと良いでしょう。
SaaSといった目新しく、一見取り組みにくいサービスも、「業界最大手の〇〇社が使っている」、「地域一番手の△△社が使い始めたらしい」、「SaaS企業が主催するイベントに行ったら最新動向がよくわかった」といったことが積み重なると、一気に雪解けが起きるように、顧客基盤が広がることがあります。
最初の数社から、十数社の顧客企業を獲得するまでが一番難しく、ここを乗り越えることが肝になるでしょう。
■SaaS営業を強化するために今必要なことは?
既に、新規のSaaSサービスの営業を強化することに取り組み始めているスタートアップも現れています。
最初に考えられる一手は、法人営業の経験者を採用することのように見えますが、これが実は難易度が高いです。
まず、採用したくてもフィットする人財が少なく、採用競争が激しいことが挙げられます。
次に、フィットした人財を採用できたとしても、大企業からの転職だとスタートアップのスピード感やカルチャーになじまず成果が出ないパターンもあるでしょう。
特に大手SEベンダーなどからスタートアップに転職すると、看板もなければ決まったテンプレ―トもなく、ターゲット領域や企業群すら曖昧模糊とした状態で、どのように営業活動を立ち上げるべきか見通しを立てることから仕事が始まります。
以前に比べれば、日本でも、楽天やDeNAなど、メガベンチャーと呼ばれる企業が増えているため、そこの卒業生を採用するケースも増えています。
ですが結局のところ、自分たちで試行錯誤をしながら営業活動自体の形を作っていった経験がないと、スタートアップでは成功しにくいのが現状です。国内で該当する人財は極めて限られた人数と言えるでしょう。
営業を強化するためには、トップ層と現場の「営業活動」に対する意識の改革がまず求められます。華やかではあるもののライトマンに届いていない広告宣伝に偏重したリソース投下から、一社ずつ着実に現場に根付かせるような営業活動に目を向け、トップ層自ら推進していくことが今必要なことではないでしょうか。
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おわりに
■SaaS市場攻略のカギまとめ
・SaaSは世界規模で市場が伸びており、その躍進をスタートアップが担っている
・日本では狭い市場を巡って市場がレッドオーシャン化している
・生き残るためには、都心部の大企業や、地方の中小企業というマーケットを開拓していく必要がある
・市場開拓には、地道な営業活動が必要であることをトップ層と現場が理解しないといけない
オリンピックが終わると、遅かれ早かれ景気後退が訪れるといわれており、一部の経済指標を見ると、すでにリセッションの予兆が指摘されています。
日本におけるSaaSサービスは、米国に比べると数歩遅れての立ち上がりではありますが、企業活動の課題を解決する次世代の仕組みとして、また労働生産性が低いと言われ続ける日本企業価値を高める方法として、着実に顧客企業を開拓し使われるようになってほしい…と私たちとしても願ってやみません。
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■出典
https://www.fcr.co.jp/report/191q02.htm
https://boxil.jp/