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新規事業アイデアネタの宝庫のようなデータがあった

日本国内で、この1年以内に新たに立ち上げることを計画されている新規事業のアイデア約12,000社分のデータが一般に公開されている。

この事実にみなさんは気づいていましたか?しかもこのデータ、今後さらに拡充されていく見込みのデータなのです。

新規事業は、一般的に計画段階で対外に情報は出さないものですよね?上場企業が中期経営計画などで事業方針を発信することはあっても、具体的な中身まで踏み込まない、むしろ隠しておくことが実際です。

では、12,000社にもおよぶ”これから事業開発される予定の事業アイデアが掲載されているデータ”とは…?

それは、「事業再構築補助金」の採択結果データです。

(中小企業庁 事業再構築補助金ページより抜粋)

ここに宝が隠されていました。厳密にはまったく隠されることなく公開されていたのですが…

あらためまして、CRO Hack編集長の松尾です。
リブ・コンサルティングで事業開発に特化したコンサルティングチームを率いており、新規事業開発が経営イシューの一丁目一番地になる現在、事業開発テーマのプロジェクトに年間30程度携わっています。さまざまな形で問い合わせを多い月で30~40件も頂いています。そんな私が執筆する”事業開発”に特化したマガジン CRO STUDY をぜひお楽しみください。

事業再構築補助金とは?(おさらい)

今回の取り上げる「事業再構築補助金」、言葉自体はご存じの方も多いと思います。ポストコロナ・ウィズコロナ時代の経済社会の変化に対応するための企業の思い切った事業再構築を支援するという主旨の補助金で、主に中小企業~中堅企業を対象にした制度です。

今年2021年5月に第1回、7月に第2回、つい先日9月21日に第3回の公募を閉め切り、今後さらに2回程度の公募予定と発表されています。

この事業再構築補助金の事務局ホームページ上に、第1回、第2回の採択結果が掲載されています。それぞれの採択事業者名と事業計画の名称が一覧になっているものですが、ここに合わせて「今後の応募時の参考として」という名目で、事業概要を記載した詳細の公表資料が掲載されているのです。
しかも…Excelファイルで(ここ超重要ですね)!

資料内には、「事業計画の概要」という形で企業それぞれの事業主旨を記載しています。当然、事業計画書の全文があるわけではないですし、だいたい100文字前後短い情報ですが、事業の要点がまとまっているのでどのような事業アイデアなのか、は十分にキャッチアップが可能です。

この概要情報が、第1回の2,886社、第2回だけでも9,336社に及びますが、全部手に入るのです。まさに、事業アイデアの宝庫。

しかも、実際に投資を行い、企業が真剣に取り組むことを前提にして選ばれた「これから立ち上がっていく事業アイデア」たちなのです。この価値、きっと事業開発に取り組む皆さんなら共感いただけるはず。

このデータの使い方をざっと考えてみると、

①現在検討しているアイデアや気になるキーワードを検索してみて、類似するようなアイデアが無いか確認する
②同一業界や同じ地域の他社の取組みを参考にする
③自社でも取り組めそうな、新規事業アイデアのネタづくりに活用させてもらう

など、他にも事業開発の様々なフローにおいて活用が可能な予感がします。

もちろん、この資料が公開されている本来の目的「事業再構築補助金申請において参考にする」という使い方も有意義でしょう。

そこで、今回わたし自身の学び(というよりも興味関心)の一環で、第1回、第2回の約12,000社の事業概要情報を全てテキストマイニングし、どのような傾向が読み取れるかを分析してみました。その結果を記事として皆さんと共有できればと思います。

先にお伝えしておきますと、この分析の目的は、事業開発担当者が

新規事業アイデアを検討する際のスタディとして、気づきを得ること

においています。

この分析結果をもって、どのようにしたら事業再構築補助金を獲得できるか、という内容では全くありません。その観点では決して参考にされないようにお願いします。

外部データをうまく活用して、新たな示唆を得るというコンサルティングアプローチの一環としての情報共有であるとご理解いただけますと幸いです。

前提がくどくなってしまいましたが、分析そのものはシンプルに2つのアプローチで取組み、そこからの示唆をまとめとして考察する形をとっています。

分析アプローチの概要

①事業計画の概要欄に記載されている内容を6つのクラスターに類型化
②共起ネットワーク分析を行い、個社単位ではなく全体として事業開発の傾向を検証

なお、分析に入る前の仮説として、約12,000社がほぼこの1年以内に事業再構築のために真剣に事業を考えた結果というデータには、ある程度、日本全体で現在検討されている事業開発のアジェンダが反映されているのではないか?と考えました。

そのため、今回は1社ずつの事業計画の背景や、意図をしっかり理解しにいくのではなくて、全体を1つのデータとして分析したときにどのような事実が浮かび上がってくるかをメタ的に捉えにいくアプローチになります。

分析結果は全部で5ページのスライドになりました。それぞれの見方とあわせてお伝えしていきます。

事業計画概要のテキストから、ポイントを読み取る

まず最初に把握したいのは、この事業計画概要には具体的にどのような情報が入っているのかという点です。そこで、第1回、第2回それぞれ、テキスト情報を抽出してクラスター分析を行いました。

本来は事業計画単位できちんとクラスター分類しないといけないのですが、そこまで読み解く時間が今回はとれなかった(いつかやりたいと思います。5回分出そろった時には、きっと…)ため、センテンス単位でどういう要旨の内容が記載されているかという観点でのグルーピングです。

結果、一番大きいクラスターはもちろん「新型コロナの影響による新たな事業の構築」という文脈で、多くの企業で概要に盛り込まれている内容になりました。補助金の主旨からしても当然の結果ですね。

それ以外に見ていくと、第1回、第2回共通のグループとして、他に3つのクラスターが存在しました。

①新たな飲食スタイルに合わせた店舗開発
②新規に製造/販売する商品の開発
③オンラインサービスの提供

飲食というのが一つ大きな括りで浮かび上がってきた点が特徴的です。他の2つは、新たな事業開発といえばの王道テーマですね。

第1回、第2回に特有のクラスターとしてはそれぞれ2つずつ。
第1回では「新たな市場参入/新規顧客の獲得」「地域貢献/地域活用」が、第2回では「DX/AIなどの新たな技術の導入」「既存顧客の新たな需要への対応」という別のクラスターが見えてきました。ここは、少し差があって面白いところです。

当然、細かくみればどちらの回にも同様の事業計画は存在するのですが、タイミング的な問題なのか、もしくは第1回は様子見して第2回で申請した企業もあると思いますので、傾向に差が出ているのかもしれません。

まずは全体像を把握することが目的なので、ここからの考察はあとに回して、次のステップに進みたいと思います。

現在の国内新規事業開発の大きな傾向を捉える

クラスターで大体のイメージを掴んだので、共起ネットワーク分析によって、出現数の多い単語、それぞれの関係性を見ていきます。バブルの大きさは出現数と比例するのですが、出現数の多い単語から逆算してみていくと「ほぼクラスターで言っていることと同じレベルの単語」しか出てこず、固有の特徴はほとんど見て取ることができませんでした。これだと仮説を立てていくのに物足りない状態です。

そこで、どの企業も使っている頻出単語は逆に前提として排除して、次の階層で出てくる言葉は何か、という形で深掘りしていきたいと思います。

メッシュを細かくして背景を考察する

中分類、というよりは第二階層といった方がイメージ的には正しいかもしれません。第1回であれば100~300回前後、第2回であれば400~1,000回前後の出現数の単語を対象に共起ネットワーク分析を行いました。

結果、実際に中身で語られている事業アイデアのイメージがかなり想起されるものになった印象です。これらは、ある程度今の日本企業が取り組んでいる重要テーマが何かを示唆するものでしょう。

最後のまとめで私なりの考察をあげたいと思いますが、これらのデータの解釈は人それぞれで正解はありません。ぜひ、皆さんなりにこの分析結果から考えを深めてもらえれば嬉しいです。

事業開発の兆しになっている事業機会をあぶり出す

分析パートの最後は、各事業者に共通する領域ではなく、このデータ上ではニッチ=同じことに取り組もうとしているプレイヤーがまだ少ないと考えられる単語を探してみます。

ただ、N=1では事業の再現性がある領域なのかも判断できないため、第一回であれば30~100回前後、第二回は100~300回前後の出現数でみていきます。一定の企業がそこに取り組んでいるが、まだまだ大きなまとまりではない事業領域。これが、今後日本において事業開発の新しい兆しとなっていく事業機会の示唆につながるのではないかという仮説ですね。

こちらも分析結果としてはやや細かい図になるので、ぜひ時間をとって皆さんなりに読み込んでいってみてください。

まとめ | 各企業が取り組んでいる事業開発テーマとは?

ここまで、いくつかのステップに分けて事業再構築補助金の事業計画概要テキストをベースにした分析を行ってきました。その結果から、私なりに「今、日本の各企業が取り組んでいる事業開発テーマにはどのような傾向があるのか?」を考察してみたいと思います。

まず、大きな視点として、事業計画の目的には

「事業転換への模索」
「新しい行動様式に対する提案」

という2つの企業側のイシューが存在しているように見えました。
事業再構築補助金なので、当たり前かもしれませんが、しかし日本における多くの企業が新規事業の目的を「新たな事業構造の構築」においているのも事実ではないでしょうか。

プロダクトライフサイクルでいえば成熟期から衰退期(新需要創出期)に入る業界が多いのが日本の国内市場です。だからこそ、新規事業をテコ入れに事業転換そのものを模索する動きが今回の分析結果からも明らかです。そして、「事業転換」というキーワードに結び付く論点として、下記2つをあげさせていただきます。

①NOT「本業のサポート」
②売上拡大の源泉はどこか?

図解に具体的な内容を記載しているので、図解をご確認ください。

2つ目のイシューである「新しい行動様式に対する提案」は、BtoBの事業者もBtoCの事業者も共通で見受けられるテーマです。オンライン化が進み、外部の生活/行動環境が大きく変わっていく中で、その対応が急務になっていることが単語からも分かります。また、新たに投資・獲得する資産と、元々持つ資産をどう活用するかという点も論点になっていました。

これらの2つの重要イシュー、分析から見えてきた傾向から、私たちが事業開発に取り組むうえでの示唆として何が得られそうでしょうか。

本記事では3つの意味合いとして、仮説を共有させていただきます。これは事業計画概要に記載されていた中身ではなく、そこから読み解いた私個人の仮説になりますため、その前提でご参考にしてもらえれば幸いです。

■傾向から捉える意味合い
①ターゲットは属性から行動に

旧来のマーケティングによく見られた性別/年齢などの属性情報を基軸にしたターゲットセグメントは、ほとんどの事業計画において言及されていませんでした。その代わり、人の行動/態度変容に対するアプローチが多くみられています。

これは、今後の事業開発においては事業対象となるWhoの部分の考え方が大きく変わるということ。若年層/子持ち夫婦/高齢単身世帯などをターゲット設定した事業開発では事業アイデアは具体的にならないし、もはやその切り口では解決すべき課題が発見できないという時代になっているということがよく分かります。

②地域社会との共創価値
特に大企業で事業開発を考えていると、自然と事業の展開エリアはグローバル/日本全国といった捉え方にもなりがちですが、これからの新規事業は地域ビジネスとしての価値を十分に考えていく必要がある、という気づきがありました。多くの事業計画の中で、地域ビジネス、地域に暮らす人に対してどう共存共栄していくかという点に言及があったこと。事業開発において今後ますます重要なイシューになっていくと思います。

③差別化は結局スピードと活用資産
第1回/第2回だけで、約12,000社が補助金を活用した新たな事業の開発もしくは事業の改革にこれから取り組んでいきます。そして、結果論だけでいってしまえば、やはりまったく目新しいテーマは少なく、この時点では重複しているように見える事業アイデアも多かったです。

そんな中で、どこで成功する企業と失敗する企業の差が生まれるかといえば、事業化のスピードと既存アセットの活用の上手さで今後の勝負が決まる印象を受けました。新規事業も、新規と言いながら最初から激しい競争環境にあると認識して取り組むべきなのでしょう。

おわりに

事業開発コンサルティングチームの仲間が、「こんなデータがありました!」と共有してくれたところから、私なりの仮説をもってデータを検証していった一つのストーリーラインがこの記事です。決して、ここで述べている仮説をこのまま何かに活かしてくださいとは言いません。

大事なことは、事業開発に携わる人であれば誰もが知りたいと思う「他社は何を考えているのか。具体的にどんな事業アイデアの事例があるのか」という情報そのものが、定量データと言っていいレベルで公開されているという事実です。

事業開発は、実行力と同じくらい、考察力も重要なケイパビリティになります。ぜひ、皆さんの事業開発チームメンバーとも、このデータを見ながらいろいろディスカッションしてみてください。きっと、何か自分たちならではの気づきがあると確信しています。

■図解データダウンロード
今回使用した分析の図解データですが、少々見にくい箇所があったので、PDF形式でご覧いただけるようになってますので、もっとよく見たいという方は以下よりどうぞ!(フォーム入力などはございません)

▶ https://bit.ly/2Wk2DUu

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(おことわり)
本記事内で「クラスター」という言葉を多用しておりますが、こちらはマーケティングの専門用語でございます。現在のコロナ禍の文脈で使用されるものとは、全く別の意味合いであることをご理解下さいますと幸いです。