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ソニー流 大規模事業開発の秘訣とは

はじめに

こんにちは!CROHackです。

「自社で事業開発を行ってもなかなかスケールしない…」
「社内から複数の新規事業を生み出したいが、なかなか難しい…」

このようなお悩みを抱えていらっしゃる大手企業の事業開発責任者の方は多いのではないでしょうか?

今回の記事はそのような企業の方々に向けて、大規模な事業を次々と成功させているソニーグループ株式会社の御供様から、
● 1000億規模の事業開発を成功させるポイントは何か
● 事業開発を継続する組織カルチャー作りのポイントは何か

の2点について解説いただいたものを、弊社の視点を入れながらまとめさせていただきます。

ご登壇者 御供 俊元様
ソニーグループ株式会社 執行役 副社長 CSO
知的財産、事業戦略、ビジネスディベロップメント、
事業開発プラットフォーム担当

1985年ソニー株式会社(現ソニーグループ株式会社)入社。1993年より、ソニーの米国法人であるSony Corporation of Americaに赴任し、主に知的財産の観点から新規事業および投資に携わる。2013年の帰任と同時に業務執行役員に就任し、その後、2016年にソニーのCorporate Venture Capitalである、Sony Innovation Fundを設立(現在も担当役員として牽引)。さらに2021年には、事業開発プラットフォームが担当領域に加わり、2023年4月より現職に至る。

※事業開発SUMMIT2023より引用

祖業と新事業をうまく融合させてきた、日本を代表する企業ソニー

ご存じの方のほうがが多いかと思いますが、ソニーグループ株式会社の企業概要について少し説明させて頂きます。

ソニーグループ株式会社は2022年度の連結売上高が11兆円を超え、従業員数も11万人を超える会社です。

出典)https://www.sony.com/ja/SonyInfo/IR/library/download/sony_group_summary_J.pdf

また、祖業であるエレクトロニクス事業の売上がほぼ100%だった1980年度から、約40年間で事業ポートフォリオも多岐に変化していますが、それと並行して売上規模も10倍以上に伸びています。

いずれの事業も1兆円を超える規模に成長し、現在のソニーグループを支える柱となり、ソニーグループが大規模な事業開発を多く成功させている企業であると言えます。

出典:ソニーグループ、Corporate Report2019 および 決算説明会資料(2022年度)

1000億規模の事業創出のポイントはトップダウンとボトムアップの組み合わせ

ソニーグループ事業開発の成果や、規模の大きさと、事業開発の成果がしっかりと企業の成長に繋がっていることが理解できたところで、この40年間でどのような事業が生まれ、そしてここまで育っていったのか?

いくつかのソニーグループの実際のケースを見ながら事業開発のポイントを解説していきます。

ソニー流の事業開発では、

①会社全体で大きく投資をしながら大規模に事業開発を進めていくトップダウン
②初期は小スケールで始めながら、ピボットしながら形を作り、最終的に資本を集中投資する先を決めていくボトムアップ

の反する両方の方法をうまく使い分けていることが最大のポイントです。

①トップダウン例:メディカル事業

メディカル事業においては、ソニーの強みであるイメージング技術とオリンパスの医療技術という事業アセットを持ち寄って医療事業合弁会社を立ち上げ、医療機器向けビジネスを更に拡大していきました。

出典)https://www.sony-olympus-medical.com/somed/ja/news/20130416-001.html

②ボトムアップ例:リモートロボティクス事業

川崎重工と連携してリモートロボティクス株式会社を作り、ソニーの強みであるソフトやUIの技術と、川崎重工の強みであるロボティクスの技術を組み合わせて、工場で働くロボット操作技能者がリモートで働ける環境の構築を目指して始まりました。

出典)https://www.watch.impress.co.jp/img/ipw/docs/1326/402/html/sk1_o.jpg.html

これらの手法を上手く使い分けて事業開発を行うのがソニー流の事業開発になりますが、どちらの場合においても成功のポイントは

  • コアとなる自社の強みが明確であること

  • 事業同士を繋げて大きな絵を描くこと

の2つになります。

上記の2つの例においても、メディカル領域とBtoBのロボット領域とでは全く違う領域であり、ソニーのコア技術による価値の生み出し方は全く異なってきます。

しかし、どちらの場合においてもソニーの強みであるセンシング技術やデータのキャプチャリング、更にはそれをどう分析してアウトプットデバイスとして出すか、という一連のノウハウを活かしているという部分は共通しています。

強みが明確であることによって、相手企業にとっても自社の価値や協業する意味がわかりやすくなり、お互いの強みの掛け算が出来るようになります。

自社の強みに関係なく、事業機会があればそこに入っていく事業開発の仕方もありますが、そのような領域は参入障壁が低く、どれだけ早く勝ち抜くことが出来るかどうかのスピード勝負になってしまいます。

そうなるとスタートアップやベンチャーの方に分が出てきてしまいますので、大手はそこに勝ち筋を見出すのではなく、しっかりと自社の強みを見極め、その強みが掛け合わされるような領域を見つけて勝負していくことが大規模な事業開発を成功させるうえでのポイントです。

また、事業開発というと、1つの事業を立ち上げ、その事業単体でPLを成り立たせることを考えてしまいがちですが、1000億円規模の事業開発を生み出すには、一つひとつの事業(点)を線で繋げ、大きな絵として描くことが必要です。

事業を開発している現場の社員は1つの事業単体で考えざるを得ないので、それを適切なタイミングでピボットしながら、経営層が複数の事業を線や面でつなげられるかどうかが、1000億円規模の事業を生み出す1つの鍵となります。

コアとなる自社の強みを見極めるには

前章で、大規模な事業開発を成功させるための秘訣として、コアとなる強みが明確であることが重要だということがわかりました。

では、このコアとなる強みはどのようにして見極めれば良いのでしょうか?

自社のコアとなる強みを見極めるには、自社の技術を客観視したり、他社と比較して、広く世の中の流れやトレンドと合わせて相対評価をすることが重要です。

ソニーが客観的な技術の目利きができるようになったのには、ソニー独特のCVCの決まりが関係しています。ソニーのCVCの決まりは2つあり、1つは片手で収まる人数で行うこと、そしてもう1つは必ずLP投資ではなくGP投資をするということです。

LP(Limited Partnership)
所定のベンチャー企業へ出資をする際に、対象企業へ直接資金を投入して出資するのではなく、出資資金を募ってベンチャー企業を支援することを主たる業務とするベンチャーキャピタル(VC)を通して出資する形態

GP(General Partner)
LP投資家などが出資するファンドに対して「無限責任」を持つ立場の投資家のこと
無限責任:出資先のファンドの経営が失敗に終わり、負債を多く抱えてしまった場合、その弁済を無限に背負わなければならないということ

https://studyjob.grancers-group.com/articles/venture_company_07/

つまり、全て自分でソーシングして自分でスタートアップに会い、自分でデューデリジェンスを行い、深くサービスを理解し、その情報が自社に集約されていく、ということです。

実際、ソニーは6年間で5000社ほどの企業を深くチェックする中で広くサービスを理解し、結果的にそこで学んだ知見が本来の事業開発の際の技術の目利きに繋がっているからこそ、自社のコアとなる強みを見極めることが出来ているのです。

事業開発を継続する組織カルチャー作りのポイントとは

これまで、事業をまさに作っていくという観点で成功のポイントについてまとめさせていただきましたが、組織カルチャーの観点でも事業開発を継続させるポイントについてまとめていきたいと思います。

大企業が事業開発を推進していくなかで、任命された方の事業がうまくいかなくなった際に、次のチャンスがなくなってしまったり、その後のキャリアに影響が出てしまったり――そうするとなかなか積極的にチャレンジする社員が出てこない/もしくは経営側としても上手くいくか不透明で任せられない、といった事態が少なからずあると思います。

そんな中で次々と挑戦を生み出し続けていくために重要なことは、失敗からの資産が積み重なっていく形を作ってあげることです。

具体的には、
・失敗覚悟で規律のある予算を組むこと
・経営層が失敗したときの責任を担い伴走すること

の2つが重要になってきます。

事業開発はやはり失敗がつきものにはなりますので、あらゆる方法でリスクを分散させながらも、失敗してもいい、くらいの覚悟を持って実施します。

そして、もし実際に失敗をした場合であっても、失敗に対する振り返りと、ピボットの考え方やゲートの持ち方、最終的にどういう形でExitするか、といったところの説明責任を経営層が伴走し、何らかの経験値として後進にできる形をつくってあげることが、若い層からの事業提案を後押しすることに繋がってきます。

また、現場から事業が生まれていく風土を醸成するためには、スタートアップと広く付き合うことも重要になってきます。

ソニーでは事業開発の人間をCVCに関わらせていますが、出資先やその他のスタートアップからの学びを得る中で、スタートアップとしての思考パターンを持ち続けておくことが、ソニーが77年目のスタートアップであり続けられる1つの理由となっています。

結論

ここまで、ソニー流の事業開発を参考にさせていただきながら、大規模な事業開発のポイントや、継続的に事業が生まれるカルチャー作りのポイントについてまとめてきましたが、イメージは湧きましたでしょうか?

特に、

自社の技術を客観視することでコアとなる強みを見極め、その強みが掛け合わされるような領域を見つけて勝負していくこと

については大規模な事業開発を行ううえで不可欠になりますので、ぜひ自社のコアとなる強みは何なのかを一度考えてみてはいかがでしょうか?

(※本記事は2023年8月時点の情報をもとに作成しています)


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