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『モンスター組織』書籍全文公開-CASE02,CASE03-

【モンスター組織CASE02 低体温デジタル組織】

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▼登場人物
①営業部長:三浦誠司(43歳)
・ネット広告業界で長らく営業に従事
・成果にこだわった仕事で、クライアントからの信頼も厚い
・8年前に同社に転職し、優れた営業成績を残してきた
・4年前より営業部門の責任者に
・自身がたたき上げて育ってきたため、同じようなマネジメントスタイルを踏襲している

②エンジニア:桐生光一(27歳)
・大学卒業後、新卒で入社
・メディア事業部のシステム開発を担当
・現在入社5年目で、新人教育も任されるようになったが、自身もきちんとした教育を受けたことがなく、どう育ててよいか分からない
・人付き合いが苦手で口数が少なめ、対面コミュニケーションを取りたがらない
・比較的自由な社風は気に入っている

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―イントロダクション

大手広告代理店出身の現社長が11年前に独立し、創業した大島テクノロジーズ。主力事業であるメディア事業とWEB事業で会社を伸ばしてきた。現在社員数は約120名で、そのうち半分近くは開発エンジニアが占める。

市場が右肩上がりのこともあり、仕事の依頼は多く、高い成長率を実現している。しかし、社長自身は、同業他社に比べてそれほど成長しているとは捉えておらず、もっと事業拡大したいと考えている。

特に気になるのは、比較的ベテランが多い営業部門と若手が多い開発部門で度々対立が生じていることだ。営業部門と開発部門の意識のギャップである。

営業部門は、数字目標の達成意識は強く、数字をつくることには情熱を持っているものの、受注の仕方に雑さが見られたり、受注した後の仕事がおざなりになりがちで、それが他部門の不満につながっている。

対立の要因は他にもある。開発部門を中心に、どんどん新しいデジタルツールが導入され、近年、社内コミュニケーションや情報共有の大半は、デジタルツールで行われるようになった。

ただその状態に営業部の多くのベテランメンバーはついて行けておらず、対面でのコミュニケーションの少なさに不満を感じている。

一方の開発を中心とした若手メンバーは、システムやチャットを見てもらえば分かることを、わざわざ改めて報告させるといった、古いマネジメントスタイルに嫌気がさしている。

コミュニケーションギャップが埋まらないことを、お互い相手に矢印を向けている状態にある。さらには部門内のコミュニケーションも希薄で、モチベーションのケアもできていないため、それが離職率の高さにつながっているのではないかという懸念がある。

加えてクライアントファーストを掲げているものの、そうしたマインドの浸透度は低く、自分ファーストな仕事の仕方がはびこりつつあることに、危機感を持っている。

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―変革前の大島テクノロジーズ

◆社員たちの意識の低さに苛立つ営業部長
「最近、クライアントからのクレームが増えてきている。開発部門の仕事の仕方に問題があるんじゃないだろうか」

営業部長の三浦は、このところ、部下から報告を受ける、あるいは自身も受け取るクライアントからのクレームに頭を悩ませていた。

三浦はネット広告業界で長く営業に従事し、8年前に大島テクノロジーズに転職。優れた営業成績を残してきた。そして4年前に、営業部門に責任者に赴任し、任務にあたってきた。

何よりも、クライアントから厚い信頼を得てきたことを誇りに思い、大切にしている。にもかかわらず、クライアントからクレームが増えているのは、営業部長として看過できなかった。

その原因を考えていて思い当たるのは、開発部門の仕事ぶりだった。どの業界もそうだろうが、広告業界においても納期を守るのは基本だ。なのに開発部門はその意識が弱く、営業部の者がクライアントに頭を下げる事態も生じている。

「忙しいので仕方ないんですよ」

開発部門の人間は、そう言い訳するが、あまりにも責任意識が薄すぎないか。残業したくないそぶりも見せるが、ならもっと生産性を上げる努力をすべきではないか。

何よりも問題なのは、報連相が少ないことだ。何でもやりとりをデジタルで済ませようとして、直接話をしようとしない。

時代はたしかにデジタル化がどんどん進んでいるが、そうであってもコミュニケーションは、やはりデジタルだけで済まされるわけではない。顔を合わせて、しっかり話をしなければ、どうしても情報の伝達や意思疎通に欠けてしまう。三浦はそう考えていた。

リーダークラスのエンジニアも問題だ。自分の仕事で精一杯で、ちゃんと新人を育てていないのではないか?新人が関わったプロジェクトで品質に問題が出るのはそのせいだ。

開発部門に対する三浦の不満は、尽きることがなかった。

◆営業部の「古さ」に頭を悩ませるエンジニア
「いつも営業部が無茶な仕事を振ってくる。そんな短い納期で、そんなややこしい開発をやれなんて、無理があるだろうに。もう少し余裕を持った納期設定にしてもらわないと……」

ため息をつきながら、桐生は思わずひとりごとを口にした。
メディア事業部でシステム開発を担当する桐生にとって、日々頭を痛めるのは営業部とのやりとりだった。桐生は人付き合いが苦手で口数も少なめ。対面コミュニケーションを苦手としていた。

でもそれが業務に影響が出るとは思ってもいない。コミュニケーションツールは様々あり、記録もしっかり残るから、昔のように顔を合わせて話をする必要もなく、デジタルを利用してのコミュニケーションにはメリットがあると感じていた。

にもかかわらず、営業からは文句がくる。
「もっと小まめに報連相してもらわないと困る」「もっと口頭で伝えて欲しい」

どうやら「できあがったものが話と違う」とクライアントに納得してもらえないケースが増えていて、それがコミュニケーションの問題だと捉えているようだ。

でも考えてみれば、そもそも営業がクライアントの与件を正確に捉えてないことが多々あるのが、問題なのではないか。営業のコミュニケーション能力の問題だ。だから当初聞いていた話と全然違ったものをつくるなどということもよく起きる。そのしわよせが、こちらにくる。

「だいたい、開発状況は開発管理システムを見てくれれば分かるのに、なんでわざわざ口頭で報告しないといけないんだ。必要なやりとりはチャットでやって欲しい。そうでないと、言った言わないの問題が起きかねないし、イチイチメモを取ったりするのも面倒くさい」

ひとりごとは止まらなかった。

桐生は入社5年目になる。すると、「新人教育もやれ」と言われるようになった。でも自分もきちんとした教育をされたことがないので、どうやって育てていいか分からない。自分の仕事で手一杯なのも分かって欲しい。

桐生は今日も、営業とのやりとりに悩まされていた。

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―解決すべき課題と対策の方向性

◆対立構造の整理
外部、すなわちクライアントと折衝し仕事を取ってくる営業。それに基づいてつくる開発部門。両者の間に衝突、ギャップが生まれて物事が上手く進まない……。

大島テクノロジーズに限らず、仕事を取ってくる立場にある営業部門はクライアントの意向に沿おうと、ときに無理な要望にも応えようとして開発部門にそれを押し付ける。そのようにして営業、開発の両部門の間に軋礫を生じさせている組織は少なくないだろう。

しかも大島テクノロジーズの場合、どのようにコミュニケーションを取るかという部分においてもギャップが生じている。開発側はデジタルツールでのコミュニケーションを重視し、営業は対面でのコミュニケーションを求めている。

それをどう使い分けるか、双方で上手くコンセンサスが取れていないため、軋礫が大きくなっている。

コミュニケーションのあり方に加え、双方が不満を抱く理由は実は他にもあった。開発部門は、「営業からいつも無茶を押し付けられている」ことに不満を感じている。

その根底には、開発部門は目先の仕事に一杯いっぱいで、新人教育もままならず、生産性向上も図れていないため、メンバーのモチベーションが総じて低い状態であることが、その根底にある。

そのため、クライアントの与件とのズレや納期遅れ、システムエラーなどが多く発生し、クレームにつながっているが、開発としては、今の環境では多少のミスは仕方ないだろうと、どこか開き直った気持ちがある。

一方の営業も、「クライアントファースト」を盾にして開発に無茶を押し付けているが、その実は、クライアントの我が儘を受け入れるしかない、立場の低さに原因がある。結局は営業も開発も、自分ファーストな仕事の仕方になっている。

仕事の需要は十分にある中で、開発部門の生産性が高まっていないこと、若手メンバーの離職率が高いことを改善しなければ、成長が鈍化しかねない状態といえる。

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◆ファーストステップは生産性向上への取り組み
第一の問題点は、開発部門メンバーの業務がキャパオーバーしているため、新しいやり方や改善を進める余裕がないことだ。大島テクノロジーズの場合、余裕がない状態であることに加えて、周りからのフォローが手薄なため、若手メンバー中心にモチベーションの低下が見られる。

開発部門のリーダークラスは若手の人財育成の役割まで求められても、自身がきちんとした教育を受けてきた経験がないため、どう指導してよいか、分からないというハードルもある。

従って課題となるのは、スタッフの増員ないしは生産性の向上である。目先のことに目一杯の状態では、やり方を変えることの心理的ハードルは非常に高い。よってまずは業務の生産性を高め、精神的な余裕をつくりだす必要がある。

その解決の糸口としては、生産性を高めるためのオフィス改革と働き方改革があげられる。例えば、開発メンバーの業務スペースをメインとした「集中ゾーン」と、コミュニケーションを取るための「コミュニケーションゾーン」に分けたオフィスレイアウトにする。

そして「コミュニケーションゾーン」には、簡易な打ち合わせができるスペース(スタンディング形式)などを多数配置。さらにリフレッシュコーナーも設けて、集中モードとリラックスモードの切り替えを促進、ランチタイムや休憩タイムに気軽に雑談できる場としても利用する。

業務に集中すべきときと、コミュニケーションやリフレッシュをするときのメリハリをつけるため、仕事の進め方も時間の区切りを設けると効果的だ。

90分間の「集中タイム」と、30分間の「コミュニケーションタイム」を交互に設定し、集中タイム中は、お互いに話しかけないなど自分の仕事に集中する。一方でコミュニケーションタイムには、自分の作業は一旦中断し、クライアントとの連絡や社内のコミュニケーションや打ち合わせを優先する。

時間の使い方の共通ルールを持つことで、生産性を高める工夫だ。

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また時間を取られがちな会議は、「アイディア出し」「組織的な問題解決」に目的を絞り、1時間以内を基本とする。

日常的な報連相はデジタルツールを基本とし、プロジェクトの遂行上重要となる意思決定は、15分単位の短い打ち合わせを小まめに実施し、スピーディな問題解決に努めることを重視する。

これらの施策を組み合わせることで、業務の生産性を高めることができる。

◆コミュニケーションギャップの解消
第二の問題点が、コミュニケーション方法のギャップである。本来であれば、営業と開発は密なコミュニケーションを取りながらワンチームとして同じ方向を向いて仕事をすべきところだ。

しかしコミュニケーション方法にもギャップがある(営業は対面コミュニケーションを、開発はデジタルコミュニケーションを重視)ため、溝は深まる一方で、お互いが矢印を向け合う結果となっている。ハード、ソフト両面からコミュニケーションギャップを埋める施策が必要だろう。

ギャップを解消するためには、会社としてのコミュニケーションの基本ルールを明確化し、どういったケースでは対面や電話といったアナログなコミュニケーションを取るべきか、反対に、デジタルなコミュニケーションツールを上手く活用する方法についても提示することが望ましい。

それぞれのメリット、デメリットを理解しながら、共通の使い分けルールがあると、社内のコミュニケーションはよりスムーズとなろう。

◆業務連携方法の見直し
第三の問題点は、責任があいまいな状態での業務連携である。営業部門と開発部門の責任の所在があいまいで、お互いが甘ス合っている関係性になっている。

営業は開発が何とかしてくれるだろう、開発は多少納期がずれても営業が納めてくれるだろう……といった甘えが内在するため、問題が生じやすい。

本来の業務フローや引継ぎルールが形骸化してしまっている可能性が高いため、改めてプロジェクト推進体制のあるべき姿から考えなおすことが望ましい。

従って、業務フローの再設計と部門間引継ぎルールの明確化、業務の標準化による無駄やばらつきの排除などで生産性を高めることも重要だ。ただし、標準化しきれない点も残るため、開発プロセスを理解し、適切なプロジェクトマネジメントができる人財にディレクションを任せることも合わせて考えていくとよいだろう。

いわゆる「ディレクター制度」の導入である。人的リソースの問題はあるが、ディレクターのポジションを置くことで、社内外の調整がしやすくなるメリットは大きい。

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―変革への取り組みフェーズ1:コミュニケーションを変える

◆オフィス環境改革とコミュニケーションルールの明確化
自ら創業して11年、大島テクノロジーズを育て上げてきた社長は、営業部門と開発部門に軋礫が生まれていること、それを中心とする組織が抱える問題に気づき、ようやく危機感を抱いた。

知り合いの経営者に相談すると、「社員に『意識を変えろ』と言っても変わらないなら、まずは働く環境を変えてみたら」と勧められた。といっても自分だけで知恵を絞っても限界があり、社内から新しい風を起こすのも簡単ではない。

そこで、その経営者に紹介された組織変革コンサルタントに相談することにした。自社の抱えている問題点を伝え、どのように変えていけばよいのか、提案してもらうよう、依頼したのだ。

コンサルタントから上がってきたアドバイスを受けて、オフィス環境改革をスタートさせた。まず手をつけたのは、元々は各部門ごとに分かれていた執務スペースを機能別にゾーン分けすることだった。

作業に集中したいときの集中ゾーン、メンバー同士がコミュニケーションを取りながら仕事を進めるときのコミュニケーションゾーンを設定した。

集中ゾーンは、開発メンバーと管理部門のみ固定席とし、それ以外の部門はフリーアドレスとした。コミュニケーションゾーンには、容易に打ち合わせができるように、大小様々な形の打ち合わせスペースも設置。

さらにスタンディングスペースも設け、無駄に長居せず打ち合わせが短時間で終わるように工夫するなど環境を整えた。それとともに全ての打ち合わせは、原則1時間以内をルールとしてはっきり打ち出すことで生産性の向上を意識させた。

何よりも大事だったのは、部門間にある垣根を取り除くことだった。そのため、対面でのコミュニケーションを促進するようにした。同時に、簡単な確認事項やタイムリーな報連相はメールより簡易なチャットを活用することをルール化した。

営業部門から不満が出ることは予想されたため、社長自らが率先して使用することで、不慣れな営業部門での定着を図ろうと試みた。

それでも当初は不満が生じた。

「なんでいちいちアプリなんかに書き込まないといけないんですか?直接話せばいいじゃないですか」

営業部長の三浦は、部下から再三、不満をこぼされた。

「そう言わないでさ、全社としてそうすることにルールが決まったんだから、やっていこう」

そのようになだめたりはしたが、三浦自身、部下の不満には内心では同感だったし、思わずにはいられなかった。

「開発部門に合わせるのはなんだかなあ……。なんとなく手間が増えた気がする」

内心、不満や不安も抱きつつ、社長を見習ってこなしていった。

すると、デジタルツールを利用する良さも実感する機会が増えていった。いつ、どんなやりとりをしたか記録されていることの意味、大切さが分かってきたからだった。

口頭では言った、言わないになることもあるし、記憶があいまいになることもある。でもアプリなどを使うことで、「あのときどんなやりとりがあったのかな」と思えば、辿って調べることができる。今までに生じていた問題が解消されることに気づいた。

一方で、なんでもチャットで済ませてしまうことの弊害も見られた。文字では伝わりきらない微妙なニュアンスを伴う問題や、直接画面を見ながら意見を出し合って決めた方が早いこともあるからだ。

そうしたときは分程度の短い打ち合わせを取り入れ、スピーディにすり合わせと意思決定を行うことにした。無駄に時間がかかるから、と打ち合わせ嫌いだった開発部門のメンバーも、ショートスパンでの打ち合わせが定着したことで、徐々に対面でのコミュニケーションにも積極的に応じるようになっていった。

やがて、顔を合わせる機会が増えるうちに、相手の人柄もなんとなく分かるようになってきて、立場や業務上で抱えている悩みなども、以前より理解できるようになった。

こうして、環境が変わり、ルールも明確化されたことで、営業部門と開発部門の双方の理解が進み、コミュニケーションギャップが徐々に埋まり始めた。

◆時間の使い方を共通ルール化し生産性を向上
オフィス環境を変えると同時に取り入れたのが、時間の使い方の共通ルールだ。開発業務は集中力を伴う仕事だが、集中している途中で話しかけられると思考が中断してしまい、作業に戻る際に「あれ?何をやろうとしていたんだっけ……」と思い出さなければならないことが多々あった。

中には邪魔をされるのを拒み、ヘッドフォンをつけて一日中他者をシャットアウトしてしまうようなメンバーもいた。

営業メンバーからしてみれば、クライアントから問い合わせを受けたことにはできるだけスピーディに対応したい気持ちもあり、コミュニケーションを拒まれては困る、という思いだった。

そこで導入したのが、「90分~30分ルール制」だ。90分間の集中タイムと30分間のコミュニケーションタイムを交互に設定し、集中タイム中は原則としてお互いに話しかけることはせず、自分の業務に集中することとした。

反対にコミュニケーションタイムには、クライアントや社内メンバーとのコミュニケーションや打ち合わせ、雑務の処理といった時間にあてることをルール化した。

「コミュニケーションタイムができたことで、開発メンバーにも声がかけやすくなった」

そんな声が他部門から聞こえてくるようになった。コミュニケーションタイムになると、コミュニケーションゾーンにあるカフェコーナーに人が集まるようになり、プロジェクト以外でのコミュニケーションも自然と生まれるようになった。

すると、思わぬ人から貴重なアイデアをもらうことができたり、若手が先輩にちょっとした困りごとを相談したりといった機会が増えていったのだ。

「会社の雰囲気が以前に比べ、ギスギスしなくなったな」

営業部長の三浦はその効果を実感していた。

反対に開発メンバーからは、作業に集中しているときに他者から中断されることが少なくなったので、作業効率が上がったように感じるとの声も聞かれた。集中タイム中は話しかけてはいけないルールができたことで、簡単な報連相はチャットで済ませる習慣も結果的に根付いていった。

「外出で不在がちな営業の人たちも、移動中とかにチャットで確認してくれるようになったので、確認したいことがスムーズに確認できるようになった」

開発部門のリーダーである桐生は、そう感じていた。

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―変革への取り組みフェーズ2:標準化した業務フローを組織に根付かせる

◆バラバラだった仕事の進め方を標準化
次に社長が手を打ったのは、開発部門を中心に、個々人がバラバラだった仕事の進め方を標準化し、生産性向上を固るプロジェクトのスタートだった。

当初、開発部門では反対の声が渦巻いた。

「余裕がないのに、今そんなことはやりたくない」

という意見が多くを占めた。それでも社長はトップダウンで、開発部長をプロジェクトリーダーに任命し、標準化を進めていった。

手始めとして、業務フローを再設計するところから着手した。営業部門から開発部門への引継ぎルールを明確化し、開発依頼をする際に整理しておくべきクライアントの与件も、抜け漏れがないよう標準化した。与件が不明確なまま開発に着手し、後から手戻りになることを防止するためだった。

さらに、何度も手戻り・変更を起こさないために、どの段階で何をクライアントに確認する必要があるかを明確にした。クライアントとの打ち合わせは毎回決定事項を残すこととし、チェックリスト化して、双方で進捗を管理することとした。

加えて、各工程別に目安工数を設定することにもチャレンジした。それぞれの業務をどのような流れで、どのくらい時間をかけて行うかを定めようと考えたのだ。

実際、どのような業務にどれだけの時間をかけているのかを調べてみると、大きなバラつきが見られた。生産性の高いメンバーは、毎回ゼロベースでアイディアを考えるようなことはせず、過去の事例の中から近しいものをベースにして、それをアレンジするようなつくり方をしている。

一方、生産性の低いメンバーは、毎回ゼロから自分で考えて設計していたため、余計な時間がかかっていた。それに気づいた開発部長は、これまでに開発したものをパターン分類し、参考にしやすいよう仕組みを整え、情報共有することとした。

「こんなに似たような事例はあったんだ」「これを参考にしたら、そんなに時間をかけなくてもできるんじゃないか」

といった声が、若手の開発メンバーから聞こえてくるようになった。

しかし、あらゆる業務のエ数が標準化できたわけではなかった。目的やアウトプットイメージは同じようでいて、求められるスペックや拘りたい部分が異なってくる。従って、工程ごとのエ数見積もりがパターン化しきれず、実際に要する手間とのズレが生じてしまったのである。

営業サイドではどうしてもクライアントの「なるべく早く仕上げて欲しい」という要望を汲むがゆえに、エ数を少なめに見積もってしまう傾向が続いていた。

◆ディレクター制度の導入
そこで、開発部長はプロジェクトの推進体制そのものにメスを入れることにした。これまで、営業担当と開発担当という二人一組の体制が主流であったが、そこにディレクションの役割を担う、開発ディレクターを置くことにしたのだ。

ディレクターの役割は、クライアントとの打ち合わせに参加し、クライアントの与件を確認しながら、適切な開発工程とスケジュールを組み、品質と納期に対してコントロール責任を担うことである。そのため、社内の人的リソースだけでは不十分と判断した場合は、外部のリソースを活用する権限も与えられた。

開発部門のリーダークラスを数名、プロジェクトディレクターに任命したため、開発の人員不足が懸念されたが、そこは外部のパートナー人財を増やすことと、採用を強化することで対応することとした。

「ディレクターがクライアントとの打ち合わせに同席してくれるようになって、品質や納期のズレといった問題もあまり起きなくなったし、クライアントからの信頼も高まってきたよ。ありがとう」

営業部長の三浦から感謝の意を述べられ、開発部長は苦労した甲斐があったと少し報われた。

開発部門の桐生もディレクターに任命された一人だったが、人付き合いが苦手なこともあり、最初はクライアントとの打ち合わせに同席することに抵抗感が強かった。

しかし、営業が勝手に納期や無理なスペック条件を呑んできてしまうよりは、自らそこをコントロールできた方が、開発にとってのストレスも少なくなるだろうと前向きに捉え、ディレクションに励むようになった。

クライアントに対しては、誠意を持って対応しつつも、できること、できないことははっきり伝えるように意識した。きちんと理由を説明すること、必要な工数を適切に伝えることで、クライアントも納得してくれることが多かった。

その一方で、クライアントの我が儘を受け止める営業の大変さも少しずつ理解できるようになり、営業担当者との距離も以前よりは縮まった気がしていた。

「最近は営業部門と開発部門の連携が良くなってきたな」

社長は自身が打った対策を満足げに振り返っていた。

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―終わりに

大島テクノロジーズの抱える問題点は、一見すると、デジタル世代である開発部門とアナログ世代である営業部門のコミュニケーションギャップや、部門間の意思疎通が円滑ではない縦割り風土が問題であると見られがちである。

もちろんコミュニケーションギャップの溝を埋めることは大事だが、それと同時に、コミュニケーションギャップを生んでいる真の要因にも目を向け、そこに手を打たなければ、本当の解決には至らない。

大島テクノロジーズの場合、開発部門の余裕のなさがコミュニケーションへのわずらわしさにつながっており、仕事の生産性を高められなければ、単にルールだけ変えてもコミュニケーションの溝は埋まらなかっただろう。

生産性は、ただ意識を変えろ、仕事の仕方を見直せと言うだけで解決する問題ではない。環境を変えることで、意識を変えていく必要がある。

環境を変える取っ掛かりとして、まず、オフィス環境を変えることから始めた。そして環境を変えるという大きな意思決定があったからこそ実際に環境が変わり、そして一人ひとりの行動が変わり、それに伴って意識も変わっていった。

デジタルコミュニケーションが良いのか、対面コミュニケーションが良いのかは、ケースバイケースである。デジタルツールの利点は、記録が残ることと、場所や時間を問わないことにある。

タイムリーに顔を合わせることが難しいメンバー同士のコミュニケーションや、やりとりの履歴を残しておきたい場合には重宝するだろう。

また、自分にとって都合のよいタイミングでコミュニケーションに時間を割くことができることも、集中力が求められる職種においては、大事な要素と言える。

とはいえ人は感情の生きものだ。対面でコミュニケーションを取る機会が増えれば、自然と相手への理解は深まり、感情移入もしやすくなる。文字で見るとそっけないように感じたコミュニケーションも、直接話をしてみたら、案外、熱心に考えてくれていたんだと気づくこともあるだろう。

それ以上に、時間をかけて文字化して何度もやりとりするより、直接話してみたら一瞬で解決した、などといったケースは枚挙にいとまがない。

ただし、対面コミュニケーションばかりに頼るようになると、必要以上に打ち合わせに時間をかけることにつながりかねないので、議論や報連相の性質に応じて、デジタルと対面を使い分けることが望ましい。

大島テクノロジーズのように、時間の使い方をルール化することも一つの方法だろう。会議や打ち合わせにかける時間を制限する、業務に集中すべき時間とコミュニケーションを取るべき時間を分ける、といったやり方だ。

職種の異なるメンバーが混在する場合、仕事の進め方も当然異なるため、共通のルールを設けることで、お互いに配慮した仕事が進められるようになる。

環境という外堀を埋めたら、次は本丸である業務の進め方そのものにメスを入れる必要がある。品質や納期の問題を解決するためには、仕事の仕方そのものを見直さなければならない。

多くのケースでは、業務の標準化が品質や納期のバラツキを改善する鍵となる。しかし、全てがルール化やマニュアル化で解決できるわけではないため、ときに体制そのものを見直すことが求められる。

今まで一人で行っていた業務を二人で機能分担する。逆に複数人で細切れになっていた業務を一人がマルチタスクで担うなど、業務の分業化と統合化を適切に使い分けることで、生産性の改善を図ることができる。

一般的に、業務の習得難易度が高く、キャリアの浅いメンバーが多い組織は分業型が向いており、業務の複雑性が少なく、ベテランメンバーが多い組織は統合型が向いている。

自社の組織の課題が何で、どうすれば生産性を高められるのか。これまでのやり方という固定概念を一度取っ払って考えなおしてみることが必要ではないだろうか。

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【モンスター組織CASE03 大量採用・大量退職組織】

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▼登場人物
①代表取締役社長:岩山猛(48歳)

・アパレル企業で商品開発に携わるかたわら、欧州出張を繰り返すうちに現在の事業を構想し、32歳で独立起業
・当初は欧州で自ら買い付けたインテリア雑貨をセレクトショッブに卸す事業を行う。
・創業7年目には自社直営店をオープンさせ、さらなる成長を遂げる
・自らのセンスを信じるゆえに、幹部にさえ意思決定を任せられず、社内の細かな決裁まで全て自分で行っている
・事業ビジョンを描くことは得意だが、組織づくりに関しては関心も薄く苦手としている

②人事部長:木村省吾(42歳)
・中堅の国際物流会社で人事担当者から責任者まで実務を経験
・社外セミナーやMBAの単科を受講するなしどて人財育成や組織開発全般の見識を深めてきた
・人事のプロとして異なる組織で経験を積みたいと考えていたところ、懇意しにていた岩山社長から声がかかり、人事責任者として岩山家具に参画したばかりである
・実際に岩山家具に入社してみると、短期的な販売実績ばかりが問われ、中期的な人財育成や組織づくりが後回しにされる社風であったため、組織開発に悩みを抱えている

③商品仕入部次長:阿川かおり(31歳)
・岩山家具に新卒ブロパー初期組として入社
・店舗を経験したのち、商仕品入部門に異動。若くして実力をつけ、商品仕入部のリーダー格として活躍
・売れる商品を見極める力は極めて高く、岩山社長からの信頼も厚い
・仕事熱心で岩山家具の成長のために昼夜を問わず仕事に専念しているが、山岩家具の社員の入れ替えが激しいことは以前より懸念している

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―イントロダクション

岩山家具は、創業17年目の欧州家具、インテリア、雑貨類と自社企画商品を扱う商社兼小売業者である。直営店を51店舗持ち、今後も出店を続けて着実に店舗数を増やしていく予定である。

事業は7期連続で増収増益と順調に成長を遂げており、大手商業ディペロッパーからも出店依頼が続いているほどの成長企業である。

また、自社サイトを中心としたネット販売も順調に売上を伸ばしている。直営店事業以外に自社出店地域以外の家具・インテリア・雑貨店への卸売事業も行っている。

現在、年商120億円、社員数200名(その他、バート・アルバイト多数)。リーマンショック、震災後に業績が厳しい時期を2度経験するが、その都度岩山社長の豪腕で確実に業績を回復させることができた。

5年目からは新卒採用を開始。近年は新卒だけでも毎年30~40名規模で採用を行っているが、店舗の認知度向上に伴い、新卒・中途ともに募集に対する就職希望者は多く、採用予定数は確保できている。

ただし、実際に入社した社員が5年以内に5~6割は退職している状態が続いている。

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―変革前の岩山家具

◆岩山社長の焦りと決意
「このままでは、人不足が原因で来年度の出店計画を見直さなければならなくなる。採用だけではもう間に合わなくなってきたということか……」

岩山の焦りは日ごとに大きくなっていた。事業の成長は一見順調だった。事業チャンスも出店資金もある。しかし現場スタッフの確保が思うようにいかず、特に店長クラスの不足が深刻化していたことで、今年度の出店計画に対してすでに遅れが出ていた。

順調な成長の裏で、岩山家具の人財や組織に関しては創業以来常に問題が発生していた。最初はリーマンショックによる不景気に端を発した創業メンバー同士の対立騒動だった。

この時期の岩山の強引な事業の進め方に対し、他の創業メンバーが異を唱え対立。事業は大崩れせずに済んだが、取引先や社員に対する岩山の強引な対応に失望した創業メンバー2名が岩山家具から離れていった。

加えて、その二人を慕っていた社員が次々と辞めていき、店舗はもちろん本社でも人不足に陥った。この社員の辞職が相次いだことが、岩山にとって大きな衝撃となり、その後の企業組織観に影響を与えた。

岩山は、人財採用について「どれだけ手をかけても人は辞める」「辞めることを見越して多めに採用する」という方針を打ち出した。

「人に依存する仕組みにすると、社員が辞めるたびに成長が止まる。そのたびに育てなおしていたら、競合に追いつかれてしまう。今は人に関しては質より量を確保し、採用をガンガン行って成長スピードを上げていく。合わない人は辞めても仕方ない。いずれはじっくり人を育てることも必要になるだろうが、それは今じゃない」

しかし新卒の離職率が5割を超える状況が続き、ここ数年の売り手市場で「量」の確保も難しくなりつつあった。それに「辞めることを前提」といっても一定の「質」は必要であり、その一定レベルヘの育成すらも追いついていない。

そろそろ、「じっくり育てる」ことも必要な時期が来たのかもしれない。岩山は人財の強化にも意識を向けるようになっていた。

◆人事部門のリーダーとして、木村が入社
そんなとき、以前より付き合いのあった木村が退職を考えていると耳にした岩山は、自社への入社を持ち掛けた。

「専門家としてうちに来て、人の問題を解決してくれないか。我が社の事業拡大を実現するために、是非木村さんの力が欲しい」

木村が自社の問題解決に適任だと思ったのは、実務家としての実績に加え、人財育成や組織開発についての幅広い見識と向上心を感じたためだ。木村が在籍していた企業は、社員の定着率も業界内ではかなり良好な部類に入る。

いろいろと聞いてみると木村は採用から社員育成までを俯鰍して将来像を描いた上で一貫性のある取り組みをしており、

「なるほど、こういうアプローチは自分には向いていない。その道の専門家が必要だ」と思えた。

入社後、木村部長は早速新しい施策を次々提案してくれている。実は岩山にはその効果がいま―つビンとこない施策も少なくなかった。しかし、とりあえずはその道のプロを信じて任せてみようと、この時点での岩山はそう心に決めていた。

◆人事部長・木村の苦悩
岩山社長から声をかけられたときは心底嬉しく感じ、長年勤めた会社を離れる不安はあったものの、迎うステージにチャレンジしたいという思いが募っていた矢先でもあった。

しかし入社から1か月が経ったころには、岩山家具の組織が抱える問題の根深さがだんだん理解できてきた。とはいえ簡単に解決できる状況であれば、わざわざ自分が呼ばれることはない。岩山家具を変えていく仕事は、自分のキャリアの集大成にもなるだろう、と考えた。

「まずは組織の状態を経営陣や幹部が正しく俯鰍し、共通の問題認識を持てるようにすべきです。その上で、特に理念やビジョンについて、経営陣と現場との乖離が起こっている部分を埋めるべく、コミュニケーションの機会を設けていってはどうでしょうか」

そう社長に訴えた。
ただ、これらの施策を提案したときの岩山社長の反応が若干気がかりだった。

「アンケートか……社員の言いたいことはだいたい分かっているし、いちいちそれに振り回されても仕方ないんだがな。会社の理念やビジョンもことあるごとに話しているし、今さら効果があるかな……。まあ、まずは木村さんのやりたいようにやってみたらいいよ。任せます」

「任せる」とは言ってくれたものの、岩山社長は、どうも木村の案には懐疑的な様子だった。まあいい。まずは進めていこう。やるべきことを進めていけば、おのずと結果はついてくるはずだ。木村はそう信じて、自分の案をもとに各種施策を進めていった。

◆若手幹部、阿川の期待
「まあ阿川さんは社長のお気に入りだから、多少社長に突っかかっても大目に見てもらえるよね」

ふと耳に飛び込んできた言葉が、阿川の心に今も引っかかっていた。昨年の忘年会で、誰かが漏らした一言だ。

最初は自分の実績が否定されたようで、もやもやとした気持ちになった。たしかに社長のことは経営者として尊敬しているが、自分は常に会社全体のことを考えてやってきたし、そのためには社長にはっきり意見も言う。別に社長のご機嫌取りに力を注いだつもりはない。

しかし実際に、この会社では「数字を稼いで社長のお気に入りになれば昇進できる」、裏を返せば「数字さえ稼いでいれば社長に気に入られ、多少の粗があっても見逃される」ということが暗黙の了解になっていた。

事業をやっている以上、数字は大事だ。ただ、あまりにも短期的な評価に寄っていないか。立地のおかげで業績は残していても、スタッフが次々に入れ替わっているような店長の評価が高いのには、違和感があった。

阿川も以前は数字をあげることのみに執着していた時期もあったが、短期業績だけが評価の指標となっている現状に不安を感じていた。

また現場からは「店長にはなりたくない」という声があがっており、この1年ほどで、店長候補として目をかけていた社員が相次いで辞めてしまった。自社の給与水準は、少なくとも店長であれば決して低くはないと思う。店長になって良い成績をあげると、同年代よりも高い水準の給与が獲得できる。

ただ、安定して好成績があげられるような立地条件に恵まれた店舗は、古参の店長が長年不動の地位を占めており、現場メンバーは「新任店長は新規出店の立ち上げや不振店舗の立て直しで苦労するわりに大して給与が上がらない」という印象を持っているようだ。

このような状況の中で、木村が人事部長として入社することになり、阿川は「これで自社も少し変わるのではないか」と期待した。社長の事業展開スピードになりふりかまわずついていくのが精一杯の状況から、もう少し腰をすえて人を育て、組織を整えられる状態へと変われるのではないか、と。

木村が早速実施した社員アンケートに、阿川はそのような思いの丈を率直に記入した。

「いろいろとりとめのないことを書いてしまったけど……。まあ、木村さんはその道のプロだから、きっと私たちの思いをくみ取って解決に導いてくれるはず。まずは人手不足の状況が解決されるといいな」

――――――――――――――――――――

―解決すべき課題と対策の方向性

◆対立構造の整理
岩山家具は、創業当初の立ち上げから初期拡大ステージを経て、新たな組織拡大ステージヘと差し掛かっている。しかし、長年「人はある程度入れ替わるもの」という前提のもとで急激な事業拡大を続けてきたため、人財育成の土台がない。昨今の人財不足の状況も相まって岩山家具の拡大スピードに人財獲得スピードが追いつかなくなりつつある。

社長はその問題に気がつき、「人づくりと組織づくり」に目を向け始めた。幹部陣も、今の人手不足の状況に対して何らかの手を打つことに賛成している。しかし創業以来の組織風土はそう簡単には変わらない。

一方の木村部長も、社長や経営幹部陣に適切な危機感を抱かせるようなアプローチができていない。これまでの経験に基づく形式的なやり方にとらわれていたり、社長や幹部への遠慮から、本音でぶつかることができていない。木村部長がどこまでこの状況に切り込めるかが、岩山家具の組織変革の鍵になる。

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◆組織変革の正しいステップ
第一の問題点は、岩山社長はじめ経営幹部の考え方に、「事業成長第一」「業績第一」の志向が染みついてしまっていることだ。頭では「人づくり・組織づくりが大事」と理解していても、少しでも業績が伴わないことがあると、目の前の数字づくりばかりを指摘してしまう。

結果的に店長は人を育てる仕事よりも、店舗の売上づくりのため自分が何とかして頑張る、といったその場しのぎの対策に陥りがちだ。そのため若手人財のモチベーションは高まらず、離職率の高い状態が続いている。

加えて、組織開発に対する社長や幹部陣の「他人事」意識もまた、組織づくりに対して本気になれない要因の一つだ。木村という人事のプロフェッショナルが参画したことで、かえって「彼が何とかしてくれる」という意識が助長されてしまった。

また離職率をかえりみない大量採用で事業を拡大してこられたという成功体験は根強く、人財育成の重要性に対する幹部の認識も揃っていない可能性がある。

あくまでも組織変革の主体は現場であり、そのトップは経営者である。社長や幹部陣の主体者意識をどう引き出すかが、最も大きなハードルとして、岩山家具に立ちはだかっている。

その解決の糸口は、相手の物差しで課題を捉えなおすことだ。具体的には、社長の考える事業拡大計画を人的リソースの獲得計画に変換し、事業拡大のためにどんな人財がどのくらい確保していく必要があるかを可視化し、幹部全員で共有する。

それを採用と育成でどのように確保するのかについて検討し、組織開発全体像としてロードマップを描いていく。

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ここでポイントとなるのが、組織変革の手順である。David Ulrichが示すところの「人事の4つの役割」で考えると分かりやすい。

「ハード/プロセス」x「日常/現在価値」重視の組織を、「ソフト/人」(理念やバリュー)重視のアプローチで変革しようとすると、おおむね失敗する。

それよりは、まずは「ハード/プロセス」×「未来/将来価値」重視へと転換を図り、未来志向を根付かせた上で、「ソフト/人」的なアプローチをとることが、スムーズな変革につながる。

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◆「将来価値の創造」のための人財育成
第二の問題点は、岩山家具の業務フローに「人を育てる」という行動が組み込まれていないことだ。社長は人財育成についての方針転換の必要性を感じているが、現場は人財育成のための時間投下をしないことを前提にまわっている。

人財育成のための時間を捻出するためには、他の何らかの時間を削ってそちらにまわさなければならないが、何を削ればよいかの判断は現場の社員には難しい。数字が全てという評価のもとではなおさらだ。

従って、人事あるいは現場で誰がどのように育成をするかを明確にし、社員の時間投資バランスを、目の前の数字づくりといった「現在価値の最大化」から、将来的な事業成長のための「将来価値の創造」寄りに移行することが必要だろう。

ただし、店舗業績に責任を負う店長に、「将来価値の創造」を任せることは現実的ではない。よって一つの解決策として、店舗業績ではなく、スタッフの人財育成をメインのミッションとして担うエリアマネージャーを各エリアに配置することも効果的である。

――――――――――――――――――――

―変革への取り組みフェーズ1:社員アンケートによる問題の見える化

◆実を結ばない取り組みの数々
阿川次長は、木村部長の入社が転機になると大いに期待した。しかし、木村の参画から1年半経過した今、目に見える成果は上がっていない。

木村の組織に対する考え方には共感する点が多い。何回か幹部会でのスビーチを聞いたが、「こういう考え方の人に入ってもらえて本当によかった」と感じられ、期待がふくらんだ。ところが実際に行われる施策は、阿川から見て、自社の現状と何かがズレているように思えた。

今朝、阿川のメールボックスに「社員アンケート」の依頼メールが届いた。木村が入社してすぐに始まった社員の意識調査アンケートも、これで3回目を数える。ちょうどそのとき隣にいた阿川の部下、迫田にも同じメールが届いたらしい。

「阿川さん、またアンケート来ましたね……。今までやったアンケートの結果ってどうなっているんですか?集計は共有されましたけど、アンケートの結果をもとに何をやってどう改善されたとか、全然報告ないですよねえ。アンケート集計だけ見ても、正直『ふーん』って感じです。別に皆が普段から言ってることだし」

「一応幹部会では報告されてるよ。例えば先月やったリーダー合宿。あれは2回目のアンケート結果で『理念が浸透していない』って結果が出て、それで企画されたと聞いてるけど」

「あ、あれアンケートから企画されたんですか。でもなんか盛り上がりいまいちでしたよね。社長もすぐいなくなっちゃったし……ああいう理念とかって、社長と語り合わないと伝わらないもんじゃないんですか?」

「あのときは、社長も新ブランドの立ち上げでいろいろバタバタしていたしね」

「うち、バタバタしていない時期なんてあるんですか?」迫田は若干、皮肉混じりに笑いながら言った。

阿川も正直なところ、迫田と同じように感じていた。しかし一方で、そんなふうに幹部の自分が感じてしまうところにこそ、今の状態の原因があるのではないかとも思えた。

数字をあげて社長に気に入られないとものが言えない、目の前の数字を確保する以外のことは後回しにしてもよい、という雰囲気。いつかの忘年会で自分に向けられた言葉は、あながち的外れではないのかもしれない。

木村部長のアプローチはおそらく間違いではないものの、明らかに噛み合っていない。
彼はこれからの岩山家具に必要な人だ。

「どうすれば木村さんの力をもっとうちに活かしてもらえるのかな。私にできることは何があるだろう……」

◆岩山社長の苛立ち
「結局今期も出店の遅れは挽回できない。2期連続での出店計画見直しだ。このままでは銀行からの評価にも影響が出る。木村さん、何としても来年度は店長が確保できるように、とにかく店長育成を最優先にしてくれませんか」

岩山は次年度の採用計画を承認する際、木村部長にそう念を押した。
木村部長に来てもらい1年以上が経過したが、一向に離職率は改善しない。店長候補まで育ったところで離職が起こる状況も相変わらずである。

短期で成果の出る取り組みではないだろうと1年様子を見ていたものの、岩山の我慢はそろそろ限界に達していた。

木村には組織・人事のプロとして期待しており、権限も与え、彼からの提案もよほど費用がかかるもの以外は承認してきた。しかしこれ以上彼に任せていては、今後の事業計画にも支障をきたすのではないかと焦りが募っていた。

「木村部長はどうも安定企業で長年人事をやっていたせいか、遠回しな策ばかり出してくる。うちは今、悠長に風土改善だの理念浸透だのと言っている場合ではないだろう。去年やった店長候補向けの研修も、あまり実践的な内容ではなかったから、皆が忙しい中で参加する意義を見い出せず、結局中断してしまった。もっと直接的に人財を鍛えていかないと間に合わない。そう何度も言っているんだが……」

そろそろ別の手を打たなければならない。岩山はそう感じていた。

◆木村部長の挫折感
岩山家具に入社して1年半。木村はその間、新たな組織活性化策をいくつも展開してきた。ただ、その多くが社長に承認はされたものの、岩山社長の関心度があまり高くないためか現場幹部の関心も低く、根本的な改革が進まないことに苛立ちを感じている。

最初に働き方改革として長時間労働や休日出勤が一部のスタッフに偏らないよう、規制するルールを打ち出した。しかしいったん決めたルールも、業績が逼迫すると「社長勅令」で無視されてしまう。こうなると当然現場も従わず、ルールは形骸化してしまった。

また、新たな施策に対する岩山の判断基準が「短期的な費用対効果」に偏っていることにも疑問がある。店長候補向けに外部研修を提案した際は、「年間で一人あたりこれだけの費用をかけるなら、採用した方がコストは安いのではないか」と一蹴されてしまった。

新規出店が相次ぐ時期で余計な投資を抑えたかったことは理解している。しかし木村としても、むしろ出店を1店舗先送りしてでも人に投資すべきではないかと、納得がいかない思いであった。

それなら仕方ないと、木村は自身が講師を務める全6回の店長候補向け研修を企画した。これには岩山も「是非やってくれ」と、二つ返事でOKを出した。

しかし研修では「現場が忙しくてどうしても参加できない」ことを理由に毎回数名の欠席者が出た。結局、業績達成に全社的な遅れが出ているということを理由に、研修は3回までで中断を余儀なくされた。

そこで次はリーダー陣の意識統一こそ大事だと、理念浸透をテーマにリーダー合宿を企画した。ここでは岩山を中心にして、「どんな組織にしていきたいか」のディスカッションをする予定だった。しかし前日になって突然、岩山社長から木村に電話があった。

「どうしても外せない面談が入ったから、朝は顔を出すけど、あとは任せるよ。ディスカッションの要点はすり合わせてあるから、大丈夫だろう。後で、どんな意見が出ていたか報告して欲しい」

これにはさすがに呆れてしまった。岩山社長は本気で組織変革をしたいのだろうか。こんなことなら、一体何のために自分をこの会社に呼んだのだろう。

「このままでは同じことの繰り返しになってしまうのではないか……」

そう考えると、木村はどんな策を打つべきかが分からなくなってしまった。

――――――――――――――――――――

―変革への取り組みフェーズ2:幹部を巻き込んだ組織変革へ

◆変化の兆し
「木村さん。これまでのアンケート、全てのコメントを公開してもらうことはできないでしょうか。以前レポートをいただいた際は、たしか代表的なコメントだけ抜粋したって仰ってましたよね。全部読んでみたいんです」

木村部長は、阿川次長から突然このように声をかけられて驚いた。阿川がこの会社の状況を何とか変えたいと思っている一人であることは、アンケートのコメントや、合宿での発言などから認識していた。しかし、これまで特に具体的な施策を提案されたことはなかった。

「匿名データなら別に構わないと思うけど……突然どうしたんですか?」

「去年の新卒もすでに退職者が出ているでしょう。事業の拡大どころか、現場は人不足ですっかり疲弊してしまっています。木村さんもいろいろな対策をしてくれているけど、私は新卒で入って店長も経験しているので、何か新しい解決の糸口がつかめるかもしれないと思って。社長は、このところ人の確保に相当頭を悩ませています。岩山社長がもっと事業のことに専念できるようにしてあげたいんです」

「でも阿川さん、人の確保も“事業のこと”の一部だろう。経営者としては当然責任を持ち、悩むべきところではないかな。今の状況を招いたのは、岩山社長の事業拡大に対するスタンスが原因の一つだと思うよ」

「それはそうですけど、社長があのスタンスを今さら変えられるとは思わないんです。だから私たち幹部が、人の問題にちゃんと踏み込んで、何とかしないと。みんな内心ではそう思ってるはずなんですけど、具体的にどうすればいいか分からないんじゃないでしょうか」

木村部長からすると、岩山のスタンスを変えなければ根本的な解決は難しいように思えた。それに幹部に今さらアンケートのコメントを公開したところで、ちゃんと目を通してくれるかは疑わしいと感じたが、まずは阿川がそのような声をあげてくれたことは素直に嬉しかった。

「分かりました。社長に承認を取った上で、幹部会議のメンバーに共有するようにします」

後日、木村は阿川に約束した通り、これまでのアンケートのコメントを幹部に全て公開した。匿名だが、回答者のだいたいの階層(店長、リーダークラス、一般スタッフなど)は分かるようにした。

コメントはかなり辛辣なものも含んでいた。

「上層部は社員を使い捨てのように考えている」
「現場にぽんと配属されて、あとは自分で覚えなさいという状況。でも皆忙しそうで聞きたいことも聞きづらい雰囲気です」
「店長は社長の前だけやる気を出す。辞めた人に対しては裏切り者扱いで、あることないこと悪口を言いふらしている」
「新人を育てろって店長から指示されますが、自分のノルマも業務量も変わらない。ノルマが未達だと評価が下がる。新人が放っておかれてかわいそうだとは思うけど、育てても自分の評価は上がらないので、仕方ないと割り切っています」
「前も同じことを書いたけど全然改善されません。このままではもっと人が辞めていくのでは?」

改めてコメントを読むと、現場社員もかなり疲弊していることが伝わってくる。やがて何人かの幹部から木村に返信があった。

「こんなに深刻な状況だったんですか?改めて危機感を覚えました」
「すぐに手を打たないといけない。次の幹部会議で、離職率の改善について話し合う時間が欲しい」

彼らは少なくとも「この会社を変えたい」と思ってくれている。木村は少し光が見えた気がした。

◆阿川次長からの提案
翌週、木村部長は阿川次長に声をかけた。

「阿川さん、この間のアンケートの件、ありがとう。実はあの後何人かから返信があってね。何とかしないといけない、って意見を寄せてくれたんです。実はこの1年半、何をやってもなかなか反応が乏しくてちょっと諦めていたんだが、何とかしたいと思ってくれていることが分かって勇気つけられたよ」

阿川はうなずいた。

「私も、改めてこのままではいけないと思いました。社長は何としても今の出店計画を進めたいようですが、今のままで進めると現場が崩壊してしまいます。木村さん。実際どのくらいのスピードで何人増やす必要があるんですか?」

「今年は5人。来年は8人、再来年は15人の新任店長が必要だ。それにエリアマネージャーも3年後までには今より5人は増やさないといけない。あと、スタッフ指導員も増員が必要で、管理部門も……」

木村は3年後までの採用計画と、一人あたりの採用コストの試算、社内の既存人財の育成見込み、離職率の想定などについてざっと説明した上で、最後にこう付け加えた。

「一応、今説明したような計画は、先月の中期計画資料に全部書いてありましたけどね」阿川は、ばつの悪そうな顔をした。

「ああ、そういえば見たような……すみません」

「いえ、膨大な資料だし、発表時間も短かったからね。阿川さんがその調子なら、他の人も見ていないんだろうな。採用計画はここ数年ずっと未達だから、見ても意味のない数字だと思われてるんだろう」

「それで、木村部長に提案なんですけど、次回の幹部会議で人事の発表パートがあるでしょう。そこで、今仰った採用と育成の計画について、改めて共有する時間を取っていただけないでしょうか。あと、最近の採用市場の厳しさも含めて。今後の計画達成のためには、今後何人採用して、どれだけ社内で育てる必要があるのか、ちゃんと売上数値と関連させて把握しないと、自分たちのこととして実感できないと思うんです」

木村は少し考え込んだ。

「なるほど……それなら、ただ共有するだけではなく、ちょっと自分たちで考えてもらうような仕掛けがしたいな」

◆”要員計画”検討合宿
木村の発案でエリアマネージャー以上が集まり、「3年後までの要員計画」を精査するための検討合宿が開催された。あらかじめ各エリアに、木村が作成したエリアごとの要員計画案が渡された。

そして各現場で育成可能な人数も考虚して自分たちで修正した案を作成し、当日はその案をもとに検討が行われた。各店舗の一人あたりの売上、離職率、育成にかかる期間などのシミュレーション用数値は木村が用意した。

岩山社長は、今回は途中離席もなく最後まで検討に参加した。木村から離席しないようにと念を押されたこともあるが、数値計画と絡む話だったので自分がちゃんと議論の方向性を見ておき、必要に応じて介入したほうがよいと思ったからだった。

改めて計画を精査すると、様々なところで出店や売上の計画数値と採用・育成計画の人数が嚙み合っていないことが浮かび上がった。

「この店舗は年3人も新人を受け入れていたら、今と同じ規模の売上はとてもじゃないけど維持できませんよ」
「店長の採用ペースの想定が、ちょっと現実的じゃないですよね。今ですらこの半分のペースですよ」
「新卒の離職率は5割のままの想定でいいんですか?採用頼みにするより、まずここの改善余地が大きいんじゃないですか?」

理念合宿のときとは打って変わった活発な議論に、木村部長は目を見張った。

「そうか。この組織は、数字と結びつけることで具体的な議論が進むのか……。離職率改善のために、社員満足度やコミュニケーションといったテーマに直接アプローチしてきたが、私のやり方がこの組織の思考パターンとズレていて響かなかったのかもしれない」

侃々諤々の検討を経て最終的に数字をまとめなおした結果、今の離職率と採用ペースを前提とすると、出店計画は半数に抑えなければならないことが分かった。幹部の一人が完成したシミュレーション表を眺めて言った。

「今回の検討で、現状がよく分かりました。着実に拡大していくためには、半分とはいかないまでも、出店計画を見直すのが現実的なんでしょう……でも、それはうちらしくありません。私は、何とか計画通りに進めたい。社長もそう思っているんでしょう?」

岩山社長は全員の顔を見渡して答えた。

「そうだな。私もまさにそう考えていたところだ。今想定している出店計画は、業界やエリアにおけるポジションの確保というゴールから逆算したものだ。その計画を変更すると、ピジネスモデル自体が成り立たなくなる。何をどう変えれば、この数字が実現できるか。その方法を、一緒に考えていこう」

◆「人を育てる組織」への一歩を踏み出した岩山家具
その後も同じメンバーで検討を繰り返し、予定通りの出店計画を達成するための離職率の目標を定めた。ただ、それだけでは店長やエリアマネージャーの確保は間に合わない。現店長と店長候補人財に具体的に狙いを定めて集中して育成をするとともに、店長の待遇改善にも手をつけることとなった。

新人の育成に関しては現場任せにせず、「いつ」「誰が」「何を」「どのように」するかを明確に定める必要があった。木村はエリアマネージャーと相談をした上でモデル店舗を選び、どうすれば現場の業務フローに「人を育てる」行動を無理なく盛り込めるかの検証を重ねていった。次年度からは全店舗に同じ育成体制を展開する予定だ。

一方、店長や店長侯補が研修のために現場から抜けることや、スタッフが新人の育成に時間を投下することで、一人あたりの売上は一時的に落ちることが想定された。ここに関しては、岩山が最終的には既存店舗の売上目標の下方修正に踏み切った。

「ただ目標を下げるのではない。将来のために、今は人づくりへの時間投資が必要だと判断した。いずれは各店舗の目標数値も従来の数値に戻すが、次年度いっばいは、まず新しい体制への助走期間としたい」

◆新たなフェーズに向けて
「木村さん、ちょっといいかな」

木村部長は、岩山社長に呼ばれて社長室を訪れた。

「来年度に新設する人財開発室のリーダー、阿川はどうかな?」
「いいと思います。実は私からも推薦しようと思っていたんです」
「本人は現場が好きだからね。了承するか分からないが」

そして、岩山は少し声のトーンを落とした。

「実はまだ内密なんだが、海外展開の話があってね。これから私は海外出張が増えそうなんだ。人財育成や組織の強化は、自分としてはあまりセンスがないと思っているので、現場のことをひと通り分かっている阿川と、木村部長とが中心になって進めていって欲しい」

「そうですね。私自身も今思うと前職での成功体験にとらわれていました。離職率の改善や人財育成というと、理念浸透やコミュニケーションスキルの強化が必要だろうと思い込み、現場の状況をちゃんと見た上で策を練ることができていませんでした。阿川さんが一緒に進めてくれるなら、心強いです」

木村は続けた。

「ただ一つお願いがあります。人財開発室は人事部の下につけるのではなく、社長直轄にしていただけますか。外部から来た自分が旗を振るのではなく、社長ご自身と、店長経験者である阿川さんが率先して進めていく形を取るべきだと思います」

「なるほど。了解した」岩山は力強く頷いた。

木村部長の顔からは、一時期の迷いはすっかり消えていた。やっとこの会社の一員として、自分の進むべき道を見い出せたような気がしていた。

――――――――――――――――――――

―終わりに

岩山家具はまだ変革の最初のステップを昇り始めたところだ。しかし、「人を育てる組織へ変わる」という方向性について、社長をはじめとした幹部の意識を揃えることができたのは大きな一歩だ。

離職が相次いでいる状況では福利厚生の充実等のモチベーション策、理念浸透による組織風土の強化、社員間のコミュニケーションの改善など、ソフト面での施策が検討にあがりやすい。

ただ今回のケースにおける岩山社長は、ビジネス展開との結びつきが明確なテーマを最優先するタイプである。高い目標を追い続ける岩山家具では、ソフト面を重視した組織開発施策はその効果が出る前に打ち切られたり、あるいは形だけの取り組みに陥ってしまうリスクがある。

そういったケースでは、今回木村がとったような、事業計画をもとにした「人的リソースの確保」からブレイクダウンしていくアプローチが効果を発揮することがある。

ただ成長企業においては事業計画も変更がかかりやすい。事業計画からの量的なブレイクダウンのみを組織開発施策のよりどころとしていると、計画変更のたびに組織開発施策がぶれ、結果として中期的な取り組みが困難となってしまう。

中長期で強い組織をつくっていくためには、量的アプローチで社長や幹部の認識を揃えた上で、「どのような組織を目指すか」という組織コンセプトの確立と、そこからブレイクダウンしたソフト面でのアプローチ(モチベーション施策や理念浸透など)も必要となる。

特に成長・拡大フェーズの企業における組織開発においては、単なる量的な「膨張」から脱却して組織としてのステップを上がる「成長」を遂げるために、その両輪のバランスを見ながら中長期のロードマップを描いていくことが求められる。

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