イノベーションと法規制~法規制との付き合い方・乗り越え方~ #事業開発SUMMIT2023
こんにちは、CROHackです!
今回は、2023年8月に開催された「事業開発SUMMIT2023」のセッション「イノベーションと法規制~法規制との付き合い方・乗り越え方~」のレポートをお届けします!
事業開発によってイノベーションを起こす場合、必ず「法規制」という課題に直面します。本セッションでは3名のゲストに登壇いただき、実例をまじえて法規制をどのように乗り越えていったのかをお話しいただきました。
登壇を頂いた方
規制のサンドボックス制度を活用して法改正を実現
本セッションでは、実際にglafitは「規制のサンドボックス制度」を活用した道路交通法改正の事例が紹介されました。同社は2017年9月に創業し、自転車型の電動バイクやキックボード型の電動スクーターを開発。いずれもクラウドファンディングサービスMakuake(マクアケ)にて、調達額1億円以上を達成しました。
電動バイクは累計販売台数8,000台を突破。日常使用からレジャー、行政との連携などさまざまなシーンで普及が進んでいます。しかし、電動バイクや電動キックボード販売への道のりは、スムーズなものではありませんでした。海外と比較して、日本国内ではこうしたタイプのモビリティが法規制によって広まりにくい環境にあったのです。
2005年時点における道路交通法の見解では、「ペダル付原動機付自転車(モペッド)」は原付扱いとなり、自転車のような使用は禁止されていました。仮に電池が切れて自転車のように走行すると、整備不良として扱われる状態でした。この状況を改善するために、鳴海氏は関係省庁へ二つの問題提起を行いました。
法的にモペッドの自転車との切替利用を認めてほしい
電動モビリティに特化した新しい原付区分を検討してほしい
この取り組みで活用されたのが、「新技術等実証制度(規制のサンドボックス制度)」です。同制度は規制改革を推進するために設けられました。参加者・期間を限定するといった条件のもと、既存の規制の適用を受けずに新技術などを実証できる環境を整えることができます。そこで得られた情報・資料は、規制改革に活用できます。
2018年6月に同制度が立ち上げられた後、glafitはすぐに制度の使用を申請して、国の認可が降りた状態で次世代型モビリティの実証実験を始めました。
その成果として、「法的にモペッドの自転車との切替利用を認めてほしい」については以下の条件でモペッドと自転車の切替利用が認められました。
「電動モビリティに特化した新しい原付区分を検討してほしい」という要望については、城氏も法改正に向けて尽力。その結果、速度が20km/hまでしか出ない、「特定小型原動機付自転車(特定原付)」という新たな区分を設けることに成功したのです。
データに基づく議論で不安を取り除いていく
次世代モビリティを使用しやすくするというルールメイキングは、どのようにして実現したのでしょうか?法改正に関わった城氏は、電動キックボードを取り巻く不安の声を、どのように取り除いていくかに注力したと言います。
電動キックボードに関して、関係者からは不安の声に満ちていました。電動キックボードに乗る人の安全性はもちろん、他の車両の運転を妨げるなど、議論すらできなかったそうです。そこで、城氏たちは規制のサンドボックス制度を活用して、エビデンスを積み重ねていくことにしたのです。
実証実験は2019年10月〜2020年3月にかけて、横浜・福岡の大学敷地内にて行われました。その後、公道での実験も行い、運転者や歩行者の安全性を確かめていきました。
その結果、周囲が心配するほど事故の発生率は高くなかったそうです。また、運転時に心配されていた頭部の怪我のリスクも低いことが分かりました。この結果が、ヘルメットについて「着用は努力義務」というルールにつながっています。
こうしたデータに基づく議論は、次世代モビリティに対する関係者の不安を、ひとつひとつ解消していくのに役立ちました。安全性がデータで示されたことで、どのような根拠に基づいて法改正したのかを行政が説明できるようになった点も、ルールメイキングを後押ししたといいます。リスクマネジメントを重視する日本にとって、規制のサンドボックス制度は議論の入口を作るのにとても優れた制度だと、齋藤氏も賛同しました。
また城氏は、不安の払拭だけでなく未来に向けてのポジティブな議論も行ったといいます。CO2排出量の削減、若者から高齢者まで幅広い世代のパーソナルモビリティの普及による、公共交通機関の補完。人々の安心安全に配慮しつつ、こうした要因も前進させていこうという話を議論の初期段階から伝えていたそうです。
ルールメイキングによるイノベーションを成功させるポイント
glafitは規制のサンドボックス制度を用いた実証実験の認定を得るために、同社の本拠地である和歌山市の尾花正啓市長との共同申請という取り組みを行っています。鳴海氏は今回の取り組みを始めるにあたり、地域の協力が不可欠だと考えていました。そして、尾花市長が同社の活動に共感していたため、自然な流れで共同申請へと至ったそうです。
ルールメイキングを1社の力で押し進めるのは困難です。今回のように自治体のトップが味方にいることで、ルールメイキングは大いに前進しやすくなると城氏は話します。
地域創生や観光まちづくりに関わることが多い齋藤氏は、人口減少が進み課題が山積している地域こそ、素晴らしい文化資源や自然資源を活かすために、積極的なルールメイキングに取り組むべきだと言います。特にモビリティ分野は、市場の大きさは都市部の方が圧倒的に大きい一方で、地方のほうが深刻度や重要度は上です。
しかし、今回のglafitと尾花市長の事例を、必ずしもすべての自治体で実践できるとは限らないと城氏は指摘します。和歌山市のような自治体がある一方で、リーダーシップを発揮して新たな施策に挑むことを躊躇してしまう自治体は少なくありません。
城氏は、イノベーションを起こす上で重要なのは「いかに早く意思決定権を持つ味方を作れるか」だと言います。自治体と連携するにあたっても、その自治体の中に熱い想いを持つ味方が一人できれば、その人と二人三脚で反対派への説得を進められます。
城氏は過去、規制のサンドボックス制度の認可が下りないという事例にも直面しました。しかし、関係官庁に「これは取り組まなければいけないことだ」という味方が見つかると、認可が下りる確率やその先の法改正の成功確率はぐっと高まります。
当事者である企業や団体が、理屈と熱意をもって賛同者を増やしていく。これが、ルールメイキング成功のカギとなるのです。鳴海氏も、城氏の意見に共感します。glafitの規制のサンドボックス制度の認可が下りたのも、内閣官房に熱意あふれる賛同者がいたといいます。
法改正について、規制官庁とのやり取りで無理難題にぶつかる回数も少なくありませんでした。それでもめげず、賛同者と連携して根気強く相手の要求に応えていく過程で、鳴海氏は突破口を切り開いていったのです。
斎藤氏もまた、今日まで二人と同じ経験を何度も重ねてきました。熱量の高い仲間が集まり、「今こそ変えるタイミングだ。これを逃すと次は10年後かもしれない」とチャンスに飛び込むことで、結果を出してきました。
この流れを加速させるために、齋藤氏は今後、城氏のように日本のルールメイキングを支えるプレイヤーが増えていくことも重要だと話します。近年、日本産業の利益率は好調に推移していますが、一方で売上高は大きく伸びていません。つまり、新しいサービスが国内で生まれていないのです。市場全体に対する新規産業の売上高割合も、アメリカが約6%に対して日本が0.7%と、まだまだ少ないのが現状です。
この数字を改善するには、新市場の開拓をサポートする人材が必要不可欠だといわれています。実際、欧米ではロビー団体や中間支援組織、弁護士などがルールメイカーとして活用しています。こうした人材が日本にも増えてくれば、保守的な空気を打開していくと、齋藤氏は期待しています。
まとめ
セミナーのポイントをまとめました。
既存のルーツとイノベーションが衝突するのは、もはや不可避といえます。むしろ、反対派の意見を覆すことが困難な状況に直面してからが、イノベーションのスタートラインなのです。
日本にも、マカイラのように市場創出を支援する企業が増えています。同社のような企業と協力して、ルールメイキングを実現しイノベーションを成功させていきましょう。