「両利きの経営」”成功のカギ”~新規事業における既存事業の活かし方とは~
こんにちは!CROHackです!
今回は、既存事業を深める「知の深化」と新規事業を展開する「知の探索」の両輪で企業の経営を行う、「両利きの経営」についてお話しします!
はじめに
既存でもともと立ち位置が確立された事業がある中で新規事業を進めようとすると、「既存の資源をどう生かすべきか?」という問題に直面します。
既存のアセットを活かすと新しさがなくなる
新規事業ありきで進めると既存アセットが活かされずスケールしない
といった状況に陥る可能性があるからです。
これらの問題は、どのように解決していけばよいのでしょうか?
ここでは、実際に既存の事業がある中で新規事業を展開し成功させた2社について取り上げ、主に事業開発において「既存の経営資源はどう活用すればいいのか?」という点についてご説明します!
ケース①みんなの銀行
「みんなの銀行」とは
全てのサービスがスマートフォン上で完結する、日本初のデジタルバンク「みんなの銀行」は、2021年にふくおかフィナンシャルグループの子会社としてサービスの提供を開始しました。
「デジタルバンク」という呼称の通り、スマートフォンが使える人であれば誰でも使えるようになっており、30代以下の「デジタルネイティブ世代」をターゲットにしたサービスです。
機能として、バンキング(銀行)とウォレット(財布)が一体になった「デジタルウォレット」を中心にビジネスを展開しているサービスです。
サービス立ち上げのきっかけ
みんなの銀行の出発点はちょうど10年前にさかのぼります。
ふくおかフィナンシャルグループで当時社長を務めていた柴戸隆成氏(現会長)は、現在みんなの銀行取締役頭取を務める永吉健一氏に対し、
という宿題を出します。
この、「既存の銀行の延長線上でなくてもよい」と付け加えてもらったのが一つのヒントになったと、永吉氏は言います。
サービスの構想ができあがるまでの流れ
永吉氏によると、新しい銀行、ネット専業銀行のようなものをゼロから作ろうというコンセプトは、構想の初期段階から持っていたそうです。
当初はiPhoneのようなイノベーティブな金融サービスを作ろうと考え、2016年にiBankマーケティング(以下、iBank)という会社を立ち上げました。
ここで扱っていたのは、「ネオバンク」と呼ばれている、銀行代理業を使った金融サービスでした。
しかしその後、iBank事業を展開する中で、銀行自体への課題をさらに強く感じるようになり、「やはり銀行をゼロから作ろう!」と新しい銀行プロジェクトを並行して立ち上げることになります。
ここでは、「iPhoneのようにイノベーティブなプロダクトを次々に生み出すAppleのような『銀行』を創りたい」という大きな想いやコンセプトを持って、みんなの銀行は形作られていきました。
どんな課題をどう乗り越えていったのか
この「新しい銀行をつくる」という過程では、様々な課題に対処する必要がありました。
まず、既存事業の枠組みから脱却するため、組織からいったん離れた「出島組織」で新しく事業を始めていきました。また、既存の銀行組織内の人間も99%が銀行員だったため、あえて銀行員でない人たちと新しいものを作るという試みにも挑戦します。
そして、最初からうまくいくわけがない、いいものを生み出せるわけがないという前提に立ち、短期スパンでのトライアンドエラーを繰り返して事業開発を進めていきました。
その結果、当初の構想通り、ユーザーの7割がデジタルネイティブ世代と、確実にターゲット層を獲得することができたのです。
また、営業基盤を全国に拡大し、既存の地域金融グループのブランドの枠組みを抜け出して「みんなの銀行」という新たなブランド軸を確立することにも成功しました。
既存事業と比べた革新性
既存の銀行は、紙やハンコ、人がやっていたものをまずはWebに載せ、そこでデータになったものを活用して業務の効率化をはかる形でDXを推進しています。
つまり、銀行業務をデジタル化して既存事業に変革を起こすための取り組みです。しかし、みんなの銀行は、最初からDXを起点にしており、デジタルをもとにどう銀行を作るのか、という逆転の発想でいろんな事業を起こしてきたサービスです。
そのため、既存の制約に縛られることなく商品や業務のプロセス、システムなど、全てゼロベースで設計することができました。
この、業務のデジタル化(DX)ではなく、デジタルを起点に人や組織、金融サービス、マーケティング、システムといったありとあらゆるものについて革新的な事業を展開するビジネストランスフォーメーション(BX)を行ったことが、みんなの銀行の大きな特徴といえます。
既存事業の経営資源はどう活用したのか
みんなの銀行では、商品・サービスや業務、システムといったものについては独自のものを持ちつつ、既存のリソースや仕組みは最大限活用しながら事業を展開するという方法をとっています。
グループで扱っていた金融の商品や業務プロセスシステムについては、これまでの銀行の人や紙、ハンコを使いながら、積み上げて業務やシステムを構築してきたものになるので、そのまま使おうとすると、その整合性をとりつつ開発やテストを進める必要がありました。
そうすると、かなりの時間とお金がかかってしまうため、既存の制約のあるものについては全てとっぱらい、ゼロから作ることを決定します。
とはいえ、グループとしてのガバナンスやリスク管理、内部管理体制については当然一体性を持たせる必要があります。また、これら全てを自前で作ろうと思うと、それはそれでまた時間がかかってしまいます。
そこで、「新しくゼロからデジタルバンクを作る」という取り組みにあたって制約にならなさそうな範囲で使えるリソースを使う、という手段をとったのです。
この、既存で確立された事業・組織から一定の距離を置きつつ、恩恵は受けるというバランスのとり方が、みんなの銀行を軌道に乗せた要因の一つと言えます。
グループ内でのカニバリズムは起きなかったのか
グループ内で、カニバリズム(顧客の奪い合い)は起きないのかという点については、立ち上げのプロセスの中で繰り返しディスカッションが行われました。
しかし、蓋を開けてみると、福岡銀行を含む多くの既存の銀行の顧客は40代以上が7割なのに対し、みんなの銀行の顧客じゃデジタルネイティブ世代、30代以下が7割と真逆の比率となったのです。
また、ふくおかフィナンシャルグループは九州が圧倒的な営業基盤であるのに対し、みんなの銀行の顧客は全国に散らばっており九州の顧客は全体の1割程度となっています。
結論として、グループ内での顧客の重複は非常に少なく、切磋琢磨しながらシナジーを生む方向で進められたのです。
リーダーとして何を大切にしたのか
既存の組織の中で新規事業を展開していくにあたり永吉氏が意識していたことは、大きく2つだといいます。
特に後者については、変化が速い時代のため、出すのが遅れるとマーケットにフィットさせる前に終わってしまう恐れがある、という点で非常に重視されていたようです。
最初は30点でもいいのでまずはプロダクトとして出し、顧客からのフィードバックをもらいながら100点に近づくようブラッシュアップしていくことが重要だと永吉氏は言います。
TOPPANの事例
続いて取り上げるのは、TOPPANで行われている、Webを通じて引き合いをつくり営業と連携して受注につなげる「Web創注活動」です。特に目新しい施策ではなく、いわゆる一般的なBtoBのデジタルマーケティング活動です。
ただ、組織の巻き込み方や推進の仕方が非常にユニークになっています。
ユニークな点①マーケティング活動をサービス部門が推進
一般的なBtoBデジタルマーケティングはマーケティング部門が推進することがほとんどですが、TOPPANでは、サービス部門が全て一貫して対応しています。
このような取り組みを行った理由は、画像にあるような世の中のBtoB企業のマーケティング部門が強いられている苦労を避けるためです。
この活動では実際に売り上げで成果を作ることにこだわっており、クロージングやデリバリー、クロスセルにまで対応する理由や、マーケティング部門から独立した理由もここにあるといいます。
その結果、売上は順調に拡大し、21年度には15億円強、22年度には20億円強まで伸長しました。
また、継続受注も好調で、これは、デリバリーするサービス部門がマーケティング活動からワンストップで対応していることが少なからず影響していると考えられます。
ユニークな点②一部門での成功体験を全社に展開し、連携推進
このWeb創注活動では現在、この活動を推進する意志の強いサービス部門を公募して活動を推進するための支援を行い、サービス部門がマーケティング活動を推進していける枠組みを構築しています。
その結果、Web創注活動の姉妹サイトは今では9個にまで拡大しました。
また、サイト公開後の参画部門の活動の質と量を維持・強化するため、9部門70名以上にわたるメンバーと毎月2回の全社連携会議を実施しています。
そして、マーケティング活動を推進する中で、商品に対する物足りなさや問い合わせ以降のプロセスの歩留まりの悪さなどの課題を認識するようになったことで、現在はマーケティング活動にとどまらず商品の魅力向上なども含め、全社で歩みを進めることができているといいます。
既存の組織とどうバランスをとっていたのか
活動を進めた当初は、既存の組織体制に反する動きをすることになるため、社内でも対立や不満を生むことがありました。
解決方法として行ったことは、ゆくゆくは営業部門の売り上げになりサービス部門の生産になるという、「取り組みに参加すると結果として自分に与えられたミッションの成果を産み出せる」ということの周知です。
実際に、当初は営業の方から「勝手なことをするな」と言われることもありましたが、案件を進めていき数字が決まると手のひらを返すように感謝されたといいます。
このように、各部署が成果を作り合うパートナー関係のような立ち位置を作り、結果としてみんなのためになることをしたために、公募してもやりたいという声が上がるようになったのだと考えられます。
他部署への横展開はどう進めたのか
このWeb創注活動では、先述の通り一つの部署の事例を他の部署に展開して進めてきました。
しかし、当然参画部門それぞれでこれまでやってきたやり方、自分たちのノウハウがあるため、要望を全て聞いて進めることは困難でした。
そこで、1件目として運営して一定の成果を出していた「TOPPANデジタル」というサイトを用いて、「いったんこの方法を信じてついてきてほしい」というやり方で推進していきました。
こうして標準化したノウハウを提供し、それで成果を出してもらって、確からしさを内部で証明しながら徐々に拡大を推進していったといいます。
リーダーとして何を考えていたのか
この活動を推進した、経営企画本部経営基盤改革部部長・内田智宏氏によれば、一番は「推進するという覚悟」だといいます。
まず初期は、部署も関心事もまちまちな様々な職種の方を巻き込んでいく中で、相互理解を促しつつ成果を出していくのが注力課題でした。後半になってくると、注力課題が、活動に対して支援してくれる部署や役職の方たちの共感を得ていくことに変わります。
お金や人を出してもらったら、実際に役に立ったことをフィードバックし、力を貸してよかったと思っていただけるような働きかけを繰り返し行う、ということです。
ボトムアップで何か変革を推進する際には、このようにまず小さな成果を出し、その成果を発信して各方面に理解してもらう、ということを循環させながら広めていくことが理想といえます。
まとめ
今回は、既存の確立された事業がある中で、そのアセットを活かしつつ新しい試みを行った2社の事例を取り扱いました。
このように、既存のアセットにどこまで頼るのか、そしてどこから切り離すのか、このバランス調整がうまくいけば、既存の事業では生み出せない成果を生むことが可能です。
冒頭で扱ったように、「両利きの経営」には
という壁が立ちはだかりますが、
この2社の事例の様に、「ゼロから考える」のでなく既存の組織構造やシステムといったハードな面を活かしつつ、時代に合わせて、あるいは目指す将来像に沿って、既存の枠組みにとらわれない柔軟な視点でアセットを活用していくことが求められます。
最後までご覧いただきありがとうございました。本記事を、御社の新規事業推進のきっかけの一つとしてご活用いただければ幸いです。