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LTV(ライフタイムバリュー)の概念-計算方法と最大化に必要なポイントとは

こんにちは、CROHack編集長の松尾(@daisukemo)です。

プロダクトをグロースさせていくためには、新規の顧客を獲得し続けることも重要な観点ですが、既存顧客からより多くの利益を生み出すことも同じ重要なポイントです。

その指標として使われるのがLTV(Life Time Value=ライフタイムバリュー)と呼ばれるもので、こんな時代の今だからこそ、LTVを高めるためにできることを考え、顧客に向き合っていく必要があります。

そこで今回は、改めてLTVの考え方や計算方法、最大化のためのポイントを詳しくご紹介します。

-LTV(顧客生涯価値)とは

LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客が生涯を通じて企業にもたらす利益や価値のことを表す数値のことです。

つまり、新規の顧客を獲得してからサービスを使わなくなるまで(解約されるまで)に、自社プロダクトにどれだけの金額を使うのかという指標がLTVです。

LTVは、主にSaaSビジネスや、サブスクリプションモデルのビジネスのKPIや効果測定の項目として利用されています。

反対に、買い切りのサービスや商品の場合は、複数回の利用が見込めないためLTVは商品やサービスの単価とほぼイコールになり、LTVを指標として扱うことは多くありません。

LTVを算出することで、これから獲得していく新規の顧客に対して、どれだけの費用を投入して営業活動を行えるのか、一つの基準ができます。

BtoBの場合はリードタイムがもともと長いことに加え、アフターコロナで社会的にテレワークの促進が予測されるなかでリードタイムはさらに長期化していくことでしょう。

そうなると、リードタイムで先行して投入する費用をしっかり意識・管理しながら営業活動を行わなければ、利益は圧迫されていきます。

CRMによるデータドリブンマーケティングの浸透、SaaS、サブスクリプションモデル型ビジネスへの参入増加などの背景もあり、近年ではLTVという考え方が改めて重要視されています。

-LTVの計算方法

LTVの計算方法は、以下の計算式から求められます。

LTV=年間取引額×収益(粗利)率×継続年数

この計算式を見ての通り、LTVを高めるための方法論は大きく以下の3つに分けられます。

・年間取引額を多くする
・収益(粗利)率を高くする
・より長く継続してもらう

ただしこの計算式の場合、年間取引額や継続年数を算出しなければいけないため、契約の企業やユーザー数が多い場合は、LTVを算出するまでに時間がかかってしまいます。

そのため、以下のように年間の平均値を算出して計算するのが一般的です。

平均年間取引額=平均購買単価×年間平均購入回数
LTV=平均年間取引額×収益(粗利)率÷年間解約率

また、上記の数値を算出することも難しい場合は、

LTV=(売上高-売上原価)÷購入者数

もしくは、

LTV=(売上高-売上原価)÷購入者数

といった計算式を利用すると、大体のLTVが計算できます。

ちなみに、昨年開催されたB Dash Camp2019 fallというイベントで開示されて少し話題となったのですが、ベルフェイスが当時公表したLTVは約700万でした。

-計算したLTVはマーケティング戦略への落とし込みに使う

先ほど計算したLTVは、新規の顧客に対してどれだけの費用を投入できるのかを判断する一つの指標として利用できるとご紹介しました。しかし、LTVはそれ以外にも、マーケティング戦略への落とし込みにも活かせます。

リアルの営業活動ではなく成果報酬やクリック課金型のWeb広告を出稿する際のCPAの上限設定や、獲得費用回収までの目安期間の認識統一などが代表例でしょう。

また、チャネル別にLTVを計算することで、どのような営業活動がより効果的に顧客を獲得できるのか、どのチャネル経路で獲得したユーザーのLTVが高いのかという傾向も見えてきます。

この複数チャネルで算出されたLTVは確度の高い有効な指標になり、どのチャネルに注力すべきかをデータドリブンで判断・決定できるようになります。

マクロな視点でマーケティングを考える際に、LTVは非常に有用な指標の一つとして利用可能です。

-LTVが低い事業の抱える問題

当然ながらLTVは高いことが「是」として扱われますが、ではなぜLTVが低いことが問題になるのでしょうか。色々な要素がありますが、中でも重要になるのはLTVの低い事業はCACに制限がかかる点です。

▼CAC
新規顧客1社を獲得するために必要となるマーケティングや営業のコスト

極端な話、LTVが50万の事業で、1顧客獲得に100万の予算は使えないですよね。この場合、CACはLTVの1/3である16~17万を下回らなければユニットエコノミクスが成立せず、そのコストにおいて出来る獲得施策というのは大分限られてしまいます。

つまり、LTVの高さの違いによって、マーケティングやセールスに使えるお金が大きく異なるという点が、LTVが高いことが「是」とされる大きな理由と言えるでしょう。

ただし、一見明らかにユニットエコノミクスが成り立たないような低価格帯で大手企業がその事業に参入してくることもあります。それにはカラクリがあるのですが、話し始めると長くなってしまうので詳しくは以下の記事をご覧ください。

-LTV最大化の重要ポイントは「ファン化の促進」

LTVを高めるためのアプローチとして、先ほど「顧客単価を上げる」「収益(粗利)率を上げる」「継続率を上げる」という3つをご紹介しましたが、それぞれを独立させてLTVを最大化しようと考えると、それは結果としてLTVを下げることにつながります。

LTVを高めるにあたっては、ユーザーにとって必要不可欠(Must Have)なプロダクトであるかという考えを持つ必要があるでしょう。

Must Haveであれば、必ずコアなファンがつくため、例えば値上げをしたとしてもチャーン(解約・乗り換え)が増えにくくなります。

この観点を持たずに単価を上げにいくと、チャーンが増えて結果的にLTVが下がるという罠に陥りがちです。

「適正価格なのか」という視点はもちろん必要ですが、価格改定をする際には普段以上に顧客のフォローアップを徹底し、値上げしたとしても利用し続けるベネフィットをしっかりと伝えていかなければいけません。

「ファンを増やすために何ができるか」をマーケティング・セールス・カスタマーサクセスなどの各チームが意識して顧客目線に立ち、プロダクトをアップデートし続けることがLTVを最大化するカギといえます。

ちなみにBtoB事業であれば、LTVを上げるには大手企業(エンタープライズ)の開拓も非常に重要になります。この辺りの話は、CROHack運営事務局の大島(@crohack_oshima)が書いた記事に詳しく載っていますので、ぜひこちらも読んでみて下さい。

-「ファン化」とはつまりロイヤリティを上げること

先ほどLTVの最大化にはファン化が重要とご紹介しましたが、ファン化とはつまり「顧客ロイヤリティ」を上げることに行きつきます。

顧客ロイヤリティとは、顧客が商品やサービス、ブランドや企業そのものに対して持っている「信頼」や「愛着」のことです。

SaaSやサブスクリプションモデルのビジネスでは顧客ロイヤリティが顕著に表れ、継続率に大きく影響を及ぼします。

SaaSやサブスクリプションの場合、後発で類似のサービスが出てくることも珍しくありません。そのため、満足度を上げるだけでなく、リピートにつながるかつ思わず知人・友人に紹介したくなるようなロイヤリティの向上施策を考えていく必要があります。

また、ソーシャルメディアの登場によって企業と消費者が直接つながりやすくなったことや、消費者同士がつながることで「口コミマーケティング」が活発になりました。

これは顧客ロイヤリティの向上や新規顧客の獲得という観点でポジティブなようにも思えるかもしれません。しかし、これは他社でも同様のことが言えるため、そのプロダクトのファンではないユーザーが他社の類似サービスに流れてしまうリスクも内包しているのです。

口コミマーケティング、ひいては顧客ロイヤリティの向上においては、先ほど挙げたプロダクトそのものがMust Haveであるかどうかというのも当然重要ですが、それに紐づくもう一つの要素として「カスタマーサクセス」がカギを握ります。

-事例から学ぶカスタマーサクセスの重要性

今でこそビジネス用語として定着したカスタマーサクセスですが、最初にその言葉を使ったのはご存じ「セールスフォース・ドットコム(以下セールスフォース)」だといわれています。

セールスフォースでは、ソーシャルメディアが広く普及する以前より「Salesforce Trailblazer Community」というセールスフォースの社員とユーザーが利用できるコミュニティを作っていました。

Salesforce Trailblazer Communityでは、顧客同士のコミュニケーションの促進や成功事例の共有だけでなく、顧客からのソフトへのフィードバックを投稿できるようになっており、そこで得た要望が実際にセールスフォースのサービスへと反映されています。

もちろん他にもさまざまな取組をした結果ではありますが、セールスフォースが今や世界でも有数のSaaSビジネスへと成長したのは、カスタマーサポートとは一線を画した、顧客のビジネスの成功にコミットするカスタマーサクセスへの注力を抜きには語れないでしょう。

今までの日本のSaaS市場は、新規顧客をひたすら増やすほうが収益性が高いと判断されていたことで、カスタマーサクセスという概念を積極的に取り入れてきませんでした。

しかし、それは緩い競争環境だったからこそ成り立っていたことに他なりません。外資の参入も含めたSaaS市場のレッドオーシャン化が進み、さらには新型コロナウイルスという外的環境の大きな変化が起きたことで、チャーンを減らしLTVを高めるためにはカスタマーサクセスに正面から向き合う必要があります。

-顧客ロイヤリティを測る「NPS」

顧客ロイヤリティに話を戻すと、先ほどお伝えしたとおりにこれは「信頼」や「愛着」といった抽象的なユーザーの感情を表すものです。

2003年にフレドリック・F・ライクヘルドによって発表されたNPS(Net Promoter Score)という指標を利用することで、顧客ロイヤリティの数字化が可能となりました。

まず、ユーザーに対して「このサービス(商品)を親しい友人にすすめたいと思いますか?」という質問を10点満点で回答してもらいます。

集まった回答から「批判者」「中立者」「推奨者」に分類し、推奨者の割合から批判者の割合を引いた値がNPSになります。

みなさんも利用中のサービスで似たような質問が表示されたことがあるのではないでしょうか?

そして質問の回答は、

0~6:批判者
7~8:中立者
9~10:推奨者

のように分類され、マイナス100~プラス100の数値でNPSのポイントは算出されます。

10人中、推奨者が3人、中立者が3人、批判者が4人だった場合、
30%(推奨者)-40%(批判者)=-10(NPSポイント)
という計算になります。

このNPSですが、批判者ほど積極的に回答する傾向があるため、実際にやってみるとマイナスになることが非常に多いです。

NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が行っているNPSランキング&アワードの2019年公表データを引用し、各業界のNPSトップ企業をまとめてみました。

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Netflixを除き、どの業界のNPSトップ企業でもほぼマイナスですね。業界によって差異があるため一概の目安は難しいですが、同じ業界・近しい業界の平均が一つの目安として使えます。

■まとめ

・新規の顧客を獲得してからサービスを使わなくなるまで(解約されるまで)に、自社プロダクトにどれだけの金額を使うのかという指標がLTV
・ファンを増やすためには、セールスやマーケの目標意識を統一してMust Haveなプロダクトにアップデートし続けることが重要
・今後のSaaSビジネスは、カスタマーサポートではなく顧客のビジネスの成功にコミットしたカスタマーサクセスが鍵を握る

ご存じの通り、コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言や外出自粛による消費行動の鈍化などで、緊急事態宣言が解除された今でもSaaSやサブスクリプションなどのビジネスモデルではダウングレードや解約が起きているプロダクトも少なくありません。

どうにか繋ぎ止めたいとフォローアップしていきたいと考えるのが自然ですが、将来的なLTVの最大化を考えると、逆の発想で簡単にダウングレードや休止、再開ができる仕組みを用意するのも一つの手ではないでしょうか。

レッドオーシャン化が進むSaaS市場ですが、顧客ロイヤリティを大事にする姿勢は、きっとあなたのプロダクトのユーザーにも届くはずです。

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