AARRRモデル-グロースハックにおいて最も勘違いされがちなこととは?
前回の記事では、グロースのために必要な「PMF」の考え方についてご紹介しました。
▼前回の記事
今回は、実際の事業やプロダクトをグロースさせる際に必要な考え方や、「AARRR」というフレームワークについて詳しく書いていきたいと思います。
結論から言ってしまうと、AARRRのフレームワークそのままを当てはめた戦略を取ることは、マーケットにおいて効果的に働かないケースが多いです。その理由についても後述します。
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プロダクトのグロースに欠かせないフレームワーク「AARRR」とは
おそらく”グロースハック”において、最も広く知られており、また実際に有用なフレームワークとして、「AARRR」モデルがあげられると思います。
これはプロダクトを利用するユーザーの変化を段階的に捉えたフレームワークで、ユーザー獲得から収益化するまでを5段階に分割しており、その5段階それぞれの頭文字をとって「AARRR」と呼ばれています。
それぞれの段階の詳細は下記の通りです。
・Acquisition(ユーザー獲得):ユーザーがプロダクトに訪問し、Web上で会員登録やアプリのダウンロードを実施する
・Activation(ユーザー活性化):ユーザーがプロダクトの価値を理解し、実際に利用する
・Retention(ユーザーの継続利用):ユーザーがプロダクトを再訪問し、継続的に利用する
・Referral(ユーザー紹介): ユーザーがプロダクトの価値を友人・知人に伝え、その方々が新たにプロダクトに訪問する
・Revenue(収益化):有料サービスを利用する・有料会員になるなど、ユーザーがプロダクトに対して金銭を支払う
これが最もよく語られ、理解されているグロースにおける考え方です。
しかし、「AARRR」と名付けられているがために、また、ユーザーのファネル順で考えがちなために、多くの人が勘違いをしてしまっている点があります。
その話に入る前に、そもそもグロースとは企業がサービス・プロダクトを展開していく時にどの段階で考えるべき話なのか、というのを整理してみましょう。
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理解しておくべきプロダクト・マーケット・フィットとグロースの関係
プロダクトの”成長”には欠かせない”グロース”。その”グロース”は、実はプロダクトの最初から必要だという訳ではないのです。ではいつ必要なのか。
それを模式的に表したのが下記の図になります。
ここで重要になってくるのが、前回の記事で紹介したプロダクト・マーケット・フィット(以下PMF)という考え方です。
“スタートアップにおいて重要なのは、ただ1つ。プロダクト・マーケット・フィットに到達することだけだ”
こちらは、かつてブラウザとして一世を風靡したNetscapeのファウンダー、そしてeBayやFacebookのボードメンバーとしても知られるマーク・アンドリーセン氏が発したスタートアップに関する格言です。
まずはこの状態に到達することが、スタートアップにおいては非常に重要であるというのは前回の記事でもご説明しましたが、この考えは、スタートアップに限らずあらゆるサービス・プロダクトにおいて重要になってきます。
そして、先の図が表しているのは、このPMFに到達した後に”グロース”が待っている、ということです。
つまりは、プロダクトがマーケットにフィットしていない状態でいくらグロースを試みても効果は薄く、グロースよりも前に考えるべきは、そもそもプロダクトが顧客の課題を適切に解決しているのか、ということなのです。
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「AARRR」ではなく「ARRRA」として考える
では、ここで改めて「AARRR」モデルについて考えてみましょう。
もともとユーザーのファネルを元に考えていたAARRRモデル。ここに潜む大きな勘違いとは、まさにPMFとグロースの関係と同じく、アクティベーション(ユーザー活性化)がうまくできる状態を作り上げる前にアクイジション(ユーザー獲得)をする必要があると思ってしまうことです。
どうしても「AARRR」モデルをみて、グロースについて考えると、多くの人が「よし、まずはどうやってより多くのユーザーを獲得できるかを考えよう!」となります。
しかし、「AARRR」モデルにおいて、最初にまずカギとなるのがアクティベーション、そしてリテンションなのです。
改めてアクティベーション、リテンションについて考えてみると、アクティベーションは「このプロダクトがどのような価値を提供するかがユーザーに伝わること」、そしてリテンションは「ユーザーが価値を理解した上で、実際に顧客が再訪してくれるほど、プロダクトの価値に満足してくれること」なのです。
これがうまく設計できない段階で、いくらユーザーを呼び込んでも、誰も価値を理解してくれず、そして誰も満足しない、つまりは継続利用をしてくれる人がいない、という状態になってしまいます。
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まとめ
ここまでにお伝えした通り、「AARRR」モデルは実際には「ARRRA」の順番で考えることが必要です。
むしろ「ARRR」までがうまく整えば、あとは適切なチャネルを使って、適切なユーザーを呼び込めば、うまくプロダクトが成長=グロースしていく、ということになります。
今回はグロースにおける具体的な手法などをご紹介しました。次回はさらに深掘りをして、スタートアップを大きく3つのステージに分けて、各ステージごとに必要な”グロース”の考え方をご紹介します!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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▼執筆者プロフィール
菊川 航希:東京大学工学部卒業後、宿泊・インバウンド事業の立ち上げに従事したあと、外資系経営コンサルティングファームに入社。アメリカ・フランス・シンガポールオフィスのプロジェクトに参画するなど、海外を中心に幅広いプロジェクトに関わる。
その後、シリコンバレーに移り、プロダクトのグロースやデザインに特化したスタートアッププログラムに参加。現地のスタートアップのグロースコンサルティングを手掛ける。
現在は、サクラス株式会社でパートナーを務めながら、シリコンバレーを拠点としたファンドやスタートアップとプロジェクトを行うなど、様々な事業に参画中。(プロフィールは執筆当時のものです)