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SaaS事業の健全度を測るCAC(カスタマーアクイジョンコスト)とは?

こんにちは、CRO Hack編集長の松尾(@daisukemo)です。

近年、急激に需要が伸びて市場も拡大しているSaaS(Software as a Service)ですが、SaaS事業を展開していく上で気をつけなければいけないポイントがいくつかあります。
その中でも今回ご紹介するのが、SaaS事業の”健全度”を測るCACというメトリクス(指標)です。

このnoteでは、CACとはどういった指標なのか、計算する目的、同様に重要なメトリクスであるLTVとCACではどちらに注力すべきなのかなどに触れていきます。

健全な運用で一定の導入数を確保できれば、ビジネスの根幹になり得るSaaS事業。これからSaaS事業に参入を考えている方、すでに参入しているものの利益があまり残っていないとお悩みの方などは、ぜひ最後までお読みください。

- CAC(カスタマーアクイジションコスト)の概要と計算方法

CACとは、カスタマーアクイジションコストの略で、日本語では顧客獲得費用となります。つまり、顧客1人(1社)を獲得するのにかかったすべてのコストのことを指すメトリクス(指標)です。

顧客獲得費用であるCACが、その顧客が生涯にわたってもたらす価値を示すLTVを下回っているのであれば健全な事業運営ができている、上回っている場合は不健全な事業運営という判断で使われるのが、このCACです。
また、CACがLTVを下回っていても、その数値が非常に近しい場合は利益がほとんど出ていない状況であるため、CACとLTVにどれだけの差を出せば利益が出るのかといった計算も必要です

さらに、CACに似たメトリクスでCPAがありますが、CPAはあくまで1顧客あたりの広告費を示すものであるため、CACと比べるとコストの概念が小さく捉えられています。

CACを分類すると、「Organic CAC」「Paid CAC」「Blended CAC」の3種類に分けられます。

▼Organic CAC
Organic CACとは、広告などの費用を使わずに獲得した顧客のCACを指します。具体的には、検索エンジンからの自然流入(リスティング等を除く)、既存顧客からの紹介や口コミなどによって獲得した顧客はOrganic CACで計算します。
広告意外でユーザーを獲得するために使った費用の算出方法としては、サイトのSEO対策や営業パーソンの人件費などが挙げられます。

【計算方法】
自然獲得に要したコスト ÷ 自然獲得できた新規顧客数 = Organic CAC

▼Paid CAC
Paid CACは、Organic CACの反対で広告などで費用を支払って獲得した顧客のCACを指します。Web広告やアフィリエイトなどはもちろん、ポスティングやタレントのキャスティングなど、広告のために使ったすべての費用を含めて計算します。

Organic CACとPaid CACを分けることで、どれだけ広告等に費用を投資しても利益が残せるのかという判断材料にできます。

【計算方法】
広告等に投資したコスト ÷ 広告等を経由して獲得した新規顧客数 = Paid CAC

▼Blended CAC
Blended CACは、Organic CACとPaid CACを合わせた全体のCACを指します。Organic CACの数値が低く抑えられたとしても、広告の最適化ができておらずOrganic CACが高騰してしまっていては、全体の数値を示すBlended CACも高騰してしまいます。そのため、Blended CACは損益分岐点を出すために必要です。

【計算方法】
事業にかかるすべてのコスト ÷ 新規顧客獲得数 = Blended CAC

- CACを計算する最大の目的は「ユニットエコノミクス」

CACを計算する最大の目的は、”ユニットエコノミクスが成立しているのか”を求めるためです。
SaaS事業においてユニットエコノミクスとは、1顧客あたりの収益性・採算性を指して使用されるメトリクスで、以下の計算式で求められます。

LTV ÷ CAC = ユニットエコノミクス

ユニットエコノミクスの重要性については、以下の対談記事でフォーカスしてご紹介しているので、是非こちらもご覧ください。

ユニットエコノミクスを求めることは収益分岐点を知るために必須であることは大前提として、その他にもコスパの良い顧客獲得チャネルの明確化などのメリットもあります。

- 健全度を表す「LTV/CAC > 3」の数式

では、具体的にユニットエコノミクスはどの程度の数値が出ていれば健全な事業運営だと言えるのかという点を見ていきます。

先述の通り、ユニットエコノミクスはLTV/CACで算出できるのですが、この数字が”3”以上であり、CAC payback period(※)が12ヶ月以内であることが健全な事業運営と呼べる水準です。

※CAC payback period:顧客獲得コスト回収期間、CACを利益で回収しきれる期間のこと

この「LTV/CAC > 3」という水準が、シリーズA(1,000万円〜3,000万円の資金調達)における投資の判断基準の一つとして使われており、SaaS事業者がまず目指していくべき数値でしょう。

また、投資家が見ているポイントとしては、チャーンレート(解約率)やMRR(Monthly Recurring Revenue、月次経常収益)なども挙げられます。

資金調達を含む安定した事業運営には、これらのメトリクスを把握しておく必要があると言えます。

- CACを下げるべきか、LTVを上げるべきか

「LTV/CAC > 3」を満たしユニットエコノミクスを成立させるためのアプローチとしては、CACを下げて効率よく顧客獲得を進める方法と、CACが高くなってでもLTVを高める方法の2種類が考えられます。

ただし、LTVと比べてCACが低すぎる場合、効率よく顧客獲得ができているという見方の傍ら、顧客獲得のための投資が弱い(消極的)と捉えることもできます。SaaSという事業の特性上、顧客獲得は常に行っていかなければいけません。

事業の規模やフェーズによるチャネルや手段の違いはあれど顧客獲得のための一定以上の投資は必要です。LTV/CACが高くなればなるほど良いわけではないことは認識しておく必要があります。

そのため、まずはLTVを高めることを考えつつ、定期的にCACを算出して事業運営の健全度を確認して事業戦略に落とし込んでいく必要があります。

LTVを最大化するための顧客ロイヤリティの上げ方などは以下の記事で詳しく書いています。

- まとめ

「LTVを最大化する事こそがベストプラクティスだ」というのは間違っているわけではありませんが、それだけでは不十分と言っていいでしょう。
事業を運営していく上で投資対効果を見ないわけにはいかないため、月・四半期・年と一定期間を定めて事業の健全度を振り返ってみることが重要です。

その上で、LTVを最大化していくことに注力し、「LTV/CAC > 3」が満たせるように定量的に事業の見直しをしていくことが、より多くの利益を残すことにつながるでしょう。