未来を切り開く眠れる技術:ディープテックを活用した事業化の秘訣 #事業開発SUMMIT2023
こんにちは、CROHackです!
今回は、2023年8月に開催された「事業開発SUMMIT2023」のセッション「未来を切り開く眠れる技術:ディープテックを活用した事業化の秘訣」のレポートをお届けします!
大学の研究室や企業の研究所に埋もれている技術を掘り起こして、事業化へとつなげる。このアクションに苦戦している日本企業は少なくありません。
本セッションでは、ディープテックのアントレプレナーやオピニオンリーダーなど、さまざまな立場から3名のゲストをお招きしました。ゲストには「技術の事業化」というテーマの共通課題や、事業化に必要なナレッジについてディスカッションしていただきました。
ご登壇を頂いた方
「技術の事業化」における共通の課題
セッションの冒頭として、まずはゲストの皆さんに「技術の事業化」というテーマにおいて、多くの組織が直面している課題について伺いました。
上島氏は、大企業から「研究部門の開発した技術を事業部門に伝えても、うまく事業化につながらない」という相談をよく受けていると話します。この悩みは、研究開発を進める段階で、その技術がどのような事業性を有しているのか、本業とどのようなシナジーがあるのかが検証されていないという問題が根底にあると上島氏は指摘します。
また、事業部門からは「新たな技術を用いてどのようにマーケットを開拓していけばいいかわからない」という相談を受けることもあるといいます。いずれのケースにおいても、社内に事業性評価を正確に行える人材が欠如していることを示していると、上島氏は話します。
こうした相談とは別に、上島氏は客観的に見て感じる課題も指摘します。例えば、多くの企業は自前主義にこだわりすぎる傾向にあります。ほんの1、2年でソフトウェアやデバイス、ビジネスモデルが陳腐化してしまう現在。何もかも自社で賄おうとすると、変化に追いつけず商品価値が失われてしまうというリスクを抱えてしまいます。
また、技術の進化を踏まえた開発アーキテクチャを設計できていないという課題も企業は抱えていると、上島氏は話します。
各務氏も同様に、企業が自前主義にこだわる姿勢を問題視しています。テクノロジーが多種多様な方向性に進化を続けるなか、そのすべてを研究部門だけでカバーするのは困難です。
各務氏の専門とする大学発ベンチャー支援においては、GAPファンドなどを通じて基礎研究の段階から事業化に有益なデータの収集を進めています。また、TLO(技術移転機関)が大学と大企業の間を取り持ち、大学の研究成果を事業化に結びつけるといった活動が続けられています。
アメリカでは、大学発ベンチャーの8〜9割が企業にM&AされるというEXITを迎えています。企業が長期的目線で見守らないといけない領域に大学発ベンチャーが取り組むことによって、結果として特定領域の事業化を支えているのです。日本においても、大学の技術が大企業に買われるというマーケットが、潜在的な可能性を持っていると各務氏は話します。
ベンチャー企業を経営する立場として、宇井氏は「技術の事業化」には陥りやすい罠があると指摘します。
それは「技術に自信があるからこそ、売るための努力が劣後になりやすい」という点です。
研究開発系のスタートアップの多くは、自分たちの技術に絶対的な自信があり、心のどこかで「製品化にこぎつけることができれば、自然と普及する」と思ってしまっている側面があります。結果、営業やマーケティングの優先順位を上げづらく、事業化がなかなか進まないことになりやすいといいます。
技術の事業性を評価するために必要なこと
ゲストたちが語る「技術の事業化」における課題を参考に、セッションでは3つのテーマをもとにディスカッションしていただきました。
一つ目のテーマである「技術の事業性をどのように評価するか」については、上島氏が技術の事業化において重要な課題としても取り上げていました。
この課題について、上島氏は研究開発者が技術ドリブンで価値提供を考えずに行動すると、技術の事業性をうまく評価できないケースがあると話します。これ自体が問題ではなく、その行動をサポートできるチームがあることが、事業性の評価では大きな鍵を握るのです。
近年のスタートアップでは、既存チームがCTOとして機能しつつ、CEOを外部から招聘するという動きがみられます。経営について考えられるチームや個人がいることで、組織がバリュードリブンで動ける体制を構築しようとしているのです。
また上島氏は、経営者が技術に対して、戦略のみならず戦術レベルまで仮説を組み立てているかを重視しています。技術シーズを開発する段階でプロダクトのゴールを定義しないと、過剰な商品開発に走ったり、単体では価値にならない商品を開発したりしてしまうからです。
また、事業性の評価にはその事業を取り巻く環境に対する洞察力も必要だと上島氏は話します。各務氏が指摘したとおり、研究シーズが社会に実装されるまでに長い期間を必要とします。その間、自社の技術を陳腐化させる新しいものが次々と生まれる前提において、社会がどのような方向に進むのかを考える視点が求められるのです。
各務氏は、事業性の評価では「企業から離れた枠組みで考える」という姿勢が重要だと話します。実際、技術開発を行うときに市場性やグローバルの流れではなく、自社のリソース内でどう事業化するかという内なる論理に従ってしまう大企業の研究者は少なくありません。
そこで必要となるのが、スタートアップのような姿勢で事業化を図るという姿勢です。20、30と事業を生み出す過程で、2つ3つ大きな事業の柱が生まれる。この観点で技術シーズを進めてほしいと各務氏は話します。
ここで生まれる事業は、大企業にとって決して大きな売上を生まないかもしれません。それでも、仮に年間10億のビジネスを生み出せれば、スタートアップからすれば時価総額1,000億に相当するビジネスの可能性があります。
このように小さく事業を始める場合、グローバルの視点も必要だと各務氏は話します。日本国内では事業化が困難な場合でも、インドでは法体系が 違うことでグロースできるチャンスがあります。ライフサイエンスやバイオ領域であれば、世界を牽引するアメリカを無視することはできないでしょう。知財戦略においても、当然グローバルな戦略が求められます。
宇井氏の場合、介護領域において「シーズを選ぶ側」としてプロダクトの形を模索し続けてきました。そのなかで、事業性を評価するのに重要なのは「顧客がそのプロダクトを使用するシーンを思い浮かべられるか」だったと話します。
Helppadは開発当初から、においセンサーを用いるなど技術的なコンセプトは固められていました。しかし、そこから現在の形に至るには数十〜数百回もの試行錯誤が重ねられました。それらはすべて、abaが見据えた世界観に合致する技術を見つけるための活動だったのだといいます。
逆に言えば、においセンサーという技術が同社の世界観に合致しないのであれば、いつでもその技術を捨てて次に挑戦できるといえます。宇井氏のように、ニーズや実現したい世界から逆算して技術を探すという姿勢も、技術の事業性を評価するためには必要な姿勢かもしれません。
自前主義から脱却するポイントは「自己認識」
二つ目のテーマである「自前主義から脱却するポイント」について、上島氏は正しい自己認識を持つことをポイントの一つとして挙げました。
宇井氏がHelppadを開発したときのように、試行錯誤を重ねて「この技術を使うべきなのか」を確かめていく。こうしたアクションを取ることにより、自社のビジネスや技術はどうあるべきかを理解・整理して、最終的に自社のポジショニングの仮説を固められるのです。
そのためにも、ありとあらゆる仮説を考え、それらが失敗することを前提に検証を進める必要があると上島氏は指摘します。
社会課題解決・技術それぞれの理解を深めチームで支える
最後のテーマとして、「社会課題解決✕技術の両視点を持つ人材の育成方法」についてゲストの意見を伺いました。上島氏は大前提として、両視点を持つことそのものが非常に困難であることを指摘します。特に研究開発者の場合、自身の研究領域にしか興味がないケースがよく見られますが、その偏った思考が新たなイノベーションを生むという事実も否定できません。
こうしたメンバーに対して、経営的目線を持たせようと動くのは組織に混乱を招くリスクがあります。個々が両方の視点を持つのではなく、チーム全体として価値ドリブンに動ける体制が構築できればいいのです。
特に現代は、ビジョンドリブンやイシュードリブン、技術ドリブンなど多種多様なビジネスモデルが存在します。どれが正解かわからない中、さまざまなチャレンジができるチームを形成することに、今は取り組むべきではないかと上島氏は話しました。
一方で宇井氏は、自分も含む「社会課題に向き合う人々」は真摯にニーズに向き合うからこそ、シーズのキャッチアップがおそろかになる側面があると指摘します。
ただし、テクノロジーの進化が早い現代において、気づかないうちに「ニーズをかなえるシーズ」が生まれていることはよくあります。だからこそ、ニーズを良く知っている人たちと、常に新たなシーズを追いかけている人たちの濃く深い、多彩な交流が今こそ求められていると考えます。
こうした営みを繰り返すことで、社会課題解決✕技術の両視点を持つ人財が自然発生的に生まれるのではないかと、宇井氏は考えています。
各務氏は、技術者もまた「解決したい課題」に対する解像度を高める必要があると話します。社会課題に対する理解度が高まるほど、「自社だけでは解決できない」という限界も理解できるようになり、おのずと自前主義から脱却できます。この視点を持てたとき、はじめて大企業は技術の事業化が本格化できるようになるのです。
まとめ
セミナーのポイントをまとめました。
お三方の話では、組織づくりや戦略立案コミュニケーションなど、技術の事業化において“技術以外”に何が必要なのかを知ることができました。
自社の技術開発やそれを用いた事業化に悩んでいる方は、本セッション内容をぜひ参考にしてみてください!