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「地方でスタートアップは本当に成功するのか」 ―スタートアップ都市福岡の取材で見えた成功の秘訣とはー

みなさんこんにちは、CROHackの大島です。
この度、CROHackでは地方スタートアップ特集の第一弾として、福岡取材を敢行致しました。(緊急事態宣言前の7/1-2に取材しております)

-日本では地方スタートアップが少ない

ご存知の方も多いと思いますが、日本のスタートアップは東京に一極集中しており、資金調達額のうち80%程度が東京のスタートアップによるものという現状があります。

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地域別資金調達額 INITIAL記事参照

直近ではSpiberなど地方発スタートアップ企業も徐々に生まれつつ有り、徐々に盛り上がりを見せているものの、実際にまだまだ地方で起業する人は多くない現状があります。地方起業というと、「ヒト・モノ・カネ・情報」すべてで東京よりも不足していると感じる人も多く、起業に踏み出す人が居ない現状があるのではないでしょうか。

北九州発スタートアップのクアンドさんも「東京に出てくるなら投資してもいいよ」と言われたと仰っており、地方でスタートアップをやることに懐疑的な人は多いのが現状です。

そんな中実際、地方で起業することは有りなのか無しなのかのリアルを探るべく、開業率日本1位であり、“スタートアップ都市”を掲げている福岡市にインタビューをしてきました。
今回、福岡市の職員の方と福岡の注目スタートアップ6社(ヌーラボ社、グルーヴノーツ社、グッドラックスリー社、Gigi社、KAICO社、トルビズオン社)からお話を伺っています。

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今回取材に応じて頂いた福岡市職員の田中さん、清見さん

-福岡市のスタートアップの盛り上がりが凄い

福岡市が「スタートアップ都市ふくおか」を宣言して、スタートアップ支援に取り組んでいる事はご存知の方も多いかと思います。しかし、実際に訪れてみるとその熱の入り方は想像以上であり、福岡市の職員の皆さんのサポートへの熱の入り方もすごく、また各スタートアップの皆さんが福岡での起業に対し、魅力しか感じていないとの反応でした。

福岡スタートアップ地図2021

本記事では、福岡市の職員の方へのインタビュー、福岡を代表するスタートアップ6社へのインタビューをもとに、地方スタートアップが成功する為に必要なポイントを「地方の環境」という観点と「スタートアップ経営」の観点の両側面よりご紹介したいと思います。

-街全体としてのスタートアップへの応援体制

福岡市は平成24年に「スタートアップ都市ふくおか」を宣言して以来、高島市長の強いリーダーシップのもと街全体でスタートアップの支援をしてきました。ハード面のサポートの取り組みとしては、「スタートアップカフェ」等による創業支援、福岡グロースネクスト(以下FGN)等による成長支援などが有名です。

創業期の会社を支援するスタートアップカフェでは、起業の相談はもとより、“開業ワンストップセンター”にて法人設立に必要な各種手続きをまとめて行うことができたり、“福岡市雇用労働相談センター”にて弁護士や社会保険労務士といった専門家に気軽に無料で相談できたりもします。
実際の起業における物理的なハードルをできるだけ下げることが出来る点が、開業率大都市中1位にも繋がっているのだと思います。

創業した会社は、次にFGNにて成長支援を受けることが可能です。FGNでは小学校をリノベーションして作られた施設であり、シェアオフィスとして多数のスタートアップ企業が入居しています。また、コワーキングスペースやイベントスペースも完備されており、著名な起業家を集めたイベントなども定期開催されています。

また、福岡市が支援施策を展開するに当たり重要な役割を果たしているのが国家戦略特区に選ばれている事です。この特区に選ばれている事により、規制改革を自治体ベースで行うことができ、様々なスタートアップの挑戦をサポートすることに繋がっています。例えば遠隔医療の実証実験に対しての特例措置やドローンによる実証実験、ライドシェアサービスの実証実験など他地域では認可に時間がかかる規制緩和を試験的に取り入れることができるのです。これらによりスタートアップが挑戦をしやすい土壌が出来ているのです。

地方スタートアップ_国家戦略特区に選ばれている地域

国家戦略特区に選ばれている地域
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/shiteikuiki.html(内閣府HPより)

ここまで制度面について紹介しましたが、福岡市のスタートアップが盛り上がっている理由はそのコミュニティ面にこそ真髄があるということを今回の取材で強く感じました。もちろん、支援制度は充実しているのですが、他の都市が同じように制度を充実させるだけでは同じように成功するとは限りません。

福岡市に訪れて最も強く感じたことは街全体としてスタートアップを応援しようという雰囲気が浸透していることです。これは、高島市長の強いリーダーシップのもと、中期間をかけてスタートアップ支援の文化を浸透させてきたことが大きいと思います。これにより、自治体の方も大企業も地元の方も皆がスタートアップを応援しています。その為、大企業とスタートアップの連携も進むし、実証実験をする際に地元の企業や団体も非常に協力的であります。これがトップだけでなく現場レベルにまで浸透していることが本当の福岡市の強みだと感じました。

なので地方で起業をする際は、その都市のハード面のサポート体制を見るだけでなく、実際に自治体の現場のスタッフや地元企業の方々がどれだけ協力的かということを見ることが重要だと言えるでしょう。

地域・ステージ別スタートアップ支援一覧

-地方での起業に合う事業かを見極めること

次に、スタートアップが地方で成功する為のポイントを紹介出来ればと思います。地方で起業する際のデメリットは、皆さんも考えることが多いのではないでしょうか。例えば、「優秀人財の確保が難しい」、や「地方に留まるとマーケットが小さい」、「最先端のトレンドを追いづらい」などがデメリットとして挙げられます。

しかし、これらのデメリットも取り組む事業によっては大きなデメリットにはなりません。例えば、優秀人財の確保という観点では理系の新卒学生は九州に多く在籍しており、エンジニアを新卒採用するというソリューションで解決される場合もあります。また、マーケットボリュームの観点では地方で成功させた事例を他の地方へ展開させていくモデルを実現する事で、十分なボリュームを確保することも可能です。(逆に日本の中で東京は特殊な土地であり、東京での成功モデルは地方展開しにくい)

また、今まであまり取り上げられてこなかった地方起業のメリットですが、1つ目は「事業と向き合える環境がある」というものが挙げられます。東京だとどうしても周りの誘惑が多く、友人づきあいや経営者同士の繋がりなどで関係性を構築する必要があるなど、遊びの誘惑も非常に多くなります。また、次々に新しいトレンドの情報が入りすぎるため自分の行っている事業にも反映させないと、という焦りが生まれたりもします。一方、地方で事業を行う場合、周りの誘惑も少ないため、その事業一本に集中して取り組むことが可能です。

量子コンピュータを用いた事業を行うグルーヴノーツの最首社長も「会社にとって本当に大切なことは何かを見失わないようにすること」と仰っています。また、本来は必要の無いトレンド情報が入ってこない分、事業のオリジナリティを追求し続ける事も出来ます。ブロックチェーン技術を用いたゲーム事業を行うグッドラックスリーの井上社長も、「今の事業があるのは地方でオリジナリティを追求し続ける事が出来たから」とお話しになっていました。

2つ目のメリットは、ランニングコストが安いということです。地代家賃も福岡は都内の半分程度となっており、人件費も東京と比べると生活コストが違う分安く抑えることが可能です。これらは、創業当初のスタートアップや技術開発系の企業など売りを立てるまで時間がかかる企業にとっては非常に心強いメリットになるかと思います。

3つ目のメリットは、様々な属性のメンバーとのコミュニティが発展しているということです。都内でスタートアップがコミュニティに属するというと、同じスタートアップ経営者同士やベンチャーキャピタルが集うものが多いと思います。一方、地方でのコミュニティとなるとスタートアップだけでなく大手企業や自治体、更には地元の方などが集まるコミュニティが存在します。

福岡のスタートアップの皆さんが口を揃えてお話しになっていたのは、「一つの飲み会で様々なステークホルダーが集まるから、飲み会一つで話が進む」ということです。実証実験などを行う際も、通常であれば関係各社に個別でアポイントを取り、調整をしていく必要がありますが、福岡の場合だと飲み会一つでその調整が完了するという具合です。
このスピード感は、実証実験などを実施していく必要がある企業にとっては相当に有利に働く事でしょう。

まとめると、地方での起業と相性が良い事業は、コア技術やオリジナリティを追い求める企業や実証実験などを必要とする事業であるといえます。

-地方のサイズを生かした経営

次に地方での企業経営をする上で押さえておくべきポイントについて解説出来ればと思います。前提として、地方企業でも東京の企業でも大きく本質は変わりません。その前提を押さえた上で地方の特性を生かしてプラスを作ることが重要となります。

先程お伝えした地方起業に合う事業の話とも一部重複しますが、コミュニティを生かしてコトを起こす事は間違いなく地方を生かす上でプラスに働く要素となります。すぐに大企業や自治体、地元の団体などと繋がる事が出来る特性を生かして、ミニマムで事業検証を行っていき、スモールサイズでの成功事例を作り出す事は大きなポイントとなります。

東京だと時間がかかる中において、地方でスピード感をもって検証を回すことは他の企業に対しての優位性をもたらすでしょう。ドローンで空の道を実装する事に取り組むトルビズオン社も都市中心部で日本初のドローン実証実験を福岡市で行われ、事業を加速されています。実際に、頭だけで考えても事業は作られずトライアンドエラーの繰り返しが事業を成長させることを考えると、早期から実証実験を出来る事のメリットは計り知れないものがあると思います。

次に地方を生かす視点として、パブリシティコストの低さという点が挙げられます。パブリシティコストが低い、つまりメディアに取り上げられるハードルが低いという特性を生かすことで企業としてのPRをより良いものにしていくことが可能です。〇〇発スタートアップなどのPRについて地元メディアは取り上げてくれやすい傾向にあり、地元の新聞やテレビで特集を組んでもらうことが可能となります。東京でメディアに取り上げられようと思うと、数多あるニュースや企業の中から選んでもらう必要がありハードルは非常に高いです。
その中で、地元発をアピールしていくことでより競合も少ない中でPRをすることが可能となり、メディアを通して情報発信をしていくことが出来ます。

飲食店を先払いで応援する「さきめし」などを提供するGigi社は、この特性を生かし月間6件のPRを打ち続けたことで、テレビ局や新聞社から沢山取材を受けることとなり、そこからサントリー社との事業提携が決まったり、飲食店での利用数も16,000件を超えたりするほどにまで成長を遂げられています。

これらのPRを有効活用する企業が地方においても成長を遂げているといえるでしょう。

最後に地方での成功事例を日本全国に展開することも地方起業の戦略の一つとなります。東京のスタートアップが苦労するポイントとして、東京での成功例を地方へうまく展開出来ないというものがあります。東京と地方は全く違うロジックで成り立っており、日本の中で東京だけが異質の存在といえます。そのため、もとより日本全国へ展開をしていきたいサービスで、東京の市場だけが極端に大きいという訳ではない場合、地方で成功例を作り他の地方へ展開をさせていくことは有効な戦略の一つとなるでしょう。

-まとめ

地方起業は事業特性によっては東京都内での起業よりも優位に進められることが可能です。

地方起業に合う事業
・研究開発系スタートアップ
・オリジナリティを追求する企業(ゲームなど)
・実証実験が必要な企業(モビリティ系など)
地方を生かした経営
・コミュニティを最大限活用する
・パブリシティコストの低さを生かしたPRを行う
・地方での成功例を全国展開する

今までは大企業対スタートアップという文脈で語られるなど、スタートアップは下剋上のように小さな所から這い上がり事業を作り成功させる事が多い時代でした。
しかし、今は対立ではなく共創が求められる時代となり、大企業や自治体と共創して事業を大きくしていくことが求められています。そんな共創時代において地方コミュニティを活用し事業を作ることは選択肢の一つとなるでしょう。

少しでも、地方で起業された方や起業を検討されている方の一助になれば幸いです。

-注目の福岡スタートアップ企業

最後に今回の福岡取材にご協力頂いた企業を簡単にご紹介します。(順不同)

① 株式会社ヌーラボ
・福岡から世界へ羽ばたくスタートアップ
・BacklogやCacooなどのプロダクトを展開
・エンゲージメントに注力する経営スタイル
② 株式会社グルーヴノーツ
・世界初の量子コンピュータの商用サービス化に成功させたスタートアップ
・企業向けクラウドプラットフォーム「MAGELLAN BLOCKS」と、テクノロジー教育事業「TECH PARK」を展開
・都市活動の最適化を図る「City as a Service」を推進
③ 株式会社トルビズオン
・国民に受容される空の道を作るべく奮闘するスタートアップ
・ドローンの未来はこの会社に架かっている!?
④ KAICO株式会社
・蚕を活用した口から飲めるワクチンを開発する大学発スタートアップ
・Withウイルスのこれからの時代を支える期待大のスタートアップ
⑤ 株式会社グッドラックスリー
・ブロックチェーン技術を活用したゲームを日本で初めて開発したスタートアップ
・「くりぷ豚」「ぴえんシリーズ」などオリジナリティ溢れるゲームを多数展開
・「PUI PUI モルカー もぐもぐパーキング」は、iOSとAndroidのアプリストアで、無料ゲームランキング1位を獲得
⑥ 株式会社Gigi
・「ごちめし」「さきめし」などを展開するスタートアップ
・コロナ禍で困窮する飲食店を支える「さきめし」が大ヒットし大注目の企業

各社の事業内容や経営上の思いなどを深堀りした記事をそれぞれ用意しておりますので、是非そちらも読んでみて下さい!