”グロースハック”を語る上で外せないイノベーター理論・キャズム理論とは?
こんにちは、CRO Hack編集長の松尾(@daisukemo)です。
CROHackではこれまで何度も「グロースハック」に焦点を当てた内容を公開してきたのですが、グロースハックと共に語られることが多いのが「イノベーター理論」や「キャズム理論」といったワードです。
しかし、こういったマーケティングに基づく理論やフレームワークは多様な種類があり、1度ではなかなか覚えられないというのも事実としてあるでしょう。
そこで今回は、比較的ライト目な内容として、イノベーター理論とキャズム理論をなるべく分かりやすくご紹介しようと思います。
-世の中の革新を表す「イノベーター理論」とは
イノベーター理論とは、新しい製品やサービスが、世の中にどれだけ普及したのかを割合にして表したマーケティングの理論のことを指します。
1962年にエベレット・M・ロジャーズ教授が著書の『イノベーション普及学』で提唱した理論で、その歴史は50年以上にのぼります。
イノベーター理論は以下の5つの普及率で分類され、それぞれに適したマーケティング戦略が必要となります。
・ イノベーター
・ アーリーアダプター
・ アーリーマジョリティ
・ レイトマジョリティ
・ ラガード
・イノベーター(2.5%)
新たに世に排出された製品やサービスをもっとも早く利用・採用するのが、全体の2.5%ほどしかいない「イノベーター(革新者)」と呼ばれる層の人たちです。
イノベーターは多くの検討者が気にする「信頼」や「実績」がともなっていない製品やサービスであったとしても、自身が魅力的に感じ、価値があると判断したものにはコストを投入します。
製品やサービスを選ぶ時のポイントとしては、細かなプロダクトや背景よりも最新の技術を搭載していることや既存製品との大きな差に魅力を感じる傾向が強いのが特徴です。
イノベーターへ向けた訴求は、やはり「最先端技術」といったワードなど新しさを前面に押し出すのが有効的です。
・アーリーアダプター(13.5%)
イノベーターに続いて、市場全体ではかなり早期に新製品やサービスの導入をおこなうのが「アーリーアダプター(初期採用者)」と呼ばれる層の人たちです。全体の13.5%を占めています。
常に最新情報に目を向けている点はイノベーターと同様ですが、アーリーアダプターの場合は細かなメリットやデメリットまでを考慮したうえで導入を検討します。
アーリーアダプターは、この後に続くアーリーマジョリティやレイトマジョリティの導入促進に大きな影響を与え、この層をしっかりとグリップできるのかが、プロダクトの成功のカギを握ります。
アーリーアダプターへの訴求は目新しさだけではなく、それによってどのようなベネフィットをもたらすのかをきちんと伝えるようにしましょう。
・アーリーマジョリティ(34%)
市場全体の34%を占めて、いわゆる「一般層」として分類されるのが「アーリーマジョリティ(前期追随者)」と呼ばれる層です。
先述の通り、アーリーマジョリティはアーリーアダプターからの影響を大きく受け、全く目新しいものの導入には慎重になるものの、取り残されたくないという気持ちからなるべく早期での導入を検討するのが特徴です。
アーリーアダプターとアーリーマジョリティを獲得すると市場の約半数を押さえたことになり、この後に続く慎重派の市場にもしっかりと影響をもたらすことでしょう。
アーリーマジョリティへの訴求は、すでに流行が始まっている・始まりつつあることを匂わせ、商品やサービスの「なんとなくいいな」と思わせるような聞き心地の良い言葉が有効的です。
・レイトマジョリティ(34%)
続いて、新しいものの導入や検討は慎重におこなう「レイトマジョリティ(後期追随者)」と呼ばれる34%を占める層です。
レイトマジョリティは、イノベーター・アーリーアダプター・アーリーマジョリティによって市場の過半数が導入した時に、「この製品やサービスには価値がある」と判断し、追随して導入を検討します。
また、ものごとを流行という面ではとらえておらず、本質的な魅力がなければ導入しない層であるともいえます。
レイトマジョリティは過半数の動きを待つ慎重派のため、すでに多くの人が採用していること(自分が少数派になってしまうと理解してもらう)や導入による失敗は考えづらいことを訴求するようにします。
・ラガード(16%)
最後に、もっとも保守的で製品やサービスが「あって当たり前」状態、もしくはその手前まで浸透しなければ導入・検討をおこなわない「ラガード」と呼ばれる16%の層です。
「新しいものにはリスクがともなう」「流行りに乗るのはかっこ悪い」と考えていることもあり、最後まで導入しないことも少なくありません。
ラガードへの訴求は、すでに製品やサービスが定番化しているので安心であること、その製品やサービスが開発されるまでには壮大な背景があることなどを含めると効果的です。
-広く浸透するかを分かつ「キャズム理論」や「普及率16%の論理」とは
製品やサービスといったプロダクトが市場に浸透していくごとにユーザー属性が変わるのがイノベーター理論です。
しかし、すべての製品やサービスがレイトマジョリティやラガード、さらにいうとアーリーマジョリティに届けられるわけではありません。
市場全体のシェアを獲得するには、リリースから最初に獲得する16%のイノベーターとアーリーアダプターに対して、適切にアプローチし後続に続くユーザーに広める動きを取ってもらえるのかがカギになります。
先ほどは順々にスムーズに認知とシェアが広がっていくかのようにご紹介しましたが、実はアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間にはキャズムと呼ばれる溝が存在し、この溝のことをキャズム理論といいます。
キャズムがあることにより、アーリーアダプターからアーリーマジョリティへの認知・シェアの拡大は一定の壁があり、その壁に多くのプロダクトが阻まれて市場に浸透することなく新しいプロダクトに飲み込まれてしまうのです。
この普及16%で発生する壁、キャズム理論をしっかりと理解し、イノベーターとアーリーアダプターに適切なアプローチをおこない、ユーザーがユーザーを呼び込む循環を作り上げることが、現在における理想のマーケティングといえます。
-【事例からみる】「キャズム」を越えるための戦略とは
キャズムを超えることがプロダクトを成功に導くための重要なポイントですが、実際には言葉でいうほど簡単なことではありません。
そこで、キャズムを超えて製品やサービスを世の中に浸透させ、「日常の中に溶け込んだ」事例を3つご紹介します。また併せて、キャズムを超えられず、他社製品に市場のパイを独占された事例も見てみましょう。
ネスカフェ
アンバサダーマーケティングの事例としても良く挙げられるのが「ネスカフェ」です。ネスカフェといえば、「ネスカフェアンバサダー♪」という耳に残るCMが特徴のコーヒーマシンのメーカーですよね。
しかし、ネスカフェが市場のシェアを獲得したのはTV広告による効果ではなく、ネスカフェのアンバサダーとしてオフィスにコーヒーマシンを置いて、コーヒーの代金のみで様々なコーヒーが飲めるというマーケティング手法です。
オフィスには様々な人が訪れます。その多様な人たちの目にも止まる形でネスカフェのコーヒーマシンが設置されているため、新たな顧客の獲得を進めることを可能にしました。
ライン
今や私たちの生活になくてはならない連絡手段である「LINE」もキャズムを超えた事例として挙げられます。LINEは東日本大震災の電波障害等々をきっかけに開発され、スマホの普及率が急速に進むタイミングだったことも市場を独占することになった一つの理由です。
しかし、我々がLINEを利用するのはそれだけが理由ではありません。
当時は一般的ではなかった既読機能によって「返信しないといけない」という感情をユーザーが持つことによって利用の頻度が高くなり、「流行っているから」「みんなが使っているから」といったアーリーマジョリティ・レイトマジョリティ・ラガードの層まで広まっていきました。
メルカリ
続いて、今や不用品の再販売・処分として一般的になったフリマアプリの「メルカリ」です。
メルカリをはじめとしたフリマアプリが登場する前までは、ヤフオクを筆頭としたネットオークションでなければ個人間で中古品の売買をおこなうのは困難でした。
ネットオークションは、「どこか難しそう」といったイメージや、いたずら等で落札されることもあり、一般ユーザーが利用するには大きなハードルが存在していました。
しかし、出品者が設定した価格で希望者が購入する形式のフリマアプリは、ネットオークションに出品するわずらわしさや不安を取り除き、多くのユーザーを獲得することになったのです。
特にメルカリは、フリマアプリの中でも出品・発送といった億劫な作業を簡単にし、バーコードを読み取ることによる説明文の作成、ヤマト運輸等と提携して匿名での簡単な発送など、ユーザーの参入ハードルを徹底的に下げていったのが、熾烈なフリマアプリ業界でパイを独占できた要因でしょう。
メルカリのビジネスモデルについては、以下のunlimited-journalの記事で詳しく解説されているので、興味のある方はぜひ一度読んでみることをおすすめします。
Xbox
では最後に、キャズムを乗り越えられなかった、失敗事例ともいえるケースをご紹介します。
家庭用テレビゲーム機といえば、プレイステーションやその当時販売されている任天堂のゲームを思い浮かべる方が多いかと思います。その二大巨頭を超えられなかったのがXboxです。
海外でこそ、一定以上のファンを獲得しているXboxですが、日本ではコアなゲームユーザーくらいしか利用しておらず、新作ゲームが発売されても売り上げランキングに乗ることはほとんどありませんでした。
Xboxが日本でシェアを獲得できなかった最大の理由が、プレイステーション2(PS2)との販売時期が重なったことに加えて、多くの面で日本人向けではなかった点と言われます。
当時の日本ではVHSビデオデッキからDVDプレイヤーに乗り換える家庭が多く、DVDを見られるPS2はゲームを普段はしない層にも購入され、結果的に爆発的な人気を獲得しました。
その他にも、コントローラーが大きすぎて日本人の小さな手にはなじまなかった、日本ですでに人気を獲得しているソフトの販売予定がなかった点などもXboxがPS2に負けてしまった理由として挙げられます。
もちろん、プレイステーションは日本企業であるSonyの製品、Xboxは海外企業であるマイクロソフトの製品であることも少なからず影響があったといえるでしょう。
キャズムを越えるためには様々な要素を組み合わせたマーケティング戦略が重要で、かつその時代に適した地合いであることも市場でパイを獲得するためには必要な要素といえます。
-「イノベーター理論」で求められるのは総合的なマーケティング戦略
この成功事例・失敗事例から私たちが学べるのは、キャズムを越えるためには様々な要素を組み合わせたマーケティング戦略が重要で、かつその時代に適した地合いであることも市場でパイを獲得するための要素であるということです。
キャズムを超えて市場にシェアを広めていくには、
・ 製品・サービスの深い理解
・ 世の中のニーズを読む力とコミュニケーション戦略
・ 時代の流れを追い風にするための実行戦略
・ マーケティングに割く予算分配
・ 戦略を実行するタイミング
など、こうしたものがかみ合った時にはじめて市場全体に浸透し、プロダクトが生活の一部になります。
イノベーター理論・キャズム理論、およびその事例からわかるのは、製品やサービスはもちろん、1ユーザーに対する向き合い方も含めた総合的なマーケティング戦略がプロダクトをマーケットにフィットさせるために必要であるということです。
-ニューノーマルが広まる今こそ求められる的確なマーケティング
テクノロジーの革新が目まぐるしくおこなわれ、毎日のように新しいサービスや製品が生まれる現代。
いかに優れた製品・サービスであっても、マーケティングが機能しなければ100のポテンシャルを持っていたとしても5割や0に近いところまで力を落としかねません。だからこそ、マーケティング理論・ワークフレームを理解し戦略に落とし込むということが重要になってきます。
また、これまでの常識や伝統が明日以降も正しいとは限らず、新型コロナウイルスのように世の中そのものがイノベートしなくてはいけなくなる事態も起こりえます。だからこそ、世の中のニーズや動向を正しくキャッチすることも欠かせません。
ニューノーマルと言われるような新しい生活様式が広まってきている今の時期の分析や戦略の考案は、特にマーケターの腕の見せどころと言えるかもしれませんね。